3月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2024年02月28日更新

3月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

LINE UP
3/1(金)公開『愛のゆくえ
3/2(土)公開『すべての夜を思いだす
3/2(土)公開『津島-福島は語る・第二章-
3/8(金)公開『i ai
3/8(金)公開『アバウト・ライフ 幸せの選択肢
3/15(金)公開『きまぐれ
3/15(金)公開『青春ジャック 止められるか、俺たちを2
3/15(金)公開『ビニールハウス
3/29(金)公開『パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜
3/29(金)公開『美と殺戮のすべて


『愛のゆくえ』

北海道から東京の片隅へ、孤独な中学生の成長の旅路

14歳の中学生、愛が母の由美と暮らす家には、幼なじみの同級生、宗介が一緒に住んでいた。家族ぐるみの付き合いだった両家だが、宗介の父親が亡くなり、母親が宗介の面倒を見ることができなくなっていたのだ。だが自らの境遇を恨む宗介の反抗からある悲劇が起きる。雪の北海道と東京の片隅という対照的な風景の中で、孤独な中学生の成長の旅路が描かれる。「島ぜんぶでおーきな祭 沖縄国際映画祭」でグランプリを受賞した宮嶋風花監督の初長編作品で、いかにも新人らしい粗削りな部分は否めないが、片足だけ生えたオタマジャクシになぞらえた中学生の心象風景を、クレヨンタッチのアニメーションなどを駆使して情感豊かに編み上げる。ワンショット長回しに挑んだ若い長澤樹と窪塚愛流の表現力も見応えがあり、20代の宮嶋監督の演出力に目を見張った。(藤井克郎)

2024年3月1日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/88分/PG12) 監督・脚本・編集:宮嶋風花 出演:長澤樹、窪塚愛流、田中麗奈 ほか 配給:パルコ ©吉本興業


『すべての夜を思いだす』

団地を舞台に3人の女性が織りなす何気ない、でも確かな1日

『わたしたちの家』で2017年のPFFアワードグランプリを受賞した清原惟監督によるPFFスカラシップ作品。東京郊外の団地を舞台に3人の女性の何気ない、でも確かな1日が紡がれる。友人からの葉書に書かれた住所を訪ねて団地に足を踏み入れた知珠は、友人宅にたどり着く前にいろんな出会いに遭遇する。一方、ガス検針員の早苗は住民から頼まれて行方不明の老人を探すことに。大学生の夏は友人とダンスやカフェで過ごしながら、ある不在感を抱いていた。微妙にすれ違う3人の脈絡のない行動を、何ら説明的な描写を盛り込むことなく淡々と映し出す中で、確かに存在する何かが浮き彫りになる。それは劇中に登場する土偶のように映画を含めた芸術の根源に迫るもので、決して難解なせりふを用いずに描出した清原監督の語り口には恐れ入った。(藤井克郎)

2024年3月2日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/116分)英題:REMEMBERING EVERY NIGHT 脚本・監督:清原惟 出演:兵藤公美、大場みなみ、見上愛 ほか 配給:一般社団法人PFF ©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

◆オススメ記事:ちば映画祭とカフェがコラボ! 若手監督と映画をより身近に楽しむ上映イベント —『映画とおはなしとブレイクタイム 』vol.1 清原惟監督 短編集


『津島-福島は語る・第二章-』

帰還困難区域に指定されたままの山村の厳しい現実

東京電力福島第一原発の事故から10年超、いまだにほとんどの地域が帰還困難区域に指定されたままの福島県浪江町津島の住民の思いを、『飯舘村 放射能と帰村』などの土井敏邦監督がすくい取った。現在は福島県内外にばらばらに暮らす彼らは、満州からの引揚者の家系やよそから嫁いできた女性など出自はさまざまだが、お互いに協力し合って奥まった山村ならではのコミュニティーと文化を構築してきた。だが原発事故で苦労を重ねて積み上げてきたものが一瞬で失われ、しかも元に戻るには100年はかかると環境省の役人に言われたという。故郷が、暮らしがなくなるというのはどういうことか。3時間を超す証言からは、国民一人一人にとって切実な現実が浮かび上がってくる。合間に挟まれるかつての幸せそうな村の写真と、現在の穏やかな、でも人っ子一人いない風景が悲しい。(藤井克郎)

2024年3月2日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/187分) 監督・撮影・編集・製作:土井敏邦 配給協力:リガード ©MASAYA NODA


『i ai』

マヒトゥ・ザ・ピーポー監督による破壊力全開の青春模様

ロックバンド「GEZAN」のマヒトゥ・ザ・ピーポー初監督映画で、色と音、風をモチーフに破壊力全開の青春模様が展開される。無気力な若者のコウはバンドマンのヒー兄に巻き込まれ、ヒー兄の弟、キラたちとバンドを組む。メジャーデビューを目指し、自堕落ながらも充実した毎日を送っていたコウだが、ある日突然、ヒー兄との別れが訪れる。ヒー兄の赤い髪に赤い風船、モノクロ画面に一輪だけの赤い花と赤が基調かと思えば、「海の匂いがする空」のせりふが繰り返される青の連鎖と、独特の色彩感覚に酔いしれる。「Eコードは平等や、差別がない」といったせりふに代表される音のイメージに「風を裂く一瞬」が相まって、ストーリーを超えた映像と音楽の洪水が押し寄せる。閉塞感に満ちた社会に生きる現代の若者へのマヒトゥ監督ならではのエールに、胸が熱くなった。(藤井克郎)

2024年3月8日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/118分) 監督・脚本・音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー 出演:富田健太郎、さとうほなみ、森山未來 ほか 配給:パルコ ©STUDIO BLUE


『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』

“結婚生活の落とし穴”の着地点

映画『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』メイン画像

人生の先が見えてきた親世代と、結婚という選択肢ですれ違う子世代6人が、それぞれの幸せを模索するロマンティック・コメディ。ダイアン・キートンやリチャード・ギアなど、豪華な俳優陣が集結した。ミシェルは恋人のアレンとの結婚を望んでいるが、彼はどうも煮え切らない。2人は親たちから結婚生活について学ぼうと、両家顔合わせの席を設ける。だが、驚くことに両親たちはお互いの配偶者と不倫をしていた……。レジェンド俳優たちのこなれた演技と軽やかな会話の数々が、挙動不審になる親たちの滑稽さを際立たせる。隣人のいざこざをのぞき見しているような感覚を覚えながら、 “結婚の落とし穴”にまつわる騒動がどう着地するか、ドキドキしながら追う楽しさにも浸れるだろう。(吉永くま)

2024年3月8日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/アメリカ/95分)原題:Maybe I Do 監督・脚本:マイケル・ジェイコブス 出演:ダイアン・キートン、リチャード・ギア、スーザン・サランドン、エマ・ロバーツ、ルーク・ブレイシー、ウィリアム・ H ・メイシー ほか 配給: AMG エンタテインメン ト © 2023. FIFTH SEASON, LLC. All Rights Reserved.


『きまぐれ』

最後の家族旅行に出た4人の大切なはずの時間のずれ

『クレマチスの窓辺』に主演した瀬戸かほがプロデュース、原案、脚本を手がけた短編で、同作の永岡俊幸監督が共同脚本とともにメガホンを取った。一家4人で親戚の結婚式にやってきた岩田家は、長女の桃子が結婚を控えていることもあり、誰もがこれが最後の家族旅行だと思っていた。だが父の智は仕事の電話が手放せず、ばらばらに行動することに。街に繰り出した桃子が婚約者そっくりの男に遭遇すれば、海外留学を考えている次女の桜子は、街角のフラメンコ教室をのぞき込む。そんな中、母の和美は重大な決意を固めていた。大切に過ごしたいはずの家族の時間がなぜかずれていく、そのおかしさ、悲しさが、寓意性を盛り込んでユーモラスにつづられる。皆まで言い切らないせりふなど余白を生かした描写が小粋で、味わい深い短編になっていた。(藤井克郎)

2024年3月15日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/25分) 監督・脚本:永岡俊幸 出演:瀬戸かほ、内田周作、石本径代、櫻井成美 ほか 配給:Route9 & Friends ©八王子日本閣

◆オススメ記事
『クレマチスの窓辺』:「旅人の喜び」を表現する映画的な時間と空間(短評)
「よかったよ」の言葉を糧に―『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』主演の瀬戸かほインタビュー


『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』

シネマスコーレ開設当初を舞台にした映画への熱い思い

1983年、映画監督の若松孝二は名古屋に小さな映画館を開設する。支配人に抜擢されたのは、東京の名画座、文芸坐を辞めて名古屋に帰っていた木全純治だった。ラテン語で「映画の学校」を意味するシネマスコーレと名付けられた新劇場には、映画の魔力に取りつかれた若者が吸い寄せられてきた。若松プロ全盛期の青春群像を描いた『止められるか、俺たちを』で脚本を手がけた井上淳一が監督を務め、映画への愛と葛藤のドラマを笑いと涙で織り上げた。前作で若松監督を演じた井浦新に加え、井上監督自身を演じた杉田雷麟らが映画や映画館への熱い思いを口角泡を飛ばして語り合うさまは、映画好きとしてはぐっと込み上げてくるものがある。全国で悪戦苦闘しているミニシアターへの力強い応援歌とも言える傑作だ。(藤井克郎)

2024年3月15日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/119分) 脚本・監督:井上淳一 出演:井浦新、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟 ほか 配給:若松プロダクション、スコーレ株式会社 ©若松プロダクション

◆オススメ記事:『シネマスコーレを解剖する。コロナなんかぶっ飛ばせ』:ミニシアター愛から浮かび上がる大衆文化の脆弱性(短評)


『ビニールハウス』

介護中の事故で絶命した老女と、認知症の母をすり替え……

映画『ビニールハウス』メイン画像貧困、孤独、介護といった日本でも深刻化する社会問題を背景に、29歳の新鋭イ・ソルヒが監督・脚本を手掛けた韓国発のサスペンスドラマ。ビニールハウスに暮らすムンジョンの夢は、少年院にいる息子と再び暮らすこと。そのために盲目の老人テガンと重い認知症の妻・ファオクの訪問介護士として働いている。ある日、風呂場で暴れるファオクと揉み合い、転倒したファオクが絶命してしまう。ムンジョンは認知症の自分の母をテガンの家に住まわせ、ファオクの身代わりにして罪を葬ろうとするが……。最初の選択を誤ったことで嘘を重ね、負の連鎖にはまっていくムンジョン。韓国映画らしいエキセントリックさも随所に感じつつ、どこか他人事と思えない悪夢のような展開と、主人公のリアルな心理描写に引き込まれていく。主演のキム・ソヒョンは新人監督が書いた本作の脚本に魅了され、新境地ともいえるこの役に挑み、韓国主演女優賞他6冠の快挙に輝いた。富田旻

2024年3月15日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/韓国/100分)原題:비닐하우스 監督・脚本・編集:イ・ソルヒ 出演:キム・ソヒョン、ヤン・ジェソン、シン・ヨンスク ほか 配給:ミモザフィルムズ © 2022 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVEDト


『パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜』

天才パティシエの半生を形作ったもの

映画『パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜』メイン画像

若き天才パティシエ、ヤジッド・イシュムラエンの⾃伝をもとに映画化したサクセス・ストーリー。育児放棄の⺟親と過酷な環境で過ごし、時々里親のもとに通うヤジッドは、最高のパティシエになることを夢見る少年だ。児童養護施設に移った彼は、やがてパリの⾼級レストランの⾒習いとして雇われる。その後も活躍の場を広げていくが、同僚の嫉妬により失職。失意の底からも、持ち前の情熱でパティスリー世界選⼿権への切符を⼿にする。ヤジッドが生み出す繊細で美しいスイーツは、人々に幸福感を与えてくれるもの。だが、その裏にある、母親を疎ましく思いながらも愛されたかったという葛藤も十分に描き出される。逆境、挫折、才能や努力、仲間の支えなど彼の半生を形作ったものすべてが絡み合い、結実するクライマックスに圧倒され、感極まった。(吉永くま)

2024年3月29日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023 年/フランス/110 分)監督:セバスチャン・テュラール、出演:リアド・ベライシュ、ルブナ・アビダル、クリスティーヌ・シティ、リカ・ミナモト ほか 配給:ハーク、© DACP-Kiss Films-Atelier de Production-France 2 Cinéma


『美と殺戮のすべて』

鎮痛薬の被害を訴える運動に尽力する写真家の芸術性

『シチズンフォー スノーデンの暴露』でアカデミー賞を受賞したローラ・ポイトラス監督が、アメリカの写真家、ナン・ゴールディンの創造と闘争の日々に迫ったドキュメンタリー。2022年のベネチア国際映画祭では最高賞の金獅子賞に輝いた。1970年代のゲイカルチャーに影響を受け、偏見や差別に向き合うクリエイターたちの姿をスライドショーといった独自の表現で発信し続けてきたゴールディンは近年、鎮痛薬オキシコンチンの被害を訴える運動に身を投じてきた。中でもこの薬の製造会社を所有するサックラー家が、世界の名だたる美術館に寄付していることを問題視。美術館への抗議活動の一部始終を捉えるとともに、彼女の生い立ちから今日までの闘いの人生を俯瞰する。社会性と芸術性の両面で深く掘り下げたポイトラス監督の眼力にうなった。(藤井克郎)

2024年3月29日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/アメリカ/121分/R15+)原題:ALL THE BEAUTY AND THE BLOODSHED 監督・製作:ローラ・ポイトラス 出演・写真&スライドショー・製作:ナン・ゴールディン 配給:クロックワークス © 2022 PARTICIPANT FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ページトップへ戻る

  • 2024年02月28日更新

トラックバックURL:https://mini-theater.com/2024/02/28/3-new-movies-in-theaters-6/trackback/