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3月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2022年03月01日更新
3月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
LINE UP 3/4(金)公開『永遠の1分。』 3/4(金)公開『ポゼッサー』 3/4(金)公開『MEMORIA メモリア』 3/5(土)公開『ある職場』 3/5(金)公開『親密な他人』 3/11(金)公開『林檎とポラロイド』 3/19(土)公開『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』 3/25(金)公開『オートクチュール』 3/25(金)公開『人生の着替えかた』 3/25(金)公開『ナイトメア・アリー』 3/25(金)公開『ベルファスト』 |
更新情報:3月9日に『オートクチュール』を追加掲載しました。/3月10日『蜜月』無期上映延期により削除しました。
『永遠の1分。』
東日本大震災のコメディー映画に挑むアメリカ人
コメディーを得意とするロサンゼルスの映像ディレクター、スティーブは、日本で東日本大震災のドキュメンタリーを撮るように命じられる。やる気のないスティーブだったが、被災地を取材するうち、震災を題材にしたコメディー映画を思いつく。だが部外者のアメリカ人にとっては、映画の実現にはかなりのハードルがあった。『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)の撮影監督を務めた曽根剛監督が、上田監督の脚本で映画化。被災地でのコメディー映画づくりに加え、震災で子どもを失い、ロサンゼルスに渡った女性歌手のエピソードを絡め、ほのぼのとした描写でエンターテインメントの神髄を指し示す。コロナ禍の現在にも通じる、どんな状況でも笑いは必要とのメッセージに胸が熱くなった。(藤井克郎)
2022年3月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/97分) 監督:曽根剛 出演:マイケル・キダ、Awich、毎熊克哉 ほか 配給:イオンエンターテイメント ©「永遠の1分。」製作委員会
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『ポゼッサー』
スタイリッシュで残酷な映像美と、意識の迷路に迷い込む
鬼才デヴィッド・クローネンバーグの息子、ブランドン・クローネンバーグの長編第2作。第三者の意識と肉体を乗っ取る遠隔殺人システムを使い、ミッションを遂行する女性暗殺者のタシャと、彼女から肉体のコントロールを奪還しようと意識を覚醒させ抵抗する男性の攻防を描く。普段のタシャは秘密工作員であることを隠し、夫と息子と暮らす一見普通の主婦。しかし、他人の脳内に入りこみ殺人を繰り返す彼女の意識下には、次第に歪みが現れてくる。CGを使わずフィジカルな表現にこだわったという鮮血ほとばしる殺人シーンと、倒錯する感覚を表現する映像美に目を奪われる。心の奥底で蓄積する罪悪感、強靭な精神力を要する意識コントロール、そして、家族に見せる顔と暗殺者の自分との乖離——執拗なほどに男性ターゲットを刺すタシャの姿には、女性性や過度のストレスに縛られた彼女の鬱憤と、他人をコントロールしながらも、自己を完全にコントロールすることができない矛盾が見えるようだった。(min)
2022年3月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 特報動画
(2020 年/カナダ・イギリス/103 分/R18+ )原題:POSSESSOR 監督・脚本:ブランドン・クローネンバーグ 出演:アンドレア・ライズボロー、クリストファー・アボット、ジェニファー・ジェイソン・リー ほか 配給:コピアポア・フィルム ©2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.
『MEMORIA メモリア』
現実と夢の狭間のような幻想的な世界
タイ初のパルムドール受賞作『ブンミおじさんの森』のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が南米コロンビアを舞台に作り上げた最新作。本作でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した。とある明け方、ジェシカの頭の中で地球の核が震えるような不穏な【音】が轟き、それ以来彼女は不眠症になる。原因と解決策を見つけるため様々な場所を訪れるが核心には辿り着けない。やがてエルナンという魚の鱗取りをしている男に出会い、記憶について語り合ううちに、彼女は今までにない感覚に襲われる-。監督が意図的に抑えたという一部のシーンのテンポや色彩、“不穏な【音】”や激しい雨の音、川のせせらぎといった聴覚への快・不快な刺激が、現実と夢の狭間のような幻想的な世界に誘い込む。また、常識や理解を超えた不可思議さを伴ってゆっくりと進行する物語には、ある種の癒しさえ覚える。心を真っさらにして作品の厳かな“波動”を感じ、余韻として残る浮遊感に身を委ねたい。(吉永くま)
2022年3月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編映像
(2021/コロンビア・タイ・イギリス・メキシコ・フランス・ドイツ・カタール/136分) 原題:Memoria 監督・脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン 出演:ティルダ・スウィントン、エルキン・ディアス、ジャンヌ・バリバール ほか 配給:ファインフィルムズ © Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.
『ある職場』
セクハラ被害者の従業員仲間が交わす本音の議論
『ビッグリバー』『フタバから遠く離れて』など、劇映画とドキュメンタリーを往復して映画づくりを続ける舩橋淳監督が、実際にあったセクハラ事案を題材にドキュメンタリータッチのフィクションに仕上げた異色作。あるホテルの従業員仲間が湘南の保養所での小旅行を企画する。参加者の1人、早紀は、上司からセクハラ被害を受けた上、SNSで中傷の嵐に遭い、憔悴し切っていた。旅行は彼女への励ましの意味もあったが、酒が入るとそれぞれの本音が飛び出し、さらに早紀を追い詰めてゆく。モノクロ画面による生々しい議論の連なりはリアリティーにあふれ、日本社会における女性差別の構造的な問題をあぶり出す。まるで職場の一員のように見る者に問題意識を喚起させる舩橋監督の映画話法に、ぐいぐいと引き込まれた。(藤井克郎)
2022年3月5日(土)よりポレポレ東中野にて公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/135分) 監督・撮影・録音・脚本・編集:舩橋淳 出演:平井早紀、伊藤恵、山中隆史 ほか 配給:タイムフライズ © 2020 TIMEFLIES Inc.
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『親密な他人』
母親の歪んだ愛情を示唆する数々の「おや?」
『ナオトひとりっきり』などのドキュメンタリー作品で知られる中村真夕監督が、デビュー作の『ハリヨの夏』以来、15年ぶりとなる長編劇映画に挑んだ。行方不明になった息子の情報をインターネットで呼びかけた恵の元に雄二という青年が現れ、息子の持ち物を手渡す。恵は、息子とどういう関係かはっきり言わない雄二を自宅アパートに呼んで、一緒に暮らすようになるが……。コロナ禍で閉塞感の漂う都会の片隅に息づく中年女性と若い男との奇妙な同居生活を軸に、緊迫感に満ちたサスペンスが展開。特殊詐欺、外出自粛、母性本能といった社会性を帯びたキーワードとともに、たくさんの「おや?」がちりばめられ、物語は意外な方向へと突き進む。母親の歪んだ愛情を示す細かいしぐさなど、中村監督の計算され尽くした演出力にうなった。(藤井克郎)
2022年3月5日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本/96分) 脚本・監督:中村真夕 出演:黒沢あすか、神尾楓珠、上村侑 ほか 配給:シグロ © 2021 シグロ/Omphalos Pictures
『林檎とポラロイド』
一から人生を築き直すプログラムの無意味さ
記憶喪失になる奇病が蔓延している世界を舞台にしたブラックコメディーで、ギリシャ出身のクリストス・ニク監督の長編第1作となる。ある日、バスの中で目覚めた男は記憶を失っていた。病院では完治はありえないと診断され、一から人生を築き直す「新しい自分」プログラムを提案される。このプログラムの内容が非常にシュールで、「自転車に乗る」「ホラー映画を見る」という簡単な指令から徐々にエスカレート。「運転して車をぶつける」「トイレで知らない人とセックスする」など、もうどこが新しい自分なのかわからない。コロナ禍で無為無策を繰り返す政治への風刺も感じられる。男の記憶喪失に関する謎の部分も含め、10人が見れば10通りの受け取り方ができるような展開で、特異な才能の出現に何ともうれしくなった。(藤井克郎)
2022年3月11日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/ギリシャ・ポーランド・スロベニア/90分)原題:Mila 英題:Apples 監督・脚本:クリストス・ニク 出演:アリス・セルヴェタリス、ソフィア・ゲオルゴヴァシリ、アナ・カレジドゥ ほか 配給:ビターズ・エンド ©2020 Boo Productions and Lava Films
『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』
未開の森の奥深くに住む “人食い民族” の人間味
タイ、ラオス国境の山岳地帯に暮らすムラブリ族は、最近まで小動物や植物を狩猟、採集して食べる原始的な生活を送っていた。現在は400人ほどしかいないとされる知られざる民族の実態を、フォークロア研究者としても知られる金子遊監督がドキュメンタリー映画にまとめた。案内役は、文字を持たないムラブリ語研究の第一人者、言語学者の伊藤雄馬。まずタイの山奥に向かった2人は、集落を形成して農耕生活に移行しているムラブリのグループに出会う。彼らから「ラオスのムラブリは人食いだ」と聞いて国境を越えるが……。未開の森の奥深くに、少人数で移動生活をしている彼らの実像が興味深い。妻から離婚を突きつけられ、母親から「お前が悪い」と諭される夫の情けなさなど、何とも人間味あふれる姿に社会の根源の形を垣間見た。(藤井克郎)
2022年3月19日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/85分)英題:Mlabri in the Woods 監督・撮影・編集:金子遊 出演:伊藤雄馬、パー、ロン、カムノイ ほか 配給:オムロ、幻視社 ©幻視社
『オートクチュール』
ディオールのアトリエを舞台に描かれるお針子たちの人間模様
ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者で引退間近のエステルは、ある朝地下鉄でひったくりにあう。犯人は若い女ジャド。エステルはジャドの滑らかに動く指にお針子としての才能を直感し、通報せず彼女を見習いとして雇う。衝突しながらも濃密な時間を過ごすが、最後のショーの1週間前にエステルが倒れてしまう……。ストレスと孤独に満ちた日々を送るベテランのお針子と、病気の母を抱えながら郊外の団地に暮らす移民二世。ひょんなことから職人技を受け継ぐ埋もれる才能を発見し、発見され、どちらの人生にも風穴があく。少しずつ2人が信頼を深めていく様子が繊細な心の動きとともに丁寧に描かれるが、それはドレスがひと針ひと針縫い上げられていく過程にも似ている。本作の衣装監修はディオール専属のクチュリエ―ル。上品で美しい純白のドレスに目を奪われながら、その裏で織りなされるお針子たちの人間模様に強く引き込まれた。(吉永くま)
2022年3月25日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/フランス/100分)原題:Haute Couture 監督・脚本:シルビー・オハヨン 出演:ナタリー・バイ、リナ・クードリ、パスカル・アルビロ 配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム © 2019 – LES FILMS DU 24 – LES PRODUCTIONS DU RENARD – LES PRODUCTIONS JOUROR
『人生の着替えかた』
人生の岐路に立たされた若者たちの3つの物語
ミュージカル「新テニスの王子様」The Second Stage、「ハイキュー!!」シリーズなど、人気舞台で活躍する2.5次元俳優、秋沢健太朗が主演を務めるオムニバス映画。ある事件をきっかけにすれ違う兄弟を描くヒューマンドラマ『MISSING』(後藤庸介監督)、オレオレ詐欺に加担した男2人がひょんなことからミスコンに出場してしまうドタバタコメディ『ミスりんご』(岡部哲也監督)、父と息子の不器用な絆を描くハートフルな家族の物語『お茶をつぐ』(篠原哲雄監督)と、3人の監督が秋沢演じるそれぞれの青年のつまずきと再生を描く。キラキラした要素は皆無の主人公ばかりだが、不甲斐ない人生に葛藤し、殻を破って前に進んでいく姿には“生”の輝きが見てとれる。『MISSING』では犯罪者の家族としての葛藤を、『ミスりんご』では反橋宗一郎演じる仲間との息の合ったバディぶりを、『お茶をつぐ』では、耳の聞こえない難役を表情と手話で演じ切り、3つの人生と真摯に対峙する俳優・秋沢健太朗の姿にファンならずとも胸を熱くすることだろう。(min)
2022年3月25日(金)より全国公開 公式Twitter 関連動画
(2022年/日本/101分)プロデューサー:馮啓孝
『MISSING』監督:後藤庸介 出演:秋沢健太朗、中村優一 ほか
『ミスりんご』監督・脚本:岡部哲也 出演:秋沢健太朗、反橋宗一郎 ほか
『お茶をつぐ』監督:篠原哲雄 出演:秋沢健太朗、木村達成、篠田三郎 ほか
配給:アークエンタテインメント ©アトリエレオパード
『ナイトメア・アリー』
デル・トロ監督が正統派演出で描く名優の演技合戦
『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督が、お得意の特殊造型や視覚効果に極力頼らずに、極上のサスペンススリラーを織り上げた。1939年、西部のならず者、スタンは、見せ物小屋の一座に取り入って、読心術のショーを手伝うことになる。やがて口八丁手八丁のスタンは独立。一流ホテルでのステージで出会った女性心理学博士、リリスの情報を基に一もうけを企むが……。製作も務めたブラッドリー・クーパーをはじめ、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ルーニー・マーラといった名優の演技合戦が見もの。オカルトっぽい歴史ものという題材をあえて正統派演出で挑んだデル・トロ監督の新境地とも言える意欲作だ。(藤井克郎)
2022年3月25日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/アメリカ/150分)原題:NIGHTMARE ALLEY 監督・脚本・原案・製作:ギレルモ・デル・トロ 出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット ほか 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン © 2021 20th Century Studios. All rights reserved.
『ベルファスト』
子ども目線でとらえた紛争の中の日常
監督、主演を務めた『ナイル殺人事件』も公開中のケネス・ブラナー監督が、自らの幼少期を投影させた作品。少年の目線でとらえた紛争の中の日常を、モノクロの美しい画面で織り上げた。1969年、北アイルランドのベルファストに住む9歳のバディは、優しい家族に囲まれ、毎日を屈託なく過ごしていた。そんなある日、プロテスタントの武装勢力がカトリックの住民を襲撃し、バリケードが築かれる。協調して暮らしていた住民の分断が始まるが、バディは相変わらず映画や漫画に夢中で、祖父母の家でおしゃべりを楽しんでいた。ブラナー監督自身が親しんだと思われる映画の断片で子どもの頃の楽しかった思い出を描写する一方、確実に迫りくる危険を父母の会話などで表現する工夫が見事。ほほ笑ましくも、現代にも通じる社会問題を喚起する力強い作品に仕上がっている。(藤井克郎)
2022年3月25日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/イギリス/98分)原題:Belfast 製作・監督・脚本:ケネス・ブラナー 出演:カトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン ほか 配給:パルコ ©2021 Focus Features, LLC.
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