12月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2023年11月27日更新

12月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

LINE UP
12/1(金)公開『朝がくるとむなしくなる
12/1(金)公開『アダミアニ 祈りの谷
12/1(金)公開『女優は泣かない
12/1(金)公開『スイッチ 人生最高の贈り物
12/1(金)公開『ペルリンプスと秘密の森
12/3(日)公開『メンゲレと私
12/8(金)公開『VORTEX ヴォルテックス
12/8(金)公開『ブルーを笑えるその日まで※MOOSIC LAB 2024にて12/2(土)先行公開 
12/9(土)公開『王国(あるいはその家について)
12/15(金)公開『99%、いつも曇り
12/15(金)公開『ポトフ 美食家と料理人


『朝がくるとむなしくなる』

何気ない風景と会話が紡ぎ出す映画的な時間と空間

会社を辞めてコンビニでアルバイトをしている一人暮らしの希は、実家に暮らす母親に退社したことを伝えられずにいた。ある日、コンビニに客で来ていた女性から声をかけられ、中学の同級生だった加奈子だと知る。中学時代はそんなに親しいわけではなかったが、やがて何度か会うようになり……。『左様なら』の石橋夕帆監督による長編第2作で、プライベートでも親友という唐田えりかと芋生悠の主演で、どこか思春期のような甘酸っぱさが漂う大人の女性の物語を編み上げた。大した事件は起こらず、会話の中身も何ということのないものばかりだが、映画的に実に豊かな時間と空間を紡ぎ出していることに驚く。川が流れる何の変哲もない街の風景もなぜか心に染み入ってくるし、古典的な風情を醸しつつ紛れもなく令和の空気感を漂わせていて、石橋監督の高感度の時代感覚に酔いしれた。(藤井克郎)

2023年12月1日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/76分) 監督・脚本:石橋夕帆 出演:唐田えりか、芋生悠、石橋和磨 ほか 配給:イーチタイム ©Ippo


『アダミアニ 祈りの谷』

テロリストの巣窟と言われた渓谷の穏やかさと危うさ

アダミアニとはジョージア語で「人間」を意味する。この作品は、ジョージア東部パンキシ渓谷に住むチェチェン系イスラム教徒のキストと呼ばれる人々を長く追い続けている竹岡寛俊監督が、激しい紛争を経た現在の彼らの生活と葛藤を見つめた初の長編ドキュメンタリーだ。チェチェン紛争で難民になり、2人の息子がシリア内戦で命を落としたレイラは、今はふるさとのパンキシでゲストハウスを営んでいる。かつてテロリストの巣窟と言われたこの渓谷にも海外から観光客が訪れるようになり、戦士だったアボはツアーガイドを始めたが……。コーカサスの山々を望む美しい風景と穏やかな人々の暮らしは、最近まで危険地帯だったとは思えないのどかさだ。だが決して平和は安泰ではないという現実を、取材と意識させないカメラが鋭く捉えていて、深く心に突き刺さった。(藤井克郎)

2023年12月1日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本・オランダ/120分)英題:Adamiani 監督・撮影:竹岡寛俊 配給:アークエンタテインメント ©2021 ADAMIANI Film Partners


『女優は泣かない』

曲がり角の女優と若手ディレクターの衝突と成長

CMプランナーやシナリオライターとして活動する有働佳史監督の初長編映画で、生まれ故郷の熊本県荒尾市を舞台に、曲がり角に差しかかった女優と、志はあっても成長が伴わない若手ディレクターとの葛藤を、泣き笑いの人情喜劇に仕上げた。スキャンダルで仕事を失った女優の梨枝は、起死回生を期してテレビのドキュメンタリー番組に出ることにする。10年ぶりの故郷で女優を目指した原点を探るという趣旨だったが、スタッフは若い女性ディレクターの咲1人だけ。なるべくこっそり撮影したい梨枝と、体裁だけ整えようとする咲とは全く反りが合わず、2人は衝突を繰り返す。いがみ合いながらも徐々にお互いを認めていくという展開は喜劇の常道で、2人を演じた蓮佛美沙子と伊藤万理華のコメディエンヌぶりが楽しい。何気ない風景を切り取った有働監督の故郷愛も見ものだ。(藤井克郎)

2023年12月1日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/117分) 監督・脚本:有働佳史 出演:蓮佛美沙子、伊藤万理華、上川周作 ほか 配給:マグネタイズ ©2023「⼥優は泣かない」製作委員会


『スイッチ 人生最高の贈り物』

付き人と人生が入れ替わった大スターの運命は?

映画『スイッチ 人生最高の贈り物』メイン画像

クリスマスイブに起こった不思議な出来事を描いた、クォン・サンウ主演のハートフルコメディ。独身セレブ生活を満喫しているトップスター俳優のパク・ガンは、イブの夜に相棒のマネージャーのチョ・ユンと人生が入れ替わってしまう。彼は売れない舞台俳優となり、元恋人スヒョンと結婚、双子の父親になっていた。果たして運命の行方は? 人も羨むお金や名声に囲まれた生活からかけ離れた庶民の世界へ。普通ならファンタジー要素に溢れるはずのパラレルワールドが超現実的であるという、一見矛盾した世界観が興味深く、クォン・サンウのオーラの消し方も見所の一つ。街の喧騒の裏であぶり出されるスターの無意識下にある孤独。彼の本当に大切なものが雪のように消えてしまわないようにとドキドキしながらも、イブに起こる奇跡の温かい余韻に包まれた。(吉永くま)

2023年12月1日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/韓国/112 分)原題:스위치 監督:マ・デユン 出演:クォン・サンウ、オ・ジョンセ、イ・ミンジョン ほか 配給:ツイン ©2023 LOTTE ENTERTAINMENT & HIVE MEDIA CORP. All Rights Reserved.


『ペルリンプスと秘密の森』

未来を託された秘密エージェントの使命

『ペルリンプスと秘密の森』メイン画像

“イベロアメリカ”のアニメーション界を牽引する、『父を探して』のアレ・アブレウ監督最新作。太陽の王国のクラエと⽉の王国のブルーオは、巨⼈によって存在を脅かされている魔法の森に派遣された秘密エージェント。森を守る唯⼀の⽅法は、光という形でこの森に⼊り込んだ「ペルリンプス」を⾒つけることだ。初めは敵対していた⼆⼈だが、共通の⽬的のために協⼒し合うことに……。この世に存在する美しい色をすべて取り込んだような森は、幻想的かつ神秘的で、自分がここに生きているかのような没入感を味わえる。まだ幼さの残る二人のエージェントは、なぜ使命を抱いてこの偉大な森を巨人の世界まで突き進むのか。作品が放つ現実世界への警鐘に耳を傾けながら、彼らに未来を託すだけではいけないという思いに駆られた。(吉永くま)


2023年12月1日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/ブラジル/80分)原題:Perlimps 脚本・編集・監督:アレ・アブレウ 音楽:アンドレ・ホソイ、オ・グリーヴォ 配給:チャイルド・フィルム、ニューディア― © Buriti Filmes, 2022


『メンゲレと私』

ホロコーストを生き延びた老人の悲し過ぎる回想

オーストリアの映像制作チームによる「ホロコースト証言シリーズ」の第3弾。最終作となる今回は、非人道的な人体実験を繰り返したヨーゼフ・メンゲレ医師の寵愛を受けて生き延びたリトアニア出身のユダヤ人、ダニエル・ハノッホが、その過酷な運命を振り返る。1941年、ドイツのリトアニア侵攻でユダヤ人ゲットーに強制収容されたダニエルは、12歳でアウシュヴィッツ強制収容所に連行される。メンゲレ医師のお気に入りで命は助かったものの、来る日も来る日も同胞の死体を運搬させられていた。ナチスだけでなくリトアニア人からも迫害を受けていたという証言は生々しく、まだ年端も行かない子どもが、生きるための道具として感情を捨て、自分のことだけを考える術を身に着けたとの告白は悲し過ぎる。80年も前の悲劇を詳細に言語化するダニエルの使命感に心打たれた。(藤井克郎)

2023年12月3日(日)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/オーストリア/96分)原題:A BOY‘S LIFE 監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー 出演:ダニエル・ハノッホ 配給:サニーフィルム ©2023 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH


『VORTEX ヴォルテックス』

2画面分割が象徴する老夫婦のすれ違いの果て

『カノン』『LOVE 3D』など際どい表現で物議を醸してきたフランスの鬼才、ギャスパー・ノエ監督が、イタリアンホラーの巨匠、ダリオ・アルジェントを主演に据え、2画面分割で老々介護の現実と家族のもろさを冷徹につづった。映画評論家の夫は、元精神科医の妻の認知症が進行していることに気がつく。心臓に持病を抱える夫は妻の症状に気をもみながら、離れて暮らす息子の自分勝手さや、20年来の愛人の態度が冷たいことに苛立っていた。分割画面になる前、自宅アパートのテラスでお茶を飲み、「人生は夢の中の夢」などと語り合う2人はいかにも仲のよい老夫婦の風情で、その後の展開が一層、悲しくなる。左右別々に夫と妻を見つめる画面は、2人がしょっちゅう交差しながらも一向に1つにはならない。夫婦愛、家族愛の行方を痛烈に皮肉っていて胸にこたえた。(藤井克郎)

2023年12月8日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/フランス/148分/PG12)原題:VORTEX 監督・脚本:ギャスパー・ノエ 出演:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ ほか 配給:シンカ ©2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE – KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA


『ブルーを笑えるその日まで』

新鋭監督が時を超えて想いを紡ぐ、青春ファンタジー

映画『ブルーを笑えるその日まで』メイン画像注目の新鋭・武田かりん監督が描く青春ファンタジー。ひとりぼっちのアンとアイナは、不思議な万華鏡に導かれて出会い、 “友だちとの夢のような夏休み”を初めて過ごす。新学期が憂鬱な二人は、8月31日にある行動に出る……。学校という小さな社会が、世界のほぼすべてだった10代に不登校や自殺未遂を経験したという武田監督が、同じように悩む若者とかつての自分へ贈る渾身作。主演は映画初主演の渡邉心結と角心菜。二人のみずみずしい存在感が、幻想的な物語に透明感を与える。傷ついた感情をのみ込む顔、アイナの前でこぼれる笑みなど、アン役の渡邉がみせる細やかで多彩な表情にも引き込まれた。中学時代、「大人になった自分がタイムマシンで救いに来てくれることを夢見た」という武田監督。当時よりずっと広い世界を見た彼女が、その想いをこの作品に昇華したことは、誰かにとって大きな希望と道標になり得るだろう。水槽、金魚、本、屋上の噂、ブルー……点在するモチーフが時空を超えて結ばれるとき、心を抱きしめられたような気がした。(富田旻)

2023年12月8日(金)アップリンク吉祥寺にて公開 ※12月2日(土)MOOSIC LAB 2024<新宿 K’s cinema> にて先行上映  公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/99分)監督・脚本:武田かりん 出演:渡邉心結、角心菜、丸本凛 ほか 配給:映日果人 配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS ©2023 ブルーを笑えるその日まで


『王国(あるいはその家について)』

脚本の読み合わせで積み上げる驚嘆のドラマツルギー

『螺旋銀河』の草野なつか監督による長編第2作で、これまで映像祭での上映や限定配信だけだった実験的作品の待望の劇場公開となる。亜希は警察の取調室で尋問を受けていた。幼なじみの野土香の幼い娘、穂乃香を川に落としたという容疑だった。亜希、野土香、そして野土香の夫の直人の3人の間で何があったのか。映画は、東京から実家に帰省した亜希が野土香の新居を訪ねて3人で語らう会話を、脚本の読み合わせを何度も何度も繰り返すという形式で積み上げる。場所はほとんどがリハーサル室で、会話の内容も行ったり来たりして、当初は話の脈絡がつかめない。だが3人の役者が情感たっぷりに語るばらばらのせりふが積み重なることで、次第に明確なストーリーとイメージが脳内で構築されていくから不思議だ。2時間半の上映時間中、驚嘆と興奮が渦巻いていた。(藤井克郎)

2023年12月9日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/日本/150分) 監督:草野なつか 出演:澁谷麻美、笠島智、足立智充 ほか 配給:コギトワークス


『99%、いつも曇り』

ストレスを感じる妻と彼女を支える夫の普遍の愛

俳優、声優でもある瑚海みどり初の長編監督作で、発達障害傾向の主人公が感じるストレスを自らの主演でリアルに切り取った。2023年の第36回東京国際映画祭で上映されたほか、第17回田辺・弁慶映画祭ではグランプリ、俳優賞など5冠に輝いた。流産の経験がある一葉は、親戚の「もう子どもは作らないのか」との言葉に過敏に反応。夫の大地は子どもを欲しがっていると思い込み、養子を取ることを検討するが……。冒頭、母親の一周忌の場面で、ちょっと風変わりな一葉の一面、彼女を取り巻く人間関係などを、余計な説明をつけずに一気に見せ切る手法が鮮やかで、ぐいぐい引き込まれる。一葉を演じる瑚海監督の表現力、存在感もさることながら、包み込むように妻を支える大地の描き方が秀逸で、普遍的な夫婦の愛情物語として深く心に響いた。(藤井克郎)

2023年12月15日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/110分) 監督・脚本・編集:瑚海みどり 出演:瑚海みどり、二階堂智、永楠あゆ美 ほか 配給:©35 Films Parks  ©35 Films Parks


『ポトフ 美食家と料理人』

驚異的な料理シーンが彩る愛を超越した男女関係

『青いパパイヤの香り』などのベトナム生まれのフランス人、トラン・アン・ユン監督が、食を題材に愛を超越した男女関係を見つめた意欲作で、2023年の第76回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した。1885年のフランス。女性料理人のウージェニーは、美食家のドダンと20年にわたって食の神髄を追究してきた。森の中の古い屋敷で暮らしていた2人だが、ウージェニーが病魔に侵されていることを知り、ドダンはある決断を下す。冒頭、美食家仲間を招いた食事会で出す料理の数々が素晴らしく、前菜にスープ、魚料理、肉料理、デザートなど、下ごしらえから仕上げまでの全ての過程をじっくり長い時間をかけて見せ切る。カメラワークも見事なら、ウージェニーを演じたジュリエット・ビノシュにドダン役のブノワ・マジメルの料理の手際のよさも驚異的で、トラン監督の徹底ぶりに目を見張った。(藤井克郎)

2023年12月15日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/フランス/136分)原題:The Pot-au-Feu 監督・脚本:トラン・アン・ユン 出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル、エマニュエル・サランジェ ほか 配給:ギャガ ©Carole-Bethuel ©︎2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

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