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【特集:宇賀那健一監督 VOL.1】唯一無二の感性が生み出す挑戦と興奮! 「宇賀那健一監督短編集:未知との交流」インタビュー
- 2022年11月30日更新
長い触手を持つクリーチャー、毛がモジャモジャのエイリアン、エキセントリックな悪魔……そんな個性的なキャラクターが登場するファンタスティックかつシュールな短編映画3作を上映する「宇賀那健一監督短編集:未知との交流」が2022年12月3日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次開催される。
『黒い暴動❤︎』『サラバ静寂』など常に斬新でオリジナリティ溢れる作品を生み出し、『異物 -完全版-』が海外映画祭で大きな話題を呼んだ宇賀那監督に、上映作品の魅力や撮影の裏側などを聞いた。
(取材・富田旻 インタビュー撮影:ハルプードル)
海外映画祭を熱狂させた3作品
満を持して日本凱旋上映!
― 今回の特集上映「宇賀那健一監督短編集:未知との交流」では、上映順に『適応』『モジャ』『往訪』の3本がラインアップされていますが、この並びはどのように決められたのですか?
宇賀那健一監督(以下、宇賀那監督):今年10月にカナダで開催された「第51回モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭」で、光栄なことに僕の特集上映(MADE IN UGANA: THE VERY SPECIAL SÉANCE)を組んで頂いたんです。そこで上映されたのがその3本と『往訪』の続編である『捻転』という4作品で、日本ではその特集上映を再編成した形で、『捻転』以外の3本を上映することになりました。
― 3作品とも各国映画祭で注目を浴びた作品ですね。モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭での特集上映では現地にも行かれて、大変盛り上がったそうですね!
宇賀那監督:同映画祭は昨年に続いて現地登壇したのですが、今回もすごく温かく迎えて頂きました。ほかにも、ポルト国際映画祭、トリノ映画祭、リーズ国際映画祭など多数の海外映画祭で上映して頂いた3作品なんです。
モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭での特集上映「MADE IN UGANA: THE VERY SPECIAL SÉANCE」には『モジャ』チームから宇賀那健一監督、出演者の小出薫、関本巧文がモジャを連れて登壇。Q&Aが行われた3日間は多数の観客が会場に詰めかけた。 レポート記事はこちら |
― 『適応』は『異物 -完全版-』の中の一編として今年1月に日本で劇場公開されましたが、単独作品として観るとまた印象が変わりますね。以前の取材で、『コーヒー&シガレッツ』(ジム・ジャームッシュ監督/2003)を意識したとおっしゃっていましたが、個人的にはよりジャームッシュ味というか、スタイリッシュでオフビートな味わいを感じて新鮮でした。
宇賀那監督:確かに上映の順や作品の並びで印象が変わるかもしれないですね。『異物 -完全版-』で観た方もあらためて楽しんで頂けたら嬉しいです。
― 撮影もこの順番だったのですか?
宇賀那監督:いや、撮影は2020年6月に『適応』を撮影して、21年4月に『往訪』、同年11月に『モジャ』の順ですね。
― そうなんですね。今回の特集上映では上映の順番もすごく効いていると思いました。摩訶不思議な宇賀那ワールドを旅して、観客の皆さんがどんな顔で映画館を出るのか楽しみです!
『適応』より |
『モジャ』
人の話を聞くエイリアンを通して描き出す
“対話” と“人間”
― モジャはかわらしい造型と色が特徴的ですね。モデルはあるんですか?
宇賀那監督:色はプロデューサーの戸川(貴詞)さんが決めたんです。「こんな色のエイリアンってあんまりないよね」って。僕らだとクロマキー合成しづらいと思ってグリーン系は避けちゃうんですけど、今回は戸川さんの意見を尊重しました。『異物』を撮って、アナログで実際に“モノ”がある良さを体感したのでパペットでやりたいと思い、ギズモやファービーなんかの造型を参考にしてキャラクターを描いていきました。
― 昨年末の『異物 -完全版-』の取材の際に、宇賀那監督が「今こんなの撮っているんです」と見せてくださったのがモジャの写真で、「なんじゃこりゃ!」と思ったのを鮮明に覚えています(笑)。かわいい子どものクリーチャーかと思っていたのですが、完成作品を観たら物静かなおじさんキャラでさらに衝撃を受けました(笑)。
宇賀那監督:『異物』や『往訪』みたいに、字幕がなくても伝わるような作品がウケることはわかったけど、この作品では逆に “対話” を描きたいと思ったんです。モジャがもし人間だったら何の変哲もない会話劇なんですよ。でも、そういったことにあえて挑戦したいと思ったんです。
― なるほど……! モジャの受け答えや声のトーンなど “ちょっとした心の内を吐き出すのに、ちょうどいい話し相手感” の描き方が絶妙なんですよね。
宇賀那監督:モジャは、自分からはあまりしゃべらずに相手の話を聞いているだけなんです。“ただ聞いてあげる”、それこそ対話じゃないかなと思って。また、人間じゃないからこそ、“人間ってこういう生き物だよね”というのを浮き彫りにできると思ったんです。
今年1月に日本で劇場公開された『異物- 完全版-』「増殖」より |
― 結構深い挑戦ですよね。前作で異物がタバコを吸う姿にひどく人間味を感じたのですが、『モジャ』でも“人間らしさ”を象徴するアイテムとしてタバコを登場させていますね。
宇賀那監督:宮崎駿監督が食べ物を与えることに執着するみたいに、相手にタバコを与えるとか、ビールを飲むとか、オペラを歌ってあげるとか、そういうささやかすぎる能動的な物事と、あとはただ聞くっていうことに徹したいと思って描いたんです。
― モジャはタバコをあげることが人間の好意を表す行動だと受け取ったんですね。ささやかなことから彼が異形の生物を学習していく姿も愛おしいと思いました。登場人物もちょっぴりダメなかわいらしい人たちで、メインキャストの兵頭功海さん、小出薫さんのキュートな魅力がとても光っていました。
宇賀那監督:基本的に僕の映画はちょっとダメな人間がいっぱい出てくるんです。小出さんのシーンはほぼワンカットで撮っています。『異物』ではセリフがほとんどなかったって言っていたので、今作ではめちゃめちゃ長ゼリフを書いてやろうと思って(笑)。
― 優しいのか、サディスト監督なのか、どっちなんだろう……(笑)。
『往訪』
“過剰さ”へのこだわりで五感を刺激する
ブッ飛びホラーコメディ!
― 『往訪』は、今年2月にシアターギルドで開催された「宇賀那監督不条理新作祭り!」で拝見していたのですが、今回あらためて観て感じたのは「とにかく五感を刺激する映画!」ってことです。光と闇、湿度を含んだ悪臭、不快な感触、不可解な言語や音……五感から混沌に引き込まれる感じ! 右から迫ってくる音、左側でずっと鳴り続けている音など、音の立体感も効果的で、まさに映画館で“体感”してほしい作品だと思いました。
宇賀那監督:効果音に関しては、宇賀那組の常連のkeefarさんと、『スターウォーズ 帝国の逆襲』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『エクソシスト2』などを担当してアカデミー賞音響効果編集賞も受賞した小川高松さん、そして音響のスーパーバイザーとしてジブリ作品の大半を手掛けている大川正義さんという、夢のようなチームにお願いしたんです。
― すごい布陣ですね! 12月10日(土)から同じく池袋シネマ・ロサで公開となる長編映画『渇いた鉢』とのトーンの落差に「ホントに同じ監督!?」って思わず資料を確認しましたよ(笑)。後者はあまりにも重くシリアスな作品なので。
宇賀那監督:ははは(笑)。『渇いた鉢』の次に撮ったのがこの作品です。
― いやー、天才と変態は紙一重なんですねぇ……って、あ、これ褒め言葉です!
宇賀那監督:大丈夫です。むしろ嬉しいです(笑)。
― 毎回違うテイストやアプローチの作品を撮られるので、宇賀那監督の新作がリリースされるたびに「今度は何!?」とワクワクするのですが、ホラーコメディは監督が特に好きなジャンルとおっしゃっていましたよね。
宇賀那監督:ホラーコメディは大好きですね。
― お母様の影響が大きいとか。
宇賀那監督:そうですね。僕、幼稚園の頃に登園拒否をしていて母と過ごす時間が長かったんですが、買い物に行くと、帰りにレンタルビデオ屋に寄って母と僕の好きなビデオを1本ずつ借りて帰るのが恒例でした。僕はアンパンマンとかを選ぶんですけど、母親がきまってホラー映画を選ぶんです。それで、アンパンマンがカバおくんに自分の顔をあげる話を観たあとに、母と一緒に顔が吹っ飛ぶ映画とかを観ていました(笑)。そういうシーンはOKなのに、キスシーンになると目を隠されるっていう(笑)。ホラー映画ってエロ要素が必ず入っているので、毎回ちょっと気まずいんですよね。
― 宇賀那監督の感性は、お母様の英才教育の賜物だったんですね! ホラーとエロの組み合わせが生み出す “ザ・娯楽感” ってありますよね。本作でも主演の詩歩さんの服装を見て、すぐ「あざとエロい!」って思っていました(笑)。
宇賀那監督:ははは(笑)。おっしゃる通り、詩歩さんと「やっぱりこういう格好で血みどろにならなきゃダメだよね」って話して決めました。
― 細かいところまでこだわりを感じる作品は、キャストとスタッフ一丸で作り上げたんですね。血みどろとおっしゃったように、血の量もすごかった!
宇賀那監督:撮影中にキャストが血のりで溺れかけていました(笑)。僕が映画の表現でこだわっている“過剰さ”とか“繰り返し”に近い部分ですね。
― 海外映画祭では、観客はどんな反応をされていましたか。
宇賀那監督:ニューヨークでも二つの映画祭で上映されたんですが、一つはドライブインシアター上映で、過激なシーンになると観客が一斉にクラクションを鳴らすんです。別の映画祭では悲鳴と拍手が沸き起こったりして、「こういうのが見たかった!」って思いました。それを体感できたのは嬉しかったですね。
― わぁ、楽しそう! 日本でもマサラ上映や『ロッキー・ホラー・ショー』のような体感型の上映イベントもやってほしいです! すごく振り切った作品なので、ホラーやスプラッターが苦手な人もコメディとして楽しめると思います。
今年はとにかく量産。来年からは吸収する時期に
― 前述しましたが、本特集上映のすぐあとには、12月10日(土)より池袋シネマ・ロサほかで長編監督作『渇いた鉢』の公開が控えていますね。その後の活動についても差し支えない範囲で、教えて頂けますか。
宇賀那監督:今年公開の短編集と『渇いた鉢』以外に4本の長編が撮り終わっています。 全て来年公開になるかと思います。
― そ、そんなにあるんですか!? アイデアや気力が枯渇することはないんですか?
宇賀那監督:自分の計画として、今年までとにかく本数を重ねて、来年からはちょっと絞って、いろいろと新しいことを吸収していこうと思っているんです。
― そうなんですね! それにしても、どうしてこんなに集中して撮れるのですか?
宇賀那監督:『異物』で短編の連作っていうやり方を見つけたっていうのは、一つ大きいかもしれないですね。
― 作品のインスピレーションはどのよう得ているのですか?
宇賀那監督:特に何かから得ているというのはなくて、「こういうことがやりたい」からスタートして、その中で描いていくことが多いです。例えば、『往訪』はホラーコメディがやりたいからスタートして、日本的なのじゃなくて、日本でやるアメリカのホラーコメディみたいな感じがやりたい……とか。プロデューサーと最近観た映画の話をしていてアイデアが膨らむこともありますし。これというのは、自分でもわからないんですよ。
― 気持ちはあってもアイデアが枯渇しないのがすごいですよね。今後の作品もますます楽しみにしております! 本日はありがとうございました!
プロフィール&次回予告
【宇賀那健一(うがな・けんいち)】
神奈川県出身。1984年生まれ。高校のころから俳優活動を始め、舞台『地雷を踏んだらサヨウナラ 魂夢』(2001)、映画『着信アリfinal』(06/麻生学監督)、テレビドラマ『龍馬伝』(10/NHK)などに出演。2008年に映画『発狂』で初監督。長編映画に『黒い暴動♥』(16)、『サラバ静寂』(18)、『魔法少年☆ワイルドバージン』(19)、『転がるビー玉』(20)、2022年の劇場公開作は20 ヶ国 80以上の海外映画祭 に入選し12のグランプリを獲得した『異物-完全版-』、特集上映「宇賀那健一監督短編集:未知との交流」のほか、12 月10日(土)より『渇いた鉢』が公開待機中。
【特集:宇賀那健一監督 VOL.2】
12月10日(土)池袋シネマ・ロサほか公開
『渇いた鉢』
宇賀那健一監督&安部一希さん(主演/プロデューサー)
インタビュー
https://mini-theater.com/2022/12/07/vol-2-3/
予告編&作品概要
12月3日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国劇場公開
『適応』
(2020年/10分/4:3/5.1サラウンド/DCP/モノクロ)
出演:石田桃香、吉村界人、田中真琴、樹智子、オクヤマ・ウイ、ムラタ・ヒナギク、フカミ・アスミ
監督・脚本:宇賀那健一
エグゼクティブプロデューサー:中原隆 助監督:平波亘、猫目はち 制作:真田和輝 撮影・編集:小美野昌史 照明:加藤大輝 録音・整音・効果・MIX:紫藤佑弥 衣装:小笠原吉恵 ヘアメイク:寺沢ルミ 音楽:小野川浩幸 VFX:若松みゆき 特殊造詣:千葉美生、遠藤斗貴彦
制作・配給・宣伝:Vandalism渋谷 製作:『適応』製作委員会 Ⓒ『適応』製作委員会
【STORY】トモミはいつもと変わらない下らない日常にイライラしながらバーでのバイトをしていた。そんな中、コウダイは急いでバーへ向かっていた。昔の彼女であるミナに、家に帰ったらいたあるものを見せるためである……。
【映画祭情報】『異物-完全版-』の第二部としてトリノ映画祭、エトランジェ映画祭、スラッシュ映画祭、モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭などにて上映。
『モジャ』
(2022年/29分/16:9/5.1サラウンド/DCP/カラー)
出演:兵頭功海、小出薫、内木英二、関本巧文
監督・脚本:宇賀那健一
エグゼクティブプロデューサー:戸川貴詞 アシスタントプロデューサー:比嘉七海 撮影:古屋幸一 照明:加藤大輝 録音・効果・MIX:Keefar 助監督:岩屋拓郎 制作:真田和輝、佐原孝兵 編集:佐原孝兵 スタイリング:中村もやし ヘアメイク:寺沢ルミ メイキングムービー:ハナンハナ メインビジュアル写真:杉森健一、戸川貴詞 オフィシャル・メイキング写真・タイトルデザイン:戸川貴詞 VFX:若松みゆき 特殊造型:千葉美生、遠藤斗貴彦
制作・配給・宣伝:VANDALIS 製作:CAELUM ©CAELUM
【STORY】ある日、誰かの役に立とうとビルの屋上で「オレオレありがとう」を繰り返すセイヤのもとに、突然隕石が落ちてくる。セイヤが電話を切ると、エメラルドブルーの毛がモジャモジャの見たこともない生き物がそこにいた……。
【映画祭情報】ファンタ映画祭、フロリパ映画祭、モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭などにて上映。
『往訪』
(2021年/17分/16:9/5.1サラウンド/DCP/カラー)
出演:詩歩、平井早紀、板橋春樹、遠藤隆太
監督・脚本:宇賀那健一
撮影・編集:小美野昌史 照明:淡路俊之 録音:茂木祐介 音楽・整音・効果・MIX:Keefar 特殊メイク・特殊造型:千葉美生、遠藤斗貴彦 VFX:若松みゆき
制作・配給・宣伝:Vandalism 製作:『往訪』製作委員会 Ⓒ『往訪』製作委員会
【STORY】バンドメンバーのハルカ、ナナ、タカノリは連絡のつかなくなったソウタのもとを訪ねる。だが、そこにいたソウタの様子は少しおかしかった……。
【映画祭情報】世界三大ファンタスティック映画祭の1つであるポルト国際映画祭、モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭、リーズ国際映画祭、スラムダンス映画祭、エトランジェ映画祭、プチョン国際ファンタスティック映画祭、タンペレ映画祭、トロントアフターダーク映画祭、LA国際短編映画祭など、米国アカデミー賞公認映画祭5、イギリスのアカデミー賞公認4、カナダのアカデミー賞公認2、国際映画製作者連盟公認2つを含む40以上の映画祭で上映、NY国際短編映画祭他3つの映画祭で最優秀賞を受賞。
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- 2022年11月30日更新
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