【スクリーンの女神たち】『誰かの花』和田光沙さんインタビュー

  • 2022年01月08日更新

映画『誰かの花』和田光沙さんインタビュー
“スクリーンで女神のごとく輝く女優”にインタビューをする本コラム。今回は、横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画『誰かの花』(奥田裕介監督)に出演される、和田光沙さんにご登場いただきました!

ベランダから落下した植木鉢による死亡事故。認知症の父親に疑念を抱く息子——その真実を巡り、さまざまな立場の人の真実と正義が交差するサスペンスフルな人間ドラマを、緻密な脚本で描く本作。被害者の妻である灯(あかり)を演じた和田さんに、作品に込めた思いなどをうかがいました。東京国際映画祭での舞台挨拶直前にインタビューに応じてくださった和田さん。晴れ舞台のために用意した、上品かつ艶やかな和装姿で登場してくださいました! ●『誰かの花』あらすじは→こちら

(取材:min 撮影:ハルプードル 2021年10月31日 第34回東京国際映画祭にて)


緻密な脚本に感情を摺り合わせながら灯を演じた

— 本作ご出演の経緯についてお聞かせいただけますか。

映画『誰かの花』和田光沙さんインタビュー和田光沙さん(以下、和田):上村奈帆監督の『蒼のざらざら』(2014年製作/2020年劇場公開)に主演させていただいた時に、奥田さんが制作で参加されていたんです。その時に「自分が作品を撮る時には出てほしい」とおしゃってくださったんですけど、そのまま数年経ってしまって。今回お声がけいただいて、ようやくご一緒できたんです。

— 数年越しの思いが叶ったんですね。今作で和田さんが演じられた灯は、普段から話し方も淡々としていて、感情の起伏をあまり見せない人物という印象でした。夫が亡くなった事に対しても、最初は現実味がないというのもあると思うんですが、気持ちをあらわにするわけではなくて。感情の機微を表現するのが難しかったのではないでしょうか。

和田:そうですね。私自身が経験したことのない感情でしたし、最初に脚本を読んだ時は「灯って感情どうしちゃったんだろう?」とも思いました。でも、大切な人を亡くしたあと、感情を取り戻すまでにはやはり時間がかかるようなんですね。それは、脚本にも描かれていたし、実際に大切な人の死を経験された方の本やブログを読んだり、監督ご自身の経験をうかがったりして理解していきました。その上で、どう夫の死を受け入れて現実と向き合うっていくのか、演じてみないと分からない部分もたくさんあって、撮影のたびに監督に細かく相談しながら作り上げていきました。

— 普段の灯のテンションをどのくらいの高さに置くとか、どういう人物像なのかというような説明も奥田監督からあったのですか。

和田:監督から人物象を直接提示されることはなかったですが、役の行動が脚本に細かく書かれていたので、それをヒントにしました。例えば、タバコを吸うシーンや、セリフ一つにしても、事故後は日常とはやはり少し違う行動が描かれていて。それは昂ったものを表現するとかではない方向性だったので、脚本をヒントにしながら探っていきました。

映画『誰かの花』和田光沙さんインタビュー

— 本作は、シーンの一つひとつに込められたものがすごく緻密で濃厚です。灯が忠義さん(高橋長英)に手袋を渡すだけでギクっとさせられたり、病院の喫煙所で主人公の孝秋(カトウシンスケ)と話したあと、灯が一人で急に「ふっ」と笑ったり。真意は分からないけど、すごく生々しく感じたんです。あまりに細やかでアドリブなのかな、とも思いましたが。

和田:全編ほぼ脚本通りなんです。手袋のシーンは、脚本を読んだ時点では特別なセリフだとは感じずにいたんですが、現場で演じた時に「ああ、多分そういうことなんだ!」って。奥田さんの演出の手腕ですよね。
喫煙所のシーンは「あ、笑うんだ」と思って、ここは奥田さんに聞いたんです。あまりにも受け入れ難い現実を目の前にした時に、人間って笑っちゃうことってあるよな、ということらしいんですが、それはすごく腑に落ちて。

— 何気ない描写にも繊細なニュアンスや心理が垣間見えたり、ドキっとするような含みを感じたり。日常のささいな判断や善悪の捉え方が、被害者側と加害者側という立場の境界線になりうることや、考えさせられるシーンが多々あって、ずっと驚愕しながら観ていました。

和田:本当にそうなんです。奥田さんが身を削って書かれたことがひしひしと伝わってくる脚本で、その緻密さと熱量に引っ張られるように取り組んだ作品です。真摯に向き合わなければと思いましたし、最初に脚本を読んだ時から「これは気合いを入れてやらないと!」と思いました。

吉行和子さんの芝居でガツンとぶつけられた
「悲しみと共に生きていくこと」

映画『誰かの花』和田光沙さんインタビュー— 登場人物それぞれの正義や思いが描かれた作品ですが、客観的に観て和田さんは誰に一番共感しますか?

和田:吉行和子さんが演じられた孝秋の母親のマチさんですね。脚本を読んだ時に、辛い過去を経て、ある種あっけらかんと生きるマチさんの姿にグっときて。登場人物それぞれ背負うものがあって、自分の正義と闘いながら生きているけど、それを全部包み込むようなお母さんの存在がこの作品の救いだなと思いましたし、実際に吉行さんが演じられているのを観てさらにそう感じました。

— マチさんも、何かを察して明るく振舞っているのか、うかがい知れない部分を感じました。特にどんなシーンが印象的でしたか。

和田:物語の終盤、亡くなった息子と電話をするシーンの中に一瞬の間があるんです。マチさん自身の深い悲しみをその一瞬にだけ出されたと、私は受け取ったんですけど。脚本を読んだ時は、私はその感情に気付いていなかったんです。ほかの登場人物たちが悲しみをあらわにしても、マチさんはその先を行っているように見えていたので。

でも、そうじゃなかった。乗り越えられるものではないんだ、悲しみと共に生きていかなければならないんだって、吉行さんの芝居でガツンとぶつけられて。

脚本を読みながら吉行さんが演じる姿を思い浮かべていましたが、自分の想像が浅はかだと思うくらい、本当に素晴らしかったですね。

— 自分が主人公の孝秋ならどうするだろうということも考えずにはいられない作品です。私自身は完全に孝秋に感情移入して観ていたので、上映中はずっと葛藤の中にいました。

和田:難しいですよね。自分の家族がという立場になった時に、簡単に答えは出せないですよね。

— 正直、ヘルパーの里美さん(村上穂乃佳)を鬱陶しくも思う瞬間もありましたし。だけど、孝秋もきっと混沌の中にいて、時間経過と共にさまざまな事実や思いと向き合って、帰結すべき正義を見つけていくのだろうと思う気持ちもすごくあって。

和田:劇中では何も結論は出ていないですけど、気持ちも変化していくと思いますし、それは生きていればこそなんですよね。結局は亡くなった人への思いも抱えて、生きていかなければならないですから。生きること、死ぬことについてすごく考えた作品です。

— 登場人物たちがこの物語の先をどう生きていくのか、観た人自身に答えを委ねるかのような余白を残して、だからこそ誰かと語りたくなる作品でもあって。そういう部分にも脚本の緻密さを感じました。奥田監督、本当にすごいです!

映画『誰かの花』和田光沙さんインタビュー 映画『誰かの花』和田光沙さんインタビュー

いたたまれないほどの空気に圧倒されたシーン

— ご自身が演じられる中で、印象深かったシーンはありますか。

和田:交通事故の被害者遺族の会に灯が参加するシーンは、そこにいるだけでいたたまれないというか、すごい空気でした。詳しいことはうかがっていないのですが、参加者役の方は、ご自身で考えてきたことをお話しされたようなんです。一人ひとりのアプローチがリアルで、少し気を抜いたら泣いてしまいそうな、ある意味キツい現場でした。

— 孝秋が加害者家族と思しき立場になる前となった後で、被害者会の人たちの話の聞こえ方がまるで変わることに、自分自身驚きながら観ていました。あくまで個人的な感想ですが、孝秋の立場が変わってからは、急に被害者会に特殊な空気すら感じてしまって……。だけど、和田さんが先ほどおっしゃったように、生きていかなければならないから、加害者を憎む感情も一種独特の団結感も、生きるために必要な“盾”なのだろうと感じました。

和田:何かにすがらないと生きていけない人間の弱さも、逆に強さも感じたシーンですよね。よく作り上げられたな、という奥田さんへの思いもあったし、演じる方々が任された以上のものを持ってそこにいらしていたので、圧倒されました。実際に使われたシーンの10倍くらいはカメラを回していたんじゃないでしょうか。

映画『誰かの花』和田光沙さんインタビュー

おそるべき子役! 琉星くんの素顔とは?

— すごく重いテーマの作品ですが、撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。

和田:私は息子役の太田琉星(るせ)くんと一緒のシーンが多かったので、撮影の合間は琉星くんを中心に和気あいあいと過ごしていました。

— 相太を演じた琉星くんのインパクト、強烈ですよね。いわゆる子役というよう演技ではないですし。本能的に何かを見透かしているのか、それとも子どもながらの無邪気さなのか、相太にかなり翻弄されました。一瞬ギョっとさせられるような意味深なシーンも多くて、すごい存在感でしたよね。普段はどんな子なのか、めちゃくちゃ気になります。

和田:普段はすごく素直で子どもらしいんですよ。撮影前に監督が琉星くんとコミュニケーションを取る時間も作ってくださって一緒にカレーを作ったんですが、すごく人懐っこくて、本当にかわいいんですよ。

— それであの演技! しかも映画初出演とうかがっています。いやー、末おそろしい(笑)!

和田:すごいですよね。変に芝居がかっているわけでもなくて、ただ本番に入った時の集中力はすごかったです。ほんと、怖いです(笑)。

無駄な感情は何一つない
それが「生きる」ということ

映画『誰かの花』和田光沙さんインタビュー— 本作は終盤に向かって、「赦し」というテーマも描かれます。あらためて難しいことだと思いましたし、想像で答えが出せるものではないとも思います。ましてや、本作はどう物語が帰結していくのかも分かりません。でも、あえてうかがいたいのですが、和田さんご自身は、灯の未来にこの不幸な事故を「赦す」という感情は生まれると思いますか。

和田:うーん……すごく時間はかかるだろうなとは思います。まずは子どもを育てて生きていかなければいけないですし、この映画の中では、灯は夫の死を受け入れるというスタートラインにすら立てていないので。

でも、私の願いとしては赦していってほしいですね。やっぱり誰かを恨み続けていくのは辛いことですし。灯が幸せになってほしい……って、言うのは簡単ですけど。

先ほど話した被害者会の方たちも、今は何かにすがるような気持ちで生きているのかもしれないですけど、前を向いて生きている限り、ささいなきっかけでまた考えも変わっていくのかもしれません。無駄な感情は何一つなくて、それが「生きる」ということなのかな、とも思います。

オフビート系の映画で演技に目覚める!?

— 和田さんご自身についてもお聞きしたいのですが、幼い頃から役者さん憧れていらしたとか。きっかけ何だったのですか。

和田:子どもの頃に、よくミュージカルを観に連れて行ってもらって、漠然と自分も出てみたいと思ったのがきっかけだと思います。中学生になって、映画を観るようになって、そこから演じることに興味が出てきました。

— どんな映画作品をご覧になっていたのですか。

和田:山下敦弘監督の『リアリズムの宿』(2004)とか、オフビート系の映画をビデオで観ることが多かったですね。それまで自分が思っていたお芝居じゃなくて、「こういう普通の会話をすることもお芝居になるんだ、これなら私にもできそう!」と思ってしまって(笑)。今は、ぜーーーったいにそんなこと言えないです(笑)!

— あははは。でも、映画の入口がオフビート系って、ちょっとおませさんですよね(笑)。

映画『誰かの花』和田光沙さんインタビュー和田:そうかもしれないですね。高円寺出身なので土地柄の影響も受けていたのかもしれません(笑)。

— さすが、サブカルチャーの聖地、高円寺(笑)。でも、すぐに演劇の道には行かれず、一度は会社員もご経験されているとか。

和田:もともと、あまり表に出る性格でもなかったし、シャイだったので、そのまま何となく大学に行って就職して。だけど、このままじゃ絶対にやれないと思って、一念発起して会社を辞めたんです。何から始めていいのかも分からないまま、映画館に置いてあったチラシを見て、緒方明監督のワークショップに参加して、それがきっかけで『靴ヶ浜温泉コンパニオン控室』(2008)という短編作品に出演することになったんです。

— その時、勇気を出してくださって、ファンとしてもよかったです! 今では映画に舞台に幅広くご活躍されて、待機作も『手』完全版などが控えていらっしゃいますね。

和田:わぁ、知ってくださっていて嬉しいです! 『手』完全版は夫(福谷孝宏氏)と一緒に頑張って作っている作品なので、ぜひ公開を楽しみにしていてほしいです。

— 楽しみにしています! 今後演じてみたい役などはありますか?

和田:どんな役もやってみたいですが、アクションがやりたいですね。体を動かすのが好きなんです。

— 和田さんのアクション姿もぜひ拝見したいです! お忙しいなか、どうやってリラックスしていますか?

和田:奇しくもカトウシンスケさんと同じなんですけど、何年も前から唯一の趣味が「銭湯」なんです。仕事で地方に行った時も必ず銭湯巡りはします。スパも好きですが、断然、公衆浴場派です!

— 公衆浴場の魅力は何ですか?

和田:土地ごとに風土感があるというか、地元の方の会話を聞くのも好きですし、数は減っていますけど、昭和的な古き良き文化が残されていくことも好きなんですよね。銭湯通いを始めたのも、役作りに煮詰まってリフレッシュしようと行ったのがきっかけです。今で言うところの「整う」じゃないですけど、一人でいろいろ考える時間も含めて、大の銭湯好きです。

— 和田さんの名演技の影に銭湯あり、だったんですね! 本日は貴重なお話をありがとうございました!

『誰かの花』作品・公開情報

【STORY】鉄工所で働く孝秋(カトウシンスケ)は、薄れゆく記憶の中で徘徊する父・忠義(高橋長英)とそんな父に振り回される母・マチ(吉行和子)のことが気がかりで、実家の団地を訪れる。しかし忠義は、数年前に死んだ孝秋の兄と区別がつかないのか、彼を見てもただぼんやりと頷くだけであった。
強風吹き荒れるある日、事故が起こる。団地のベランダから落ちた植木鉢が住民に直撃し、救急車やパトカーが駆けつける騒動となったのだ。父の安否を心配して慌てた孝秋であったが、忠義は何事もなかったかのように自宅にいた。だがベランダの窓は開き、忠義の手袋には土が……。
一転して父への疑いを募らせていく孝秋。「誰かの花」をめぐり繰り広げられる偽りと真実の数々。それらが亡き兄の記憶と交差した時、孝秋が見つけたひとつの〈答え〉とは。

(2021年/日本/115分/5.1ch/アメリカンビスタ)
英題:Somebody’s Flowers
脚本・監督:奥田裕介

出演者:カトウシンスケ、吉行和子、高橋長英、和田光沙、村上穂乃佳、篠原篤、太田琉星、大石吾朗、テイ龍進、渡辺梓、加藤満、寉岡萌希、富岡英里子、堀春菜、笠松七海

撮影:野口高遠 照明:高橋清隆 録音:高島良太 衣装:大友良介 ヘアメイク:ayadonald / 大久保里奈 制作:佐直輝尚 助監督:松村慎也、小林尚希、高野悟志
音楽:伴正人 整音:東遼太郎
エクゼクティブプロデューサー:大石暢、加藤敦史、村岡高幸、梶原俊幸
プロデューサー:飯塚冬酒
製作:横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画製作委員会
宣伝・配給:GACHINKO Film

『誰かの花』公式サイト

※2022年1月29日(土)より横浜ジャック&ベティ、ユーロスペースほか全国順次公開

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