6月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2025年05月31日更新

6月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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6/13(金)公開『おばあちゃんと僕の約束
6/13(金)公開『JUNK WORLD
6/13(金)公開『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ
6/13(金)公開『リライト
6/20(金)公開『中山教頭の人生テスト
6/20(金)公開『ルノワール
6/28(土)公開『選挙と鬱


『おばあちゃんと僕の約束』

永遠に続いてほしいほほえましい時間

映画『おばあちゃんと僕の約束』メイン画像

のどかで美しいバンコクを舞台に、祖母と孫、そして親世代という家族の間で綴られる温かい愛の物語。タイ映画の世界興行収入No.1を記録した。ゲーム実況者を⽬指して⼤学を中退した⻘年エムは、従妹のムイが祖⽗から豪邸を相続したと聞き、お粥を売って生計を立てている一人暮らしの祖母メンジュに近づき、相続を得ようとする。だが、病魔に侵された彼女の慎ましく懸命に⽣きる姿や考えに触れ、エムの中で何かが変わっていく……。下心があるエムの自己中心的な一面が鳴りを潜め、自分から祖母に優先順位が変わっていく時の優しい表情が素晴らしく、二人の間に流れるこのほほえましい時間が永遠に続いてほしいと願う。一方、メンジュとエムの母親など親世代との関係は一筋縄ではいかないものの、それぞれ異なる深い愛情の形を見せる。物語のテーマである祖母と孫の約束があまりにも尊く美しく、心が揺さぶられた。(吉永くま)

2025年6月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/タイ/126 分)原題:Lahn Mah 監督・脚本:パット・ブーンニティパット 脚本:トッサポン・ティップティンナコーン 出演:プッティポン・アッサラッタナクン(ビルキン)、ウサー・セームカム、サンヤー・クナーコン ほか 配給:アンプラグド ©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED


『JUNK WORLD』

コマ撮りの表現力をとことんまで追究したわくわく感

独学で映画づくりを始めた堀貴秀監督がたった一人で取り組み、完成まで7年を費やしたストップモーションアニメーションの衝撃作『JUNK HEAD』の公開から4年。シリーズ第2弾は前作の1042年前を時代背景に、またも独特の個性あふれるキャラクターたちが目くるめくダークファンタジーの世界で躍動する。2343年、人間が創造した人工生命体のマリガンが地下世界を支配する中、人間とマリガンによる合同調査チームが地下の異変を探ろうとしていた。人間側の女性隊長、トリスにはロボットのロビンが護衛として帯同していたが、次々と敵の攻撃にさらされる。光や炎といった実写も駆使しつつ、コマ撮りの表現力をとことんまで突き詰めた映像処理はよりスケールアップ感が強い。加えて同じ場面を3回繰り返して展開させるなど、作劇も映画ならではの創意工夫に満ちている。わくわく感は前作を凌ぐほどで、完結編となる第3弾が早くも待ち遠しい。(藤井克郎)

2025年6月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/104分) 監督・脚本・撮影・照明・編集:堀貴秀 配給:アニプレックス ©️YAMIKEN


『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』

都会で誰かと生きる幸せ

映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』メイン画像

閉鎖的で息苦しい社会で“普通”から外れた二人が育む、13年の友情の軌跡をたどる。同じ大学で出会った惚れっぽく夜遊び好きで⾃由奔放なジェヒと、ゲイであることを隠しながら生きる繊細なフンス。二人はあることをきっかけに⼀緒に暮らし始め、お互いかけがえのない存在になっていく。だがある時、大学卒業後も続く友情に危機が訪れ……。部屋着での食事など何気ないシーンからにじみ出るのは、お互いを色眼鏡で見ることなく理解し合い、嬉しいことや悲しいことを共有したり、言い合いをしたりする相手がいることの安心感だ。一方、誰もが陥りがちな自己憐憫による身勝手な面も描かれ、心がチクリとなる。大都会=ビッグシティの“ビッグ”には、苦悩や挫折だけでなく、羽ばたく未来という可能性も秘められているのだろう。最高のバディとなった二人の恋や成長を見守った先には、幸せのお裾分けが待っている。(吉永くま)

2025年6月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/韓国映画/118分)原題:대도시의 사랑법 英題:Love in the Big City 監督・脚本・編集:イ・オニ 出演︓キム・ゴウン、ノ・サンヒョン、チョン・フィ ほか 配給︓⽇活/KDDI ©2024 PLUS M ENTERTAINMENT AND SHOWBOX CORP. ALL RIGHTS RESERVED.


『リライト』

300年後の未来人と過ごしたひと夏の思い出のはずが……

タイムリープ映画の名作『時をかける少女』を手がけた大林宣彦監督へのオマージュにあふれた切なくもどこか懐かしい青春映画が誕生した。尾道の高校3年生、美雪のクラスに保彦という生徒が転校してくる。ある小説を読んでこの時代に憧れ、300年後の世界からやってきたという保彦は、その小説は未来の美雪が書いたものだと告げる。保彦との秘密のひと夏を過ごした美雪はその後、作家になり、自らの経験を基にした小説を完成させるが……。法条遥の小説を原作に、劇団ヨーロッパ企画を主宰する上田誠の脚本で『ちょっと思い出しただけ』の松居大悟監督が映画化。10年前と現在を交錯させながら、大林監督が愛した故郷、尾道の印象的な風景をバックに、幾重にも折り重ねられた謎と伏線がテンポよく紡がれる。高校生役と大人になった現在を演じ分けた池田エライザや橋本愛らの自然なたたずまいに加え、尾美としのり、石田ひかりといった大林映画おなじみの顔の共演がうれしい。(藤井克郎)

2025年6月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/127分)英題:Rewrite 監督:松居大悟 出演:池田エライザ、阿達慶、橋本愛 ほか 配給:バンダイナムコフィルムワークス ©2025『リライト』製作委員会

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『中山教頭の人生テスト』

担任を命じられたベテラン教頭の苦悩に満ちた心模様

小学校の教頭を務める中山先生は実直で教育熱心なベテラン教師だが、規則を重んじる堅物の校長や、対照的に駆け引きに長けた教育長らに何も言えない。日々の雑務に追われる中、5年1組を受け持つ強圧的な教師が体調不良で休職し、担任を兼務することになる。問題の多い児童たちの対応に加え、校長を目指す自らの家庭環境も絡み……。『教誨師』の佐向大監督が現代社会の縮図とも言える小学校を舞台に、自らの信念と他者との関わりとのバランスで苦悩する中山教頭の心模様を、ちょっぴり諧謔味を加えて織り上げた。教育がテーマというよりも、むしろわれわれは今の複雑な時代をどう生きるべきかといった大人も子どもも共通の普遍性が底辺に流れていて、作り手の志の高さに感じ入る。中山教頭を演じる渋川清彦が、飄々と見えつつも真剣に悩み続ける一人の人間を誠実に体現していて、陰湿な教室を構成する多彩な子どもたちの自然な演技とともに見応えがあった。(藤井克郎)

2025年6月20日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/125分) 脚本・監督:佐向大 出演:渋川清彦、高野志穂、石田えり ほか 配給:ライツキューブ ©2025映画『中山教頭の人生テスト』製作委員会

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『ルノワール』

不安定なのに安心感のある11歳の少女の危うい日々

時代が揺れ動いていた1980年代を背景に、11歳の多感な少女のひと夏の経験をつづった作品で、『PLAN 75』の早川千絵監督がみずみずしくも大胆な作風で表現。カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、受賞はかなわなかったものの若手監督の快挙が話題を呼んだ。入退院を繰り返す闘病中の父と家事と仕事に追われる母の下で育ったフキは、テレパシーの練習をするなどちょっと風変わりな女の子だ。自殺しそうな女性や怪しげな勧誘商法の男、伝言ダイヤルで知り合った大学生など、一癖も二癖もある大人と交わる中で、徐々に自我に目覚めていく。自然光による薄暗い明かりの下、不安定なのになぜか安心感のあるフキの成長とも言えない危うい日々が、余韻を残さないぶっきらぼうな編集で紡がれる。逆光で表情もよくわからないのに、そこにいるだけで何かとてつもない存在感を醸し出しているフキを演じた鈴木唯の恐るべき可能性に心を射抜かれた。(藤井克郎)

2025年6月20日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア、カタール/122分)英題:RENOIR 脚本・監督:早川千絵 出演:鈴木唯、石田ひかり、リリー・フランキー ほか 配給:ハピネットファントム・スタジオ © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

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『選挙と鬱』

議員辞職後に訪れた奇跡の瞬間を捉えた豊かな創造性

2022年の夏に行われた参院選に、お笑いコンビ、浅草キッドの水道橋博士が、れいわ新選組の比例代表で立候補し、当選する。だがその直後、博士は鬱病の診断を受けて休職。辞任を余儀なくされる。その一部始終を捉えたドキュメンタリーで、『東京自転車節』の青柳拓監督が、選挙戦からその後の博士自身との闘いの日々までを密着した。映画評論家の町山智浩から「博士の選挙戦を撮ってみないか」と持ちかけられた青柳監督は、政治も選挙も素人ながら、やはり素人集団の博士の選挙活動チームにカメラを向ける。想定外の出来事が次々と起こる中、期待していたとは言え奇跡に近い当選を果たす。だがここまでの展開がごく一般的な記録映像だとしたら、ここからの流れはまさに映画作品と言うべき豊かな創造性に満ちている。国会議員でなくなった博士が何を思い、どのような行動をしたか。映画の神様が降臨したかのような瞬間を目撃して、いささか興奮を覚えた。(藤井克郎)

2025年6月28日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/124分) 監督・撮影:青柳拓 出演:水道橋博士、町山智浩、三又又三 ほか 配給:ノンデライコ ©ノンデライコ/水口屋フィルム

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