映画館に行くきっかけとなる存在に―『転がるビー玉』などで気になる女優、萩原みのり

  • 2020年01月29日更新


最近、気になる映画で見かける気になる女優の一人に萩原みのりがいる。2019年、『お嬢ちゃん』での感受性あふれる演技が評判を呼んだかと思うと、2020年は1月31日(金)公開の『転がるビー玉』に続いて、『37セカンズ』『街の上で』と出演作が目白押し。自身も気になる映画はなるべく映画館で観るようにしているという萩原は「映画館に行くきっかけを作れるような存在になれたらうれしいですね」と意欲を口にする。【取材・インタビュー撮影:藤井克郎 スタイリスト:清水美樹 ヘアメイク:長坂賢】


この人に現場で挑みたい

―『転がるビー玉』(宇賀那健一監督)は、萩原さん演じる瑞穂と吉川愛さんの愛、今泉佑唯さんの恵梨香の3人が、急速に変わりゆく渋谷の街でルームシェアをしながら、それぞれ自分の生き方を模索する。まさに今という時代の色が映りこんだ今しか撮れない映画ですね。

萩原みのり(以下、萩原):今は情報が多すぎて、どこに向かったらいいのかがわかりにくくなっている気がします。いろんな人の言葉をもらいやすいから、もらいすぎて戸惑うというか、本当は何が正しいのかが自分で選べなくなっているのではないでしょうか。そのことでどんどん悩みが大きくなっているということを、この映画のオーディションで宇賀那監督と話しながら感じていました。

映画『転がるビー玉』場面写真―オーディションは3000人近くが参加したそうですね。

萩原:ツイッターで『転がるビー玉』のオーディションの情報を見つけて、初めて「自分から応募したい」とマネージャーさんにお話しして、応募しました。普段は、オーディションって合う、合わないだから、誰が受かっても仕方がないと割り切る部分がありますが、そのときは負けたくないという意思が強くあって、絶対に受かるんだ、くらいのつもりでした。それが監督にも伝わったみたいで、そのときのことを聞くと、「すごく怖かった」って(笑)。

1つ投げると100返ってくる

―主人公の3人は3人ともさまざまな悩みを抱えていますが、萩原さんが演じた瑞穂は仕事にも恋愛にもいろんな屈折を感じていて、複雑な役どころですね。

映画『転がるビー玉』萩原みのり萩原:強く意識していたのは、カメラの前で絶対に瑞穂として嘘をつかないということです。強がって笑っている自分も瑞穂だし、でも心の中では笑っていない弱い部分も瑞穂だし、瑞穂の中にあるいろんな気持ちのかけらをこぼさないようにするということを、すごく考えていました。人間らしい弱さというか、観た人が「そこなんだよね、自分も」って思えるような部分を、引き出しを開けていっぱい引っ張り出してきた気がします。

―髪の色がピンクなど見た目も印象的です。あれは宇賀那監督のアイデアですか。

萩原:そうですね。でも髪の毛をピンクにして美容院を出たら、やっぱり見られるんですよ、すごく。下を向いて歩きたいけど、前を向くしかないというか、自信があるんじゃなくて、自信をつけるしかない。そういう後付けの自信みたいなものが瑞穂にはあるのかなとか、見た目からもいろいろと思うところはありました。とにかく瑞穂の弱さは大事にしようと思っていました。

―吉川さん、今泉さんと3人で部屋にいるシーンは、アドリブが多かったそうですが。

萩原:台本に3行くらい書いてあって、そこからずっと長回しで何回も撮るといったことがありましたね。スイカ割りのシーンも「スイカ割りをしている」としか書いてなくて、後は全部その場で生まれたものです。1つ投げると100返ってくる2人だから、止まったなと思うと何か投げてみたりして……。映画を観るとちゃんとキャッチボールしている感じがしてよかったです。

人として魅力ある存在に

―映画には、宇賀那監督が伝えようとしたものが、3人の姿を通してとてもふくよかに表現されているような気がします。

萩原:監督はとても愛のある人で、オーディションのときも、「この仕事をやっていて、もうわからないんです」って話をしたら、本当に寄り添ってその姿を見てくれている感じがして、それがこの映画にも詰まっているなと思います。撮影中も「今のシーンのこことここがすごいよかった」というようなことを言ってくれるんですが、そういう現場ってなかなかないんですよね。だから私たちもすごくやりやすかったし、アドリブもどんどん出して、面白いことをもっとやろうとなれた気がします。

―変わりゆく渋谷の街も映画のテーマの一つですが。

萩原:この3人が孤独を感じている理由として、渋谷に住んでいるということも大きいんだろうなと思っていました。変化するスピードがものすごく速く感じるし、置いていかれる感じ、自分だけ間に合っていない感じがするときがときどきあります。3人はそれで葛藤しているのかなとも思いますね。

とにかく「他人」という言葉を強く感じる場ですね。全員が知らないって、それがいいときもあるけど、逆に言えば誰にも頼れない、助けを求めにくいということでしょう。私が田舎で育ったというのもあるかもしれませんが、上京して何年たってもそうですし、多分これからもずっとそうなんだろうなとは思います。

―この作品と出合い、宇賀那監督に挑んで、役者を続ける決意はつきましたか。

萩原:うーん、やりたいと思ってやれる仕事じゃないから、私が決めることじゃないというのはずっと思っています。撮りたいと思ってもらえないと、カメラの前には立てませんからね。

ただ人として魅力のある存在になりたいなという思いはあります。ちゃんと生きたい、ちゃんと生活をして、魅力的な人間味のある22歳、23歳になっていけたら、「絶対に見ている人はいるから大丈夫だよ」というこの映画のメッセージにつながっていくのかなと漠然と感じています。

演じる役が愛されてこそ

映画『転がるビー玉』場面写真―今後も出演作が相次いで公開されますし、いろんな役を演じていますが。

萩原:演じる役が、映画に映っていないところでも、「この人、何しているんだろう」とか思ってもらえたらうれしいですね。萩原みのりがどう思われるかはどうでもよくて、その役が愛される方がうれしいんです。

デビューしてすぐくらいのとき、ドラマの本読みで主演の方がおっしゃっていたんですが、「愛される役にします」という言葉がすごく印象的で……。その役が愛されてこそというのは、今も心がけています。

―ご自分でも映画はよく観にいくのですか。

萩原:その作品が映画館で観られる時期って限られているから、映画を映画館で観るのは特別なことだと思っています。後で観ておけばよかったと思ってももう行けないし、ちょっとでも気になる映画は、なるべく映画館で観るようにしていますね。

テレビ画面だと、小さな目の揺れとか気づかなかったりするんですが、映画館で観て、こんなにも人間を描いているんだとわかったら面白くて……。みんなが同じ画面を暗闇の中で静かに観ているというあの空間がドキドキするんですよね。

『ゼロ・グラビティ』(アルフォンソ・キュアロン監督)を観にいったとき、みんな一斉にポップコーンを食べるのをやめる感じがしたんですが、みんなで一つの空間を作って映画を観るというのがすごく好きですね。最近は映画を観ながらしゃべる人とか、携帯電話を見る人とかいますが、映画館って作品の中に溺れるというか、潜れる場だと私は思っています。私が出ている映画がきっかけで映画を観るようになりましたと言ってくださる方がときどきいらっしゃると、やっぱりうれしいですね。

プロフィール

【萩原みのり(はぎわら・みのり)】
1997年3月6日生まれ、愛知県出身。2013年、ドラマ『放課後グルーヴ』で女優デビュー。その後、ドラマ『表参道高校合唱部 !』(2015/TBS)、『I”s』(2019/BSスカパー!)、『虫籠の錠前』(2019/WOWOW)、映画『64 – ロクヨン – 前編・後編』、『何者』(2016)、『昼顔』『ハローグッバイ』(2017)、『お嬢ちゃん』(2019)などに出演。2020年は映画『37セカンズ』『街の上で』などの公開が控えている。今もっとも注目を集める若手女優の一人。

作品&公開情報

映画『転がるビー玉』ポスター画像(2020年/日本/94分)
監督:宇賀那健一 プロデューサー:戸川貴詞
共同プロデューサー:小美野昌史
キャスティングプロデューサー:當間咲耶香
脚本:宇賀那健一、加藤法子
音楽:佐藤千亜妃 撮影:古屋幸一
照明:加藤大輝 録音:茂木祐介
助監督:平波亘 美術:横張総
スタイリスト:小笠原吉恵 ヘアメイク:寺沢ルミ
出演:吉川愛、萩原みのり、今泉佑唯、笠松将、大野いと、冨手麻妙、大下ヒロト、日南響子、田辺桃子、神尾楓珠、中島歩、徳永えり、大西信満、山中崇 ほか
配給:パルコ © 映画『転がるビー玉』製作委員会

公式サイト

【ストーリー】再開発が進む渋谷にたたずむ古いシェアハウスで共同生活を送る愛(吉川愛)、瑞穂(萩原みのり)、恵梨香(今泉佑唯)の3人。モデル、雑誌編集、ミュージシャンとそれぞれの夢を追いながら、もがき悩む日々を送っていた。

※2020年1月31日(金)より渋谷WHITE CINE QUINTOほか全国順次公開

◎ゲストライター
藤井克郎(ふじい・かつろう) 1985年、フジ新聞社に入社。夕刊フジの後、産経新聞で映画を担当する。社会部次長、札幌支局長などを経て、2013年から文化部編集委員を務め、19年に退職。facebookに映画情報ページ「Withscreen.press」を開設し、同年12月にはwebサイト版「Withscreen.press」をオープン。

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