『二十六夜待ち』越川道夫監督&諏訪太朗さんトークショー― 映画を愛し、現場を愛し、仲間を愛する二人の超貴重なトーク 〜続き〜

  • 2018年01月13日更新

「『まず諏訪さんの芝居を見る。諏訪さんの芝居がその組の指針になるから』というようなことを言われました」(諏訪太朗さん)

越川:長崎さんたちとは仲間として映画を作ってこられましたけど、諏訪さんは、同じ監督の作品に継続して呼ばれることが多いですよね。

諏訪:なぜかは知らないけど、ある監督には連続して呼ばれるよね。最近だと、中田秀夫さん、園子温さん、飯塚健さんとか……。SABUさんは次が2作目だけど。あとは、黒沢清さんもまた最近呼んでくれるようになった。もちろん、越川さんもね(笑)。

越川:はい、僕もです(笑)。諏訪さんご自身は、監督やキャストたちとの繋がりみたいなものを、どう感じていらっしゃるんですか?

諏訪:続けて呼んでいただけるのは、そりゃあ嬉しいですよ。

越川:続けて呼ばれるということは、それだけの何かがあるわけですよね。

諏訪:そこは、自分ではよくわからないけどさ(笑)。ただ、長崎組とかに初めて参加する役者の何人かに、「まず諏訪さんの芝居を見る。諏訪さんの芝居がその組の指針になるから」というようなことを言われましたね。それは芝居の上手い下手とかじゃなくてさ、なんかあるじゃない、その組のトーンというか。裏を返せば、俺はやたらなことできないってことだけど(笑)。

越川:でも、諏訪さんは自由にやったほうがいいんじゃないですか?

諏訪:まあ、自由にはやっていますよ。うん。

「諏訪さんに長く現場にいてほしい!と思ったんです」(越川道夫監督)

越川:僕のことで言うと、映画の配給や製作をしている頃に『さよならみどりちゃん』(2005)やいくつかの作品で諏訪さんとご一緒していますけど、タナダユキ監督の『赤い文化住宅の初子』(2007)の時に、教頭先生の役で1日だけ撮影に参加していただいたんですよね。その日がたまたま諏訪さんの誕生日で、現場の皆でお祝いしたんですよね。

諏訪:覚えていますよ。初めて現場で誕生日を祝ってもらったから。

越川:次が、鈴木卓爾監督の『私は猫ストーカー』(2009)。諏訪さんはお坊さんの役でしたけど、現場で「これ、坊さんだけど、猫の役だよね!」っておっしゃったんです。

諏訪:ああ、あれはね、現場で誰かが俺にそう言ったんだよ。卓爾だったかなぁ……。でも、それを聞いて、俺も完全にそうだと思ったの。それに、(撮影場所の)谷中は俺の地元で、あの辺は本当に猫がいっぱいいるの。

越川:劇中に出てくる野良猫は、実際にあの辺にいる猫たちですもんね。その後が、また鈴木監督の『ゲゲゲの女房』(2010)で、次がヤン・ヨンヒ監督の『かぞくのくに』(2011)かな。それまで、諏訪さんには1、2日だけ撮影に参加していただくことが多かったけど、『かぞくのくに』では(井浦)新くんと安藤サクラさんの叔父役を演じていただいて、初めて現場で長時間ご一緒したんです。

諏訪:うん、そうだったね。

越川:その時に、「諏訪さんに長く現場にいてほしい!」と思ったんですよ。なぜかというと、ヤン・ヨンヒ監督はドキュメンタリー出身で、劇映画を演出することが初めてだったんです。現場の皆が探り探りやっているなか、諏訪さんだけは「監督の好きなようになればいいんだよ!」って、ずっと監督を励ましていて。

諏訪:いやぁ、励ましていたのかどうか(笑)。でも、後から聞いたらヤン・イクチュンにも同じこと言っていたみたい。

越川:キャメラマンの戸田(義久)くんはじめ、若いスタッフたちのことも、気付けば諏訪さんが励ましていたんですよね。

諏訪:いやぁ、そうだったかなぁ(笑)?

「僭越ながら言わせてもらえば……それは僕の“映画への愛”ですね!」(諏訪太朗さん)

越川:あと、これは言わないほうがいいのかな……。いや、言っちゃおう(笑)。あるシーンで、ヤン監督が「ここは一発撮りしかしない」と言ったんです。でも実際に撮影したら、2回目が撮りたくなったんでしょうね。それで、彼女が「2回目をやらせてくれないか」と言ったら、諏訪さんが泣いて怒ったんです。

諏訪:ええーっ(笑)!? そうだったっけ?

越川:「1回しかできないんだよ! だって1回しかやらないって言ったじゃないか!」って。

諏訪:多分、怒ったんじゃなくて、甘えることができたんだと思う。演じる側のわがままを言えるって、役者にとってはすごく嬉しいことだからさ。監督や現場を信頼していたからこそ、わがままが言えたんだよ、きっと。

越川:僕はそれをプロデューサーとして端で見ていて、現場の味方になってくれる俳優だと思ったんです。

諏訪:自分ではぜんぜん覚えていないけどね(笑)。

越川:長崎組のように、長く関わられている現場で諏訪さんの芝居が指針になるというのもわかりますし、一方では、現場で若いスタッフや経験値がまだ少ない監督と一緒にやることも多い中で、諏訪さん自身は意図していないかも知れないけど、すごく彼らの味方になってくれるというか。もちろん、必要があれば厳しいこともおっしゃるとは思いますが、諏訪さんにいていただくと現場が支えられる気がしていました。今、僕よりも年下の俳優であれば、川瀬陽太さんがそういうポジションにいると思うんですけど。

諏訪:僭越ながら言わせてもらえば……それは僕の“映画への愛”ですね! って、すごくキザなこと言っちゃったよ(笑)! だって、映画が心底好きだからさ……。

越川:諏訪さん、現場で楽しそうですもんね(笑)。僕が忘れられないのは、初監督作品の『アレノ』(2015)の時。鳥の名前を説明する人という映画の本筋とは直接関係のない役で出ていただいて、現場で芝居をされた時間も実質25分くらいでしたけど、諏訪さんが「こういうのって、本当に難しいよね! こんな風に鳥の名前を覚えてさ!」って、すごく楽しそうにおっしゃったんです。

諏訪:はははは(笑)。言われてみると、確かにあのシーンは映画の本筋とは関係ないけどさ。逆に、そういうシーンでぱっと出てくる役ってすごくおもしろいんだよね。それも、難しい鳥の名前を覚えなきゃならないとか、最高ですよ! 役の大きさがどうとか、あまり考えたことがないんだよね。呼ばれたら行って最善を尽くすだけっていうか。だって、楽しまなきゃ損だから。楽しんでやって、お金をもらえて、それを皆が観てくれるなんて最高じゃないですか(笑)!

「一緒に映画の現場を作ってきた、もしくはこれから一緒にやっていくだろうと思う俳優やスタッフたちと作った作品」(越川道夫監督)

越川:それでようやく『二十六夜待ち』の話ですけど(笑)、新さん演じる杉谷を支える木村という役で出ていただきましたが。僕が聞くのもあれですけど……まず脚本を読んでどう思われましたか?

諏訪:本を読んだ時は、これはおいしい役だと思いましたよ。でも、一番楽しくもありプレッシャーでもあって、難しいシーンがあるじゃない。あれですよ、鈴木慶一さんと一緒に民謡を歌うシーン! しかもただ歌うんじゃない、地元独特の節回しで。あれは死にそうだったよ、俺(笑)。

越川:慶一さんはほとんど歌っていないですからね(笑)。

諏訪:鈴木さんはミュージシャンだから、俺以上にプレッシャーだったと思いますよ。でも、軽くテストやっただけで本番は一発オーケー(笑)。別にうまく歌う必要はなかったわけだよね? 鈴木さんと酒を飲んでいる画を撮りたかっただけなんでしょ(笑)?

越川:いやいやいや、そんなこともないんですけど……(笑)。

諏訪:ただ、方言指導の方は、自分が子ども時代に聞いた歌と同じだって喜んでくれた。地元の人はああいう歌い方をするんだって。ようは、ちゃんと(原歌を)歌える人がいなくて、皆がうろ覚えで歌っているうちに独特の節回しになったんだって。それと、あのシーンを観て、俺のマネージャーが初めて「諏訪さん、良かったですよ」って言ってくれたんだよね(笑)。

越川:マネージャーさんから僕が言われたのは、諏訪さんは激しい役とかキレる役が多いから、こういう静かな役を演じてもらいたかったって。

諏訪:確かに、最近はキレる役とかが多いので、僕自身もお客さんに行間を委ねられるような、静かな役をやりたいと思っていました。

越川:今のお話を聞いて思い出しました。『森崎書店の日々』で内藤剛志さんに古本屋のおじさん役をオファーした時に、内藤さんが「僕はテレビドラマだと刑事役を演じることが多くて、劇中で日々人の死を扱っている。でも、自分の年齢が上がってきて、実際に自分の周りでも亡くなる人がいる中で、仕事で毎日のように死と接すると精神的なバランスが取れなくなってくる。だから、日常的な役もやっていきたいんだ」っておっしゃったんです。当時は、山田辰夫さんが亡くなられたばかりだったんですよね。

諏訪:うん。それ、すごくわかるよ。俺も犯人役が多くて、殺したり殺されたりしていて、ちょっと麻痺しちゃう時もあるんだよ。それに、その当時って古尾谷雅人が亡くなって、山田も亡くなって……。やっぱり死とか生とかを演じる役というのは、普通の感覚とはちょっと違うんだよね。

越川:諏訪さんは、今回の映画で、黒川芽以さん演じるヒロインの由実にすごく大事なことを言う役ですよね。現場でも「僕はこのセリフを言うために、ここに来ました」っておっしゃっていましたが。

諏訪:本当にその通りで、素晴らしいセリフでしたよ。気持ちがすっと入っていったんです。

越川:(そのセリフを受けた)芽以ちゃんが、またすごく良い顔をしていましたよね。諏訪さんと芽以ちゃんはドラマの『ケータイ刑事 銭形泪』(2004)の頃から共演されていますから、諏訪さんは彼女にとってどこか父親的な存在なんじゃないでしょうか。

諏訪:その感覚はあるんじゃない。それこそ、彼女が16歳とか17歳くらいの頃から知っていますからね。

越川:そういうことも含めて、この役を諏訪さんにやっていただいて良かったと思うんです。僕は奥原浩志監督の『青い車』(2004)で映画作りを始め、同作で新くんに出会いました。黒川さんは彼女が15、6歳のときに出会って『ドライブイン蒲生』(2014)に出演してもらい、鈴木慶一さんは先ほど話した『赤い文化住宅の初子』という作品に出演していただきました。今回初めてご一緒した俳優もいますが、本作の隅から隅まで、一緒に映画の現場を作ってきた、もしくはこれから一緒にやっていくだろうと思う俳優やスタッフたちと作ったんです。それから、この会場にはキャメラマンの山崎裕さんがいらっしゃいますので、壇上からご紹介させていただきます。山崎さん、どちらにいらっしゃいますか?

山崎裕さん:はい。(客席から手を振る)

客席:(大きな拍手)

越川:山崎さんと初めてご一緒したのが、『俺たちに明日はないッス』(2008)という作品で、それからずっとお付き合いいただいています。あと、俳優は誰がきているかわからないけど、『アレノ』でヒロインを演じてくれた山田真歩さんも来てくださっていると思います。

山田真歩さん:はい、ここです(笑)。

客席:(再び大きな拍手)

越川:これからも、こんな風に皆で映画を作っていけたらと僕は思っています。ということで、そろそろ、本編を観ていただきましょうか(笑)。

諏訪:うん。観ていただきましょう(笑)。

越川:皆さん、諏訪さん、今日は本当にありがとうございました!

舞台を降りる二人を観客たちのさらなる大きな拍手が包み、温かな雰囲気のままトークショーは終了。トーク中は諏訪さんを見詰める越川監督の幸せそうな眼差しが印象的でした。
東北の小さな街を舞台に、過去の記憶を失くした男と震災の辛い記憶を忘れたい女が惹かれ合う姿を、W主演を務める井浦新と黒川芽以が濃厚なベッドシーンを交えて繊細に演じきる本作。会場となったテアトル新宿での上映に続き、福山駅前シネマモードでは2月4日(日)より、名古屋シネマテークでは2月10日(土)〜23日(金)、そのほか松本CINEMAセレクトなど全国順次公開予定です。今後の上映予定もぜひ
公式Twitterでご確認ください。

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▼『二十六夜待ち』作品・公開情報
映画『二十六夜待ち』メインビジュアル(2017年/日本/124分/R-18+)
監督・脚本:越川道夫
原作:佐伯一麦「二十六夜待ち」(扶桑社刊『光の闇』所収)
撮影:山崎裕
音楽:澁谷浩次
出演:井浦新、黒川芽以、天衣織女、鈴木晋介、杉山ひこひこ、内田周作、嶺豪一、信太昌之、玄覺悠子、足立智充、岡部尚、潟山セイキ、新名基浩、岩﨑愛、吉岡睦雄、礒部泰宏、井村空美、宮本なつ/山田真歩、鈴木慶一/諏訪太朗
配給:スローラーナー、フルモテルモ
©2017 佐伯一麦/ 『二十六夜待ち』製作委員会

『二十六夜待ち』公式twitter 

※2017年12月23日(土)〜2018年1月12日(金)テアトル新宿
2月4日(日)より福山駅前シネマモード
2月10日(土)〜23日(金)名古屋シネマテーク
松本CINEMAセレクトほかにて全国順次公開予定

取材・編集・文・イベント撮影:min

 

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  • 2018年01月13日更新

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