10月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2023年10月02日更新

10月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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10/6(金)公開『アンダーカレント
10/6(金)公開『旅するローマ教皇
10/6(金)公開『フラッシュオーバー 炎の消防隊
10/7(土)公開『過去負う者
10/7(土)公開『栗の森のものがたり
10/13(金)公開『アアルト
10/13(金)公開『くるりのえいが
10/13(金)公開『
10/14(土)公開『メドゥーサ デラックス
10/20(金)公開『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?
10/27(金)公開『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間

 


『アンダーカレント』

胸の奥を疼かせる人との繋がりの不確かさと温かさ

映画『アンダーカレント』メイン画像豊田徹也の伝説的人気コミックを、今泉力哉監督で映画化したヒューマンドラマ。初の今泉組となる真木よう子が主演を務め、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこらが脇を固める。夫の悟が失踪し、失意を抱えながらも家業の銭湯を再開させた主人公のかなえ。そこへ、堀と名乗る男が現れ住み込みで働き始める。堀との奇妙な共同生活のなか、探偵の山崎による調査で明かされていく夫の知られざる過去。やがて、かなえ自身も心の奥深くに封印していた過去を見つめ直していく……。他人の心をすべて知ることはできない――人間関係における、この悲劇とも喜劇ともいえる真実を、おだやかな映像美と空気感で描き出す本作。「人をわかるとはどういうことか」さらには「自分とはなにか」という普遍的な問いに、胸の奥が疼いた。人との関わりの不確かさと温かさに寄り添うような、細野晴臣の音楽が心に沁み入る。(富田旻)

2023年10月6日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/143分)監督:今泉力哉 音楽:細野晴臣 出演:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央 ほか 配給:KADOKAWA ©豊田徹也/講談社 ©2023「アンダーカレント」製作委員会

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『旅するローマ教皇』

世界を駆ける教皇フランシスコの平和と平等への願い

難民問題を扱った『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』などの社会派ドキュメンタリー作家、ジャンフランコ・ロージ監督が最新作で取り上げた対象は、第266代ローマ教皇フランシスコだった。南米アルゼンチン出身のフランシスコ教皇は、2013年の就任以来、世界中を飛び回っては貧困や戦争を撲滅すべく闘っている。これまで被写体との関係性をじっくりと構築してから撮影に入っていたロージ監督だが、今回は膨大なアーカイブ映像を駆使。平和と平等を希求するフランシスコ教皇の熱のこもった言葉と、来訪を歓迎する各地の庶民の熱狂ぶりに焦点を当てる。中でもカトリックの聖職者による児童への性的虐待の事例には素直に謝り、過去の曖昧な態度について潔く反省する姿は、まさに今、地球規模で求められているリーダーの姿勢だろう。(藤井克郎)

2023年10月6日(金)より全国順次公開  公式サイト 予告編動画
(2022年/イタリア/83分)原題:IN VIAGGIO 監督・脚本:ジャンフランコ・ロージ 配給:ビターズ・エンド ©2022 21Uno Film srl Stemal Entertainment srl


『フラッシュオーバー 炎の消防隊』

大パニックの中で展開される人間ドラマ

映画『フラッシュオーバー』メイン画像

弟のダニー・パンとともに監督した『the EYE 【アイ】』の大ヒットで世界から注目を集めるオキサイド・パンが、メガホンをとった。江東省灌城市で地震が発生。その影響により工業団地で大規模爆発事故が起こり、周囲一帯の住居や公共施設も巻き込む事態に。消防署長のジャオや通信員のハンらが現場に駆けつけるが、建物は崩壊し、多数の要救助者が出ており、まさに阿鼻叫喚の様相を呈していた……。凄まじい爆音と舞い上がる炎を伴う大爆発や緊迫した救助のシーンが続き、息つく暇もない。危険をかえりみず人々のもとへ駆けつける消防隊員の姿は、現実世界で頻発する災害現場の救助隊のそれと重なる。また、極限下で人々が感じる恐怖、それが安堵感に変わる様子も臨場感に満ちている。大パニックの中で展開される人間ドラマは、人の潜在的な強さと優しさを浮き彫りにし、この作品の魅力を押し上げた。(吉永くま)

2023年10月6日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/中国/115分)原題:驚天救援 英題:Flashover  監督:オキサイド・パン 出演:ドゥー・ジアン、ワン・チエンユエン、トン・リーヤーほか 配給:アルバトロス・フィルム ©2023 ALL RIGHTS RESERVED BY UNIVERSE ENTERTAINMENT LIMITED /ASIA PACIFIC CHINA (BEIJING) FILM CO., LTD.


『過去負う者』

ドキュメンタリーの要素を取り入れて描く元受刑者の現実

実際のセクハラ事件を基に即興劇の手法で作った『ある職場』の舩橋淳監督が次に取り組んだテーマは、受刑者の社会復帰だった。薬物常習や放火、準強制わいせつなどさまざまな犯罪で服役した人たちの就職を斡旋する情報誌の編集部で、演劇による心理療法が提案される。それぞれの職場でストレスを抱えながらも、舞台稽古に向き合う元受刑者たちだが、公演初日の幕が上がると、予想もしない出来事が待ち受けていた。ドキュメンタリーの要素を取り入れたリアルな描写から浮かび上がってくるのは、なかなか社会の理解を得られにくい元受刑者たちの現実だ。彼らの思いと一般人の受け止めとの壁は想像以上に厚いことがあらわになった展開に一番戸惑っているのは舩橋監督自身かもしれず、あえてそのまま映画にした姿勢には敬意を表する。(藤井克郎)

2023年10月7日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/125分/PG12) 脚本・撮影・編集・録音・監督:舩橋淳 出演:辻井拓、久保寺淳、田口善央、紀那きりこ ほか 配給:BIG RIVER FILMS

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『栗の森のものがたり』

映像美とゆるやかに流れる静謐な時間がもたらす余韻

映画『栗の森のものがたり』メイン画像

スロヴェニア出身のグレゴル・ボジッチ監督の長編デビュー作。フェルメールやレンブラントといったオランダの印象派の画家に影響を受けたという監督が、35mmとスーパー16mmフィルムを駆使し、絵画のような映像美で物語を紡いだ。栗の森に囲まれた小さな村の金色と銅色の枯葉の絨毯に彩られる季節。そこで暮らすケチで不器用な棺桶職人マリオは家を出た息子と死にゆく妻に、栗売りのマルタは戦争から戻らない夫に思いを馳せていた。それぞれに悲しみを抱く老人と若い娘は、栗の森によって結び付けられる……。貧困や別離という人間の悲哀を優しく包む豊かな自然と、ゆるやかに流れる時間。それらに身を委ねていると、静謐なファンタジーの世界に迷い込んだような錯覚を覚える。味わい深い余韻は、今も残ったままだ。(吉永くま)

2023年10月7 日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/スロヴェニア・イタリア/82分)原題:Zgodbe iz kostanjevih gozdov 英題:Stories from the Chestnut Woods 監督:グレゴル・ボジッチ 出演:マッシモ・デ・フランコヴィッチ、イヴァナ・ロスチ、ジュジ・メルリ ほか 配給:クレプスキュール フィルム  ©NOSOROGI – TRANSMEDIA PRODUCTION – RTV SLOVENIJA – DFFB 2019


『アアルト』

愛する家族とともに生み出された個性あふれる名建築

北欧フィンランドが生んだ世界的な建築家、アルヴァ・アアルトの作品と家族、生き方に迫ったドキュメンタリーで、同胞のヴィルピ・スータリ監督がアアルト建築の魅力を余すところなく映像化した。1898年生まれのアアルトの建築は、同時代のル・コルビュジエら開放感のある近代建築と比べると閉鎖的で、曲線を多用するなど異端の存在だった。デザイナーの妻、アイノと二人三脚で個性あふれるインテリアでも人気を呼ぶが、彼女は54歳の若さでこの世を去る。映画は生前のアアルトの映像に家族や専門家の証言を交え、その作品だけでなく人間味にも肉薄。アイノの死後に再婚した教え子のエリッサもアイノと同様、彼の作品づくりを支え、晩年に至っても独創的な建築を生み出した。家庭の安定が芸術性に大いに作用したという視点が興味深い。(藤井克郎)

2023年10月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/フィンランド/103分)原題:AALTO 監督・脚本:ヴィルピ・スータリ 出演:アルヴァ・アアルト、アイノ・アアルト、エリッサ・アアルト ほか 配給:ドマ ©Aalto Family


『くるりのえいが』

新曲誕生までの3人のドラマをじっくりと見つめる

1996年に岸田繁、佐藤征史、森信行の3人で結成されたバンド、くるりの現在地を見つめたドキュメンタリー。細野晴臣やPerfumeらの映画を手がけている佐渡岳利監督が、3人の人間性と音楽性に迫った。『東京』『ばらの花』といったヒット曲を抱えるくるりだが、2002年にドラムの森が脱退。映画は、その森も含めて3人で新曲のレコーディングに臨む姿を中心に、3人のインタビュー、さらにはくるりの原点とも言える京都でのライブステージの模様なども盛り込んで、多角的に彼らの今を捉える。中でも3人が伊豆スタジオにこもってアルバムを作り上げる過程をじっくりと収めた映像は、極めて貴重な音楽記録と言えるだろう。新曲『In Your Life』誕生までのドラマは、くるりのファンでなくともぐいぐい引きつけられ、思わず見入ってしまうほどだ。(藤井克郎)

2023年10月13日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/102分) 監督:佐渡岳利 出演:岸田繁、佐藤征史、森信行 ほか 配給:KADOKAWA ©2023「くるりのえいが」Film Partners


『月』

障害者介護の現実に向き合う夫婦の再生物語

神奈川県相模原市で起きた障害者殺傷事件に想を得た辺見庸の小説を、『舟を編む』の石井裕也監督が映画化。数多くの社会派作品を手がけ、昨年他界した河村光庸プロデューサーの企画をスタッフ陣が引き継いだ。人気小説家だった洋子はアニメーション作家の夫を支えるべく、森の奥にある重度障害者施設で働くことにする。そこでは光の届かない部屋に閉じ込められた障害者に対し、職員が日常的に嫌がらせを行っていた。実際の障害者も出演するリアルな描写と、夜の場面ばかりの陰鬱な情景を駆使して、障害者介護にまつわる重い現実を突きつける。社会性を前面に押し出しながらも、物語の核に夫婦の再生を据えているほか、人の命の尊さ、生きることの意味といった普遍性も表現。石井監督渾身の極めて意欲的な力作に仕上がっていて、心が震えた。(藤井克郎)

2023年10月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/144分/PG12) 監督・脚本:石井裕也 出演:宮沢りえ、磯村勇斗、二階堂ふみ、オダギリジョー ほか 配給:スターサンズ ©2023『月』製作委員会


『メドゥーサ デラックス』

全編ワンショットで見せるどろどろした人間関係

ヘアコンテストの舞台裏で起きた変死事件を題材に、イギリスの新鋭、トーマス・ハーディマン監督が全編ワンショット映像で挑んだ意欲作。優勝候補だった美容師のモスカがコンテスト直前、頭皮を切り取られた死体で発見された。主催者、美容師、モデル、警備員らが本番の準備を進めながらも、お互いに不信感を募らせていく。迷路のように入り組んだ建物内を、登場人物が部屋から部屋へと移動しながら噂話を交わすさまを、カメラは常に誰かの表情に迫るべく追いかける。モデルの髪形はいずれも奇抜なアート作品で、セットしている過程を見せるだけでも驚きだが、モデルの髪にたばこの火が燃え移ったり、赤ん坊が重要な役を担ったり、ワンショットとしては冒険とも言える大胆な場面が頻繁に出現。この手法にふさわしいどろどろした人間関係も見逃せない。(藤井克郎)

2023年10月14日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/イギリス/101分)原題:MEDUSA DELUXE 監督・脚本:トーマス・ハーディマン 出演:アニタ・ジョイ・ウワジェ、クレア・パーキンス、ダレル・ドゥシルバ ほか 配給:セテラ・インターナショナル ©UME15 Limited, The British Film Institute and British Broadcasting Corporation 2021


『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』

国家を揺るがす陰謀に翻弄される労働組合活動家

2012年12月、フランスの総合原子力企業、アレバ社の労働組合代表、モーリーン・カーニーが自宅で何者かに襲われ、両手両足を椅子に縛られた姿で発見される。モーリーンは、フランス電力公社が中国の企業と結託して原子力発電所の建設を企てていることを告発したことで脅迫を受けていた。自宅は国家憲兵隊の保護下に置かれるが、捜査責任者のブレモン曹長は彼女の供述に疑問を抱く。フランスを揺るがした実際の事件を基に、『ルーヴルの怪人』のジャン=ポール・サロメ監督が映画化。モーリーンをはじめ、アレバ社のウルセル社長、モンテブール産業再生大臣ら当時の中枢を実名で登場させ、国家規模の陰謀の深層に迫る。モーリーン役のイザベル・ユペールはこれまでも強烈な役柄を演じてきたが、さらに大胆な作品に挑んだ冒険心には脱帽しかない。(藤井克郎)

2023年10月20日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/フランス、ドイツ/121分)原題:LA SYNDICALISTE 監督・脚本:ジャン=ポール・サロメ 出演:イザベル・ユペール、グレゴリー・ガドゥボア、フランソワ=グザヴィエ・ドゥメゾン ほか 配給:オンリー・ハーツ ©2022 le Bureau Films -Heimatfilm GmbH + CO KG –France 2 Cinéma

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『EO イーオー』(短評):意思を持たないロバに翻弄される人間の悲喜劇


『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』

映画的な仕掛け満載でつづる1000年の物語の最終章

1000年にわたる壮大なドラマを、舞台、漫画、映画で描き分けるというプロジェクトの一環で、映画版は物語の終局の「現代」を『ハローグッバイ』などの菊地健雄監督がミステリアスで切ないラブストーリーに仕上げた。記憶を失った草介は、同居する光蔭を頼りつつ、たびたび見る不思議な夢が気になっていた。その夢を舞台にすることにした草介は、オーディションで舞という女性と出会う。ヒロインの座を射止めた舞はストーカーにつけ狙われ、2人のマンションに住むことになるが……。舞台と漫画による平安時代から大正期までの前段階のことは知らなくても、すんなりと映画に入っていける設定になっており、3人の因縁と心の揺れが繊細につづられる。100年前に撮られたという映像や周りがすべて静止する瞬間など、映画ならではの多彩な仕掛けも楽しい。(藤井克郎)

2023年10月27日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/97分) 監督:菊地健雄 出演:辰巳雄大、浜中文一、小西桜子 ほか 配給:東映ビデオ ©僕らの千年プロジェクト ©2023映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」製作委員会

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