映画監督・片山享インタビュー(前編)— 生きてりゃなんとかなる、幸せは自分で決める、思った時にやれ

  • 2020年01月28日更新

俳優としてキャリアを重ねてきた片山享が、映画監督としても着実にその評価を高めている。生まれ故郷の福井県を舞台にした作品で初メガホンを執ったのが2017年。3年弱というキャリアながら、歩みを止めることなく映画製作に携わり、複数の国内映画祭での受賞や入選を経て、ついには池袋シネマ・ロサ(東京・豊島区)で月間を通して短編・長編合わせ監督作6本が公開されるという、大きな飛躍を成し遂げた。そんな “映画監督・片山享” が目指す映画作りとは何なのか——?  ミニシアでは片山監督の創作に込めた思いに迫るべく、前後編の2回に渡るインタビュー行った。

前編のインタビューでは、2月1日(土)〜7日(金)にレイトショー上映される片山享監督特集「生きる、理屈」と、同月8日(土)〜14日(金)にイブニング枠で上映となる福井県鯖江市とアイドル・仮面女子のコラボレーション作品『つむぐ』『未来の唄』について話を聞いた。

↓後編インタビューはこちら!

【取材:min 撮影:ハルプードル 取材協力:池袋シネマ・ロサ】


『いっちょらい』—幸せは場所じゃなく自分で決めるもの

— 池袋シネマ・ロサの“片山祭り”がいよいよ始まりますね! 片山監督の創作や作品に対する思いなどをたっぷりお伺いしたくて、前後編の2回にわたるインタビューをお願いした次第です。

片山享監督(以下、片山):よろしくお願いします!

— 早速ですが、前編のインタビューでは、特集上映「生きる、理屈」の3作品と、仮面女子と鯖江市のタイアップ映画『つむぐ』『未来の唄』について伺いたいと思います。まずは、初監督作の『いっちょらい』から。本作は2017年に「第2回ふくいムービーハッカソン*」で制作された作品ですね

*ふくいムービーハッカソン:「福井駅前短編映画祭」スピンオフ企画として、福井出身の俳優・津田寛治さんのアイデアから生まれた、“3日間で映画を撮る”市民参加型のプロジェクト。

片山:はい。第1回はムービーハッカソンの提唱者でもある津田寛治さんに誘っていただいて、招待俳優として参加したんです。でも、せっかく福井で映画を撮るなら、もっと自分にもできることがあるんじゃないかと思って。映画祭が終わった次の日に「来年は監督をやらせてください」とプロデューサーに直訴したんです。

— 1年越しの約束を果たす形で監督になったと。本作は、松林慎司さん演じる福井に戻った男が、自分を取り巻く状況に不幸せを感じながらも自分なりの幸福を見つけていく物語です。どういった思いを込められたのでしょうか?

映画『生きる、理屈』キービジュアル片山:僕自身が、かつては「福井に幸せなんかない」と思っていたんですよ。でも、あるきっかけで福井に戻ったときに、すごく幸せそうに生きている人たちと出会ったんです。「幸せは場所じゃなくて、自分で決めるものだ」と思ったことが、この作品を撮るきっかけになりました。完成作品を「福井駅前短編映画祭」で披露することが決まっていたんですけど、初めて自分の作品を人に観てもらう時は、死ぬんじゃないかと思うくらい緊張しました(笑)。

— あはは。意外ですね(笑)。

片山:本当に怖くて帰りたいくらいでした。でも、知り合いの監督さんが何人か会場に来ていて、「すごく良かったよ」って言ってもらえたんです。

— さらに、「第24回ながおか映画祭」準グランプリや、「はままつ映画祭2018」の入選も果たして、初監督作にしてすごく自信になったのでは?

片山:そうですね。たくさんの方から褒めてもらえて、「意外といけるんだ!」と思えました。


主演俳優の松林慎司さん現る!!!

取材にひょっこり顔を出してくれた『いっちょらい』主演の松林慎司さん。山口県出身の松林さんですが、これまで20回以上も福井県を訪れ、地元の人々と交流を重ねてきたという筋金入りの福井愛を持つ俳優です。そのきっかけとなったのが、所属事務所の先輩である津田寛治さんが監督を務めた映画『カタラズのまちで』(2012)。福井を舞台にした本作に出演したいと直訴したところ、「福井の人か福井出身の人に出演してもらいたい」と断られ、「それならば!」と住民票を福井にうつして猛アピールし、出演が決まったそう!

『名操縦士』—時の流れを残酷さも含めて優しく描きたかった

映画『名操縦士』メイン画像— 監督2作目は短編作品の『名操縦士』ですが、どのようなきっかけで撮ることに?

片山:ある日、主演の森本のぶさんから「片山くん映画撮らない?」って突然連絡が来たんです。のぶさんとは10年来の付き合いだけど、『いっちょらい』も観せていないし、僕が映画撮っていることもあまり知らないはずなのに、「さぬき映画祭2018」のさぬきストーリー・プロジェクトに誘ってくれて。「じゃあ、やります」って脚本を送ったら、「メチャクチャ良いじゃない!」って泣きながら電話がきて。

— 切なくて優しい嘘と、雪のシーンがとても印象的な作品でした。

映画『名操縦士』片山:雪のシーンは奇跡ですね。時の流れを残酷さも含めて優しく描きたくて、春夏秋冬のシーンを入れることは決めていたけど、冬はどうしようかと思っていたんです。そしたら撮影前日に東京で大雪警報が出て。のぶさんも、奥さん役の田山由起さんも、撮影の安楽涼も皆が集まることが出来るというので、じゃあ撮ろうって。

— さすが! もってますね。この作品も、「第24回ながおか映画祭」監督賞ほか、複数の映画祭で受賞や入選に輝きましたね。

片山:そうですね。このころから、少しずつ監督として自信が持てるようになったんです。あ、そういえば、この作品の前に『1人のダンス』の脚本を書いたんだ……。

— すごい勢いで作品を作り続けていますよね。3作目に監督されたのが『つむぐ』ですか?

片山:いや、順番的には次が『轟音』で、その後に『つむぐ』『未来の唄』です。最新作の『生きる、理屈』はこの特集上映用に昨年末に撮ったばかりなんです。

 

『つむぐ』『未来の唄』—アイドル映画を作る気持ちは全くなかった

— 『轟音』については後編インタビューで伺うとして、続いては『つむぐ』『未来の唄』のお話を。この2作は、仮面女子の映画シリーズ「Alice Film Collection」の作品として、福井県鯖江市と「めがねのまちさばえ大使」を務める仮面女子のコラボレーションで製作されましたが、両作とも鯖江市の伝統工芸をモチーフとした物語で、いわゆるアイドル映画とは趣が全く異なりますね。

片山:『つむぐ』は鯖江の伝統的な木綿織物である石田縞、『未来の唄』では越前漆器を題材にしています。アイドル映画を作ろうという気持ちは最初から全くなかったですね。そもそも、このシリーズは主題歌も仮面女子さんの楽曲を使うことになっていたんですけど、無理を押して鯖江出身で僕の実姉であるアーティスト、ナオリュウさんの楽曲を使わせてもらいました。

— シリーズのなかで片山監督の作品だけ? よく通りましたね。

片山:ありがたいことに、鯖江市側が僕の意向を尊重して、推してくださって。さらに、ただの有名人枠みたいなキャティングも断りました。もちろん、その方が役に合っていれば問題ないんです。でも、知名度だけでキャスティングするのは絶対にイヤだし、それで不自然な寄りのカットを入れるのとかも絶対にやりたくない。出てる人がどんな人であれ、そこにいる人として切り撮っていきたいんです。

— 『つむぐ』は、見事に山形国際ムービーフェスティバル2019入選に輝き、仮面女子の涼邑芹さんは映画初主演にして最優秀俳優賞(船越英一郎賞)も受賞されましたね。

片山:仮面女子の方々は映画出演に対してやる気もすごくあったし、芝居にも真摯に向き合ってくれました。結果的に『つむぐ』が映画祭で受賞して、たくさんの方に評価もしていただいて。続けて『未来の唄』も作らせてもらうことになったんです。

—  この2作は「Alice Film Collection」初の劇場公開作となるそうですね。

片山:はい。もともと配信で展開しているシリーズですが、撮影の深谷祐次が完全に劇場用に撮っていたし、「配信で終わらせたくないね」という話は以前からしていました。鯖江市的にも映画館で上映したいという意向があったし、シネマ・ロサと仮面女子の事務所も繋がりがあるということで交渉してもらって、イブニング枠で上映していただけることになったんです。

—  妥協せずに撮られたからこそ、ですね。

 

『生きる、理屈』—7分半のシーン込めたノスタルジーとノスタルジーへの抵抗

— 前編インタビューの最後は、最新作『生きる、理屈』のお話を。昨年末に撮影されたとおっしゃっていましたね。年明けは編集作業に追われていたんじゃないですか?

片山:いやー。僕、編集はメチャクチャ早いんです。編集歴自体は16年くらいと長いですけど、理論とかをあまり知らなくて。ひたすら自分の感情だけでカットをつないでいくんですよ。感情って素直なものだから迷うこともほとんどないし、粗編を作ったら完パケまで内容もほぼ変わらない。何より、自分が早く作品を観たいので、自然と早くなる(笑)。

— カットを余分に撮らないというか、例えば、同じシーンの角度を変えて何度も撮ったりとか、そういうことはあまりしないんですか?

片山:いや、それはやります。まあ、もともとカット割りが少ないほうではあるけど、テイク数が極端に少ないですね。自分の撮りたいものを演じるのに、僕が芝居でNG出すっておかしいじゃないですか。僕以外のことでテイクを重ねるのは分かるけど。

— そもそも、脚本通りぎっちりやろうみたいな感じがないんでしょうか。

片山:全くないですね。あくまで僕の場合ですが、脚本は机上の空論だと思っているし、脚本家じゃないから、脚本自体にプライドもないんです。なので、現場で役者さんの気持ちの整理とかでシーンがうまくいかなかった場合、シーンごと脚本を変えることがあります。その撮影場所だから起こることや、役者のその場で動く感情のほうがずっと大事だと思っているからです

— 片山監督演じる柴田が、安楽涼さん演じるかつての後輩と河原で話すシーンは、ワンカットで撮っているんですね。

片山:厳密に言うと4カットなんですが、そのうちの1カットが長いんです。7分半のあいだ固定(カメラを)回しています。昔は一緒に写真を撮っていた柴田と後輩を、実際の今の僕と安楽の関係性に置き換えて、「リアルに今、俺自身が映画をやめるって言ったらどうするか考えてくれ」とだけ安楽に言いました。

自分で言うのもなんなんですが、あのシーンこそ、その場で蠢く感情の激しさがあるから、7分半の静かな二人のやりとりを観ていられるんだと思います。あのシーンは、行ったり来たりするノスタルジーとノスタルジーへの抵抗なんです。

—  柴田 は「しょうがない」と言いながら、夢をあきらめることにまだ心の折り合いがついていない。そのやりきれない感情に共感する人はとても多いと思います。

片山:あのシーンは和泉多摩川の河川敷で撮影したんですが、僕は芝生の茂ったキレイな状態しか知らなかったんです。でも、撮影の前日に見に行ったら、昨年の台風による大雨の後で地面がボコボコになっていて。それを見て「ああ、変わってしまったんだな」と思ったんですそれで、それを昔から変わらず写真を続ける後輩と写真をやめてしまった柴田になぞらえました。そして後輩は「景色って、変わってないように見えるけど、毎日全然違う。二度と出会えない瞬間に無限に出会える」と言う。それに対して物事に有限性を感じている柴田。でも、実は後輩の言葉は、かつて柴田が語ったものだと指摘されるんです。

— なるほど……。観る方それぞれの年齢や経験や抱えているものによって、共感する部分が違う作品ですね。

片山:そうだと思います。僕と安楽の一番の違いは年齢で、11歳違うんです。その11年って経験とか背負うものとかがいろいろ変わる時期で、だからこそ、このやり取りはおもしろかったですね。実際、安楽がいま背負っているものを自分も背負っているし、さらにこの年齢で背負っているものもある。柴田は、そこから逃げられなくなっちゃって、「しょうがない」という(諦めの)最高の武器を手に入れて、連呼しはじめるんですけど。

生きてりゃなんとかなる、幸せは自分で決める、思った時にやれ

— 私自身も、年齢を重ねるごとに背負うものや、逃れられない苦しいことにも出会いますが、現実と折り合っていくって、生易しいことではないですよね。でも、結局は自分なりに落としどころを見つけて、その時々の幸せを生きなきゃいけないとは思う。片山監督の作品からは一貫してそういったメッセージを感じます。

片山:自分の作品で、共通して描いていることが3つあって。一番強いのは「生きてりゃなんとかなる」ということ。自分は25歳の時に両親が病気で倒れて、それがきっかけで両親を福井から東京に呼んだのですが、連れて行くのに際して、まぁいろんなことがありました。いろんな揉めごとがありました。でも、両親も僕も生きてました。そして、その時、なんだか、「これから頑張ろう」って思えた。「あぁ生きてりゃなんとかなるんだなぁ」ってすごく感じました。

それと、「幸せは自分で決める」ということ。場所とか環境とか年齢ではなく、結局は自分が幸せだと思うことが大事だと思うんです。『いっちょらい』で描いたのは、まさにそういうことで。

3つ目は「思った時にやれ」。それを強く描いているのが『名操縦士』と『轟音』です。『轟音』で、ただひたすら不幸が訪れている人たちは、選択できる時に選択していない人たちなんです。この作品については後でまた語りますが、やはり思ったときにやるべきだと、僕自身の経験からすごく思うんですよ。僕自身もなかなかできないから余計に思います……。

— そうですね。それでも、不毛なことに心をとらわれたり、自ら不幸に留まってしまうような経験は、誰もが少なからずしていることかもしれません。

片山:それが人間だし、だからこそ、僕はうまくいっていない人たちの話を描くんですけど。僕自身、したくない後悔をすることが多々あるし、そういう思いも含めて、映画の中にメッセージとして描きたいと思うんです。僕にとっては普段生きてるちょっとしたことが幸せなんです。でも、それを表現するには“圧倒的に真逆”に振らないといけないんです。

— “圧倒的に真逆”に振る……! 興味深いお話です。もっともっと伺いたいところですが、続きは後編で……! 後編では、初長編作の『轟音』のお話のほか、監督としての片山享さんについて、そして福井への思いなど、もっともっと深く切り込んで参ります! 皆さま、お楽しみに!

 

プロフィール

【片山 享/かたやま・りょう】
1980年福井県鯖江市生まれ。大学卒業後から俳優活動を始める。主にインディーズ、単館系映画にて多く出演を重ね、主演も果たしている。舞台では賞レースを賑わせたトラッシュマスターズに多く客演。安定感のある演技力を武器に着実にメジャー作品にも進出しつつある。これまで監督した短編映画は国内の多数の映画祭で評価され、2019年に公開された『1人のダンス』では脚本を務める。近年の主な出演作は『22年目の告白-私が殺人犯です-』(入江悠監督)、『リングサイド・ストーリー』(武正晴監督)、『DEVOTE』主演(田島基博監督)など。俳優・監督・脚本家として、今後の活躍に期待が高まる。

作品&公開情報

片山享監督特集「生きる、理屈」ポスター片山享監督特集「生きる、理屈」
2020年2月1日(土)〜7日(金)
池袋シネマ・ロサにて1週間限定レイトショー

●上映作品 作品詳細ページ
『いっちょらい』
(2018年/日本/27分)
監督・脚本:片山享 プロデューサー:宮田耕輔
撮影:高野充晃 照明:黒川拓夢 録音:鈴木聖也
出演:松林慎司、宇野朱美、たにぐちともこ、谷口裕宣、宮田和夫 ©ふくいまちなかムービープロジェクト

『名操縦士』(2018年/日本/8分)
監督・脚本 片山享 撮影・照明 安楽涼
出演:森本のぶ、田山由起 ©オフィス森本

『生きる、理屈』(2020年/日本/60min)
監督・編集:片山享 脚本:片山享 安楽涼
プロデューサー:夏井祐矢
撮影・照明:深谷祐次、安楽涼 録音:坂元就
出演: 片山享、辻凪子、安楽涼、大須みづほ、峰秀一、森本のぶ、仁科貴
主題歌:ナオリュウ「枯れない花~もしも明日が今日のままなら~」 ©Ryo Katayama Film

※トークイベント、ゲストなどの詳細は、劇場公式サイトでご確認ください。


『つむぐ』『未来の唄』
2020年2/8(土)~2/14(金)池袋シネマ・ロサにて18時より上映

『つむぐ』
(2019年/日本/32分 )
監督・脚本:片山享
撮影・照明:深谷祐次 録音:坂元就 プロデューサー:勇太
出演:涼邑芹(仮面女子)、楠木まゆ(仮面女子)、森下舞桜(仮面女子)、木下友里(仮面女子)、林尋美、星ようこ、松林慎司、大宮将司、松木威人、津田寛治
主題歌・挿入歌:ナオリュウ

【ストーリー】 大学3年生の わたほ(涼邑芹)は、東京の映像制作会社に就職することを夢見ていたが、ある日東京に先に出ていた姉の結衣(楠木まゆ)が実家の家業である織物会社を継ぐと言い、帰ってくることになった。 東京で一緒に住もうと約束していた姉の行動に不信感を抱くわたほ。 そして、姉が帰ってくる日。 わたほは鯖江駅に迎えに行くのだが……。鯖江の地場産業のひとつである繊維産業のルーツである石田縞。その特徴である長く伸びる縞のように、ゆっくりと命を紡いできた家族の物語。

『未来の唄』( 2019年/日本/51分)
監督・脚本:片山享
撮影・照明:深谷祐次 録音:坂元就 プロデューサー:勇太
出演:月野もあ(仮面女子)、水野ふえ(仮面女子)、関口アナン、桜のどか、三上光代、片山享、清水正義、畠中昭一、森本のぶ、塚田孝一郎、仁科貴、ほか、鯖江市民
主題歌・挿入歌/ナオリュウ
【ストーリー】 福井県鯖江市河和田地区に1500年以上続く伝統産業「越前漆器」。漆器づくりの特徴は、木を伐り出すところから製品ができるまでの各工程を別々の職人が行うというところにある。 その工程の一つである蒔絵師の市朗(塚田孝一郎)を祖父に持つ未来(月野もあ)。 未来は、祖父に憧れ、蒔絵の前工程となる上塗り師になった。 伝統が息づく小さなまちでコツコツと職人として成長してきた未来。しかし、とある決断を迫られていた。
※「つむぐ/未来の唄」イベント詳細はこちら

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