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5月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2025年04月30日更新
5月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
LINE UP 5/2(金)公開『未完成の映画』 5/9(金)公開『新世紀ロマンティクス』 5/9(金)公開『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』 5/16(金)公開『ガール・ウィズ・ニードル』 5/16(金)公開『サブスタンス』 5/16(金)公開『無名の人生』 5/23(金)公開『サスカッチ・サンセット』 5/30(金)公開『犬の裁判』 5/30(金)公開『黒い瞳 4K修復バージョン』 5/30(金)公開『マリリン・モンロー 私の愛しかた』 |
『未完成の映画』
誰かとつながっていたい思いをリアルに再現
『天安門、恋人たち』の上海出身、ロウ・イエ(婁燁)監督が、コロナ禍が拡大を見せ始めた2020年1月の緊迫した数日間を、ドキュメンタリーの要素を取り入れてリアルに再現した問題作。映画監督のシャオルイは10年前に中断された映画を完成させようと、当時のスタッフ、キャストを呼び寄せる。撮影もほぼ終了したある日、シャオルイ監督や主演のジャン・チェンらクルーの一部が、当局によってホテルに足止めされてしまう。部屋から一歩も出られない中、スマートフォンを通じて仲間たちや妻と連絡を取り合うジャンだったが……。この作品のために作り込んだ映像に加え、母親をコロナで亡くした幼い少女や市中での暴動シーンなど、実際に市民が撮ったと思われるビデオ動画が差し挟まれ、リアリティーをいや増す。禁足状態のクルーがリモートの分割画面で一緒に歌を口ずさむなど、誰かとつながっていたいという人間の根源的な思いが強烈に伝わってきて、心に響いた。(藤井克郎)
2025年5月2日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/シンガポール、ドイツ/107分)英題:An Unfinished Film 監督・脚本:ロウ・イエ(婁燁) 出演:チン・ハオ(秦昊)、マオ・シャオルイ(毛小睿)、チー・シー(斉渓) ほか 配給:アップリンク © Essential Films & YingFilms Pte. Ltd.
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『新世紀ロマンティクス』
恋人たちがたどった21年の容赦ない時の重み
北京での夏のオリンピック開催が決定した2001年から世界の経済大国に変貌したコロナ禍の2022年まで、中国が体験した21世紀のうねりを、現代中国を代表するジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督が驚きの手法でたどった。2001年、中国北部の大同でモデルをしているチャオは、恋人のビンと青春を謳歌していた。だが炭鉱で栄えた街は今や失業者であふれ、ビンは一旗揚げようとチャオの元を去る。ダム建設のために水底に沈む奉節で2006年にビンと再会したチャオは2022年、大同に戻ってスーパーのレジ係をしていた。そんな彼女の前にビンが現れる。妻のチャオ・タオ(趙濤)を主役で起用し続けているジャ監督だからこそなし得た奇跡の作品で、ビンを演じるリー・チュウビン(李竺斌)がチャオの恋人役だった『青の稲妻』『長江哀歌(エレジー)』の映像などを駆使して、21年にわたる2人の人生を詩的に見つめる。老いを重ねていくチャオの姿に、容赦ない時の重みを感じた。(藤井克郎)
2025年5月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/中国/111分)原題:风流一代 英題:Caught by the Tides 監督・脚本:ジャ・ジャンクー(賈樟柯) 出演:チャオ・タオ(趙濤)、リー・チュウビン(李竺斌)、パン・ジアンリン(潘剑林) ほか 配給:ビターズ・エンド © 2024 X stream Pictures All rights reserved
『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』
戦場の最前線に挑んだ女性写真家の切実な思い
ヒトラーの浴室で撮影した歴史的ポートレートなど、第二次世界大戦の最前線で活躍したアメリカ人女性写真家、リー・ミラーをモチーフに、『愛を読むひと』などのケイト・ウィンスレットが製作総指揮として映画化。旧知の撮影監督、エレン・クラスを監督に抜擢し、自ら主役のリー役を演じた。『VOGUE』誌などのモデルを務めていたリーは、男性の視線にさらされる存在に嫌気が差し、写真家を志す。恋人のローランドが暮らすロンドンに移り住んだ彼女は、激化するヨーロッパ戦線の最前線を捉えたいとフランスに渡るが……。砲弾が飛び交う激戦地やダッハウ強制収容所など、戦場の悲惨な現実を迫力ある映像で再現。戦争で女性が被った悲劇を世の中に知らしめたいとの思いは、ウィンスレットら映画の作り手の姿勢にもかぶさる。ラストの意外性にあふれた展開も含め、今も女性たちは正当な評価を受けていないという嘆きが伝わってくる。(藤井克郎)
2025年5月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/イギリス/116分)原題:LEE 監督:エレン・クラス 出演:ケイト・ウィンスレット、アンディ・サムバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド ほか 配給:カルチュア・パブリッシャーズ © BROUHAHA LEE LIMITED 2023
『ガール・ウィズ・ニードル』
出口の見えない生活を強いられる女性たち
第一次世界大戦後のデンマークで実際に起きた事件から着想を得て、スウェーデン出身のマグヌス・フォン・ホーン監督が、人間の隠された本性をモノクロの画面で冷徹に見つめた。みすぼらしいアパートに暮らすお針子のカロリーネは縫製工場のオーナーと身分違いの恋に落ちるが、やがて捨てられて失業。妊娠した彼女は里親探しの支援活動をしている女性、ダウマと出会い、望まれずに生まれた赤ん坊の乳母の役割を引き受けるが……。約100年前を時代背景にしているとは言え、子どもの選別や貧しい女性の生き方、障害者への視線など、現代にも通じる社会問題が救いようのない厳しさで紡がれる。カロリーネの振る舞いは傍から見れば身勝手で共感も同情もできないが、出口の見えない生活を強いられている女性に社会は果たして手を差し伸べてきたのか。そんな問いかけが、人間の醜さを顕在化するかのようなモノクロ画面から浮かび上がってきた。(藤井克郎)
2025年5月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/デンマーク、ポーランド、スウェーデン/123分/PG-12)原題:Pigen med nålen 英題:The Girl with the Needle 監督・脚本:マグヌス・フォン・ホーン 出演:ヴィク・カーメン・ソネ、トリーネ・デュアホルム、ベシーア・セシーリ ほか 配給:トランスフォーマー © NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024
『サブスタンス』
老いの現実と恐怖を諧謔味たっぷりに描く
50歳を迎え、プロデューサーからレギュラー番組の降板を言い渡された女優のエリザベスは、サブスタンスという再生医療の広告映像を目にする。より若く美しいもう一人のあなたを作り出すという謳い文句に抗し切れず、キットを入手した彼女だったが、指示通りに注射を打つと……。フランス出身のコラリー・ファルジャ監督が、かつてのアイドル女優、デミ・ムーアを主役に迎え、老いの現実と恐怖を特殊メイクなど最先端の映像技術を駆使して諧謔味たっぷりに描き出した。サブスタンスで生まれ変わった若いもう一人のエリザベスはスーと名乗り、オーディションでエリザベスの後釜に抜擢される。2人は同一人物だと何度も念を押されるが、やがてそれぞれの個性が暴走。とんでもないラストへと突っ走っていく展開が恐ろしいやらあきれるやら。ムーアともう一人の彼女を演じたマーガレット・クアリーの2人の突き抜けた演技も見もので、「怖おかしさ」にあっけに取られた。(藤井克郎)
2025年5月16日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/アメリカ/142分/R-15)原題:The Substance 監督・脚本:コラリー・ファルジャ 出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド ほか 配給:ギャガ © 2024 UNIVERSAL STUDIOS
『無名の人生』
色鮮やかになっても好転しない不条理な行く末
短編アニメーションの『MAHOROBA』でPFFアワード2022の審査員特別賞を受賞した鈴木竜也監督が、1年半を費やして1人で作り上げた初長編作品。いじめられっ子だった主人公は、ある転校生と出会ったことで転機が訪れる。伝説のアイドルだった父親の背中を追って自分も同じ道に進むが、世の中は徐々に不穏な空気に包まれていった。正方形の窮屈な画面サイズで、モノクロに近いくすんだ色味から始まり、主人公がアイドルとして人気を集めるに従い、画面の横幅が広くなり、色彩も鮮やかになっていく。と言って彼も堂々として明るくなったかというと、相変わらず人生は不条理で厳しい。薄ぼんやりとちらつく雪や、人物の顔の焦点をわざとぼかす演出など、独特の表現方法も寄る辺ない心情を巧みに彩る。『2001年宇宙の旅』など近未来SF映画へのオマージュも込められていて、鈴木監督の思いの丈がぎっしりと詰まった極めて挑戦的な意欲作だ。(藤井克郎)
2025年5月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/93分) 監督・原案・作画監督・美術監督・撮影監督・色彩設計・キャラクターデザイン・音楽・編集:鈴木竜也 声の出演:ACE COOL、田中偉登、宇野祥平 ほか 配給:ロックンロール・マウンテン © 鈴木竜也
『サスカッチ・サンセット』
言葉を発しない毛むくじゃらの喜怒哀楽
登場人物(動物?)はわずか4人(4匹?)。せりふはなく、奇声を発するのみ。それなのにこんなに笑えて、こんなに心を揺さぶられるとは思わなかった。とある山の中を、サスカッチなる二足歩行の毛むくじゃらの生き物がさまよっていた。彼らは欲望のままキノコなどを採って食べ、辺り構わず交尾をするなどしていたが、ある日、リーダー格のオスがピューマに食い殺されてしまう。残された若いオスとメス、幼いジュニアは、それでも旅を続けるが……。下品で欲まみれという何とも人間臭い謎の存在を、ジェシー・アイゼンバーグら演者が着ぐるみ姿で大真面目に演じているのが楽しい。一言も言葉を発せず、特殊メイクで表情もつけづらいのに、喜怒哀楽が伝わってくる表現力は見事の一言だ。カメと戯れる場面など大爆笑に次ぐ大爆笑の終盤、意外過ぎる展開が待っているのも見もので、デヴィッドとネイサンのゼルナー兄弟監督が魅せる作劇術と演出力に舌を巻いた。(藤井克郎)
2025年5月23日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/アメリカ/88分)原題:Sasquatch Sunset 監督・脚本・製作・出演:デヴィッド・ゼルナー&ネイサン・ゼルナー 出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ライリー・キーオ、クリストフ・ゼイジャック=デネク 配給:アルバトロス・フィルム © 2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved
『犬の裁判』
動物愛護と女性の権利がぶつかり合う法廷コメディー
スイスの弁護士、アヴリルは裁判に負け続け、事務所からは解雇寸前の状況にあった。ある日、彼女の元に視覚障害のある男から弁護の依頼が舞い込む。女性の顔を咬んで傷つけた飼い犬のコスモスを、安楽死から救うための裁判に力を貸してほしいというのだ。アヴリル役も兼ねるフランス出身のレティシア・ドッシュ初監督作で、実話をモチーフに動物愛護と女性の権利が真っ向からぶつかり合う法廷コメディーを編み上げた。目の不自由な飼い主にとってかけがえのない存在であるコスモスを守りたいと奮闘するアヴリルだが、女性差別、移民差別など今日的な問題意識が絡んで、アヴリル側が世間の憎悪の対象になっていくという流れが何とも皮肉。それを笑いで包んでいるのがミソで、シリアスな社会性がすんなりと心に届く。カンヌ国際映画祭で最優秀犬に贈られるパルムドッグ賞を受賞したコスモス役のコディの哀愁に満ちた表情にも注目だ。(藤井克郎)
2025年5月30日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/スイス、フランス/81分)原題:LE PROCES DU CHIEN 監督・脚本:レティシア・ドッシュ 出演:レティシア・ドッシュ、フランソワ・ダミアン、ジャン=パスカル・ザディ ほか 配給:オンリー・ハーツ © BANDE À PART – ATELIER DE PRODUCTION – FRANCE 2 CINÉMA – RTS RADIO TÉLÉVISION SUISSE – SRG SSR – 2024
『黒い瞳 4K修復バージョン』
身勝手な人たらしが溺れる恋の物語
チェーホフの4つの短編をもとに、自分勝手な恋に溺れる中年男を描いた1987年製作のラブストーリー。4K修復が施され約25分のシーンが追加された。イタリアに向かう客船の食堂で、ある初老の男がロシア人紳士に自らの人生を語り始める。イタリアの田舎町で生まれたその男ロマーノは大銀行家の一人娘と結婚。だが、夫婦の仲は冷え切っていた。家業が傾く中、彼は一人で出かけた湯治場で美しいロシア人の女性アンナと激しい恋に落ちる……。ロマーノ夫妻が住む邸宅も彼が訪れる湯治場も豪華絢爛ながら混沌とし、そこに集う裕福な人々も決して品があるとはいえない。その不安定感が甘美なはずの物語を不穏なものにする。滑稽さと哀れさを併せ持つダメ男を演じるのは名優マルチェロ・マストロヤンニ。身勝手で周囲を翻弄するのに憎めない天性の人たらしぶりが、哀愁に満ちたストーリーやフランシス・レイの音楽と絡み合い、忘れがたい余韻を残す。(吉永くま)
2025年5月30日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(1987年/イタリア/143 分)原題:OCI CIORNIE 監督:ニキータ・ミハルコフ 出演:マルチェロ・マストロヤンニ、シルヴァーナ・マンガーノ、マルト・ケラー ほか 配給:ザジフィルムズ ©1987 Excelsior Film-TV. © 2010 Cristina D’Osualdo. All rights reserved.
『マリリン・モンロー 私の愛しかた』
セルフブランディングに長けた伝説的女優の生涯
死後60年以上経っても“永遠のセックスシンボル”と呼ばれ、世界を魅了し続けるマリリン・モンローの実像に迫るドキュメンタリー。今年生誕99年を迎える伝説的女優の波乱の人生を、知人や友人、共演者たちのインタビュー、作品のシーン、当時の映像などを交えながら浮き彫りにした。卓越したコメディやミュージカルのセンス、時に狂気をはらんだ演技、チャーミングな色気、そして何よりもその存在感で、スクリーンの中でも外でもオーラを放ち続けるマリリン。彼女の人生についてはこれまでにも多く語られてきたが、イアン・エアーズ監督は時代に翻弄された脆い女性という従来のイメージよりも、夢をあきらめず、セルフブランディングに長け、賢く、自分の意思を持つ努力家といった側面を印象づけた。その36年の生涯を凝縮した120分は、時を超えて私たちを本当の彼女に近づけてくれた。(吉永くま)
2025年5月30日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/フランス/120 分)原題::DREAM GIRL THE MAKING OF MARILYN MONROE 監督・脚本・編集:イアン・エアーズ 出演:マリリン・モンロー、トニー・カーティス、ジェリー・ルイス ほか 配給:彩プロ © 2023-FRENCH CONNECTION FILMS
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