【スクリーンの女神たち】『猫は逃げた』『階段の先には踊り場がある』手島実優さんインタビュー

  • 2022年03月18日更新

“スクリーンで女神のごとく輝く” 俳優と出演作品の魅力に迫るインタビューシリーズ! 今回は、2022年3月18(金)公開の『猫は逃げた』(今泉力哉監督×城定秀夫脚本)と、3月19日(土)公開の『階段の先には踊り場がある』(木村聡志監督・脚本)に出演する手島実優さんにご登場いただきました!

離婚寸前の夫婦とそれぞれの恋人、さらに一匹の猫が繰り広げる異色の恋愛狂騒劇『猫は逃げた』では同僚と不倫中の週刊誌記者・真実子を、若い男女のままならない日常のリアルと葛藤を描く“超等身大恋愛会話群像劇”『階段の先には踊り場がある』では、友達の元カレに惹かれるイマドキ女子大生・多部ちゃんを演じた手島さん。不甲斐ない恋の沼にハマってしまう女性たちの気持ちをどんな風にとらえて演じたのでしょうか? 役作りや撮影の舞台裏、気になる恋愛観やプライベートにも迫りました。


ちょっと憧れるのは多部ちゃん、より自分に近いのは真実子

― 『猫は逃げた』と『階段の先には踊り場がある』、ストーリーはまったく違いますが、どちらも魅力的なキャストによる群像劇で、どこかひょうひょうとした味わいの中に、理屈では割り切れない男女関係やリアルな心理を描いていて、とてもおもしろかったです。今泉組と木村組、それぞれの現場の雰囲気や監督の印象などを教えていただけますか。

手島実優さん(以下、手島):今泉監督は、一つひとつ丁寧に的確に現場を進めていく印象でした。役者がバランスの取れた芝居ができるように調節してくださるというか、言葉を選ぶのがお上手なので、私にはすごく響いて、意思疎通がしやすい方だと思いました。

木村監督の現場は、それこそ大学生同士のように皆で作り上げていく雰囲気がありました。演技については役者に任せてくださる監督で、ほとんど何もおっしゃらなかったですね。圧倒的に長回しのシーンが多かったので、ちょっと演劇の現場っぽい印象もありました。

― 週刊誌記者の真実子と、大学生の多部ちゃん、年齢の設定は少し離れていますが、二人とも自分の意見をハキハキ言うタイプなのに、意外にもダメな恋愛のほうに行ってしまうところが似ていますよね。どっちの役がよりご自分に近いと思いますか?

手島:総合的に見て、自分に近いのは真実子だと思います。多部ちゃんは、相手の性別や恋愛感情の有無にかかわらず、誰とでもニュートラルな人間関係を築ける人。私自身がそういう人に憧れがあるので、役作りでも意識したし、多部ちゃんくらいズバズバものが言えたらいいなと羨ましくもありました。でも、恋愛に引っ張られ過ぎちゃう真実子の弱さや、わがままな感じはちょっと自分の中にもあると思います。

『猫は逃げた』― 恋愛沼にハマっても仕事は大切にするのが真実子

― 多部ちゃんよりも、真実子のほうが恋愛に振り回されている感じはありますね。

手島:真実子は恋愛の沼に落ちていっちゃうけど、仕事もちゃんと大切にしているんです。そのバランスはきちんと見せたいと思いました。映画を観ていただく方にも、ただ「この女、嫌い!」と思われなければいいなと思って。

― 真実子はヒロさん(毎熊克哉)から仕事の面でも頼りにされているし、写真に真摯に向き合っている事もさりげなく伝わってきました。そういう女性が、恋愛になると自ら沼にハマっていっちゃう。そこがまたリアルなんですよね。毎熊さんとのシーンが多かったと思いますが、共演された感想を教えてください。

手島:初めてご一緒するので、撮影前に毎熊さんの出演作を何本か拝見したんですが、怖い役が多かったのでちょっと不安でした(笑)。でも、読み合わせでお会いした日に毎熊さんが小さなドクロの刺繍が付いたTシャツを着ていらして。それがかわいくて、そこから怖くない人という認識になりました(笑)。思っていたよりもずっと物腰が柔らかくて、優しい素敵な方でした。

― 真実子として、ヒロさんのどんなところに魅力を感じましたか。

手島:最初に脚本を読んだ時は、ヒロさんのイメージがちょっと無骨というか、もう少しこの人に惹かれる要素が欲しいなと思ったんですけど、毎熊さんの声がすごく素敵で、あの柔らかい声で「おい」とか「真実子」とか呼ばれると「あ、好きかも」みたいになって。ヒロさんに惹かれていく感じや、沼ってしまう感じとかもすごくわかりました。お顔とのギャップもあって、毎熊さんの声はすごく魅力的だと思います。

― ヒロさんと亜子(山本奈衣瑠)、松山(井之脇海)と真実子。四人が顔を揃えるシーンはすごくおもしろかったですね。特に亜子と真実子の掛け合いのバトルは思わず笑ってしまいました。

手島:おもしろかったですよね。私は撮影の2日目がいきなり濡れ場だったし、お互いに余計な情報を与えないように気を使っていたのもあって、共演者同士で話す機会がないまま撮影が進んでいたんです。最終的に四人のバトルシーンを終えた時に、「ああ、これでやっと仲良く話せるねー」って皆でほっとして。そこから一気に仲良くなりました。

『階段の先には踊り場がある』―大学生の恋愛や友達関係を表現

― 多部ちゃんは、ゆっこ(植田雅)と先輩(平井亜門)の間でしばらく中立でいるのかと思いきや、あれよあれよと先輩と接近していって。多部ちゃんとゆっこは仲が良いだけに、三人でいるシーンは観ていてちょっぴり切ないというか、複雑でした。

手島:確かに自分がゆっこなら、多部ちゃんが先輩の側にいるのはちょっとイヤですね。でも、多部ちゃんの中では、先輩を好きな気持ちとゆっこを大切に思う気持ちはまったくの別物なので、ゆっこの気持ちにまでは頭が回っていないというか、気にしていないと思っていたんです。例えば、もし、多部ちゃんが先輩を好きになった事に対してゆっこが怒ったとしても、「ゆっこをイヤな気持ちにさせた事はごめんだけど、気を遣って自分の恋愛をおろそかにするつもりはない」と関係を崩さずに言えちゃうタイプだと思うんですよね。そういう雰囲気が伝わったらいいなと思いながら演じてはいました。

― 実際に演じるにあたって、ゆっこ役の植田さんとは何か話し合ったりしたのですか。

手島:最初に三人で会うのが、先輩が多部ちゃんのバイト先に面接に来るシーンなんですけど、面接が終わるのを待っている間、ゆっこと二人でしゃべるシーンを最初に演じた時は、なぜか仲があまり良くないような雰囲気になってしまって。木村さんからも、「ゆっこと多部ちゃんって仲が悪いの?」って言われてしまったんです。
植田さんも私も、ゆっこと多部ちゃんは仲良しだと思っていたはずなのになぜそうなったのかというと、大学生同士のさっぱりした友達関係を意識し過ぎたんです。私の偏見かもしれないですけど、大学生同士の友情ってベタベタしていなくて、近しい友達ほど少し雑に扱う傾向があると思っていて。その関係性をわずかなシーンで見せたくて、植田さんとも話してさっぱりした感じで演じたんです。

― 良い意味で無責任というか、お互いに深く執着しない感じを大学生っぽさとして表現したのですね。

手島:そうですね。ゆっこと仲が良いのが前提で、多部ちゃんはゆっこの気持ちをあまり気にしていなくて、さらに先輩は何も気にせずに二人の間に入ってきて。男女関係なく雑魚寝できたりするような雰囲気が出ればいいなと思って演じていました。

ただ、先輩とたばこを吸いながらキスするシーンだけは、木村さんから演出があったんです。「ちょっと良いシーンにしたいから、ここだけは多部ちゃんからも好きって感じを出してみようか」って。そんな良い雰囲気になった後でも関係が発展するわけじゃなくて、チューしたけどそのまま二人は普通にゲームしますみたいな。その感じもすごく大学生っぽいなって。

― 結婚や人生を意識した真実子たちの恋愛とは根本的に違いますよね。とはいえ、いくら大学生でも、先輩は優柔不断で思わせぶりで、小ズルいですよね。なのに、魅力も感じてしまう。手島さんは先輩みたいな男子はどう思いますか?

手島:私は全然好みではないです(笑)。でも、多部ちゃんが先輩を好きになる感じは、ちょっとわかるんです。多分、多部ちゃんは「先輩のどこが好き?」って聞かれたら、それこそ「顔!」とか「声が大きいところ」って言うんじゃないかな。本気で好きというよりは、たまたまタイミングや歯車が合ったから好きになった感じだと思います。

― 冷静かつ的確な分析ですね(笑)。ちなみに、手島さんはどんな人がタイプなんですか。

手島:顔も性格もタイプというのは本当にないですね。好きになった人がタイプです。以前は、色が白い人に惹かれたりしましたけど、「色の白さが何か人生の足しになっているんだろうか?」と思ってからはまったくなくなりました(笑)。

― 達観していますね(笑)。

生々しい会話劇だけど、アドリブは皆無!?

― 両作とも独特のテンポで展開する会話劇で、どこまでが脚本なんだろうと思うようなシーンが多々ありました。アドリブの部分はあったのですか?

手島:どちらの作品もアドリブかと思うほど、生々しい会話や気まずさなども描かれているんですけど、アドリブは皆無なんです。「あっ……」とか「えっと」とかも全部脚本に書いてあって。

―『階段の先には踊り場がある』は長回しもすごく多くて、さらに独特の会話のテンポが作品の魅力でもあるので、結構リハーサルを重ねられたのでは?

手島:空気感を的確に作っていくためにも、確かにリハーサルは結構しました。木村さんの作品は独特のクセがあるんですけど、脚本の時点で雰囲気やおもしろさ、セリフの言い回しまで文字から伝わってくるんです。キャスティングの時点で、木村さんがそれを理解できる役者を選んでいたのかもしれないですね。それくらい皆がしっくりきていたし、そうじゃないと思う事が全くなかったです。「このシーンはもっとこういうシーンで……」みたいな、普通なら現場でよく聞こえてくる言葉も、全然聞こえてこなかったです。

― すごいですね! 脚本を読みながら頭の中で再現していた雰囲気に皆さんがハマっていたと。どちらの作品も、脚本のおもしろさを魅力的なキャストが存分に表現しているところが素晴らしかったです。

目に見える関係性より、感情をシェアし合えるかどうかが大切

― 2つの作品を観て思ったのは、あらためて恋愛って理屈じゃないし、ままならないものだなと。一方の人間は関係をハッキリさせて前に進みたいのに、もう一方はハッキリさせずに現状維持していたい。そういう事も、恋愛においては多分に起こるわけですが、もし、手島さんが好きになったお相手が関係をうやむやにする感じの人だったら、ハッキリさせたいと思いますか。

手島:私が重要視するのは“同じ立場に立って、一緒に考えてくれるかどうか”という部分ですね。付き合いたい、好きだと言ってほしい、イエスと言ってほしい、という目に見えるような関係性よりも重要だと思うんです。例えば、親友の女友達に相談をした時は100個くらい提案が返ってくるところを、男の人だと10くらいしか返ってこない事ってありますよね。「ほんとに考えた?」みたいな(笑)。

― 激しくありますね(笑)。

手島:そういうところで、相手が自分を大事にしているかどうかわかる気がして。その点では、先輩はまだ望みはある気がするんです。きちんと気持ちや意見をシェアしていけば、そういう関係になっていけるんじゃないかなと。とりあえず白黒させるというのではなく、相手と一番快適な関係性を築ければいいなと思います。

― カタチじゃなくて、本質が大切って事ですね。

手島:そうです。両作品に描かれていますけど、好きという感情も関係性もすごく多様で、一概にこういう関係が良いとか悪いとかではないと思います。自分でも良い悪いで演じたくなかったですし、この関係だからまだチューはしちゃダメとか、家に入り浸っちゃダメとか、そういう風に思わせるのではなく、映画を観てくださった方がご自身で感じてくださればいいなと思いました。もちろん法に触れるので、不倫は肯定できないですけど、真実子とヒロさんの関係に対して、本当に怒っていいのは奥さんだけだとは思います。

リラックスの方法は、「いい女ごっこ」

― お忙しい毎日だと思いますが、実践しているリラックス方法があれば教えてください。

手島:コロナ禍になってからここ2年くらいは、すごく長風呂になりました。お風呂で浄化されています(笑)。

― こだわりの入浴法や、ルーティーンがあるんですか?

手島:あります。自分の中では「いい女ごっこ」と呼んでいるんですけど……(笑)。

― き、気になる! ぜひ、教えてください!

手島:お気に入りのバスソルトを入れて、間接照明を置いて、湯船の中で素敵な女性のモーニングルーティーン動画を観ながらゆっくり入浴するんです。そうしている自分を「ああ、いい女だな」と思い込むという(笑)。

― わかります! 私も自宅時間が多くなってから、「丁寧な暮らし」系の動画を観て、どっぷり“丁寧な暮らしをしている気分”に浸っています。今夜からは「いい女ごっこ」にも参加します(笑)!

素顔は陰キャでオタク気質!?

― 今後演じてみたい役などはありますか。

手島:陰キャっぽい役をやってみたいです。もともとの性格も、実はオタクで陰キャなんです(笑)。

― えー! 意外ですね。何オタクなんですか?

手島:特に何かのオタクというのはないですけど、気になった事はめちゃめちゃ調べます。最近だと、映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の公開をすごく楽しみにしていて、劇場に行く1ヶ月前からMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)をみっちり予習してから観たんですけど、もう最高でした(笑)! 面倒くさいと思いつつ、最大限に楽しめるように勉強して、周りの人に「これは、実はこうなんだよ」とか得意気に言いたいタイプです(笑)。

― まだまだ、知らない一面や魅力をたくさん持っていそう。“手島実優沼”もかなり深そうです(笑)。これからの手島さんのご活躍も楽しみにしています!

取材:min インタビュー撮影:ハルプードル
衣装:大場千夏 ヘアメイク:土屋橘子

プロフィール&靴チェック

⼿島実優(てしま・みゆう)

1997年10⽉1⽇⽣まれ。群⾺県出⾝。映画や舞台、CMなど幅広く活躍。近年の主な出演作に、映画『⾚⾊彗星倶楽部』(17/武井佑吏監督)、『カランコエの花』(18/中川駿監督)、『かく恋慕』(19/菱沼康介監督)、『スウィート・ビター・キャンディ』(19/中村祐太郎監督)、『愛のくだらない』(21/野本梢監督)、2022年は『フタリノセカイ』(飯塚花笑監督)、『階段の先には踊り場がある』(⽊村聡志監督)、『猫は逃げた』(今泉力哉監督)と立て続けに出演作が公開。現在、『よだかの⽚想い』(安川有果監督)が公開待機中。


【ミニシア恒例! 女神の靴チェック】
目の覚めるようなビビッドピンクのヒールを、とてもおしゃれに履きこなしていた手島さん。「衣裳として用意していただいたものですけど、3パターン候補があって、実はこの色は履きこなせるか一番自信がなかったんです。でも履いてみたらすごくかわいくて!」と満開の笑顔でお話ししてくれました。キュートな笑顔も、憂いを帯びた表情も、そして撮影の合間にふと見せる表情もとても魅力的で、その眩しさに取材班もドキドキしっぱなし! ちなみに、ご自分の顔で好きなパーツは「おでこ」だそうです。

作品・公開情報

▼『猫は逃げた』公式サイト
映画『猫は逃げた』ポスター画像(2021年/109分/日本/R15+)
監督:今泉力哉 脚本:城定秀夫
出演:山本奈衣瑠、毎熊克哉、手島実優、井之脇海、伊藤俊介(オズワルド)、中村久美、オセロ(猫)
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS ©2021『猫は逃げた』フィルムパートナーズ

【STORY】レディコミ漫画家の町⽥亜⼦(⼭本奈⾐瑠)と週刊誌記者の広重(毎熊克哉)は、離婚⼨前の夫婦。広重は同僚の真実子(⼿島実優)と浮気中で、亜⼦は編集者の松⼭(井之脇海)と身体の関係を持ち、夫婦仲は冷えきっていた。二人は飼い猫“カンタ”をどちらが引き取るかで揉めていたが、そんな矢先、カンタが行方不明になってしまう。

※2022年3⽉18⽇(⾦)新宿武蔵野館ほか全国順次公開


▼『階段の先には踊り場がある』公式サイト
映画『階段の先には踊り場がある』ポスター画像(2021年/日本/132分)
脚本・監督・編集:木村聡志
出演:植田雅、平井亜門、手島実優、細川岳朝木ちひろ ほか
撮影・照明:道川昭如
製作・配給:レプロエンタテインメント ©LesPros entertainment ©Soichiro Suizu

【STORY】ダンサーを目指し芸大の舞踊科に通うゆっこ(植田雅)は、同じ大学の演劇科に通う元カレの先輩(平井亜門)と別れた後も同棲を続けている。お互いを応援する“いいパートナー”と呼び合うが、最近は夢をかけた留学と、先輩と急接近する友人・多部ちゃん(手島実優)の存在が気に掛かる。一方、社会人の滝(細川岳)は平穏な日々を過ごしながら、長年交際している港(朝木ちひろ)に結婚を意識させられ困惑していた。将来が見えない滝は、大学生時代の挫折を今も引きずっていたのだ。望まない方向に動きだす日々の先で、彼らは何を語り合うのか――。

※2022年3月19日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国公開

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【スクリーンの女神たち】過去記事一覧

『愛なのに』:2月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―(2022年)

【スクリーンの女神たち】『かぞくあわせ』『二人の作家<根岸里紗×田口敬太>』小島彩乃さんインタビュー(木村聡志監督コメント有り)

  • 2022年03月18日更新

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