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12月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2022年11月28日更新
12月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
LINE UP 12/2(金)公開『あのこと』 12/2(金)公開『泣いたり笑ったり』 12/3(土)公開『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』 12/3(土)公開『光の指す方へ』 12/9(金)公開『ハッピーニューイヤー』 12/10(土)公開『にわのすなば GARDEN SANDBOX』 12/16(金)公開『ケイコ 目を澄ませて』 12/16(金)公開『そばかす』 12/30(金)公開『離ればなれになっても』 12/30(金)公開『柳川』 |
『あのこと』
女性の苦悩について社会に問いかける衝撃作
2022年のノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの小説を、脚本家出身のオードレイ・ディヴァン監督が衝撃の映像で映画化した。ヴェネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞している。1960年代のフランス。教師を目指す大学生のアンヌは優秀な成績で、教授から特別扱いされるほどだった。だが生理が来ないことを心配して医者に診てもらうと、妊娠していると告げられる。中絶は違法の時代、アンヌは親友にも相談できず、必死に打開の方策を考える。夢の実現には、父親のいない子を出産することなどあり得ない。カメラは常にアンヌに寄り添い、悲痛なまでの焦りの表情を徹底的にえぐり出す。アンヌを演じたアナマリア・ヴァルトロメイのすさまじいばかりの演技を含め、女性の苦悩について現代社会にも厳しく問いかける作品だ。(藤井克郎)
2022年12月2日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/フランス/100分/R15+)原題:L’Événement 監督・脚本:オードレイ・ディヴァン 出演:アナマリア・ヴァルトロメイ、サンドリーヌ・ボネール、ケイシー・モッテ・クライン ほか 配給:ギャガ © 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINÉMA – WILD BUNCH – SRAB FILMS
『泣いたり笑ったり』
父親同士の再婚で家族は大混乱!
風光明媚な海辺の街を舞台に、初老と中年の父親同士の再婚に戸惑う家族の姿をユーモラスに描く。バカンスを過ごすため別荘を訪れたのは、裕福なカステルヴェッキオ家と代々漁師で労働者階級のペターニャ家。対照的な2つの家族は、そこで両家の父親トニとカルロの再婚を知らされるが、思いがけない知らせに皆混乱し、大騒動が巻き起こる。絶対的存在である父の再婚を受け入れられず、幸せを喜べないそれぞれの娘と息子。とくに寂しさから情緒不安定になり、自分の狭量や浅はかさに自己嫌悪に陥るトニの娘ペネロペの心理が繊細に描写される。理解していたつもりでも実際に受容することは難しい。陽気で明るい物語にはそんなリアリティも込められ、思わずはっとする。(吉永くま)
2022年12月2日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/イタリア/100分/PG12)原題:Croce e delizia 英題:An Almost Ordinary Summer 監督:シモーネ・ゴーダノ 出演:アレッサンドロ・ガスマン、ジャスミン・トリンカ、ファブリツィオ・ベンティヴォッリオ ほか 配給:ミモザフィルムズ © 2019 Warner Bros. Entertainment Italia S.r.l. – Picomedia S.r.l. – Groenlandia S.r.l.
『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』
客席も巻き込む仕掛け満載の活弁付き無声映画
NHK連続テレビ小説『おちょやん』の出演など幅広く活躍する俳優の辻凪子が、自らの監督、主演で活動弁士付き無声映画を作り上げた。ピザ店で働くジャムは映画が大好きで、コメディエンヌになりたいという夢があった。ある日、大嵐に遭ってピザの惑星に飛ばされたジャムは、王様から銀河系を救うため、いろんなサイズのピザを見つけてほしいと頼まれる。弁士の大森くみこによる生の語りとピアノ伴奏が付いた活弁公演版と、すでに吹き込まれている活弁吹込版の2つの上映形態で、仲間とともに宇宙を旅するジャムの冒険が表現される。活弁公演版では生身の辻監督がスクリーンから飛び出してくるなど、客席も巻き込むような仕掛けが楽しい。映画の原点に触れる労作にあえて挑戦した辻監督の本気度と、創意工夫に満ちあふれた企画力に興奮を覚えた。(藤井克郎)
2022年12月3日(土)より全国順次公開。11月25日(金)より京都みなみ会館で先行上映 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/85分)監督・脚本・主演:辻凪子 活動写真弁士:大森くみこ 出演:間寛平、塚地武雅、いいむろなおき ほか 配給:活弁映画『I AM JAM』製作プロジェクト ©2020 活弁映画『I AM JAM』製作プロジェクト
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『光の指す方へ』
受験失敗の暗闇を照らすフィルム映写機の光
今ではほとんどの映画館から消えてしまったフィルム上映をモチーフに、これが長編2作目となる今西祐子監督が青春の挫折と克服をノスタルジーあふれる映像でつづった。大学受験に失敗した晴斗は浪人生活を送りながら、鬱々とした日々を過ごしていた。そんなある日、新しく映画館を始めた姉の元を訪ねると、仕事を手伝うように頼まれる。何か集客に結びつく企画がないかと聞かれた晴斗は、年配客が話していたフィルムでの上映を提案するが……。移動映写機からスクリーンに伸びる光の筋を、真っ暗闇の自分の人生からの希望と捉えるなど、映画が晴斗の成長の重要なアイテムとして登場。2021年に東京都青梅市にオープンしたミニシアターのシネマネコで撮影されているのをはじめ、映画館ファンにはたまらない仕掛けがいっぱい詰まっている。(藤井克郎)
2022年12月3日(土)より全国順次公開。11月18日(金)よりシネマネコで先行上映 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本/70分)監督・脚本:今西祐子 出演:犬飼直紀、松﨑映子、伊藤悌智 ほか 配給:アイトゥーオフィス、新日本映画社 ©Itoo office inc.
『ハッピーニューイヤー』
高級ホテルで繰り広げられる愛すべき群像劇
クリスマスと新年が近くなり、浮き立つような雰囲気が漂う高級ホテル<エムロス>。そこでは、長年男友達へ告白できずにいるホテルマネージャー、イケメンだが癖のあるCEO、就職活動も恋愛もうまくいかない若者、初恋の相手と40 年ぶりに再会したドアマンなど、それぞれの悩みや思いを抱える人々が行き交う。そして大晦日当日、<エムロス>ではさまざまな出来事が起こり……。韓国版『ラブ・アクチュアリ―』ともいえるグランドホテル形式のラブストーリーは、誰もが人生の主役であり、今は孤独や絶望を感じていてもどこかで誰かと繋がっていることに気づかせてくれる応援歌のよう。この時期にぴったりの愛すべき群像劇。そこから放たれる幸せオーラは、たとえこの1年が後悔だらけだったとしても、きっとその疲れをきっと癒してくれる。(吉永くま)
2022年12月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021/韓国/138分)原題:HAPPY NEW YEAR 監督:クァク・ジェヨン 出演:ハン・ジミン、イ・ドンウク、カン・ハヌル ほか 配給:ギャガ © 2021 CJ ENM CORP., HIVE MEDIA CORP. ALL RIGHTS RESERVED
『にわのすなば GARDEN SANDBOX』
人との出会いを繰り返し、知らない町をさまよう
友達の誘いでアルバイトの面接に初めての町を訪れたサカグチは、仕事が町のPRビデオの撮影と聞いて、カメラの使い方も分からないとその場で断る。すぐに帰ろうとするが、人との出会いを繰り返し、なぜかずるずると知らない町をさまようことになる。東京都多摩市に2019年にオープンした映画上映ができるカフェ&バー「キノコヤ」が製作する映画の第1弾で、店主の黒川由美子がプロデューサー、パートナーの黒川幸則が監督を務めた。埼玉県川口市でロケをした架空の町は、何の特徴もないのにやたら地元愛を語る人がいるほど不思議な魅力が漂っていて、映画を見ているうちにだんだんと引きつけられていく。サカグチを演じるカワシママリノをはじめ、出演者の何とも力の抜けたたたずまいもそこはかとなくおかしく、癖になりそうな世界観だ。(藤井克郎)
2022年12月10日(土)より全国順次公開 公式Twitter 予告編動画
(2022年/日本/70分)監督・脚本:黒川幸則 出演:カワシママリノ、新谷和輝、村上由規乃 ほか 配給:キノコヤ映画 ©kinokoya2022
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『ケイコ 目を澄ませて』
耳の聞こえないボクサーの孤立感を肉体で表現
聴覚障害の元プロボクサー、小笠原恵子の著書を原案に、『きみの鳥はうたえる』の三宅唱監督が深みのある人間賛歌を謳い上げた。生まれつき両耳の聞こえないケイコは、ホテル勤めの傍らボクシングジムに通い、黙々とトレーニングに励んでいた。そんなある日、会長からジムの閉鎖を伝えられる。原案は2011年に書かれているが、映画では時代を2020年暮れから翌年春に設定。ケイコが職務質問を受けた際、警察官がマスクを着けたままで唇が読めないなど、コロナ禍で露呈されたこの国の冷たさが巧みに描かれる。ジムの会長やトレーナー、同居する弟らもケイコに気を遣ってはいるものの、共感まではできない。そんな孤立感を、ケイコを演じた岸井ゆきのがせりふのない中、表情としぐさ、さらにボクサーとしての肉体で表現していて、大いに心をつかまれた。(藤井克郎)
2022年12月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/99分) 監督・脚本:三宅唱 出演:岸井ゆきの、三浦友和、三浦誠己 ほか 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
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『そばかす』
恋愛にも結婚にも興味がない女性の生きづらさ
地方の町で両親と暮らす蘇畑佳純は、30歳になる今まで人に恋愛感情を抱いたことがなかった。母親に連れ出されて無理やりお見合いをさせられるが、相手も恋愛に興味がないらしく、意気投合。2人でデートを重ねるようになるが……。放送作家のアサダアツシの脚本を、劇団「玉田企画」の玉田真也が監督。ごく単純に恋愛も結婚もする気がないというだけで生きづらいこの世の中を、適度なユーモアを交えて皮肉る。恋愛には現実感がなく、だからといって誰とも交わりたくないわけでもない、普通に社交性のある主人公を、『ドライブ・マイ・カー』などの三浦透子が情感豊かに好演。母親や妹ら、あまりにもステレオタイプな周囲との差異が甚だしく、玉田監督の佳純への共鳴が強烈に伝わってくる。(藤井克郎)
2022年12月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/104分) 監督:玉田真也 出演:三浦透子、前田敦子、伊藤万理華 ほか 配給:ラビットハウス ©2022「そばかす」製作委員会 (not) HEROINE movies メ~テレ60周年
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『離ればなれになっても』
40年のイタリアの歴史とともに紡ぐ3人の男の友情
『幸せのちから』などハリウッドでも活躍するガブリエレ・ムッチーノ監督が、生まれ育ったイタリアを舞台に、40年にわたる友情の物語を紡いだ。1982年のローマ。16歳のジュリオは友達のパオロとともに出くわした過激派の暴動で、銃に撃たれたリッカルドを助ける。固い友情で結ばれた3人に、パオロが恋に落ちたジェンマも加わり、きらきらと輝く青春の日々は永遠に続くかと思われたが……。弁護士、教師、役者とそれぞれの道を歩み始めた3人の男たちの人生にジェンマの影が絡み合い、浮き沈みの人間模様がテンポよく描かれる。ムッチーノ監督らしいぬくもりのある笑いの一方、ベルリンの壁崩壊や米同時多発テロといった世相を彩るニュース映像などを差し挟んで激動の歴史を振り返る。その視点は後悔や反省の色を帯びていて、どこか切ない。(藤井克郎)
2022年12月30日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/イタリア/135分)原題:Gli anni più belli 監督・脚本:ガブリエレ・ムッチーノ 出演:ピエルフランチェスコ・ファビーノ、ミカエラ・ラマツォッティ、キム・ロッシ・スチュアート、クラウディオ・サンタマリア 配給:ギャガ © 2020 Lotus Production s.r.l. – 3 Marys Entertainment
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『柳川』
水郷の町を舞台に織りなす幻想と郷愁の映像詩
不治の病に侵されていることを知ったドンは、疎遠になっていた兄のチュンに日本の柳川への旅を持ちかける。中国語でリウチュアンと発音する柳川はかつて2人が愛した女性の名前と同じで、そのチュアンは今、柳川で暮らしているという。中国出身の朝鮮族であるチャン・リュル監督が、水郷で知られる福岡県の柳川を舞台に、幻想と郷愁をたたえた映像詩を紡いだ。居酒屋の女将を演じた中野良子が口ずさむ『悲しき口笛』などアジアの名曲の数々が、柳川の寂れた風景の織りなすどこか幽玄の世界を情緒豊かに彩る。運河沿いの道を自転車で進むドンたちの姿をまるで水の中から捉えたようなショットなど、叙情性を表現する凝った映像美も見逃せない。町の人々と交わす冗談めいた会話もどこか刹那的で物悲しく、柳川の風景とともに深く心に染み入ってきた。(藤井克郎)
2022年12月30日(金)より全国順次公開。12月16日(金)よりKBCシネマで先行上映 公式サイト 予告編動画
(2021年/中国/112分) 監督・脚本:チャン・リュル(張律) 出演:ニー・ニー(倪妮)、チャン・ルーイー(張魯一)、シン・バイチン(辛柏青)、池松壮亮、中野良子 ほか 配給:Foggy、イハフィルムズ
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