『ルナの子供』 鈴木章浩監督 インタビュー

  • 2010年01月06日更新

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鈴木章浩監督が8年の歳月をかけて生みだした新作『ルナの子供』が、2010年1月9日よりシネ・ヌーヴォX(大阪)で、1月23日より名古屋シネマテークで、それぞれ上映されます。

『ルナの子供』の公開を記念して、本作の魅力、映画作りへの想い、気になる次回作について、鈴木監督にたっぷりとお話を伺ってきました!

― 第1話『彼女の物語』、第2話『美月の物語』、第3話『ヒカリの物語』:『ルナの子供』は、3編からなるオムニバス。主人公はいずれも女性です。この作品を撮ったきっかけは?

「『男性的でないものを描きたい』という思いが常にあるんです。」

タレント・プロダクションでもある製作会社から、自社所属の役者を主人公にしてほしい、という依頼があり、二人の女優を主役にした2話と3話を考えました。当初、第1話の主人公は男性だったのですが、1話だけ男性が主役だと浮いてしまう印象になったので、3人の女性が主人公になるように作り変えたんです。

僕自身は、もともと、男性的な世界が苦手なんです。ですから、女性映画を作りたい、というよりは、「男性的でないものを描きたい」という思いが常にありますね。

― 3話それぞれの印象が異なるオムニバスの『ルナの子供』。3つの物語をこの順番で構成した意図は?

『彼女の物語』は、2008年11月に1日で撮らなければなりませんでした。時間的な問題もあって、ストーリー展開を意識するというよりは、その場の雰囲気や、そこで浮かんでくるキャラクターの個々の記憶が一瞬だけ交わるような時間を描くことにしました。

『美月の物語』と『ヒカリの物語』は、2009年5月に続けて撮影しました。当初は『美月の物語』を第3話にする予定でしたが、編集をして3編を並べてみると、最も劇映画的な『ヒカリの物語』をエンディングにするのが構成上よいと思えたんです。

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― 『ルナの子供』の登場人物たちの会話は、とても自然で生々しく感じられます。鈴木監督は脚本も自ら手がけていますが、台詞はすべて脚本にあるものなのですか? また、演技の経験が少ない出演者も多かったということですが、リアリティのある情景を撮るこつは?

「(役者が)ありのままの自分の状態で、話して動いてもらえるほうが、僕にとってはありがたい」

台詞はほとんど脚本に書かれています。それを現場で役者に言ってもらって、言いにくい言葉があれば、言いやすいように直すことはありますが、役者のアドリブは基本的にありません。

ただ、僕は「演技をしている人」を見るのが、あまり好きではないんです。「ごく自然とそこにいる」人間を見て、切り取っていきたい、という欲望がとても強い。だから、「演技をしている人」を見ると、違和感を覚えてしまって、「この人は、どうして芝居をしているんだ」と思ってしまうんです。実際、役者にそう言ってしまったこともあって、役者には「いじめだ」と言われちゃったりもしましたけど(笑)。

役者がありのままの自分として、話して動いてもらうのがよいんです。その人のたたずまいや仕草、そこにいる感じが自然、というほうが違和感を覚えない。だから、演技の経験の有無よりも、役者が現場でリアリティを持って生きているかどうかを気にしていました。

キャスティングをするときに、もちろん、芸能プロダクションのタレント・プロフィールを見てピックアップすることもありますが、実際に会ってみないと、人となりはわかりません。『ルナの子供』の出演者を決めたときは、役に会う人を選んだというよりは、自分が興味を持った人を選んだので、その人に合わせて役のイメージを変えることもありました。

― 『ルナの子供』というタイトルにした理由は?

女性性(じょせいせい)の象徴として、「ルナ(=月)」という言葉がありました。また、3話すべてが、子供が生まれない関係の物語なので、逆説的に、「そこで生まれるもの=子供」という意味も含まれています。『ルナの子供』に限らず、「子供が生まれない関係」というのは、僕がほかの作品でも描いているテーマです。

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― リアリティと叙情性が共存した、独特の映像を表現する鈴木監督。その原点とこだわりは?

「カメラをのぞいて見る世界は、肉眼で見ているものと異なるのに、自分の主観と接点がある画が見えてくる場合があります」

構図が綺麗で照明が美しい、わかりやすい映像美の世界は苦手なんです。それはどこか客観的な感じがするからなのかもしれません。

初めて8mmカメラで世界をのぞいたとき、世界が違って見えて、とても喜びを覚えました。自宅の窓から外の道路を眺めただけなのに、まるで映画のようで、とても嬉しくなったんです。基本的に、主観的な映像が好きなんですね。だから、カメラを通して見る世界が自分の主観的な感情を映し出しているのを発見したとき、自分の映画を見出したような嬉しさがあります。そういう発見をつなげて映像にしている感覚はありますね。

ただ、僕は自分を表現するというよりは、自分の考えている漠然としたテーマと主題を物語の中に投げこんで、そこで何が起こるかを発見するのに興味があるんです。実際にあっても表面には出てこないような現実を、フィクションという枠組みを使って作り出し、そこに生きている人をドキュメンタリーのように撮りたい。そうしてできた映画から、なにが見えてくるか、ということに興味があります。

そして、僕の作った主観的で曖昧な物語が観客の主観とどこかで接点を持つことができたら、それが一番嬉しいんです。観た人がどこかで自分を発見する。それはある意味、叙情的なことだと思います。

― 次回作の予定は?

企画は山ほどあるのですが、今一番やりたいのは語シスコ先生の漫画『Empty Heart』の映画化です。地方でロック・バンドをしている高校生のゲイの男の子が、年上の男性に夢中になって、傷つきながら成長していく、という青春物語です。

できれば、岐阜県で撮りたいと思っているんですよ。原作の舞台は岐阜ではないのですが(笑)。シャッター商店街があって、路面電車が走っていて、川が流れている、そんな地方都市を舞台にしたいんです。主人公の高校生の周りには、ゲイとして生きている人がいないような環境です。主人公本人も、自分が同性愛者だという自覚が強くあるわけでもない。それなのに、男性に惹かれて、自分が何者なのかも、よくわからなくなってくる。そういう葛藤と成長を描きたいんです。

― 大阪と名古屋で『ルナの子供』の上映を楽しみにしているファンのみなさまへ、メッセージをお願いします。

東京で観てくださったみなさんから、人それぞれ、まったく違うご感想をいただいています。人によって、気になる点や印象に残る点が違うんですね。大阪と名古屋でも、多くのかたに観ていただいて、ご感想やご意見を直接聴かせていただけたら嬉しいと思っています。

大阪も名古屋も、公開初日は舞台挨拶で劇場へ行きますので、ぜひ声をかけてください。

― ミニシアターで映画をご覧になることはありますか?

「下高井戸シネマで『ルナの子供』を上映してもらうのが夢です」

僕の観たい作品は、シネマコンプレックスではあまり上映していないので(笑)、ミニシアターに行くことが多いです。よく足を運ぶのは、名画座の下高井戸シネマです。この映画館で『ルナの子供』を上映してもらうことが夢なんですよ。あそこで「映画上映&トーク・イベント」なんて、してみたいですね。

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鈴木章浩監督 プロフィール
1961年に静岡県で生まれる。『天使の楽園 LOOKING FOR ANGEL』(1999)が、ロッテルダム国際映画祭、バンクーバー国際映画祭を始めとして、各国の映画祭で絶賛され、一躍、注目を得た。代表作はほかに『天使の体温』(2001)。映画の監督・プロデュース業の傍ら、海外作品のリリース、字幕制作、翻訳、ライター等、幅広い分野で活躍している。

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『ルナの子供』公開情報
2010年1月9日よりシネ・ヌーヴォX(大阪)で、1月23日より名古屋シネマテークで、それぞれロードショー予定。
『ルナの子供』公式サイト

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『ルナの子供』作品紹介

取材・文:香ん乃 撮影:おすず
改行

  • 2010年01月06日更新

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