『菊とギロチン』〜瀬々監督入魂! 大正末期、自由に憧れ共に闘った女力士とアナキストの青春〜

  • 2018年07月06日更新

映画『菊とギロチン』メイン画像大正末期に実在した、女相撲興行とアナキスト集団・ギロチン社の、史実に基づく青春群像劇。時代に翻弄されながら「生きる意味」を求め、ガムシャラに立ち向かう女たち、男たち……世の中を変えたいと強く願い、闘いを挑む若者たちの姿を、木竜麻生、東出昌大ら、フレッシュなキャストで描く。世界で絶賛された『ヘヴンズ ストーリー』から8年、瀬々敬久監督による、構想30年にわたるオリジナル企画で、全シーンに気迫あふれる意欲作。全編疾走し続けるような力強さで、文句なしに楽しめる娯楽作品だ。2018年7月7日(土)よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開。

「差別のない世界に生きたい!」同じ夢をもった、女相撲力士とアナキストたち

映画『菊とギロチン』画像2【あらすじ】大正末期、関東大震災直後の日本には不穏な空気が流れ、軍部が日に日に権力を強めていた。そんな中、東京近郊へ興行に訪れた女相撲一座があった。一座には、暴力的な夫のいる農家から逃げてきた新人女力士・花菊(木竜麻生)や、元遊女の十勝川(韓英恵)ら、ワケありの女ばかりがおり、厳しい稽古に励んでいた。迎えた女相撲興行の日、客席には中濱(東出昌大)、古田(寛 一 郎)ら、過激なテロ行為を働くアナキスト集団「ギロチン社」のメンバーが紛れ込んでいた。思想家・大杉栄を失った彼らは、復讐を企てながら身を守るために逃げ、この地に流れ着いたところだった。はじめは冷やかし半分で観ていたが「強くなりたい」という思いを胸に、激しくぶつかり合う女相撲に深く魅了された中濱と古田は、女力士たちに近づき、行動を共にするようになる。共に差別のない世界に憧れ、異性としても惹かれあっていく若者たち。しかし、目の前には厳しい現実が次々と立ちはだかってきて……。

「強くなりたい!」スポ根、そして女性解放を願う女相撲

映画『菊とギロチン』画像3映画『菊とギロチン』画像4エロ・グロとは一線を引き、本気でぶつかり合う相撲を見せるため、懸命に稽古する女相撲一座。中でもヒロイン・花菊は「強くなりてえ!」と東北訛りで繰り返しながら、ひときわ熱心に、健気に稽古に励む。この女相撲の稽古や興行まわりのシーンは、スポ根もののの要素たっぷりで、ガッツある表情やパフォーマンスには、思わず胸が熱くなる。女優たちも実際に稽古を積んでいるのだろう、ガチの格闘技を観ているような興奮を覚える場面も。そして、キーポイントとなっていくのが、この女力士たちの相撲への原動力である。暴力的な亭主から逃げてきた花菊のほか、十勝川、小桜(山田真歩)ら、一座の多くの女力士たちには、弱者の立場から抜け出そうしている背景があり、その現状打破への希望が、闘志につながっている。女であることや、生まれた場所により、差別や理不尽な仕打ちを受けることが多かった時代。女力士たちはそこから抜け出すために、誰かに助けを乞うわけでもなく、泥にまみれながら、自らの力で自由を掴みとろうとしている。そんな彼女たちの汗は、ひときわ眩しく映る。女相撲の一座については、さらに笑いあり涙あり、陽気でかしましい喜劇的なやりとりや、女同士の篤い友情など、さまざまな魅力が描かれている。

男たちの愚かなる青春、アナキスト集団・ギロチン社

映画『菊とギロチン』画像5一方、今までドラマや映画で幾度も語られてきた、アナキスト集団・ギロチン社の男たちであるが、本作の中心となる登場人物、中濱・古田らも、実在の人物だ。甘粕事件や銀行員の刺殺など、史実上の事件も作中に織り込まれている。思い込みが激しく、おろかな行動や犯罪を繰り返してしまう2人だが、純粋で愛すべきキャラクターとして演じられている。中濱鐡役の東出昌大は特に、あらゆるメディアでひっぱりだこの、すでに露出の多い人気俳優だが、本作ではかつてない、泥臭くも激しい熱血漢ぶりで、新たな魅力を見せている。この中濱役で、東出は新たなファンを獲得することになるかもしれない。また、もう1人の主要人物・古田を演じるのは、 寛 一 郎。父は佐藤浩市、祖父は三國連太郎という大変な家系であるが、2016年に撮影が行われた本作が、俳優として初めての仕事だったという。新人ながら、ストイックで純粋な古田役を的確に演じており、心を掴まれる。これからの活躍が楽しみな俳優だ。

瀬々敬久監督ファンも息を飲むであろう女たちの宿命

映画『菊とギロチン』画像6本作の、女相撲一座に入った女たちの生き様を描くのに、切り離し難いのが性愛だ。それぞれの女ごとに、色濃く描かれ、その多くは踏みにじられたものである。中には、壮絶な運命をたどる女もいる。ピンク映画時代から、社会問題に切り込んできた瀬々監督ならではの、魂が一瞬にして燃え尽きるような、激しく美しい女のサガ。切ない痛みを伴う衝撃の展開は、観るものの胸に棘のように突き刺さるだろう。性愛、フェミニズム問題のほか、本作には、当時を生きた男や女の、さまざまな生き様、その魅力と愚かさがふんだんに描かれている。史実に基づいた大正末期の”暴走する権力”。警察・軍人・自警団など、さまざまな立場と思想が入り乱れ、敵対する男たち。犯罪、青春、欲望。人間の生と死にまつわる、あらゆる要素が溢れ出てくる。お囃子太鼓の劇伴も心地よく、3時間超えながら中だるみがない、確かな意欲を受け取れる、見応えのある作品だ。

 

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▼『菊とギロチン』作品・公開情報
映画『菊とギロチン』画像7(2018年/189分/カラー/DCP/R15+)
監督:瀬々敬久
脚本:相澤虎之助、瀬々敬久
出演:木竜麻生、東出昌大、寛 一 郎、韓英恵、渋川清彦、山中崇、井浦新、大西信満、嘉門洋子、大西礼芳、山田真歩、嶋田久作、菅田俊、宇野祥平、嶺豪一、篠原篤、川瀬陽太 ほか
ナレーション:永瀬正敏
配給:トランスフォーマー
Ⓒ 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

『菊とギロチン』公式サイト

※2018年月7日(土)よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開

文:市川はるひ

 

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