1月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2022年12月28日更新

1月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

LINE UP
1/2(月)公開『チョコレートな人々
1/6(金)公開『恋のいばら
1/6(金)公開『とべない風船
1/6(金)公開『ドリーム・ホース
1/7(土)公開『ippo
1/13(金)公開『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け
1/13(金)公開『モリコーネ 映画が恋した音楽家
1/20(金)公開『エンドロールのつづき
1/20(金)公開『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女
1/27(金)公開『イニシェリン島の精霊
1/27(金)公開『ピンク・クラウド

更新情報:1月4日に『ピンク・クラウド』を追加掲載しました。


『チョコレートな人々』

失敗しても温めれば作り直すことができる

『人生フルーツ』『さよならテレビ』など次々と話題作を生み出してきた東海テレビのドキュメンタリー映画第14弾は、全国に多くのファンを持つ愛知県豊橋市のチョコレート店にスポットを当てた。2014年開業の久遠チョコレートは、約570人の従業員のうち6割が身体や心に障がいがある。代表の夏目浩次さんは2003年にパン工房を始めて以来、障がい者の雇用拡大と賃金是正に努めてきた。報道記者としておよそ20年前から夏目さんを追い続けてきた鈴木祐司監督が、久遠チョコレートの日々の業務に過去の映像を絡めて、夏目さんや従業員らの思いと日常をぬくもりのあるまなざしで切り取る。「失敗しても温めれば作り直すことができる」とチョコレートについて語る夏目さんの言葉は、相も変らぬ障がい者を取り巻く環境の厳しさとともに、深く心に突き刺さってきた。(藤井克郎)

2023年1月2日(月)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/102分) 監督:鈴木祐司 ナレーション:宮本信子 配給:東海テレビ 配給協力:東風 ©東海テレビ放送

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『恋のいばら』

元カノと今カノが繰り広げる“秘密の共犯”

図書館に勤務する桃(松本穂香)は、カメラマンの健太朗(渡邊圭祐)にフラれたばかり。別れてもなお健太朗のインスタを覗いていると、早くも新しい恋人ができたようだ。アカウントをたどり、健太朗の今カノが自分とは対照的なリア充美女の莉子(玉城ティナ)だと知った桃は、莉子に会いに行く。そして、“秘密の共犯”を持ちかけるのだが……。香港映画界の異端児と呼ばれ、日本でもマニアックな人気を誇るパン・ホーチョン監督の『ビヨンド・アワ・ケン』(2004)を、城定秀夫監督と『愛がなんだ』などの澤井香織の共同脚本でリメイク。リベンジポルノという呼称やSNSといったキーワードを加え、女同士の連帯や絆を描く“シスターフッド映画” の要素を色濃くして現代風にアレンジしつつも、理屈では割り切れない嫉妬や恋心という普遍的な感情が描かれる。富田旻)

2023年1月6日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/98分)監督:城定秀夫 出演:松本穂香玉城ティナ渡邊圭祐 ほか 配給:パルコ ©2023「恋のいばら」製作委員会

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『とべない風船』

災害で突然の別れを迎えた悲しみと喪失感

2018年の西日本豪雨で被害の大きかった広島県を舞台に、同県出身の宮川博至監督が初の長編映画として地域と家族の結びつきを丁寧につづった。定年後、瀬戸内海の小さな島に一人で暮らしていた元教師の繁三の元に、やはり教師を辞めた娘の凛子が訪ねてくる。しばらくこの島でのんびりと過ごすことにした凛子に、島の人たちは温かく接してくれたが、漁師の憲二だけはつっけんどんな態度だった。そんなある日、島に住む小学生の咲が行方不明になる。最愛の家族を災害で突然に亡くした悲しみと喪失感が、瀬戸内の美しい風景の中でしみじみと描かれる。それぞれの死別の表現はちょっと類型的な気がしないでもないが、いつ永遠の別れが来ても悔いがないように生きようという前向きなメッセージが心に染みた。(藤井克郎)

2023年1月6日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/104分) 監督・脚本:宮川博至 出演:東出昌大、三浦透子、小林薫 ほか 配給:マジックアワー ©buzzCrow Inc.

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『ドリーム・ホース』

競走馬の共同所有で暮らしにときめきが……

イギリス・ウェールズの田舎の村で、パートを掛け持ちでこなしながら両親の介護もしている主婦のジャンは、日々の暮らしに単調さを感じていた。ある日、バーテンダーとして働くクラブで、税理士のハワードが競走馬の馬主だったことを自慢しているのを耳にし、自らもサラブレッドを飼育する夢を抱く。夫の協力で牝馬を購入したジャンは、ハワードや村の人たちと組合を結成して血統馬の種付けを計画。やがて産まれた仔馬はドリームアライアンス(夢の同盟)と名付けられ、レースに出場することになる。実話を基に、テレビドラマを多く手がけるウェールズ出身のユーロス・リン監督が映画化。ウェールズ愛あふれる情景描写に本格的な競馬シーンの迫力もさることながら、暮らしにときめきが必要とのメッセージに胸が躍った。(藤井克郎)

2023年1月6日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/イギリス/114分)原題:DREAM HORSE 監督:ユーロス・リン 出演:トニ・コレット、ダミアン・ルイス、オーウェン・ティール ほか 配給:ショウゲート © 2020 DREAM HORSE FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

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『ippo』

妙に後を引く不条理な対話劇の短編集

個性派俳優の柄本佑が監督を務めた3編をまとめた短編集。いずれもほぼ1対1の対話劇で、どこか不条理ながらもくすっとさせられる不思議な空間を形作っている。第1話『ムーンライト下落合』(2017)は、アパートの1室で目覚めた男2人がかみ合わない会話にいらいらしながら、最後は意外な同意点で落ち着くというのが落ちだ。第2話『約束』(2022)も、第3話『フランスにいる』(2019)も、音声が突然ぶちっと途切れたり、録音音声を駆使したり、単なる絵面だけの凝り方ではない映画的なふくよかさで魅せる。中でも第2話で柄本監督の実弟の柄本時生が演じる奇妙な一人二役が味わい深く、共演の渋川清彦の戸惑ったようなリアクションとともに妙に後を引く。このテイストで次はぜひ長編映画にも挑んでもらいたいものだ。(藤井克郎)

2023年1月7日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/76分) 監督・脚色・編集:柄本佑 出演:加瀬亮、渋川清彦、高良健吾 ほか 配給:ブライトホース・フィルム © がらにぽん

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『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

ワインスタイン事件をスクープした記者の憤り

映画界にはびこる性暴力の実態を暴き、世界中に#MeToo運動が広まるきっかけとなった2017年のハーヴェイ・ワインスタイン事件。その端緒となったニューヨーク・タイムズ紙のスクープを手がけた女性記者たちの実話を、俳優でもあるドイツ出身のマリア・シュラーダー監督が冷静に描いた。大物映画プロデューサー、ワインスタインの性的暴行の噂を聞きつけた調査報道記者のジョディ・カンターは、産休明けのミーガン・トゥーイーと組んで被害女性たちの取材を始める。だが口留めをされていた彼女たちは、なかなか心を開いてくれなかった。登場人物はすべて実名で、最初に被害を公表したアシュレイ・ジャッドなどは本人役として出演。記憶も生々しい中での映画化に、その後も性暴力が後を絶たない実状への作り手の強い憤りを感じた。(藤井克郎)

2023年1月13日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/アメリカ/129分)原題:SHE SAID 監督:マリア・シュラーダー 出演:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン ほか 配給:東宝東和 ©Universal Studios. All Rights Reserved.

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『モリコーネ 映画が恋した音楽家』

盟友が稀代の作曲家の成功とその裏の葛藤に迫る

映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』メイン画像

『荒野の決闘』『ニュー・シネマ・パラダイス』など数多くの映画音楽を作曲し、2020年に91歳で逝去した稀代の作曲家、エンニオ・モリコーネ。後者を監督した盟友のジュゼッペ・トルナトーレが、生前の本人のインタビューを軸に、タランティーノやイーストウッドら多くの著名人のコメント、映画の名シーン、コンサートツアーの映像などを交えて、成功とその裏にあった映画音楽に対する葛藤に迫った。本作では、モリコーネの作品が高度な専門知識と緻密な計算、並外れたひらめきと感性の結晶であることが改めて浮き彫りになる一方、茶目っ気があり、愛妻家である一面も映し出される。偶然にも小学校の同級生であったセルジオ・レオーネ監督との逸話も興味深い。その旋律によって映画をより魅力的、感動的なものへと導き人々の心に刻み付けた巨匠への尊敬と愛が、十二分に感じられた。(吉永くま)

2023年1月13日(金)より全国順次公開 公式サイト  予告編動画
(2021年/イタリア/157分)原題:Ennio 出演:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノほか 配給:ギャガ ©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras

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『エンドロールのつづき』

チャイ売りの少年が紡ぐ映画へのあふれる愛

インド北西部グジャラート州出身のパン・ナリン監督が、映画と故郷へのあふれる愛をグジャラート語で織り上げたインド版『ニュー・シネマ・パラダイス』。田舎町で父親のチャイ店を手伝う9歳のサマイは、家族で一度だけ見にいった街の映画館で映画のとりこになる。父親は「低劣なもの」として映画を禁じたが、サマイは映写技師のファザルと親しくなり、母親の弁当と引き換えに映写室に出入りするようになる。やがて自らも映画を作りたいと思うが……。フィルム上映の仕組みを、サマイが映写室で見聞きした経験を基に自ら工夫して作っていく過程が楽しい。光源の確保やシャッターの仕掛けなど映画の原点とも言える描写のほか、列車の到着や野生動物との遭遇といった何とも映画的な要素など、映画好きにはたまらない作品に仕上がっている。(藤井克郎)

2023年1月20日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/インド、フランス/112分)英題:Last Film Show 監督・脚本・プロデューサー:パン・ナリン 出演:バヴィン・ラバリ、バヴェーシュ・シュリマリ、リチャー・ミーナー ほか 配給:松竹 ALL RIGHTS RESERVED ©2022. CHHELLO SHOW LLP


『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』

運び屋が請け負ったおもらしする泣き虫の荷物

『パラサイト 半地下の家族』で貧乏家族の長女役を好演したパク・ソダムが、超絶技巧のドライビングテクニックを持つ運び屋を演じた痛快アクション作品。パク・デミン監督の長編3作目となる。どんな荷物も配達する「特送」ドライバーのウナは、違法賭博で指名手配された元プロ野球選手の国外逃亡の手助けを依頼される。だが賭博の元締めに察知され、一緒に逃げるはずだった幼い息子のソウォンだけを乗せて車を走らせるが、ソウォンは事件の重要な鍵を握っていた。泣き虫ですぐにおもらしをするソウォンを持て余すウナが、徐々に情を通わせていくという展開は、ジョン・カサヴェテス監督の『グロリア』を想起させるいとおしさだが、何よりもハリウッド顔負けのカーアクションに見ほれる。カットバックを多用したスピード感は必見の面白さだ。(藤井克郎)

2023年1月20日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/韓国/109分)原題:特送[특송] 英題:Special Delivery 監督・脚本:パク・デミン 出演:パク・ソダム、ソン・セビョク、キム・ウィソン ほか 配給:カルチュア・パブリッシャーズ © 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

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『イニシェリン島の精霊』

親友から突然の絶交を突きつけられる理不尽

『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督が、自らのルーツであるアイルランドを舞台に、自身のオリジナル脚本で厳しくも奥深い寓話を編み上げた。1923年、激しい内戦に揺れるアイルランド。架空の島のイニシェリン島に住むパードリックは気のいい穏やかな男だったが、ある日突然、親友のコルムから絶交される。理由がわからないパードリックは戸惑いつつ、関係修復に躍起になるが、コルムの態度はかたくなだった。もっと意味のある生活をしたい、というだけで付き合いを絶たれた理不尽さが、荒漠たる島の風景と相まって、ずしりと重く心に響く。優しかったパードリックも、コルムの強硬姿勢にいつしか嫌な男になっていく変容が見事で、国と国の間のいさかいをも彷彿とさせるマクドナー監督の深慮にうなった。(藤井克郎)

2023年1月27日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/イギリス、アメリカ、アイルランド/114分/PG12)原題:The Banshees of Inisherin 監督・脚本:マーティン・マクドナー 出演:コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン ほか 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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『ピンク・クラウド』

パンデミック前に撮影されたロックダウン下の世界

映画『ピンク・クラウド』メイン画像

ブラジルのイウリ・ジェルバーゼ監督の長編デビュー作。毒性の強い雲が突如出現したことにより、ロックダウンに見舞われた世界を描く。パンデミック前に撮影された作品だが、現実とオーバーラップしていることから2021年のサンダンス映画祭で話題を呼んだ。人々を死に至らしめる謎のピンク色の雲が世界中で発生。前日に出会い一夜を共にしていたジョヴァナとヤーゴも、その日以降外に出られなくなる。買物はドローン、家族との連絡はオンライン。監禁生活は長引き、やがて2人の間には子供が生まれるが、そこには歪みが生じ始めていた……。幻想的なピンク色に染まる閉塞感に満ちた部屋。そこに漂う不安や孤独、焦燥は絵空事だったはずなのに、現実社会に生きる私たちも今や強い共感を覚えるようになった。そして非日常が日常になったことに慣れてしまった事実にも気づかされる。ゆっくりと形を変え狂い始める日々が淡々と綴られる、不気味で不穏なスリラーだ。(吉永くま)

2023年1月27日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020/ブラジル/103分/PG12)原題:A NUVEM ROSA 英題:THE PINK CLOUD 監督・脚本:イウリ・ジェルパーゼ 出演:ヘナタ・ジ・レリス、エドゥアルド・メンドンサ、カヤ・ホドリゲス ほか 配給:サンリスフィルム © 2020 Prana Filmes

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