『先生を流産させる会』— 思春期の少女たちが投げかける “いのち” の問いが、大人の良識を鋭利に切り裂く。衝撃の問題作がいよいよ劇場公開!

  • 2012年05月28日更新


思春期の少女たちと妊娠した女性教諭との “いのち” をめぐる葛藤を描いた問題作、『先生を流産させる会』がついに劇場公開を迎える。2011年のカナザワ映画祭、ドイツ・ニッポンコネクション、そして2012年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で称賛を受けつつも、その過激なタイトルと題材ゆえに一般公開は難しいとされていた本作。しかし、実際にこの映画を目の当たりにした人々の熱烈な支持を受け、2012年5月26日(土)より渋谷ユーロスペースのレイトショー上映で幕を開けることとなった。


思春期の少女たちが抱く不安と焦燥が「性に対する嫌悪感」と結びついたとき、予想もできなかった悲劇の扉が開く——

子どもから大人へと変わりゆく自分自身に違和感を抱え、漠然とした不安の中で揺れ動く中学生の少女たち。担任のサワコ先生(宮田亜紀)の妊娠は、そんな彼女たちの心に波紋を広げる。「サワコ、セックスしたんだよ。気持ち悪くない?」嫌悪感をあらわにする女生徒のミヅキ(小林香織)は仲間たちを率いて〈先生を流産させる会〉を結成し、給食に薬品を混入させ、椅子の脚に細工をする。エスカレートして行く彼女たちの行動にサワコは教師として、そして母として毅然と立ち向かっていくが……。

このショッキングな物語の出発点は、2009年に愛知県の中学校で起きた実際の事件。当時、1年生の男子生徒たちが妊娠中だった女性教諭の給食に異物を混ぜるなど、極めて悪質な嫌がらせをしたことはメディアでも大きく注目される。しかし、教育委員会の見解は「あくまで稚拙な悪戯」というものだった。本作は、そんな事なかれ主義的な教育現場からの発言に監督自身が疑問を持ったことに端を発する。“いのち”を奪うことに対し、罪の意識があまりにも希薄な子どもたちに、大人は、いったいどう向き合っていくべきなのだろうか——。「できるならば避けて通りたい」と本音を漏らしたくなるこの命題に挑んだのは、『牛乳王子』(2008)で注目を浴びた新鋭・内藤瑛亮監督。映画化にあたっては設定を男子生徒から女子生徒に変え、あくまでフィクションとしてスリリングなストーリー展開をみせつつ、閉鎖的な学校教育やモンスターペアレンツ、少女たちのグループ内でのヒエラルキーなど、現代社会が抱えるさまざまな問題を巧みに浮かび上がらせる。

キャストたちの圧倒的な存在感が作品のテーマをけん引

緻密に計算された演出と共に注目すべきなのはキャストたちの存在感だ。サワコ役の宮田亜紀の強く真っ直ぐな視線と、ミヅキを演じる小林香織の虚無感を漂わせた深い瞳の色。ふたりの対峙するシーンではこの瞳のコントラストが実に印象的だ。そのほかの少女たちも映画初出演というフレッシュさが、かえって物語にみずみずしい躍動感を与えている。いずれは自らも母となるかもしれない少女たちの無邪気な残虐さと、実際に子どもを宿した女教師の猛烈な母性の対比で描かれる物語は、“いのち”を紡ぐ女性性への内藤監督流の痛烈な賛歌とも受け取れる、まぎれもない「傑作」である。

 

▼ 『先生を流産させる会』作品・上映情報
(2011年/日本/HDV/62分)
監督・脚本:内藤瑛亮
出演:宮田亜紀、小林香織、高良弥夢、竹森菜々瀬、相場涼乃、室賀砂和希、大沼百合子 ほか
脚本協力:佐野真規、松久育紀、渡辺あい
撮影:穴原浩祐
製作協力:映画美学校
©2011 内藤組

『先生を流産させる会』公式サイト

※2012年5月26日(土)より、渋谷ユーロスペースにてレイトショーほか全国順次公開

文:min

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