3月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2023年03月01日更新

3月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

LINE UP
3/3(金)公開『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
3/3(金)公開『丘の上の本屋さん
3/10(金)公開『有り、触れた、未来』※3/3(金)より宮城県先行上映
3/10(金)公開『Winny
3/17(金)公開『メグレと若い女の死
3/17(金)公開『零落
3/18(土)公開『郊外の鳥たち
3/18(土)公開『Single8
3/18(金)公開『赦し
3/24(金)公開『雑魚どもよ、大志を抱け!

更新情報:3月4日に『メグレと若い女の死』を追加掲載しました。


『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

異次元の家族や敵と繰り広げる驚きの映像世界

『スイス・アーミー・マン』でカルトな人気を集めたダニエル・クワンとダニエル・シャイナートのダニエルズ監督が、マルチバースを題材にかつてない驚きの映像世界を構築した。家族でコインランドリーを経営している中国系移民のエヴリンは、優柔不断な夫と反抗期の娘、それに介護が必要な父親を抱えていら立っていた。税金問題も悩みの種だったが、国税庁を訪れたエヴリンは突如、別次元の夫から宇宙を救うように告げられる。さまざまな異世界の家族や敵が次々と現れ、美術や衣装だけでなく画面サイズも目まぐるしく切り替わる中で、エヴリン役のミシェル・ヨーらが激しいアクションを繰り広げる。『2001年宇宙の旅』など数々の名作映画へのオマージュもちりばめられていて、これまでに味わったことのない斬新な映像体験に酔いしれた(藤井克郎)

2023年3月3日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/アメリカ/140分)原題:Everything Everywhere All At Once 脚本・監督・製作:ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート 出演:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ジェイミー・リー・カーティス ほか 配給:ギャガ © 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.


『丘の上の本屋さん』

老店主と客との間で繰り広げられる豊かな文学世界

イタリアから、社会的メッセージをふんわりと文学の香りに包み込んだすてきな映画がやってきた。舞台は丘の上にたたずむ美しい村、チヴィテッラ・デル・トロントの古書店。年老いた店主のリベロは、隣のカフェで働くニコラに頼りながらも、常連客らとのおしゃべりを楽しんでいる。ある日、コミックの置かれた店先のワゴンを眺めている移民の少年に気づいたリベロは、お金がないという少年に本の貸し出しを提案する。『ピノッキオの冒険』に『星の王子さま』『白鯨』と徐々に難しくなっていく少年へのおすすめ本など、ほぼ本屋さんとその周辺だけを舞台に豊かで奥深い文学世界が展開される。「一度目は理解するために、二度目は考えるために読む」といった、ドキュメンタリー畑出身のクラウディオ・ロッシ・マッシミ監督による珠玉のせりふが心に染み入った。藤井克郎

2023年3月3日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/イタリア/84分)原題:Il diritto alla felicità 監督・脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ 出演:レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディディー・ローレンツ・チュンブ ほか 配給:ミモザフィルムズ © 2021 ASSOCIAZIONE CULTURALE IMAGO IMAGO FILM VIDEOPRODUZIONI


『有り、触れた、未来』

支え合って生きる姿を通して伝える命の大切さ

『グッモーエビアン!』などの山本透監督が、若手俳優からなるプロデューサーチームとともに企画から資金集め、製作まで手がけた自主映画。命の大切さを若者に届けたいとの思いが詰まった骨太の群像劇に仕上がっている。バンド仲間の恋人を事故で失った愛実は10年後、中学教師の悠二との結婚を控えつつ、末期がんの母のことが気がかりだった。一方、悠二のクラスの結莉は東日本大震災で母と兄を亡くし、飲んだくれの父と祖母の3人で息詰まる毎日を過ごしていた。バンド、演劇、和太鼓、ボクシングと、さまざまな手段で魂の叫びを表現しようともがく若者の姿が、大人数の出演者による複雑に絡み合った人間関係の中で、泥臭く汗臭く描かれる。人は誰もが誰かと支え合って生きているというメッセージがひしひしと伝わってきて、胸に響いた。(藤井克郎)

2023年3月10日(金)より全国順次公開。3月3日(金)より宮城県先行上映 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/132分) 監督・脚本:山本透 出演:桜庭ななみ、手塚理美、北村有起哉 ほか 配給:Atemo ©UNCHAIN10+1


『Winny』

実際の事件を基に国家権力の隠蔽体質に踏み込む

2004年に起きたファイル共有ソフトWinnyの開発者逮捕事件をモチーフに、『ぜんぶ、ボクのせい』の松本優作監督が社会派の人間ドラマを織り上げた。東大大学院の助手で天才プログラマーとうたわれた金子勇が京都府警に逮捕される。容疑は著作権法違反幇助で、違法に使用されることを知りながらWinnyを開発したという疑いだった。映画は裁判に臨む金子弁護団のやりとりを中心に、同時期に愛媛県警で持ち上がった組織ぐるみの裏金づくり疑惑を同時進行で描いていく。金子逮捕は、果たして著作権保護だけが狙いだったのか。現在にも通じる国家権力の隠蔽体質にまで踏み込んで深掘りしていく構成に、作り手の本気度が見て取れる。金子を演じた東出昌大や弁護士役の三浦貴大はじめ、実在の人物になりきった俳優陣の肝の座り方も見ものだ。(藤井克郎)

2023年3月10日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/127分) 監督・脚本:松本優作 出演:東出昌大、三浦貴大、吉岡秀隆 ほか 配給:KDDI、ナカチカ ©2023映画「Winny」製作委員会


メグレと若い女の死

ドパルデューの圧倒的存在感に脱帽

映画『メグレと若い女の死』メイン画像

名匠パトリス・ルコントが「メグレ警視シリーズ」の中でも名作と呼ばれる作品を映画化。フランスで初登場1位を記録した。1953年のパリ。ある夜モンマルトルで、5か所もの執拗な刺し傷がある、イブニングドレスを着た若い女性の刺殺体が発見される。メグレ警視は一目死体を見ただけで、複雑な事件になると予感し、捜査を進めていく。ダークな色調が再現する1950年代は、陰鬱でありながら品があり洗練され、その独特の雰囲気に呑まれる。殺人事件だけでなく、メグレがなぜこの事件にのめりこんでいくのかというもう一つの謎も、物語を牽引する。誰が見ても分かりやすく、それでいて奥深い娯楽作品に仕上げたルコント監督の手腕もさながら、瞳の奥に哀しみと優しさをたたえたジェラール・ドパルデューの圧倒的存在感、ため息が出るほどのオーラに脱帽した。(吉永くま)

2023年3月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
2022年/フランス/89分 原題:Maigret 監督:パトリス・ルコント 出演:ジェラール・ドパルデュー、ジャド・ラベスト、メラニー・ベルニエ ほか 配給:アンプラグド ©2021 CINÉ-@ F COMME FILM SND SCOPE PICTURES.

◆オススメ記事:【画像で楽しむイベントレポート】『暮れ逢い』プレミア試写会にパトリス・ルコント監督とすみれさんが登場!


『零落』

長期連載を終えた漫画家の空虚な心を埋めるのは……

『無能の人』など作り手としても評価の高い竹中直人監督が、浅野いにおの同名漫画を実写映画化。漫画家を主人公に、創造性の本質に踏み込んだ深遠なテーマを、スタイリッシュな映像で描き上げた。8年間の連載を終えた人気漫画家の薫は、編集者の妻との生活もすれ違い気味で、喪失感にさいなまれていた。そんなとき、猫のような目をした風俗嬢のちふゆと出会い、2人で過ごす時間に癒やされている自分に気づく。たびたび差し挟まれる真っ黒な海の俯瞰に、薫役の斎藤工がつぶやく独白が重なり、どこかヨーロッパ映画を思わせる退廃的な雰囲気が心を酔わせる。創作者が直面する生みの苦しみは、恐らく原作者の浅野も竹中監督も、さらには映画監督でもある斎藤も同じように味わっているもので、どう乗り越えるのか表現の相乗に感じ入った。(藤井克郎)

2023年3月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/128分/PG12) 監督:竹中直人 出演:斎藤工、趣里、MEGUMI ほか 配給:日活、ハピネットファントム・スタジオ ©2023浅野いにお・⼩学館/「零落」製作委員会


『郊外の鳥たち』

時相の異なる2つの物語がもたらす不思議な不安定感

中国の新鋭、チウ・ション(仇晟)監督の長編第1作で、地方都市の郊外を舞台に、時相の異なる2つの物語を作家性あふれる映像で紡いだ。地盤沈下が激しい町の地質調査にやってきた測量チームのハオは、廃校となった小学校の机から同じ名前の男の子の日記を見つける。一方、小学生のハオは開発が進む都市の片隅で、仲間たちと銃撃ごっこなどをして遊んでいた。そんなある日、1人の男の子が不登校になり、みんなで彼の家を探して会いにいくことにする。2つの物語の相関性や象徴的に語られる青い鳥などの説明が一切ないまま、謎めいて示唆に富んだ内容が展開する。大胆なズームインやズームアウト、パンを多用した長回しといった凝った撮影も意味があるのか計りかねるが、この不安定感、宙ぶらりんの感覚が癖になってくるから不思議だ。(藤井克郎)

2023年3月18日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/中国/113分)原題:郊區的鳥 英題:SUBURBAN BIRDS 監督・脚本:チウ・ション(仇晟) 出演:メイソン・リー(李淳)、ゴン・ズーハン(龔子涵)、ホアン・ルー(黄璐) ほか 配給:リアリーライクフィルムズ、ムービー・アクト・プロジェクト ©BEIJING TRANSCEND PICTURES ENTERTAINMENT CO., LTD. , QUASAR FILMS, CFORCE PICTURES, BEIJING YOSHOW FILMS CO., LTD. , THREE MONKEYS FILMS. SHANGHAI, BEIJING CHASE PICTURES CO., LTD. , KIFRAME STUDIO, FLASH FORWARD ENTERTAINMENT / ReallyLikeFilms


『Single8』

8ミリで本格SF映画に挑む高校生の青春模様

『星空のむこうの国』などの小中和哉監督が、自らの原点である8ミリでの映画づくりをモチーフに、さわやかで甘酸っぱい青春物語を編み上げた。1978年の夏、『スター・ウォーズ』公開に興奮した高校生の広志は、巨大な宇宙船の映像を再現しようと、友人の喜男とともに8ミリの撮影を始める。クラスの文化祭の出し物にも採用され、広志が思いを寄せるクラスメートの夏美をヒロインにしたいと考えるが……。高校生なりの創意工夫で本格SF映画に挑むという展開は日本版『フェイブルマンズ』の趣だが、映画づくりへの思いの発露という点ではこちらの方がより鮮烈だし、青春ならではの淡い恋や大人への成長という味付けもぬかりない。映画を目指す若者にエールを送りたいという小中監督の純粋な気持ちが感じられ、ぐっと込み上げるものがあった。(藤井克郎)

2023年3月18日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/113分) 監督・脚本:小中和哉 出演:上村侑、髙石あかり、福澤希空、桑山隆太 ほか 配給:マジックアワー ©『Single8』製作委員会


『赦し』

少年犯罪の加害者と被害者。それぞれの痛みと葛藤

映画『赦し』メイン画像『東京不穏詩』『コントラ』のアンシュル・チョウハン監督長編第3作は、少年犯罪の加害者と被害者、それぞれの痛みと葛藤をサスペンスフルに描く人間ドラマだ。事件当時17歳だった娘を同級生に殺された元夫婦と犯人の少女が、再審公判で7年ぶりに対峙する姿を通して、「赦し」とは何か、「救い」とは何かを観るものに問う。事件以降、加害者への憎悪に囚われたままの父親・克(尚玄)と、新たな幸せを求める元妻の澄子(MEGUMI)、そして刑に服しながら成人した加害者・夏奈(松浦りょう)。7年という時間経過の中でも生々しく色褪せぬ悲しみと、否応なしに生まれる俯瞰的な情緒。それらが複雑に入り混じりながら進んでいくスリリングな法廷劇が見事だ。即興的な芝居を求めるというチョウハン監督だが、澄子の再婚相手である直樹を演じた藤森慎吾含め、メインキャストたちの好演が光る。なかでも、松浦りょうの表情には終始惹きつけられた。(富田旻)

2023年3月18日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/98分)原題(英題):DECEMBER 監督編集:アンシュル・チョウハン 出演:尚玄、MEGUMI、松浦りょう、生津徹、成海花音、藤森慎吾、真矢ミキ ほか 配給:彩プロ © 2022 December Production Committee. All rights reserved

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『雑魚どもよ、大志を抱け!』

多感な少年時代の友情物語を熱いせりふでつづる

NHKの連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も控える足立紳監督が、20年以上前に書いたシナリオを基にした自らの小説『弱虫日記』を映画化。『スタンド・バイ・ミー』にも通ずる多感な少年時代の友情物語を、勢いのあるみずみずしい映像でつづった。昭和の末期、地方の町に暮らす小学5年生の瞬は、隆造、トカゲ、正太郎と4人で毎日を面白おかしく過ごしていた。だが6年生になってクラスが分かれ、新たな仲間もできたことで、4人の間に微妙な温度差が出てくる。いじめや家族の問題など、子どもたちをめぐる普遍的な悩みの数々が、大胆なカメラワークと自然な演技で鮮やかに切り取られる。4人のほかにも、映画監督を夢見るいじめられっ子やワルを気取る転校生など一人一人の個性が際立ち、友情を熱く語るせりふも相まって見事なアンサンブルを奏でていた。(藤井克郎)

2023年3月24日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/145分) 監督・脚本・原作:足立紳 出演:池川侑希弥、田代輝、白石葵一、松藤史恩 ほか 配給:東映ビデオ ©2022 「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会

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