6月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2021年05月31日更新

6月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?

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6/4(金)公開『カムバック・トゥ・ハリウッド!!
6/4(金)公開『トゥルーノース
6/11(金)公開『逃げた女
6/12(土)公開『アフリカン・カンフー・ナチス
6/18(金)公開『グリード ファストファッション帝国の真実
6/18(金)公開『ももいろそらを』カラー版
6/19(土)公開『へんしんっ!
6/25(金)公開『1秒先の彼女
6/25(金)公開『いとみち


『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』

70 年代を舞台にした映画愛に溢れる脱力系コメディ

映画『カムバック・トゥ・ハリウッド』メイン画像ロバート・デ・ニーロ、トミー・リー・ジョーンズ、モーガン・フリーマンの3人が共演した、少しブラックな脱力系コメディ。1970年代のハリウッド。B級映画プロデューサーのマックスは、ギャングのレジーへの借金が返せずに大ピンチに陥る。だが、彼は“スタント撮影で死亡事故を起こし保険金を手に入れる”という大トリックを思いつき、老人ホーム暮らしの往年のスター、デュークを担ぎ出す。そして、ボツにしていたサイテーの脚本で西部劇を撮影し、デュークに死んでもらうよう画策するが、意外にも彼はしぶとく……。歳をとっても丸くなるどころか、強欲、傲慢、情けなさといった人間臭さをまき散らす憎めない老人たち。当時のショービジネス界の空気を実際に知る大物俳優たちが、抜群の存在感を見せ、癖のある役を楽しそうに演じる。散りばめられた過去の作品へのオマージュに、制作側の深い映画愛を見た。(吉永くま)

2021年6月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020 年/アメリカ/104 分)原題: The Comeback Trail 監督・脚本:ジョージ・ギャロ 出演:ロバート・デ・ニーロ、トミー・リー・ジョーンズ、 モーガン・フリーマン ほか 配給:アルバトロス・フィルム © 2020 The Comeback Trail, LLC All rights Reserved


『トゥルーノース』

愛らしいCGアニメで描く人権侵害の過酷な実態

北朝鮮の政治犯強制収容所の過酷な現状を3DCGアニメーションで描いた衝撃作。映像や出版、教育事業を展開する在日コリアンの清水ハン栄治が初監督に挑んだ。北朝鮮に帰還した在日家族のヨハンとミヒの幼い兄妹は、父親が政治犯の疑いで逮捕されたことで、母とともに強制収容所に連行される。人間扱いされない苦役と監視や密告が横行する環境で育った2人は、やがて孤児のインスと連れ立って脱走することを計画する。折り紙を彷彿とさせる角ばった3DCGのキャラクターはユーモラスで愛らしいが、それがかえって苛烈なリアリティーを醸し出す。せりふを英語にするなど、当初から国際市場を目指した姿勢にも、北朝鮮の人権侵害の実態を世界にアピールしたいという制作側の本気度が伝わってきた。(藤井克郎)

2021年6月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本・インドネシア/94分)監督・脚本・プロデューサー:清水ハン栄治 声の出演:ジョエル・サットン、マイケル・ササキ、ブランディン・ステニス ほか 配給:東映ビデオ ©2020 sumimasen


『逃げた女』

一度も夫と離れたことがない妻が初めて外出

韓国の鬼才、ホン・サンス監督と言えば多作で知られ、しかもどの作品も海外の映画祭で評判を呼んでいる。今作も2020年のベルリン国際映画祭で銀熊賞の監督賞に輝いた。主人公はキム・ミニ演じる主婦、ガミ。結婚して5年、一度も夫と離れたことがないという彼女は、夫の出張で初めて外出し、3人の女性と久しぶりに会う。田舎に住む1人目の先輩の家では夜眠れず、2人目の先輩はストーカーまがいの男を引き寄せる。映画館で偶然に出会った3人目にはひたすら謝られ……。ホン監督お得意の1対1の会話を重ねる中で、ガミの内部にどんな変化が起きるのか。今回も余分な説明や過度な演出は一切排し、アドリブのような会話を繰り返す。ミニマリズムを思わせるホン監督の世界観に酔いしれた。(藤井克郎)

2021年6月11日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/韓国/77分)原題:도망친 여자 英題:The Woman Who Ran 監督・脚本:ホン・サンス 出演:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ ほか 配給:ミモザフィルムズ ©️ 2019 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.


『アフリカン・カンフー・ナチス』

ヒトラーと東條に挑むガーナ人カンフー武術家

第二次世界大戦で敗れたドイツのヒトラーは密かに出国し、日本の東條英機とともにアフリカのガーナで人々を洗脳、世界征服を狙っていた。そんな荒唐無稽なシチュエーションのもと、ガーナで撮影された超Z級の作品だ。カンフー道場に通うアデーは熱心な生徒ではなかったが、ヒトラー一派に道場を荒らされ、復讐を誓って修行に専念。奥義を窮めて、ヒトラーが主催するカンフー大会に臨む。敵味方を問わず、次々と現れるキャラクターは何とも脱力感に満ちているが、アデー役のエリーシャ・オキエレをはじめ、カンフーの技術はなかなかのものだ。香港カンフー映画へのオマージュもたっぷりで、ヒトラー役として出演もしている日本在住ドイツ人のセバスチャン・スタイン監督のオタクぶりに胸が熱くなった。(藤井克郎)

2021年6月12日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/ガーナ・ドイツ・日本/84分)原題:African Kung-Fu Nazis 監督:セバスチャン・スタイン、ニンジャマン 出演:エリーシャ・オキエレ、マルスエル・ホッペ、秋元義人 ほか 配給:トランスフォーマー © 2020 BUSCH MEDIA GROUP. ALL RIGHTS RESERVED


『グリード ファストファッション帝国の真実』

円形競技場で誕生祝いを企画した成り金は……

世界中で激しい価格競争を繰り広げるファストファッション業界を痛烈に風刺した社会派コメディー。マイケル・ウィンターボトム監督が、『イタリアは呼んでいる』などでコンビを組むスティーヴ・クーガンを主役に、毒気にあふれた際どい笑いで織り上げた。安売りブランドで財を成したリチャードは、ギリシャのリゾート地で自らの60歳の誕生日を祝う大イベントを計画する。円形競技場をこしらえるなど悪ノリのオンパレードに、家族や従業員らは右往左往するばかり。途上国での搾取構造に難民の排除、テレビのリアリティーショーの茶番など、現代にはびこるさまざまな病巣を一網打尽に笑い飛ばす。実名もバンバン登場する大胆さは、さすが成熟したパロディー文化の国、イギリスの作品だなと感心した。(藤井克郎)

2021年6月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/イギリス/104分)原題:GREED 監督・脚本:マイケル・ウィンターボトム 出演:スティーヴ・クーガン、アイラ・フィッシャー、シャーリー・ヘンダーソン ほか 配給:ツイン Ⓒ 2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION


『ももいろそらを』カラー版

みずみずしくも型破りな青春映画がよみがえる

『逆光の頃』など、思春期の心の機微を柔らかな映像で紡ぐ小林啓一監督が、2011年にモノクロ映画として製作した長編第1作を、カラー版としてよみがえらせた。高校生のいづみはある日、大金の入った財布を拾う。友人とも言えない同級生の蓮実と薫とともに落とし主を突き止めるが……。もともとカラーで撮影していたが、未来から現在を回顧するという視点からモノクロで発表していたのを、現在進行形の物語としてカラー化。いづみたちのみずみずしくも型破りな青春模様が、淡い陽光に包まれてきらきらと輝く。中でもいづみを演じた池田愛の飾らない自由な雰囲気が、改めてこの作品の永遠性を証明する。タイトルになっている桃色の空も、カラーで見ることでより心に染み入ってくる感じがした。(藤井克郎)

2021年6月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/113分)監督・脚本・撮影:小林啓一 出演:池田愛、小篠恵奈、藤原令子 ほか 配給:フルモテルモ © 2020 michaelgion inc. All Rights Reserved

◆関連記事:くだらないことの積み重ねがちょっとした出来事で深い意味を持つ日常を-『ももいろそらを』小林啓一監督インタビュー(2013.1.12)


『へんしんっ!』

車椅子の監督が新たな自分の扉を開く

第42回ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2020グランプリ受賞作品。電動車椅子を使って生活する石田智哉監督は、「しょうがい者の表現活動の可能性」を探ろうと取材を始め、演劇や朗読で活躍する全盲の俳優や、ろうの手話表現者の育成にも力を入れているパフォーマーなど、さまざまな「ちがい」を橋渡しする人々を訪ねる。ある時振付家でダンサーの砂連尾理氏に誘われ、自らパフォーマーとして舞台に立つことに。初めは客観的な視点で撮影を進めていた監督だったが、やがて作品に飛び込んで舞台上で能動的に表現活動を行うようになり、徐々に「へんしん」していく。その姿からは、静かだが確実なエネルギーが放たれる。登場人物総出のラストシーンは、個々の間にあったはずのバリアが崩れ、まるで溶けた絵具が混ざり合っているように見えた。尚、本作では、日本語字幕、音声ガイドありの「オープン上映」を実施。上映形態においても、新しい可能性を追求している。(吉永くま)

2021年6月19日(土)公開 公式サイト 予告編動画
( 2020年/日本/94分)英題:Transform! 監督・企画・編集:石田智哉 出演:石田智哉、砂連尾理、佐沢(野﨑)静枝 ほか 配給:東風 © 2020 Tomoya Ishida


『1秒先の彼女』

時間差をテーマにしたあまりにもすてきな謎解き

台湾で旧暦の7月7日は、バレンタインデーとして恋人と過ごす日とされている。常に人よりもワンテンポ早いシャオチーは、朝起きると、この大切な1日がすっぽりなくなっていることに気づく。しかもなぜか日焼けで顔が真っ赤だった。失われた1日を探して、彼女の旅が始まる。『熱帯魚』などのチェン・ユーシュン監督が、20年前から温めていた脚本を基に映画化したロマンティックコメディーで、時間差をテーマにした大胆で見事な構成が光る。消えた1日の謎解きのあまりにもすてきな答え合わせには打ち震えるばかりだ。夕日をバックに海辺の一本道をバスが走る映像の美しさといい、シャオチーを演じたリー・ペイユーのチャーミングな笑顔といい、奇跡がいっぱい詰まった珠玉の作品になっていた。(藤井克郎)

2021年6月25日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/台湾/119分)原題:消失的情人節 英題:My Missing Valentine 監督・脚本:チェン・ユーシュン(陳玉勲) 出演:リー・ペイユー(李霈瑜)、リウ・グァンティン(劉冠廷)、ヘイ・ジャアジャア(黒嘉嘉)、ダンカン・チョウ(周群達)ほか 配給:ビターズ・エンド © MandarinVision Co, Ltd


『いとみち』

なまりのきつい津軽三味線少女がメイド喫茶に

青森県弘前市の高校に通ういとは、強い津軽弁で同級生になじめないでいた。小さいころから津軽三味線を得意とするが、今では恥ずかしいと封印している。そんな後ろ向きのいとが始めたアルバイトは、メイド喫茶の店員だった。青森出身の横浜聡子監督が、津軽弁と津軽三味線という郷土の誇りを題材に、地方に暮らす等身大の若者像を、コミカルな描写を織り交ぜて編み上げた。驚くのは、いとを演じた駒井蓮のバチさばきと津軽弁の見事さだ。地元出身とは言え、祖母役の津軽三味線奏者、西川洋子と交わす会話は何を言っているかわからないほどなまりがきつく、あえて字幕をつけずに流した横浜監督の胆力にも恐れ入る。映像と演技が確かなら、細かいせりふが不明でも通じるという映画の魔力を認識した。(藤井克郎)

2021年6月25日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本/116分)監督・脚本:横浜聡子 出演:駒井蓮、豊川悦司、黒川芽以 ほか 配給:アークエンタテインメント © 2021『いとみち』製作委員会

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