11月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2022年10月31日更新

11月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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11/3(木・祝)公開『恋人はアンバー
11/4(金)公開『桜色の風が咲く
11/4(金)公開『窓辺にて
11/5(土)公開『冬の旅
11/11(金)公開『ステラ SEOUL MISSION
11/11(金)公開『土を喰らう十二ヵ月
11/11(金)公開『わたしのお母さん
11/12(土)公開『あなたの微笑み
11/12(土)公開『ゆめのまにまに
11/18(金)公開『宮松と山下
11/25(金)公開『グリーン・ナイト


『恋人はアンバー』

男は男らしく、としつけられた高校生の苦悩

舞台は同性愛が違法ではなくなってから2年後、1995年のアイルランド。保守的な田舎町の高校生、エディは、軍人の父の言いつけで陸軍入隊を目指していたが、女性に興味を持てないことに悩んでいた。そんなある日、レズビアンと噂される同級生のアンバーから、偽装恋人にならないかと持ちかけられる。男は男らしく、という父のしつけのせいで男性に恋心を抱くことを恐れながらも、気持ちの上では抗しきれない思春期の揺らぎを、アイルランド出身の新鋭、デイヴィッド・フレイン監督が温もりのあるコメディーに仕上げた。社会性を盛り込みつつも、自我への葛藤、苦悩は普遍的なもので、家族なり友人なりがちょっとだけ背中を押してくれると気持ちも楽になる。そんな希望がさらっと描かれていることに好感を抱いた。(藤井克郎)

2022年11月3日(木・祝)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/アイルランド/92分)原題:Dating Amber 監督・脚本:デイヴィッド・フレイン 出演:フィン・オシェイ、ローラ・ペティクルー、シャロン・ホーガン ほか 配給:アスミック・エース © Atomic 80 Productions Limited/ Wrong Men North 2020, All rights reserved.


『桜色の風が咲く』

息子の可能性を開いた母の献身

視力と聴力を失いながら世界で初めて盲ろう者の大学教授となり、TIME誌の「アジアの英雄」にも選出された福島智氏。その幼少期から大学受験までの姿を描く。三兄弟の末っ子の智は幼少時に視力を失うが、温かい家庭で天真爛漫に育つ。だが18歳のときに聴力も喪失。絶望する智が立ち上がるきっかけとなったのは、母の令子が編み出した“指点字”という新たな手段だった……。大きな愛情で智を支える母親を、12年ぶりの主演となる小雪が好演。繊細な表情や仕草で母親としての不安、悲しみ、喜びといった心の機微を表現する。現在多くの人の希望となっている“指点字“だが、智はその方法により聴覚を失って閉じかけた心を開き、自身の中にある大きな可能性に気づいていく。そして彼の姿は、様々な葛藤を抱える私たちを力づけてくれる。静かなトーンの裏に秘められた熱いエネルギーを感じた。(吉永くま)

2022年11月4 日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画 本編シーン(バリアフリー版)+バリアフリー予告編
(2022年/日本 /113分/PG12)監督:松本准平 出演:小雪、田中偉登、吉沢悠 ほか 配給:ギャガ ©THRONE / KARAVAN Pictures.


『窓辺にて』

恋愛映画の名手が文学を題材につづるエスプリ

フリーライターの市川茂巳は、文学賞を受賞した高校生作家、久保留亜の記者会見で深い質問を投げ、留亜の興味を引く。一方で受賞作の内容が気になった茂巳は、小説のモデルがいるのなら会わせてほしいと留亜に持ちかけるが、茂巳は妻との関係に関して深刻な悩みを抱えていた。『愛がなんだ』『街の上で』など、数々の変化に富んだ恋愛映画で高い評価の今泉力哉監督が、今度は文学を題材にオリジナルの脚本で新たな恋愛模様を練り上げた。留亜の受賞作に、茂巳が1作だけ書いた小説など、テーマやストーリーばかりか文体まで構築していることに驚く。「手に入れたものをすぐに手放す」という留亜の小説の一節を、映画の人間関係にも敷衍していくという展開が鮮やか。茂巳を演じた稲垣吾郎が、さまざまな登場人物と一対一の会話で魅せるエスプリも見逃せない。(藤井克郎)

2022年11月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/143分)英題:by the window 監督・脚本:今泉力哉 出演:稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ ほか 配給:東京テアトル ©2022「窓辺にて」製作委員会


『冬の旅』

“ヌーヴェル・ヴァーグの祖母” 最大のヒット作

“ヌーヴェル・ヴァーグの祖母”とも呼ばれたアニエス・ヴァルダ監督の最大のヒット作で、1985年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作。2K修復を経て公開される。フランスの片田舎の畑の側溝で、 少女モナの凍死体が発見される。彼女の死に至るまでの数週間の足取りを、路上で出会った人々の証言から辿っていく―。不穏かつインパクトのあるシーンをオープニングで突き付けるヴァルダは、モナに寄り添いもせず突き放しもせず淡々とその最後の日々を描く。モノクロ映画かと錯覚してしまいそうな、草木も枯れ空も低い色褪せた季節。なぜこの若い女性は大きなリュックとテントを抱え、薄汚れた格好でヒッチハイクをし、放浪を続けるのか。そんな謎に導かれながら、せっかく手にした温もりや安定が逃げても、無表情で目的もなく流れていくモナを目で追い続けてしまう。それが浅はかな彼女への同情からなのか、しがらみのない世界への憧憬からなのかはわからない。ただ、自由の代償はあまりにも大きすぎた。(吉永くま)

2022年11月5日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(1985年 /フランス /105分)原題:SANS TOIT NI LOI  英題:Vagabond 監督・脚本・共同編集:アニエス・ヴァルダ 出演:サンドリーヌ・ボネール、マーシャ・メリル、ステファン・フレイス、ヨランド・モロー ほか 配給:ザジフィルムズ © 1985 Ciné-Tamaris / films A2

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『ステラ SEOUL MISSION』

最高時速50kmのおんぼろ車が疾走する!

自動車金融業界のエース、ヨンベは、ある日ボスに任されたスーパーカーを親友に持ち逃げされる。犯人だと疑われ、ボス一味に追われるヨンベの前に現れたのは、疎遠だった父が遺した1987年型の古びたヒョンデ(旧ヒュンダイ表記)の車“ステラ”だった。最高時速は50km、残された時間は3時間。彼は頼れるステラとともに、スーパーカーを見つける旅に出る。イケメンなのに情けないヨンベ、乱暴なのに抜けているボスの手下たち、色褪せた水色のおんぼろ車が走り抜ける田舎ののどかな風景。そんな緩さに油断していると、突如迫力あるケンカやカーチェイスが始まり、空気が引き締まる。この緩急もたまらない。一方、家族の記憶や父の思い出が刻まれたステラは、人間顔負けの活躍をし、さらにはヨンべの頑な気持ちさえも変えていく。ほろ苦くも優しさに包まれる余韻が心地良い。(吉永くま)

2022年11月11日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/韓国/98分)原題:스텔라 英題:Stellar: A Magical Ride 監督:クォン・スギョン 出演:ソン・ホジュン、イ・ギュヒョン、ホ・ソンテ 配給:ファインフィルムズ ©2022 Daydream Entertainment & CJ ENM All Rights Reserved.


『土を喰らう十二ヵ月』

自然の慈しみが醸し出す何とも贅沢な時間

『ナビィの恋』など沖縄に根差して映画を作り続けてきた中江裕司監督が、信州の人里離れた山奥を舞台に、まさに日本の原風景とも言える自然の慈しみを映像で表現した。作家のツトムは、13年前に亡くなった妻の遺骨と愛犬を伴い、信州の山荘でゆったりとした毎日を送っている。畑で収穫する野菜や近くに自生する山菜を素朴な料理に仕立てて楽しむ日々だが、ときどき訪ねてくる編集者の真知子と食べるとより一段とおいしさが増す。原案は水上勉の料理エッセーで、子芋の網焼きやふろふき大根など、料理研究家の土井善晴が監修した素朴な食の数々が食欲をそそる。ツトムを演じる沢田研二の飄々としながら円熟味の漂うたたずまいも見逃せない。二十四節気に沿って描かれるツトムの暮らしは実に豊かで、何とも贅沢な時間を味わわせてもらった。(藤井克郎)

2022年11月11日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/111分) 監督・脚本:中江裕司 出演:沢田研二、松たか子、奈良岡朋子 ほか 配給:日活 ©2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会


『わたしのお母さん』

母を毛嫌いする娘の緊迫感を伴った心象風景

前作『人の望みの喜びよ』がベルリン国際映画祭で話題を呼んだ杉田真一監督の長編第2作。奔放な母との同居にいらつく娘の心象風景を、余分な説明を排した革新的な描写でしみじみとつづる。3人姉弟の長女、夕子が夫と暮らすマンションに、実家で弟家族と住んでいた母、寛子が転がり込んでくる。寛子の不注意からボヤ騒ぎを起こし、弟夫婦との関係がこじれてしまったのだ。夕子は妹の晶子を誘って、寛子と3人で温泉旅行に出かけるが……。夕子はなぜ母親を毛嫌いしているのか、一切が明かされないまま、2人ののっぴきならない関係が緊迫感を伴って描かれる。夕子を演じた井上真央の憂いを帯びた表情に、寛子役の石田えりがのぞかせる独善的なまなざしと、名優2人の当意即妙の反応が素晴らしく、淡々とした推移にも大いに心を揺さぶられた。(藤井克郎)

2022年11月11日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/106分) 監督・脚本:杉田真一 出演:井上真央、石田えり、阿部純子、笠松将 ほか 配給:東京テアトル ©2022「わたしのお母さん」製作委員会


『あなたの微笑み』

くすぶり続ける映画監督がたどる地方映画館の旅

マレーシア出身で大阪を拠点に映画づくりを続けるリム・カーワイ(林家威)監督が、『叫び声』などで知られる映画監督の渡辺紘文を主演に据え、フィクションとドキュメンタリーを融合させたような映画館愛あふれる作品を織り上げた。地元の栃木県でくすぶっていた映画監督の渡辺の元に、沖縄で映画制作の話が舞い込む。だが一向に脚本が出来上がらない渡辺に出資者もさじを投げ、渡辺は自作を上映してくれる映画館を求めて諸国行脚の旅に出る。那覇の首里劇場をはじめ、北九州の小倉昭和館、兵庫・豊岡の豊岡劇場、北海道・浦河の大黒座など、実際の映画館で撮影された虚実皮膜のやり取りが楽しい。撮影後に閉館、休館に追い込まれた劇場も多く、貴重な映像資料になっているとともに、地方の映画館を取り巻く現状の厳しさを思うと涙がこぼれた。(藤井克郎)

2022年11月12日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/103分)英題:Your Lovely Smile  監督・脚本・編集:リム・カーワイ 出演:渡辺紘文、平山ひかる、尚玄、田中泰延 ほか 配給:Cinema Drifters ©cinemadrifters

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『ゆめのまにまに』

古物店の柔らかい時間を包み込む優しい空気感

東京・浅草のアンティークショップを舞台に、これが長編2作目となる若手の張元香織監督が、どこか落ち着いた柔らかい時間を切り取った。不在がちの店主に代わって、いつも店番をしているアルバイトのマコトは、見知らぬ女性客が毎日来ていることが気になっていた。店主を訪ねてきたようだが、何も話さず、何も買わず、ただ店の品をじっくりと眺めている。時折、常連客が声をかけるが、一言二言しか交わさない。映画は、この女性のホテルや居酒屋での描写なども織り込んでいるものの、ほとんどの場面はこの店内で、ここで売られているすてきな品々をやはりじっくりと見せる。この空間を、マコトを演じたこだまたいちの鼻にかかった優しい声が包み込み、何とも言えない空気感を醸し出す。いつまでもこの場に浸っていたいと思わせる作品だ。(藤井克郎)

2022年11月12日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/101分) 監督・脚本:張元香織 出演:こだまたいち、千國めぐみ、村上淳 ほか 配給:スールキートス © 2022 ディケイド


『宮松と山下』

現在と過去、現実と作品が宙ぶらりんに交錯する

時代劇の切られ役など端役専門のエキストラ俳優、宮松は、それだけでは生活できず、ロープウェイの仕事も掛け持ちしていた。点検シートの丸印を丸定規で書き込むほど几帳面な宮松だが、ある日、テレビで見かけたと言って谷という男が訪ねてくる。どうやら宮松は12年前まで、タクシー運転手をしていたらしかった。東京芸術大学の名誉教授を務めるクリエイターの佐藤雅彦と、大学院で教え子だった2人の3人からなる監督集団「5月」が、香川照之を主役に迎え、記憶を失った男の戸惑いを独特の映像表現でつづる。現在と過去、現実と作品が脈絡もなく交錯し、主人公同様、見る側も戸惑いを禁じ得ない。ロープウェイの仕事を「宙に浮いている感じは嫌いじゃない」と語る宮松のせりふではないが、この宙ぶらりんの感じは嫌いじゃない。(藤井克郎)

2022年11月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/87分) 監督・脚本・編集:関友太郎、平瀬謙太朗、佐藤雅彦 出演:香川照之、津田寛治、尾美としのり、中越典子 ほか 配給:ビターズ・エンド ©2022『宮松と山下』製作委員会


『グリーン・ナイト』

VFXを駆使して中世の騎士伝説の闇を表現

中世イギリスのアーサー王伝説の一つである叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」を基に、アメリカ人のデヴィッド・ロウリー監督がファンタジー色あふれる映画に仕上げた。まだ騎士でもないアーサー王の甥、サー・ガウェインは、クリスマスの宴に突如現れた緑ずくめの騎士の挑発に乗り、騎士の首を一撃で切り落とす。1年後、今度は緑の騎士を捜し出して自身の首を討たれるという約束の下、サー・ガウェインの冒険の旅が始まる。殺伐とした荒野に荒れ果てた古城など、中世を想起させる深い闇を背景に、VFXを駆使した凝りに凝った映像が展開される。一方で、アリシア・ヴィキャンデル演じる奥方の純白の衣装など、近未来を思わせるデザインながら、この古風な伝説に見事に溶け合っているから不思議だ。(藤井克郎)

2022年11月25日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/アメリカ、カナダ、アイルランド/130分)英題:The Green Knight 監督・脚本・編集:デヴィッド・ロウリー 出演:デヴ・パテル、アリシア・ヴィキャンデル、ジョエル・エドガートン ほか 配給:トランスフォーマー © 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

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