かつて心の拠りどころだった映画とミニシアターへの思い―『銀平町シネマブルース』主演・小出恵介さんインタビュー
- 2023年02月14日更新
現在、新宿武蔵野館ほかで絶賛公開中の『銀平町シネマブルース』は、時代遅れの⼩さな名画座 “銀平スカラ座” を舞台に映画を愛する人たちが繰り広げる群像悲喜劇。城定秀夫監督がメガホンを執り、いまおかしんじ氏が脚本を手がける本作で、主人公の映画青年の近藤猛を演じたのが小出恵介さんだ。自身も学生時代に映画監督を目指し、ミニシアター文化に心酔したという小出さん。本格的な映画主演復帰となる本作への思いや、ミニシアターにまつわる思い出などを語っていただいた。
取材:富田旻 撮影:ハルプードル ヘアメイク:永瀬多壱(VANITES)
若かりし頃、心の拠りどころだった映画。その思いが報われた気がした
― 小出さんは、もともと映画監督志望で、学生時代はミニシアターにも足繁く通っていらしたとか。そういった背景をお持ちで、本格的な映画主演復帰がこの作品というのは、特別な思いがあるではないでしょうか。
小出恵介(以下、小出):そうですね。高校3年生のときに映画監督になりたいと思って、そのころからミニシアターにも通い出しました。自分が若かりし頃、心の拠りどころだったのは映画でしたし、俳優デビューさせてもらったのも映画ですので、僕の中にも映画への思いはずっとありました。今作ではそれが活かせるというか、報われる感じがありましたね。
― 初タッグとなった城定秀夫監督の印象や、撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。
小出:城定さんの持つ独特な雰囲気が現場を作っていたと思います。独特の間や静けさみたいなものがあって、それがそのまま作品のリズムにもなった気がしますね。すごく不思議な方ともいえますし、チャーミングで、クレバーで、多面的な魅力のある素敵な方です。
― 近藤猛役については、どんな演出がありましたか。
小出:具体的な演出はそんなに多くないですけど、全体的なトーンを少し低めでというリクエストはありました。ちょっと沈んでいてほしいとか、声を小さくといか。そういったところから、近藤という人間を類推したり役柄を埋めていったりすることができました。
― 魅力的かつ個性的なキャストが多数ご出演されているのも本作の大きな魅力ですね。
小出:そうですね。キャスト同士、それぞれに繋がりがあるようで、みなさん和気あいあいというか、楽しそうに撮影していたと思います。僕も撮影の合間にみなさんと雑談したりしました。
シネマライズ、シネセゾン渋谷……愛すべき思い出のミニシアターたち
― 劇中映画が2本(『監督残酷物語』『はらわた工場の夜』)も登場して、どちらも本編として映画化してほしいくらい見応えがありました。
小出:劇中映画が2本も登場するのは贅沢ですよね。僕、『監督残酷物語』でダメ監督役を演じた守屋文雄さんが大好きなんです。絶妙な味を出されていますよね。『はらわた工場の夜』は、ラストシーンのさとうほなみさんがめちゃくちゃかっこよくてキレイで。『セーラー服と機関銃』(1981/相米慎二監督)の薬師丸ひろ子さんのオマージュじゃないかなって思っているんですけど、ぜひそこも楽しみに観てほしいですね。
― 『はらわた工場の夜』はホラーでしたけど、小出さんご自身はホラー映画もご覧になるんですか。
小出:いや、僕自身は、ホラーもゾンビものもあまり観ないんですよ(笑)。
― そうなんですね。映画監督を目指されたのはどういったきっかけだったのですか。
小出:高校3年ぐらいから映画館に通い出して、映画業界に入れたらなと思うようになりました。それで、当時イメージフォーラムでやっていた8ミリフィルムのワークショップにも通ったりしましたね。カリキュラムの中で3分ぐらいの監督作品を作ったり、そこで知り合った方たちの自主映画を手伝ったりしていました。
― カリキュラムの中で作られたのは、どんな作品だったのですか。
小出:単純に、フィルムで撮って編集する作業を経験するのが目的でつくったものですけど、当時好きだったバンドのゆらゆら帝国の曲をイメージして、コマ撮りのミュージッククリップみたいものをつくったんです。タイトルは『妄想族』だったかな。自分が見ていた世界から急にトリップして、紙が鶴の形になって襲ってくるとか。そういう日常の中の妄想を描いているんですけど、ラストでは妄想だと思っていたものに攻撃されて、血が流れている……っていう内容だったと思います。
― おもしろそう! その貴重な作品観てみたいです!
小出:懐かしいですねぇ。実家にはまだあると思いますよ(笑)。
― そのご経験は、俳優になられたときに役立ちましたか。
小出:そうですね。ただ、映画に触れていたからこそ憧れも強く芽生えていたので、実際にこの世界に入ったときは、その分大変という感じもありました。
― 具体的に、どういった大変さだったのでしょうか?
小出:なんとも思ってなければスっとできることが、好きだからこそ難しく考えすぎたり、ことさら崇高に構えちゃったりとか、そういう感覚がありました。だけど、若かりし頃のそんな自分も、映画館に通った思い出も、この作品には活かせたと思います。
― 学生時代は渋谷界隈のミニシアターによく行かれていたそうですね。
小出:行っていましたねぇ。シネクイント、シネセゾン渋谷、シネマライズ、シネアミューズ イースト&ウエスト、イメージフォーラム、ユーロスペース、アップリンク渋谷……当時、渋谷界隈だけで10館以上あったと思うんですが、全部行っていたと思います。
― 2000年代初頭くらいですよね。特に好きだったのはどの映画館ですか。
小出:シネマライズ、シネセゾン渋谷かなぁ。特にシネセゾンのセレクトはすごく好きでした。
― わかります! めちゃくちゃいいラインアップでしたよね。どちらも閉館したときは、とても悲しかったです。
映画を愛するたくさんの人に観てほしい、“観心地(みごこち)” のいい映画!
― 本作の撮影場所となった川越スカラ座(埼玉県)ほかでの特別先行上映や、映画公開後も各地で舞台挨拶にご登壇されていますが、実際に観客の反応を生で感じられていかがでしたか。
小出:熱意を持って映画の感想を伝えてくださる方が多かったですし、やはり映画がお好きな方には強く太く刺さっているなと感じました。より多くの方に届けたいとあらためて思いました。
― 作り手と観客の距離がより近く感じられるのもミニシアターの魅力ですよね。観客の皆さんと触れ合って、どのような思いを抱きましたか。
小出:自分がミニシアターに通っていた時期を思い出しますね。当時、どういう気持ちで、何を求めてそこに行っていたかとか。映画自体はよくわからなくても、そこが居場所になっていた気もしますし、サロンのような場所でもあったなと。それだけでも、意義がある場所だったと思うんですよね。
― 本作の中でも、年齢も性別も肩書きもさまざまな人が映画館を愛する気持ちで繋がっていて、そこがすごく素敵です。
小出:そうですね。オール・ア・ラウンド映画好きのための映画というか。だから、映画に愛情を持っている人たちにたくさん観ていただけたら、この作品が報われる気がします。
― 完成された作品をご覧になっての感想は?
小出:具体的に何かを感じたというよりは、「映画っていいよね、映画好きってこうだよね」という風味みたいなものを嗅ぐ100分というのかな。すごく居心地がいいというか、“観心地”のいい映画になっていると思います。
― “観心地”のいい映画! たしかに!
小出:構えずに観られる作品だけど、その中でたまに刺さるセリフが出てきて。そんな仕掛けになっている作品です。
映画監督への憧れは、今も胸の奥に
― 今も監督として映画を撮ってみたいという気持ちはありますか?
小出:なくはないですね。自分が働きかけるってことでもないかもしれないですけど、「監督いいな」とは思います。
― もしも、なんでも好きな作品を撮っていいというような状況があったら、どんな作品をつくりたいですか?
小出:アメリカの人種差別や偏見をテーマに描いた、ポール・ハギス監督の『クラッシュ』(2004)が大好きで、ああいう群像劇の人間ドラマを撮ってみたいですね。一つ共通したテーマをつかまえて、それにまつわる群像劇があって、さらに、『バベル』(2006/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)みたいに、それぞれの物語がちょっとずつシンクロしていくみたいなのは、おしゃれだと思いますね。
― パっとそういう構想が出くるところにも、監督的な視点をお持ちなんだなと思いましたし、映画愛を感じてしまいました。映画を監督された際には、ぜひまた取材させていただきたいです!
小出:いいですね! 僕は映画って監督のものだと思うんですよね。ほかのメディアはまたちょっと違うと思うんですけど、映画は圧倒的に監督のものだと。だからこそ、もし監督になったら、それはもう思う存分楽しみたいなと思います(笑)。
― 最後に、映画と映画館を愛する当サイトの読者に向けてメッセージをいただけないでしょうか。
小出:「ミニシアターに行こう。」って、この映画に一番ハマっている媒体名じゃないですか! まさにその通りの映画です(笑)。作品内容は間違いないと自信を持って言えますので、ぜひ映画館でご覧になって頂けたらと思います! そして、コツコツじわじわとでも、この映画が広まっていけば嬉しいです。
プロフィール
【小出恵介(こいで・けいすけ)】
1984年2月20日生まれ。東京都出身。慶應義塾大学文学部卒業。2005年、日本テレビ系ドラマ「ごくせん」でデビュー。同年、映画『パッチギ!』(井筒和幸監督)に出演し注目を集める。以降、TBS系ドラマ『ROOKIES』、『JIN-仁-』、『N のために』、フジテレビ系ドラマ『のだめカンタービレ』、NHK 連続テレビ小説『梅ちゃん先生』、映画『僕の彼女はサイボーグ』(08/郭在容監督)、映画『風が強く吹いている』(09/大森寿美男監督)など映画やドラマ、舞台などで幅広く活動。近年の主な出演作に、映画『シン・ゴジラ』(17/樋口真嗣監督)、『愚行録』(17/石川慶監督)、『ハルチカ』(17/市井昌秀監督)、『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』(17/ゴードン・チャン監督)、『女たち』(21/内田伸輝監督)、『Bridal, my song』(22/板橋基之監督)、ABEMA オリジナルドラマ「酒癖50」(21)、舞台「群盗」(22)、「12 人の淋しい親たち」(22)、「日本昔ばなし」 貧乏神と福の神 〜つるの恩返し~」(22)などがある。
予告編・作品情報
⼀瞬の夢と、祭りの終わり。この場所からもう⼀度――
【STORY】かつて⻘春時代を過ごした町・銀平町に帰ってきた⼀⽂無しの男・近藤は、ひょんなことから映画好きのホームレスの佐藤と、商店街の⼀⾓にある映画館 “銀平スカラ座”の⽀配⼈・梶原と出会い、バイトを始める。同僚のスタッフ、⽼練な映写技師、売れない役者やミュージシャンに映画に夢⾒る中学⽣などの個性豊かな常連客らとの出会いを経て、近藤は映画を作っていた頃の⾃分と向き合い始めるが……。
(日本/アメリカンビスタ/5.1ch/99分 )
出演:⼩出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、⽇⾼七海、中島歩、⿊⽥卓也、⽊⼝健太、⼩野莉奈、平井亜⾨、守屋⽂雄、関町知弘(ライス)、⼩鷹狩⼋、⾕⽥ラナ、さとうほなみ、加治将樹、⽚岡礼⼦、藤⽥朋⼦ / 浅⽥美代⼦、渡辺裕之
監督:城定秀夫 脚本:いまおかしんじ
エグゼクティブ・プロデューサー:⾕川寛⼈ プロデューサー:久保和明、秋⼭智則|
共同プロデューサー:飯⽥雅裕
企画:直井卓俊 ⾳楽:⿊⽥卓也
撮影:渡邊雅紀 照明:⼩川⼤介 録⾳:松嶋匡 サウンドデザイン:⼭本タカアキ 美術:⽻賀⾹織
ヘアメイクディレクション:須⽥理恵
スタイリスト:天野泰葉、切⾦実紀
助監督:伊藤⼀平 制作担当:酒井識⼈ キャスティング:伊藤 尚哉
ラインプロデューサー:浅⽊⼤ スチール:柴崎まどか 編集:城定秀夫
製作:「銀平町シネマブルース」製作委員会(リズメディア・レオーネ・クロックワークス・SPOTTED PRODUCTIONS・オフィス事務所)
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
©2022「銀平町シネマブルース」製作委員会
※2023年2⽉10⽇(⾦)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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