10月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2020年10月01日更新

10月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?

LINE UP
10/9(金)公開 『メカニカル・テレパシー
10/16(金)公開 『スパイの妻〈劇場版〉
10/16(金)公開 『博士と狂人
10/17(土)公開 『アイヌモシㇼ
10/23(金)公開 『彼女は夢で踊る
10/23(金)公開 『ストレイ・ドッグ
10/30(金)公開 『ウルフウォーカー
10/30(金)公開 『超擬態人間
10/30(金)公開 『パピチャ 未来へのランウェイ
10/31(土)公開 『私たちの青春、台湾


メカニカル・テレパシー

心を可視化する映像表現に果敢に挑戦

もしも人の心を可視化することができたら。そんな機械を開発していた大学の研究室で事故が起こり、開発者の草一が意識不明に陥ってしまう。研究を続ける妻の碧は、眠ったままの草一の心を何とか可視化しようと試みるが、研究を疎ましく思う大学側は、機械を調査する名目で真崎を研究室に送り込む。若い映画人を発掘するシネアスト・オーガニゼーション大阪の第13回助成作品で、五十嵐皓子監督にとっては初長編となる。草一が思う碧の心に碧自身の心、碧本人と、合成技術を駆使して異なる人格を登場させるなど、意欲的な映像処理が目を引く。何重もの人格を演じ分ける役者陣とともに、心を可視化するという複雑なテーマに挑んだ五十嵐監督の実験精神に感じ入った。(藤井克郎)

2020年10月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/日本/78分)監督・脚本:五十嵐皓子 出演:吉田龍一、白河奈々未、申芳夫、伊吹葵 ほか 配給:アルミ―ド © Akiko Igarashi


『スパイの妻〈劇場版〉』

夫婦間の駆け引きが織り成す極上の芸術

映画『スパイの妻』メイン画像黒沢清監督が日米開戦前夜の神戸を舞台に描き上げたサスペンスあふれる作品で、第77回ベネチア国際映画祭で黒沢監督が監督賞に当たる銀獅子賞に輝いた。貿易会社を営む優作が、映画の撮影に出かけた満州から重大な秘密を抱えて帰ってきた。留守を預かっていた妻の聡子は、信頼していた夫の謎めいた行動に疑念を抱くが……。市電が走る繁華街の風景といい、服や調度品などのくすんだ色づかいといい、1940年代をよみがえらせた映像美が見事。何よりも主役を演じる蒼井優のせりふ回しやしぐさがいかにも時代を感じさせ、映画の世界にどっぷりといざなう。夫婦間の腹の探り合いという娯楽性たっぷりの筋立てに加えて、反戦のメッセージも織り込まれ、極上の芸術と言えよう。(藤井克郎)

2020年10月16日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/115分)監督:黒沢清 脚本:濱口竜介、野原位、黒沢清 出演:蒼井優、高橋一生、坂東龍汰、恒松祐里、みのすけ、玄理、東出昌大、笹野高史 配給:ビターズ・エンド ©2020 NHK, NEP, Incline, C&I


『博士と狂人』

英語大辞典を編む過程のサスペンス

刊行まで70年以上を費やした世界最高峰の辞典「オックスフォード英語大辞典」の編纂者、ジェームズ・マレー博士と、その偉業に寄与した殺人犯のウィリアム・チェスター・マイナーの実話を基に、イラン系アメリカ人のP.B.シェムラン監督が映画化した。1870年代、イギリス。オックスフォード大学が出版を目指す英語辞書の新たな編纂責任者に、学士号を持たないマレーが抜擢される。そのころ、人違いで殺人を犯したマイナーは、心の病で病院に拘禁されていた。なかなか交わらない2人だが、シェムラン監督は交互にエピソードを描き出すことで、サスペンス性を盛り上げる。博士を演じたメル・ギブソンも熱演だが、狂人役のショーン・ペンのすごみに恐れ入った。(藤井克郎)

2020年10月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/イギリス・アイルランド・フランス・アイスランド/124分)原題:THE PROFESSOR AND THE MADMAN 監督:P.B.シェムラン 出演:メル・ギブソン、ショーン・ペン、ナタリー・ドーマー ほか 配給:ポニーキャニオン © 2018 Definition Delaware, LLC. All Rights Reserved.


『アイヌモシㇼ』

自らの文化への迷いに葛藤する少年の成長物語

舞台は北海道阿寒湖畔のアイヌコタン。アイヌ民芸店を営む母と暮らす14歳の少年、カントは、アイヌの血を引く自身のアイデンティティーに迷いを抱いていた。ある日、カントは、亡き父の友人でコタンの中心的存在であるデボから、子熊の世話を手伝うように頼まれる。現代に息づくアイヌ文化をモチーフに、『リベリアの白い血』(2015)の福永壮志監督が、普遍的な少年の成長物語を織り上げた。阿寒の四季折々の自然を背景に、トンコリやムックリといった民族楽器、熊送りの儀式のイオマンテなど、アイヌ古来の伝統が娯楽性の中に刻み込まれていて、福永監督のアイヌ文化への深い敬意をひしひしと感じる。人々の多彩な表情を切り取ったアップ多用のカメラワークも素晴らしい。(藤井克郎)

2020年10月17日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本・アメリカ・中国/84分) 監督・脚本:福永壮志 出演:下倉幹人、秋辺デボ、下倉絵美 ほか 配給:太秦 ©AINU MOSIR LLC/Booster Project


『彼女は夢で踊る』

消えゆくものへの愛惜をたっぷりと

シネマの天使』(2015)で、実際に閉館する広島県福山市の映画館を舞台にファンタジーあふれる物語を紡いだ時川英之監督が、今度は広島市に実在するストリップ劇場を題材に、やはり消えてゆくものへの愛惜を情感たっぷりに描いた。社長の木下が閉館を決意した老舗ストリップ劇場に、最後のステージを飾るダンサーたちが次々とやってくる。謎めいた若い踊り子を目にした木下は、修業時代に恋心を抱いたサラのことを思い出していた。サラを演じた岡村いずみをはじめ、ストリップのダンスシーンが見事で、絶妙のカメラワークがその幻想美を盛り立てる。古めかしい建物や街の風景も含めて、できる限り温かく撮ろうという時川監督の一途な思いが伝わってきて、胸が熱くなった。(藤井克郎)

2020年10月23日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/95分) 監督・脚本・編集:時川英之 出演:加藤雅也、犬飼貴丈、岡村いずみ ほか 配給:アークエンタテインメント © 2019 映画「彼女は夢で踊る」製作委員会

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『ストレイ・ドッグ』

N・キッドマンの変貌ぶりに驚愕!

映画『ストレイ・ドッグ』メイン画像ニコール・キッドマンが“美人女優”のイメージをかなぐり捨て、破滅へと突き進む汚れ役に挑んだネオ・ノワール。その変貌ぶりと体当たりの演技に驚愕する。監督は日系米国人のカリン・クサマ。LA市警の女性刑事エリンは、酒に溺れ、同僚や元夫、16歳の娘に疎まれながら、荒んだ生活を送っている。彼女は17年前、ある事件で取り返しのつかない過ちを犯し、その罪悪感とともに生きてきたのだった。ある日、姿を消していたその事件の主犯から、彼女宛てに挑戦状が届く―。殺伐とした乾いた土地で、銃撃戦や暴力に身を投じる孤独な中年刑事。一見、救いようがないような話だが、時折見せる彼女の人間らしい感情が作品のオアシスとなる。そんなクサマ監督のとがり過ぎずドライ過ぎない演出の絶妙な匙加減が心にくい。(吉永くま)

2020年10月23日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/アメリカ/121分)原題:DESTROYER 監督:カリン・クサマ 出演:ニコール・キッドマン、トビー・ケベル、タチアナ・マズラニー、セバスチャン・スタン ほか 配給:キノフィルムズ ©2018 30WEST Destroyer, LLC.


『ウルフウォーカー』

手描きアニメーションの世界観の懐かしさ

映画『ウルフウォーカー』メイン画像アニメーション・スタジオ “カートゥーン・サルーン” が手掛けるケルト3部作の最終作。中世アイルランドの町キルケニーに、オオカミ退治のためやってきたハンターと娘ロビン。ロビンは森の中で、人間とオオカミがひとつの体に共存する “ウルフウォーカー” のメーヴと出会う。友達になった2人が交わした約束は、図らずも父を窮地に陥れるものだった……。3Dソフトウェアを一部取り入れつつ2D手描きの世界観をベースにしたというアニメーションは素朴でどこか懐かしく、独特のタッチで描かれた人間や動物の豊かな表情は物語を雄弁に語る。また、スケッチ風の優しく美しい森の色彩にも魅了される。「自然や動物社会に対して、人間は決して奢ってはならない」という永久的な課題が込められた、見応えのあるファンタジーだ。(吉永くま)  

2020年10月30日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2020年/アイルランド・ルクセンブルク/103分)原題:WolfWalkers 監督:トム・ムーア、ロス・スチュアート 声の出演:オナー・ニーフシー、エヴァ・ウィッテカー、ショーン・ビーン 配給:チャイルド・フィルム © WolfWalkers 2020


『超擬態人間』

おどろおどろしい映像の作り込みに圧倒

赤子を抱える男の幽霊を描いた伊藤晴雨の「怪談乳房榎図」に着想を得て、『狂覗』(2017)の藤井秀剛監督が幻想的な映像で構築したホラーで、2019年のブリュッセル国際ファンタスティック映画祭でアジア部門のグランプリを獲得した。ある朝、息子の蓮とともに目を覚ました風摩は、自分が深い森の中にいることに気づく。そのころ、結婚式を控えたカップルと新婦の父親を乗せた車が、森の中で方向を見失っていた。雑木林の中の真っ白なベッドや不気味さが漂う廃屋、蓑を被った怪人など、おどろおどろしい美術の作り込みに目を見張る。斜めの構図やネガポジ反転など映像の工夫に加え、泥沼での格闘シーンなど俳優陣の頑張りも相当なもので、作品にかける作り手の情熱に圧倒された。(藤井克郎)

2020年10月30日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/80分)英題:MIMICRY FREAKS 監督・プロデューサー・脚本・撮影・編集:藤井秀剛 出演:杉山樹志、望月智弥、田中大貴 ほか 配給:イオンエンターテイメント 2018©POP CO., LTD


『パピチャ 未来へのランウェイ』

ファッションに懸けるアルジェリア女性の夢

1990年代のアルジェリア。大学生のネジュマはファッションデザイナーを夢見る普通の女の子だった。だがイスラム原理主義の台頭で、街には女性の服を規制するポスターが貼られるようになる。そんな中、ジャーナリストの姉がテロで殺され、ネジュマは姉との思い出が詰まった伝統素材のハイクを用いてファッションショーを開こうと計画する。現在はフランスに住むムニア・メドゥール監督が、「暗黒の10年」と呼ばれたアルジェリアでの悲惨な実態を映画化。女性差別の横行は現在も世界各地で見受けられ、監督の強い憤りがにじみ出る。と言って決してごりごりの社会派作品ではなく、ハイクファッションの美しさや女性たちの生き生きとした表情は必見。高い芸術性にぞくぞくした。(藤井克郎)

2020年10月30日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/フランス・アルジェリア・ベルギー・カタール/109分)原題:PAPICHA 監督・脚本:ムニア・メドゥール 出演:リナ・クードリ、シリン・ブティラ、アミラ・イルダ・ドゥアウダ ほか 配給:クロックワークス © 2019 HIGH SEA PRODUCTION – THE INK CONNECTION – TAYDA FILM – SCOPE PICTURES – TRIBUS P FILMS –– JOUR2FETE – CREAMINAL – CALESON – CADC


『私たちの青春、台湾』

社会の壁の厚さに跳ね返される若者の苦悩

台湾で社会運動に身を投じた若者を題材にしたドキュメンタリーで、10歳ほど上の世代に当たる傅楡(フー・ユー)監督が数年にわたってカメラを回した。2011年、傅監督は学生運動の中心人物、陳為廷(チン・ウェイテイ)人気ブロガーの蔡博芸(ツァイ・ボーイー)の2人と出会う。2人は、国会に当たる立法院を学生たちが占拠した2014年のひまわり運動で中心となって活動し、全土的に脚光を浴びるが、やがて挫折が訪れる。恐らく監督が2人を撮り始めたときはこんな結末になるとは思いもよらなかったはずで、意外な展開にはこちらも驚きを禁じ得ない。社会の壁の厚さに跳ね返される若者の苦悩という普遍的なテーマが浮き彫りになり、悔し涙を流す監督の姿とともに、ぐっと胸に迫った。(藤井克郎)

2020年10月31日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2017年/台湾/116分)原題:我們的青春,在台灣 英題:Our Youth In Taiwan 監督:傅楡 出演:陳為廷、蔡博芸 ほか 配給:太秦 © 7th Day Film All rights reserved

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