『止められるか、俺たちを』〜1969年を再現した若松プロダクションの青春群像劇〜

  • 2018年10月12日更新

『止められるか、俺たちを』メイン画像「若松プロダクション」で若き日々を過ごした映画製作者たちの青春群像劇。若松孝二役を井浦新が、21歳でピンク映画の助監督となったヒロイン・吉積めぐみ役を門脇麦が好演。監督をつとめたのは、若松プロダクション出身で、実際に若松本人を知る白石和彌。1969年頃の新宿・原宿を舞台に、時代が匂い立つような魅力ある作品に仕上がっている。2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開。©2018若松プロダクション

フーテンだった21歳のめぐみは、若松の存在と映画作りにのめり込んでいく

『止められるか、俺たちを』画像2【あらすじ】新宿のフーテン仲間で芸術家肌の”オバケ”(タモト清嵐)に誘われ、若干33歳のピンク映画の旗手、若松孝二監督(井浦新)率いる”若松プロダクション”にやってきた吉積めぐみ(門脇麦)。原宿セントラルアパートに構えられたその一室は、映画監督や脚本家、カメラマンなどを志望している”何らかの卵”である若者たちの巣窟だった。「数年で監督にしてやる」と若松に言葉をかけられためぐみは、若松組ピンク映画の助監督となって、毎日のように、刺激的な日々を過ごすようになる。事務所や居酒屋に集まっては、酒を飲み煙草をふかして語り合い、街に出てはピンク映画の主演女優をスカウトしたり、レコードを万引きしたり……。「助監督はきつい。男でも逃げ出したくなる」と言われたが、撮影が始まるとめぐみは、 若松に叱責されながらあわただしく走り回り、次第に映画作りに魅了されていく。しかし映画に夢中になればなるほど「自分が何を撮りたいか」がわからずに、次第に焦りを感じるようになっていく。

やがて「エネルギーが燃え尽きた」というオバケが若松プロを去り、1971年には連合赤軍による事件が勃発。同じ頃カンヌ国際映画祭に招待された若松監督らはレバノンに渡り、映画『PFLP世界戦争宣言』を撮りあげて帰国。次第に政治色が強くなっていく若松プロに、めぐみは入り込めない空気を感じるようになっていく……。

若松孝二とは、そして1969年の映画製作とは

『止められるか、俺たちを』画像3若松孝二は、1963年の映画監督デビューから2012年に事故で亡くなるまで映画を撮り続けた。晩年2010年には、ベルリン国際映画祭で、主演・寺島しのぶが最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞し『キャタピラー』はかなりの話題作となった。ゆえに比較的若い世代でも、若松監督の新作映画を劇場で観た方も多いだろう。

職業を転々としてヤクザになり、刑務所出所後に映画監督になった若松は、作品の中で怒りやフラストレーションを爆発させるようになった。ありあまるエネルギーを映画製作に注いだ若松孝二監督は、その後も長きにわたり作品を撮り続けた。中でも、本作で描かれる1969年は、若松監督史上最も多作の年。「10分に1回濡れ場があれば何を撮ってもいい」という基準でピンク映画が量産されていたこの時代、映画製作はあらゆる表現者にとって、魅力的なツールだった。若松監督は強烈なメッセージを込めた斬新な作品を次々と発表し、若者たちを熱狂させた。本作に登場する若松プロ内外の人々は、映画を愛し芸術を志し、貪欲に前のめりに突き進んでいく。漫画家・赤塚不二夫や映画監督・大島渚も登場する。活力あふれる人々が”本物の映画作り”に熱くなっていた1969年からの数年間は、日本映画界全体にとっても、愛おしい特別な時代だったと言えるだろう。

新宿周辺の喫煙とポケット瓶の時代

『止められるか、俺たちを』画像5禁煙化が進む現代においては、スクリーンに煙草を吸うシーンが登場すると、なんとなく違和感を覚えるようになった。しかし、ついこの間までは、何かを作り出そうとするあらゆる現場には、紫煙が立ち込めていた気がする。もちろん、フーテンが集まる1969年の新宿あたりには、健康志向の若者など、ほとんど見当たらなかっただろう。

本作は、そんな時代を切り取った作品として、多くの場面で過剰に映るほど、登場人物が煙草を吸い続けている。これは時代を描くためには、必然な描写なのかもしれない。回し飲みするウイスキーのポケット瓶も同様だ。
本作では、煙草やポケット瓶のほかにも、登場人物のファッション・髪型や店の内装、持ち道具などに隅々までこだわり、まるで時代をそっくり取り出してきたような懐かしい雰囲気に仕上げている。

門脇麦・井浦新、若松組を演じるキャストの魅力

『止められるか、俺たちを』画像4本作を撮った白石和彌監督は、若松プロダクション出身で、実際に若松本人を知る人である。また今回、若松孝二役を演じた井浦新も「ARATA」名義の頃から若松作品に出演し、若松監督本人と流を深めてきた俳優だ。今回、井浦は、癖のある若松監督の口調や佇まいを、的確に写し取っている。俗っぽいモノマネとは一線を画する見事な役作りで、井浦ファンをも驚かせるだろう。

ヒロイン・めぐみを演じる門脇麦の”1969年感”もすばらしい。髪型やファッションが馴染む顔立ちや外見だけでなく、学生運動も盛んであったこの時代に、多くの若者が抱いていたであろう、やり場のないエネルギー、生きることへの焦燥感、ハスッパで尖った雰囲気を、全身から滲ませている。実在の人物・吉積めぐみが感じていたであろう、若松孝二や先輩スタッフへの思慕、映画製作への抑えきれない情熱という光の部分、そしてその反動の孤独・悩み・漠然とした不安といった影の部分、両面からめぐみとして生き、ヒリヒリとした痛みを感じさせてくれる。門脇麦、井浦新だけでなく、出演者の多くが”あの時代”を惜しみなく体現し、若松組を再現している。
「映画のための映画」とも言える本作。ぜひ多くの方に劇場へ足を運んでいただき、あの時代に身を委ねていただければと思う。

>>『止められるか、俺たちを』予告編<<


▼『止められるか、俺たちを』作品・公開情報

『止められるか、俺たちを』画像6(2018年/日本/119分)
監督:白石和彌
出演:門脇麦、井浦新、山本浩司、岡部尚、大西信満、タモト清嵐 毎熊克哉 伊島空、外山将平、藤原季節、上川周作、中澤梓佐、満島真之介、渋川清彦、音尾琢真、高岡蒼佑、高良健吾、寺島しのぶ、奥田瑛二 ほか
配給:スコーレ
©2018若松プロダクション

●『止められるか、俺たちを』公式サイト

※2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開

文:市川はるひ

  • 2018年10月12日更新

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