4月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2024年04月01日更新

4月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

LINE UP
4/5(金)公開『毒娘
4/5(金)公開『パスト ライブス/再会
4/5(金)公開『ブルックリンでオペラを
4/5(金)公開『リトル・エッラ
4/12(金)公開『プリシラ
4/12(金)公開『リンダはチキンがたべたい!
4/19(金)公開『マンティコア 怪物
4/26(金)公開『悪は存在しない
4/26(金)公開『キラー・ナマケモノ
4/27(土)公開『システム・クラッシャー
4/27(土)公開『正義の行方


『毒娘

横たわる娘に馬乗りになった赤い服の不気味な少女

『ミスミソウ』などの内藤瑛亮監督の新作は、おどろおどろしいホラーテイスト満載ながら、家庭の崩壊、女性の自立、思春期の不安といった今日的な問題が盛り込まれていて、極めて意欲的な娯楽作品になっている。夫と娘の萌花と3人で中古の一軒家に越してきた萩乃は、後妻という立場を乗り越えて何とか家族に溶け込もうとしていた。そんなある日、外出中の萩乃に娘から助けを求める電話が入る。慌てて帰宅した萩乃が目にしたのは、横たわる萌花に馬乗りになって鋏を振りかざす赤い服の少女の姿だった。ネット記事にあったたった一文からの発想で、ここまで複雑で社会性をはらんだ恐怖の物語を構築した作劇術に驚嘆する。得体の知れない悪意の塊のような存在を介して、萩乃の視点、萌花の視点という異なる文脈を巧妙に絡ませる構成にはうならされた。(藤井克郎)

2024年4月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/105分/R15+) 監督・脚本:内藤瑛亮 出演:佐津川愛美、植原星空、伊礼姫奈、竹財輝之助 ほか 配給:クロックワークス ©『毒娘』製作委員会2024

▼オススメ記事
『許された子どもたち』:いじめる側を焦点にいじめ問題をあぶり出す(短評)
『先生を流産させる会』 内藤瑛亮監督 インタビュー
『先生を流産させる会』— 思春期の少女たちが投げかける“いのち”の問いが、大人の良識を鋭利に切り裂く。衝撃の問題作がいよいよ劇場公開!
『先生を流産させる会』公開直前試写会&トークショー—寺脇研氏と内藤瑛亮監督が語る、最凶の教育映画
『先生を流産させる会』初日舞台挨拶—映画初出演の少女たちが撮影後に結成したのは 「先生を感動させる会」!?


『パスト ライブス/再会

韓国と北米に離れて会えなかった24年の時間の積み重ね

韓国生まれでカナダ育ちのセリーヌ・ソン監督が、自身の経験を主人公に投影させて撮った長編第1作。ほぼ3人だけの登場人物で、24年にわたる時間の積み重ねを会話劇の形で紡ぎ、じんわりと心に染みる温かい作品に仕上げた。12歳で恋心を抱いていた同級生のヘソンと離れ、一家でソウルからトロントに移住したノラは、ニューヨークで一人暮らしの24歳のときにSNSでヘソンとつながる。だが再会することなくさらに12年の月日が流れ、ヘソンがニューヨークを訪れると……。12年前にどちらかが飛行機に乗っていたら、全く別の人生があったかもしれない。そんな切なくもいとおしい物語が、韓国語のイニョン(縁)というキーワードを軸に展開される。いかにも東洋的な思想性が、ニューヨークという最も実利的な街を舞台に描かれるというのが何とも深い。(藤井克郎)

2024年4月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/アメリカ・韓国/106分)原題:Past Lives 監督・脚本:セリーヌ・ソン 出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ ほか 配給:ハピネットファントム・スタジオ Copyright 2022 © Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved


『ブルックリンでオペラを』

個性が際立つ人々が繰り広げる愛にあふれた人間模様

ニューヨークに住むオペラ作曲家のスティーブンは、鬱の治療で出会った精神科医のパトリシアと結婚し、彼女の連れ子のジュリアンと3人で暮らしていた。相変わらずスランプから脱し切れないスティーブンは犬の散歩中に立ち寄ったバーで、タグボートの船長という女性、カトリーナに声をかけられる。ボートに来ないかと誘われたスティーブンは……。ブルックリンの裏町を舞台に、ジュリアンの彼女とその家族も絡んで、癖の強い人々の人間模様がコメディータッチで紡がれる。登場人物は精神や身体、人種などに個性が際立つキャラクターばかりだが、俳優でもあるレベッカ・ミラー監督はことさらその特徴を強調することなく、ごく当たり前の風景として愛にあふれた人間賛歌の物語に溶け込ませる。まさに今の時代ならではの恋愛映画の出現に胸が熱くなった。(藤井克郎)

2024年4月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/アメリカ/102分)原題:She Came To Me 監督・脚本:レベッカ・ミラー 出演:アン・ハサウェイ、ピーター・ディンクレイジ、マリサ・トメイ ほか 配給:松竹 © 2023. AI Film Entertainment LLC. All Rights Reserved.


『リトル・エッラ』

憎らしいのに憎めない少女に本当の友達ができるまで

ビッケやロッタちゃんを生んだ北欧スウェーデンから、またまたかわいらしい子どもが活躍する心温まるコメディーがやってくる。人と交わるのが苦手で、大好きなサッカーも一人で遊ぶことが多いエッラは、叔父さんのトミーが唯一の友達だった。両親が休暇で出かけている間、トミーと2人で過ごすのを楽しみにしていたが、オランダからトミーの恋人のスティーブがやってきて……。スウェーデンの絵本作家、ピア・リンデンバウムの原作を、ノルウェー出身のクリスティアン・ロー監督が映画化。子どもの目線を大切にしながら、LGBTQといった社会問題を絡ませるなど、子ども扱いしない語り口がすてきだ。本当に大切な友達は一番近くにいるという真理への展開に加え、エッラ役のアグネス・コリアンデルの憎らしいのに憎めない表情に心を射抜かれた。(藤井克郎)

2024年4月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/スウェーデン・ノルウェー/81分)原題:LILL-ZLATAN OCH MORBROR RARING 監督:クリスティアン・ロー 出演:アグネス・コリアンデル、シーモン・J・ベリエル、ティボール・ルーカス ほか 配給:カルチュアルライフ © 2022 Snowcloud Films AB & Filmbin AS


『プリシラ』

大スターに愛された女性の孤独

映画『プリシラ』メイン画像

エルヴィス・プレスリーの元妻プリシラの回想録を下敷きに、彼女の視点で2人の愛と別離を描いた。ソフィア・コッポラ監督作。スーパースターのエルヴィスと出会い恋に落ちた14歳のプリシラ。数年後、彼らはメンフィスの大邸宅グレースランドで暮らし始める。夢のような世界で彼の色に染まる生活は幸せなように見えたが……。髪の色や服装にまで口を出され、かごの中の鳥のような生活を求められる日々。彼の望みを満たす喜びは孤独感や違和感に変わり、彼女はやがて自分の人生を踏み出していく。自分を取り戻して過去と決別する姿は切なくも眩しい。60 ~70年代にかけてのファッションはどれも洗練されていて目を奪われるが、ヘアメイクを盛ったり削ぎ落したりすることで時代の移り変わりと心情の変化をリンクさせる手法はさすがだ。情熱的な恋とすれ違いの生活の後に生まれる2人にしか分からない感情も垣間見えて、救われた気分になった。(吉永くま)

2024年4月12日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/アメリカ・イタリア/113分/PG12)原題:PRISCILLA 監督・脚本:ソフィア・コッポラ 出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ ほか 配給:ギャガ © The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023


『リンダはチキンがたべたい!』

ただの色の塊が発する際立つ個性と豊かな表情

アヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞に輝くなど、世界中で話題を呼んでいる作品で、大胆な線画のタッチと鮮やかな色使い、流れるような疾走感にただただ圧倒された。指輪を盗んだと濡れ衣を着せられたリンダは、お詫びに何でも償うというママに、亡きパパが得意だったチキン料理が食べたいと要求する。あいにくストでどこのお店も閉まったままだったが、何とかチキンを手に入れようとママの奮闘が始まる。イタリア出身のキアラ・マルタと、夫でフランス人のセバスチャン・ローデンバックの両監督がオリジナル脚本で編み上げたコメディーで、シングルマザーを巡る人と人とのつながりがミュージカル仕立てで描かれる。大勢が登場する人物描写はいずれも単色で、素早い動きのときにはただの色の塊になるが、それでも一人一人の個性が際立ち、豊かな表情が感じられるから不思議だ。(藤井克郎)

2024年4月12日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/フランス・イタリア/76分)原題:Linda veut du poulet! 脚本・監督:キアラ・マルタ、セバスチャン・ローデンバック 声の出演:メリネ・ルクレール、クロチルド・エム、レティシア・ドッシュ ほか 配給:アスミック・エース ©2023 DOLCE VITA FILMS, MIYU PRODUCTIONS, PALOSANTO FILMS, France 3 CINÉMA


『マンティコア 怪物』

社会にうまく適応できない内気なオタク青年の苦悶

ゲームデザイナーのフリアンは、アパートの隣室から炎が上がっているのを発見。閉じ込められていた少年、クリスチャンを救い出す。内気なオタクのフリアンは、ピアノが得意なクリスチャンと心を通わせる一方、同僚のパーティーで出会った美術史を学ぶディアナとデートを重ねるようになるが……。マンティコアとは中世美術で広く用いられた神話上の生き物で、頭は人間、胴体は虎のような姿をしている。日本のサブカルチャーをモチーフにした『マジカル・ガール』で知られるスペインのカルロス・ベルムト監督は、マンティコアの伝説とVR(仮想現実)のゲームを絡め、社会にうまく適応できない男の苦悶に迫る。前半、さまざまに張り巡らされた不可解な謎が、ラストで一挙に回収されていく展開が見事。自然音だけのリアルな表現にもベルムト監督ならではの個性が光る。(藤井克郎)

2024年4月19日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/スペイン・エストニア/116分/PG12)原題:Mantícora 英題:Manticore 監督・脚本:カルロス・ベルムト 出演:ナチョ・サンチェス、ゾーイ・ステイン、アルバロ・サンス・ロドリゲス ほか 配給:ビターズ・エンド ©Aquí y Allí Films, Bteam Prods, Magnética Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE


『悪は存在しない』

自然な出演陣と不協和音の音楽が醸し出す不穏感

『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督によるベネチア国際映画祭銀獅子賞(審査員グランプリ)受賞作は、地味で静謐な展開ながら、冒頭から結末までずっと心がざわざわしっ放しだった。自然あふれる山里で小学生の娘と2人で暮らす巧は、料理店が飲料水に使う川の水汲みを手伝うなど便利屋稼業を生業にしていた。この静かな地域に東京の芸能事務所がグランピング場を作る計画が持ち上がり、水源が汚染されるのではないかと住民の間に不安が広がる。当初はスタッフとして参加した巧役の大美賀均をはじめ、リアルなたたずまいの出演者による何とも自然な振る舞いが、どことなく不穏な空気感とのミスマッチ感を醸し出す。企画を立案した石橋英子による不協和音の音楽もまがまがしさをかき立てて、いつまでも余韻が後を引いて離れなかった。(藤井克郎)

2024年4月26日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/106分)英題:Evil does not Exist 監督・脚本:濱口竜介 出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士 ほか 配給:Incline © 2023 NEOPA / Fictive

▼オススメ記事
『ドライブ・マイ・カー』:運転席と後部座席の関係の意思疎通(短評)
【出演者コメント到着!】『ドライブ・マイ・カー』第94回アカデミー賞® で日本映画史上初の作品賞&脚色賞、監督賞、国際長編映画賞の全4部門にノミネート!


『キラー・ナマケモノ』

愛らしい殺人鬼が暴れ回る癒し系ホラー

映画『キラー・ナマケモノ』メイン画像

ゆるさと可愛さMAXのホラーコメディ。地味な学生生活に焦りを感じている大学4年生のエミリーは、ある日ペット業者オリヴァーと出会い、珍しい野生のナマケモノを飼うことに。彼女は自分が住む女子大の寮でマスコットにすることを提案。だが、その愛らしい風貌の動物は脅威の能力を持つ殺人鬼だった……。人間が操作しているというアニマトロニクスのパペットのナマケモノのアナログ感もさることながら、寮の会長を巡る女同士の闘いも数十年前のティーン映画を見ているようで、程良いレトロ感が新鮮。つぶらな瞳と鋭いカギ爪を持つアルファが、間の抜けた表情で女子大生を次々と襲う姿には、恐怖を感じるよりも先に笑いがこみ上げる。また、野生動物保護を巡る問題や、注目を集めるために手段を選ばないというSNSの弊害も盛り込まれているが、“もっともバカバカしいホラーを作ろう”という制作側の目的は十分に達成されている。凶悪犯罪もかすんでしまう、とぼけたノリの癒し系ホラーだ。(吉永くま)

2024年4月26日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/アメリカ/93分) 原題:Slotherhouse 監督:マシュー・グッドヒュー 出演:リサ・アンバラバナール、シドニー・クレイヴン、オリビア・ルーリエ ほか 配給:アルバトロス・フィルム © 2023 Slotherhouse ™ All rights reserved


『システム・クラッシャー』

交互にやってくる絶望と希望

映画『システム・クラッシャー』メイン画像

攻撃的で制御不能、行く先々で問題を起こし社会に居場所がない少女の姿を描き、世界各国で賞を受賞したノラ・フィングシャイト監督初の長編作品。特別支援学校などどこからも追い出されてしまう9歳の暴れん坊ベニーの願いはただ一つ、ママと一緒にいたいということだけ。だが、母親はそんな彼女を受け止めきれない。そんな時、非暴力トレーナーのミヒャの提案で山小屋での隔離療法を開始。心を開き始めるが……。監督が丹念にリサーチや現場体験して執筆した脚本と緻密な演出に、主演のヘレナ・ツェンゲルが、ベニーが乗り移ったかのように怒り、寂しさ、虚無、もどかしさなどを表現し、圧倒的な演技で応える。優しさを見せるかと思えば獣のように叫び狂うという予測不可能な状況下、交互にやってくる希望と絶望に翻弄されるのは、彼女自身や彼女に向き合いたい周囲の大人だけではない。こちらの感情までぐちゃぐちゃにかき乱され、その強烈な余韻にしばらく支配される。(吉永くま)

2024年4月27日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/ドイツ/125分)原題:Systemsprenger 英題:System Crasher 監督・脚本:ノラ・フィングシャイト 出演:ヘレナ・ツェンゲル、アルブレヒト・シュッフ、リザ・ハーグマイスター、ガブリエラ=マリア・シュマイデ ほか 配給:クレプスキュール フィルム
© 2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschränkt), ZDF


『正義の行方』

女児2人が殺害された事件の裁判を巡る謎に迫る

2022年にNHK BSで放送された文化庁芸術祭大賞受賞のドキュメンタリーを映画化。すでに死刑が執行された飯塚事件の謎に、捜査側、弁護側、報道陣それぞれの視点から多角的に迫る。1992年、福岡県飯塚市の女子小学生2人が殺害されて見つかった。2年7カ月後、目撃情報などから久間三千年容疑者が逮捕され、2006年に最高裁で死刑が確定。2008年に執行される。一貫して容疑を否認し、十分な証拠もない中、なぜこんなにも早く刑が執行されたのか。NHKのディレクターだった木寺一孝監督は、遺体の発見現場に駆けつけた駐在所の警察官から福岡県警の捜査員、DNA鑑定に詳しい法医学の専門家、第一報から報道に携わってきた西日本新聞の記者ら幅広い関係者の証言を集めて真相に迫っていく。どきどきするような展開で日本の司法制度への問題意識を投げかける構成に瞠目した。(藤井克郎)

2024年4月27日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/158分) 監督:木寺一孝 配給:東風 © NHK

ページトップへ戻る

  • 2024年04月01日更新

トラックバックURL:https://mini-theater.com/2024/04/01/4-new-movies-in-theaters-6/trackback/