5月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2020年05月01日更新
5月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?
LINE UP 5/2(土)公開 『精神0』 5/9(土)公開 『許された子どもたち』 → 6/1(月)公開に延期となりました。 5/23(土)公開『三大怪獣グルメ』 → 6/6(土)公開に延期となりました。 5/29(金)公開 『鵞鳥湖の夜』 → 9/25(金)公開に延期となりました。 5/30(土)公開『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』 → 6/20(土)公開に延期となりました。 5月下旬公開予定『ポネット』 → 6月に公開延期となりました。 |
※公開日は変更になる場合がございます。最新情報は各作品の公式サイト、SNSでご確認ください。
『精神0』
予期せぬ愛妻物語の展開に胸キュン
行き当たりばったりの撮影にナレーションや音楽を排した想田和弘監督の「観察映画」第9弾。第2弾に当たる『精神』(2008)で取り上げた岡山の精神科医、山本昌知さんが82歳で現役を引退することになり、その最後の日々を観察する。最初は今後の不安を訴える患者たちと、それに淡々と、でも親身になって「うんうん」と応える山本さんとのやりとりが続くが、やがてカメラが診察室の奥へと入っていくと、映画はまるで違った方向に進んでいく。どうやら妻の芳子さんは認知症を患っているらしく、ときどき支離滅裂な行動をする妻を、夫は患者に対するのと同じように、やはり「うんうん」と優しく接する。予期せぬ愛妻物語の展開に、胸がキュンと締めつけられた。(藤井克郎)
2020年5月2日(土)より「仮設の映画館」で公開後、全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本・アメリカ/128分)英題:Zero 監督・製作・撮影・編集:想田和弘 出演:山本昌知、山本芳子 ほか 配給:東風 © 2020 Laboratory X, Inc
『許された子どもたち』
いじめる側を焦点にいじめ問題をあぶり出す
教師の経験がある『ミスミソウ』(2017)などの内藤瑛亮監督が、構想に8年をかけ、自主映画として完成させた意欲作。不良グループを率いる中学生の絆星(きら)は、同級生の樹(いつき)をいじめの末に死なせてしまう。警察の取り調べに犯行を自供した絆星だが、息子の無実を信じる母親の説得で否認に転じ……。いじめる側の母子関係を中心にいじめ問題に切り込んだ異色作で、改心しない息子に過保護な母親をはじめ、まるで共感できない人物が次々と登場する。そんな人間の本性を、斜めに横にと転げまわるカメラに絆星の隠れ家の猥雑な風景、さらには中学生たちの本音の討論などを盛り込んで、多角的にあぶり出す。ラストの不気味さも含め、内藤監督のいじめへの強い怒りが胸に響いた。(藤井克郎)
2020年5月9日(土)より全国順次公開 ※緊急事態宣言の延長に伴う公開劇場のユーロスペース休館延長により6/1(月)より上映 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/131分/PG-12 ) 監督:内藤瑛亮 出演:上村侑、黒岩よし、名倉雪乃 ほか 配給:SPACE SHOWER FILMS © 2020「許された子どもたち」製作委員会
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『三大怪獣グルメ』
国立競技場で巨大な海鮮丼を召し上がれ
『日本以外全部沈没』(2006)や『地球防衛未亡人』(2014)などバカ映画の巨匠を自認する河崎実監督が、またも巨大怪獣映画に挑んだ。今度の敵は食べるとおいしいシーフード怪獣。東京に現れた巨大イカのイカラに巨大タコのタッコラ、それに巨大カニのカニーラが加わって、街を破壊しつくす。実家のすし屋を手伝う雄太は以前、生物を巨大化する薬の開発に携わっていたことがあり、シーフード怪獣攻撃部隊SMATの一員になってイカラらと対決する。真新しい国立競技場に怪獣を追い込んで巨大な海鮮丼にしてしまうなど、相変わらずの突飛な発想が楽しい。何の脈絡もなく意外な大物を登場させたりして、徹底的にばかばかしさを追求する姿勢には、毎度のことながら恐れ入った。(藤井克郎)
2020年5月23日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画 ※6月6日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。
(2020年/日本/84分) 監督・特撮監督:河崎実 出演:植田圭輔、吉田綾乃クリスティー(乃木坂46)、安里勇哉(TOKYO流星群) ほか 配給:パル企画 © 2020「三大怪獣グルメ」製作委員会
『鵞鳥湖の夜』
紫煙漂う湿った夜に出会った、逃げる男と謎めいた女
警官殺しの罪で多額の報奨金をかけられた逃亡犯と、謎めいた娼婦の織りなす、妖しくも退廃的なクライム・ストーリー。『薄氷の殺人』(2014)で第64回ベルリン国際映画祭の金熊賞と男優賞をW受賞した中国の気鋭ディアオ・イーナン監督の5年ぶりの新作であり、昨年の第72回カンヌ国際映画祭では『パラサイト 半地下の家族』とともに喝采を浴びた作品だ。物語の舞台は、2012年の中国南部にある鵞鳥湖周辺。急速に都会化する中国で農村が都市の中に取り込まれ、高層ビルに囲まれた「城中村(都市の中の村落)」となった地域だ。縄張り争いをするギャングたちの巣窟と化した地であり、そんな底辺に巣食う人間たちの「愛」や「情」の一歩先には、常に裏切りという影がちらつく。湿った黒闇の中に、悲しい人間模様を浮かび上がらせる蛍光色のネオンや仄暗い灯りが、夏の夜の血なまぐさい喧噪を幻想的に彩り、そのスタイリッシュな映像美にも心を掴まれる。(min)
2020年5月29日(金)より全国公開 公式サイト ※9月25日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷ほか全国公開
(2019年/中国・フランス/111分/PG-12)原題:南方車站的聚会 英題:THE WILD GOOSE LAKE 監督・脚本:ディアオ・イーナン 出演:フー・ゴー、グイ・ルンメイ、リャオ・ファン、レジーナ・ワン ほか 配給:ブロードメディア・スタジオ
『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』
長回しの対話でつづられる先達への敬意
20世紀のロシア人作家、セルゲイ・ドヴラートフを主人公に、ソビエト政府の統制のもとでなかなか作品を発表できずにいた彼と仲間たちの苦悩を、極めて個性的な表現で映像化した。1971年のレニングラード。母親に仕事をするよう叱咤されたドヴラートフは、船の完成式典用の映画でプーシキンやトルストイらに扮する人々に取材するが……。ロシア文学の流れやこの時代の芸術を取り巻く環境などが、ドヴラートフとヨシフ・ブロツキーら若き芸術家との対話を中心に語られる。彼らと同世代の名監督を父に持つアレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督は、この対話を移動カメラによる長回しの映像で何度も何度も繰り返す。くすんだ色味といい、苦境の中で創作を続けた先達への敬意が奥深い。(藤井克郎)
2020年5月30日(土)より全国順次公開 ※緊急事態宣言の延長に伴い6月20日(土)公開に延期となりました。 公式サイト 予告編動画
(2018年/ロシア/126分)原題:Dovlatov 監督:アレクセイ・ゲルマン・ジュニア 出演:ミラン・マリッチ、ダニーラ・コズロフスキー、スヴェトラーナ・ホドチェンコワ ほか 配給:太秦 © 2018 SAGa/ Channel One Russia/ Message Film/ Eurimages
『ポネット』
世界中の涙を誘った少女の演技に心奪われる
いつまでも輝き続ける“不滅の映画”を上映する “the アートシアター”第3弾。主役を演じたヴィクトワール・ティヴィソルは当時4歳。その自然でひたむきな演技が高く評価され、1996年のヴェネチア映画祭主演女優賞を史上最年少で受賞した。交通事故で母親を失った少女ポネットは、その死を受け入れられず、ひたすら母の帰りを信じて祈り続けていた。周囲の大人たちは「死」を教えようとするが、ポネットはますます自分の世界に閉じこもる……。幼い子どもが喪失感や心細さ、不安とともに、「他の人はわかってくれない」という孤独とも向き合わなければならない残酷さ。悲しげなポネットの表情に胸が締め付けられながら、「この無垢で愛らしい女の子にいつか笑顔が訪れてほしい」と、祈るような気持ちでスクリーンの彼女の姿を見つめ続けた。(吉永くま)
2020年5月下旬より全国順次公開 ※緊急事態宣言の延長に伴う公開劇場のユーロスペース休館延長により6月公開に変更 公式サイト 予告編動画
(1996年/フランス/97分)原題:Ponette 監督:ジャック・ドワイヨン 出演:ヴィクトワール・ティヴィソル、マリー・トランティニャン、グザヴィエ・ボーヴォワほか 配給:アイ・ヴィー・シー © 1996 StudioCanal – Les Films Alain Sarde – Rhône Alpes Cinéma
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