【インタビュー】『愚鈍の微笑み』宇賀那健一監督―映画の力を信じて、不条理と隣り合わせの世界を描き続ける

  • 2023年10月20日更新
映画『愚鈍の微笑み』

田辺桃子、小出薫、森田想をトリプル主演に迎えた宇賀那健一監督の最新作『愚鈍の微笑み』が2023年10月20日(金)よりシモキタ – エキマエ – シネマ K2ほかにて全国順次公開される。コロナ禍以降、 “不条理と隣り合わせである世界” を描き続ける宇賀那監督が、今作では「反戦」をテーマにファンタジー映画を撮りあげた。そこにはどんな思いが込められているのか――。

取材:富田旻 写真:James Ozawa


急に戦争というものが身近に感じられ、今まで感じたことがないほど焦った

― 2019年制作の短編版『異物』以降、世の中が不条理と隣り合わせであることをさまざまなアプローチで描き続けていらっしゃいますが、本作でもそのテーマを色濃く感じました。本作の着想として、2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻の影響が大きいのでしょうか。

映画『愚鈍の微笑み』インタビュー宇賀那健一監督(以下、宇賀那監督):そのとおりです。世の中の不条理さが露呈していく時代性と、僕が描きたかったテーマが、良くも悪くもどんどん合致してきていたけれど、その反面で……これは良くないことだけれど、社会の遠いところで起こった出来事に対して、そこまで敏感になれていない自分もいたんです。それが、急に「戦争」というものが身近に感じられて、なんかこう、めちゃめちゃ傷ついたというか、焦ったんですよね。

― これまでも世界のどこかで絶えず紛争は起こっていたし、平和を願う気持ちも常にあったけれど、隣国ロシアによるウクライナ侵攻で、「戦争」というものが一気に現実味を帯びたという感覚は、個人的にはすごくわかります。

宇賀那監督:そうなんです。今まで感じたことがないほど焦って、SNSを開くと見たくないものも流れてくる。けど、見なきゃいけないのかもしれないっていう気持ちも同時にあって、いろんな感情が自分の中でうごめいていましたね。でも『異物 –完全版-』を公開した頃で、いろんな状況に気を取られつつも普段は元気なフリをしなきゃいけないなと思っていて。

― アグレッシブに活動されながらも、胸中に複雑な思いを抱えていらしたんですね。

宇賀那監督:別に、病んだとかそういうことではないですけど。自分が思った以上に傷ついているのを実感して。みんな、何かしら不安を抱えながらも、頑張って笑顔を作って生きているんだろうなってあらためて考えて、そこが起点になったと思います。主人公の彼女たちなりの抵抗のカタチを、何かしら描きたいと思ったんです。

映画『愚鈍の微笑み』 映画『愚鈍の微笑み』

実際の空爆は美しい青空の中で起こる

― ストーリー以上に、感覚的に「反戦」を訴えてくる作品に感じました。美しい自然と森の匂いや空気、静寂まで映し出しているようなゆったりとしたカメラワークだったり、「ああ、平和って、そういうことかな」って、すごく繊細な表現で五感に訴えてくる。そんな営みの中で、戦争前夜の緊迫感や騒然とした空気がどんどん濃くなっていく感じも、非常に体感的でした。

宇賀那監督:厳密な言葉かどうかわからないですが、何かのインタビューでウクライナの人が「空爆の空と聞いて、みんなはきっと灰色の空を想像するでしょう。だけど、実際は美しい青空の中で空爆は起こるんです」とおっしゃっていて、その言葉がすごく響いたんです。

― 本作にとても通じる言葉ですね。他愛もない日常の会話やカラフルなファッションは彼女たちなりの抵抗であり、サバイブですよね。すごく素晴らしい表現だなと思ったし、個人的にめちゃくちゃやられました。

宇賀那監督:嬉しいです。あとは、違う意味での一つの抵抗というか、映画を配信で見ることがすごく多くなってきたなかで、映画館で見る意味をどこかで作りたいと思って。ケータイの画面とかではあえて見にくい作品にしたんです。もちろんこの作品も配信するかもしれないですけど、森の静寂とか滝の音とか戦争の物音とかっていう音響の部分も、彼女たちが自然の中で何かを思っている表情も、カメラワークのゆっくり加減も、これはもう映画館で見たら最高気持ちいいぞっていう作品にしたつもりです。なんなら、ほんとうに寝ちゃってもいいと思うくらい。映画『愚鈍の微笑み』メイン画像

― まだ現実でも戦争の脅威は続いています。そのなかで、今この作品を映画館で体感することには大きな意味があると感じました。

宇賀那監督:正直、撮影しているときは、映画の公開時にはもうロシア・ウクライナの紛争は終わっているかなと思っていました。でもまだ収束していません。不条理というテーマが現実とリンクしていっていることは嘆くべきことですが、映画の力を信じて、不条理と隣り合わせの世界を描き続けることが、今の自分にできることだとは思っていますね。

芝居のアプローチが違う3人がうまくはまった

― キャスティングについてもお聞かせください。

映画『愚鈍の微笑み』宇賀那監督:この作品も、ほんとうにキャストが素晴らしかったと思います。田辺さんも小出さんも森田さんも、みんな芝居のアプローチが違うんだけど、それがうまくはまった感じがしました。

― 小出薫さんはもうすっかり宇賀那作品の常連ですし、田辺桃子さんは『転がるビー玉』と『異物 -完全版-』(短編版『消滅』)に続き3作目ですが、森田想さんは初めての宇賀那組ですよね。お一人ずつ、どんな印象でしたか

映画『愚鈍の微笑み』映画『愚鈍の微笑み』宇賀那監督:3人とも演技がうまいという大前提で、田辺さんは演技力だけでは言い表せない“ズレ”や淀んだ気持ちの表し方がほんとうにうまいんです。良い意味でノイズを走らせることができる。小出さんの魅力はバーンと爆発する力。一つの感情が突き抜けて、人を引っ張ってく力がある。森田さんは、現場でもすごく良かったですけど、編集しているとさらにすごさがわかるんですよ。多分考えて演じているというより、いろんな状況を感覚的にわかったうえで、本能的にそのときその瞬間に必要なものを100%出してくれる。言い方が難しいんですけど、彼女にカメラを向ければ全部成立するような感じがあって、これはすごいなと思いました。

― 素晴らしいケミストリーが生まれた現場だったのですね。撮影自体はスムーズに進んだのでしょうか。

宇賀那監督:2日間で撮って、しかも連日15時半には終わるっていう健全的な現場で(笑)。スムーズというか、一瞬で終わってしまった感じでしたけど、キャストにはいろいろ負荷はあったと思います。

3年連続入賞のモントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭では2作品を上映!

―  カナダのモントリオールで開催された第52回モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭では、TEMPS 0部門に入選してワールドプレミア上映も行われましたね。『異物-完全版-』『宇賀那健一監督短編集:未知との交流』に続き3年連続の入選になりますが、現地の反応や印象的だったエピソードをお聞かせください

宇賀那監督:今年は例年と違って、『愚鈍の微笑み』と『悪魔がはらわたでいけにえで私』の2作品が上映ということもあって、ほぼ4日間の滞在のうち4日間毎日上映があったんです。夕方か夜に毎日上映があって、夜は映画祭の人たちとパーティーがあって、昼は毎日映写チェックしていたのでスケジュールはかなりハードで、僕も(共に現地に行った)小出薫さんも宣伝部の方も体力的にはなかなかボロボロになっていました。
ただお客さんの反応はかなり良くて、いつもこの映画祭はかなりたっぷりQ&Aの時間をとってくれるんですが、それでも連日時間内では収まらないほど質問がとんできて、とても嬉しかったです。万人向けの映画ではないですが、日本でも多くの反応があったらいいなと思っています。

―  素晴らしい反響だったことがうかがえます。日本でも本作が多くの方の心に届くことを願ってやみません。本日は貴重なお話をありがとうございました。

【脚本・監督:宇賀那健一(うがな・けんいち)】
1984年4月20日、東京都出身。青山学院経営学部経営学科卒業。近年の監督作に、ガングロギャルムービー『黒い暴動♡』(2016)、音楽が禁止された世界を描いた『サラバ静寂』(2018)、30歳を超えた童貞が魔法使いになるラブコメファンタジー『魔法少年☆ワイルドバージン』(2019)、NYLON JAPAN15周年記念映画『転がるビー玉』(2020)、トリノ映画祭、モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭、エトランジェ映画祭など20ヶ国80以上の海外映画祭に入選し、12のグランプリを獲得した『異物-完全版-』、『渇いた鉢』(2022)などがある。

予告編&作品概要

【STORY】森の中の小屋に集う、幼馴染のマナ、ナナミ、ユカ。いつもと変わらぬ風景。山も川も、樹々の間から降り注ぐ日の光もいつもと同じ。バーベキューで肉を焼き、大好きなお酒を飲み、マクドナルドのハンバーガーを奪い合う。音楽を掻き鳴らして楽しく踊る三人だが、時よりふと不穏な空気が見え隠れするのだった。その後、三人のもとに大きな飛行機の音が近づいてきて、「早く逃げなさい」と叫ぶ自衛隊員とすれ違う。
果たして、彼女達が見せる選択とは――。

▼『愚鈍の微笑み』
(2023年/日本/60分/シネスコ/5.1サラウンド/DCP)
出演:田辺桃子、小出薫、森田想 ほか
監督・脚本:宇賀那健一
撮影・編集:小美野昌史 録音・整音:茂木祐介 音楽:ILA MORF OE サウンドスーパーバイザー:大川正義 効果・ミックス:紫藤佑弥、庄野廉太郎
ヘアメイク:寺沢ルミ スタイリスト:中村もやし 助監督:平波亘、 國谷陽介、安倍一希 スタントコーディネーター:雲雀大輔 スタントパフォーマー:菅原将暉  VFX:若松みゆき スチール:ジェイムス・オザワ オープニングデザイン:イリエナナコ、徳原賢弥
協力:StuntTean GOCOO LONDOBELL.inc、Vandalism
製作・制作・配給:春巻号
Ⓒ春巻号

  • 2023年10月20日更新

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