予告編大賞から長編の主役へ 『猿楽町で会いましょう』石川瑠華インタビュー

  • 2021年06月03日更新


待ちに待った劇場公開が、いよいよ現実となる。新型コロナウイルスの影響で公開が大幅に延期されていた『猿楽町で会いましょう』(児山隆監督)は、「未完成映画予告編大賞MI-CAN」のグランプリ受賞作を基に、都会の片隅に生きる若い男女の気持ちのずれを双方の視点から描いた意欲作だ。2019年の東京国際映画祭で初披露されたときにインタビュー取材をした主演の石川瑠華は、レッドカーペットの晴れ舞台を「ああいう楽しい場は私の知らない世界だったので、ずっとにやにやしちゃった」と初々しく話してくれた。その後、数多くの映画に引っ張りだこの存在となった期待のホープが信じる映画の魔力とは――。

【取材・撮影:藤井克郎】


弱い子だと理解して人間味のある役に

―石川さんが演じたユカは嘘ばかりついていて、なかなか共感しづらい女の子のような気がします。難しい役どころだったのではないですか?

石川瑠華(以下、石川):私も最初に台本をいただいたときは全く共感できず、逆にこの子に怒りを覚えるくらいでした(笑)。

でも好きにならないといけないなと思って、何回も台本を読み直して、監督ともディスカッションを重ねました。ユカは多分、弱い子なんですよね。自分で弱いとは絶対に認めたくないんだけど、すごく弱い子だなって思いました。何、この女? みたいな敵キャラにはしたくなくて、そこはちゃんと理解してあげようって。人間味のある人にしようと、意地でも寄り添っていましたね。

―未完成映画予告編大賞に出品したときから同じ役を演じていますが、すでにストーリーは出来上がっていたのですか?

石川:いえ、ストーリーもなかったし、キャラクターもそんなに作り上げられてはいなかったんです。予告編の出演者が本編に出るという制約もなくて、グランプリを受賞して映画が作られることになったとき、これで出られなかったらちょっと悔しいけど、でもおめでとうだけでいいかな、と思っていました。

しばらくは金髪男を見たくなかった

―予告編にはどういう経緯で出ることになったのですか?

石川:児山監督からインスタグラムでダイレクトメールが送られてきたのが最初でした。普通だったら危ないと思うのかもしれませんが(笑)、あんまり考えずに返信して監督と会ったんです。児山監督はずっと映画が撮れない期間があって、こういう思いでやってみたいんです、と言われて、自分でよければやりたいと思いました。そのころの自分って結構ふらふらしていて、ちょっと変わらなきゃと思っていましたし、これだけ熱意を持って映画を作っている人と一緒にやるんだったら、ちゃんと向き合おうという思いでしたね。

―それがグランプリを取って、本編の映画を作ることになった。改めて出演を依頼されたわけですね?

石川:賞を取った! って盛り上がった後、一定期間があいていたし、自分じゃないかなと思っていたんです。そしたら監督からご飯を誘ってもらって、お願いしますと言っていただきました。この役をまたできるっていうのは、めちゃくちゃうれしかったですね。監督からは絡みのシーンもありますよ、っていうのも言われました。でもこの映画にはそれが必要なんですって強い思いで言われて。自分でもちゃんと受けられたので、お引き受けしました。

―ほかにもオーディションのシーンなど、大変な撮影が多かったのではないですか?

石川:オーディションの場面は長回しでずっとしゃべっていて、でもワンテークで撮り終えているんです。あれはユカにとって大事な場面だなと思っていて、1日前からすごく緊張していました。

―コーヒーをかけられたりもしましたね。

石川:あのコーヒーはすごかったですね。予告編では水だったんです。でも本編になってコーヒーに変わったんですよ(笑)。コーヒーは、屈辱というか、みじめというか、受けるものが水の100倍くらいでした。

―児山監督からはいろいろと注文があったのですか?

石川:それがあんまりなくて。逆に私から監督に聞いたりしていました。リハーサルの後とかに結構、監督を呼び出して、ディスカッションしましたね。監督の実体験を交えた話らしくて、こういう女性がいたんです、と言われたりして、何でこうなるのか、一緒に考えたりもしました。

でもユカってすごく嫌なことも言うじゃないですか。ユカでありたくないという自分を追い込んでいって、ちゃんとユカなんだと言える自分でいなきゃなと思っていましたね。撮影は2週間だったのですが、終わっても2週間くらいは役を引きずりました。ずっと金髪で写真家の彼がいて、カメラのある生活を送っていて、という世界と向き合っていましたから、カメラをあまり見たくなかったり、金髪の人を避けたりしていました(笑)。

自分の気持ちを出すことで演技に目覚める

―石川さん自身は、子どもの頃から女優になりたいと思っていたのですか?

石川:そんなに昔から強く思っていたわけではありません。ちょっと演じることに興味があるくらいで、映画もそんなには観ていませんでした。

でも2017年に演技のワークショップを受けたら、あ、違うんだな、と感じたんです。演じるということを勘違いしていて、その違いを教えてもらったことで、続けたいな、面白いなって。ちゃんと人生をかけてやろうと思いました。

―勘違いとは?

石川:演じるって、そのままの気持ちではなく、なりきるという感じかなと思っていたんです。でも最初は違うとしか言われなくて、自分ではわからないんですよね。ただやっていくうちに、本当は今、何がしたいの、って聞かれて、そんなこと言っていいんだ、していいんだと初めて気づきました。自分を出していいんだとわかって、それがうれしかったですね。

映画は生きる力に変えることができるもの

―目標にする役者さんや作品などはありますか?

石川:『ヒミズ』の二階堂ふみさんや『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のビョークさんですね。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は、絶望の中にも希望がある映画だと思っています。バッドエンドの方がしっくりくるんですよね、私。人生ってそんなにハッピーなものとは思っていないというか、絶望の中にも光があれば生きていけるなと思っているので、そういう映画の方が好きなんです。

映画以外にもいろんな経験をどんどん積んでいった方がいいという声を耳に入れつつ、でも映画をやっていたいなという思いが強いです。いい作品を作りたいなと思っています。

―石川さんにとって映画の魅力って何でしょう?

石川:ちゃんとメッセージを受け取って、自分が生きていく力に変えることができるものなんじゃないかな。私自身、映画からそういうものをもらってきたので、それがすてきだなと思っています。

観ることでエネルギーをすごく使ったりする映画があって、お金を払ってまでそんなことしたくないよと思う人もいるかもしれません。でもエネルギーを使ってでも力をもらうような、何かを得られるような作品を作るって、すごいことだなと思うんです。私はそういう映画から力をもらったので、恩返しをしたいなという気持ちですね。人生を映したような作品をやってみたいです。

プロフィール&ミニシア名物「靴チェック」!

【石川瑠華(いしかわ・るか)】
埼玉県出身。1997年生まれ。2017年から女優としての活動を開始。舞台『hammer&hummingbird』(18年/濱田真和演出)やテレビドラマ『絶景探偵。SP』(19年/福島中央テレビ)に、ゆず、井上苑子、Aimerのミュージックビデオなど幅広く活躍。映画は『イソップの思うツボ』(19年/上田慎一郎、浅沼直也、中泉裕矢監督)、『ビート・パー・MIZU』(19年/富田未来監督)の主演のほか、『うみべの女の子』(21年/ウエダアツシ監督)など多くの作品が公開待機中。

この日の靴はアディダスのスニーカー。靴紐のある靴はあまり好きじゃないそうで、「これはすごく履きやすいなと思って買いました。ついに見つけた安全靴です(笑)」。

 

作品&公開情報

映画『猿楽町で会いましょう』ポスター▼『猿楽町で会いましょう』
(2019年/日本/122分/R-15)
監督:児山隆 製作:⻑坂信⼈ エグゼクティブプロデューサー:神康幸 プロデューサー:利光佐和⼦ 脚本:児⼭隆、渋⾕悠 ⾳楽プロデューサー:鶴丸正太郎 ⾳楽:橋本⻯樹 協⼒プロデューサー:井上潔 撮影:松⽯洪介 照明:佐伯琢磨 録⾳:桐⼭裕⾏ 助監督:東條政利 キャスティング:新江佳⼦ 美術:三ツ松けいこ 装飾:⼭⽥真太郎 スタイリスト:JOE ヘアメイク:中⼭有紀 制作担当:⾼橋恒次 編集:柿原未奈 写真:草野庸⼦
出演:金子大地、石川瑠華、栁俊太郎、小西桜子、長友郁真、大窪人衛、呉城久美、岩瀬亮/前野健太
主題歌:春ねむり「セブンス・ヘブン」
後援:ドリームインキュベータ
制作プロダクション:オフィスクレッシェンド
配給:ラビットハウス、エレファントハウス
Ⓒ2019オフィスクレッシェンド

公式サイト

【ストーリー】駆け出しのフォトグラファー、小山田修司は、売り込みに行った雑誌編集者から読者モデルの田中ユカを紹介される。ユカはインスタグラム用の写真を撮影してくれるカメラマンを探していた。ユカのことが忘れられない小山田は、何度かユカを撮影に誘うが、なかなかユカは本音を明かさない。そんな中、小山田が撮ったユカの写真が評判となる。

※2021年6月4日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、シネ・リーブル池袋 ほか全国順次公開

◎ゲストライター
藤井克郎(ふじい・かつろう) 1985年、フジ新聞社に入社。夕刊フジの後、産経新聞で映画を担当する。社会部次長、札幌支局長などを経て、2013年から文化部編集委員を務め、19年に退職。facebookに映画情報ページ「Withscreen.press」を開設し、同年12月にはwebサイト版「Withscreen.press」をオープン。ほか執筆は週刊朝日、赤旗新聞、劇場用映画パンフレット等。
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  • 2021年06月03日更新

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