生々しい感情と疾走感がスクリーンにほとばしる異色の青春映画! 『1人のダンス』安楽涼監督インタビュー 〜続き〜

  • 2019年05月21日更新

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フィクションとリアルの垣根をどうにか越えたい

— 安楽監督の衝動が映画に臨場感を与えている一方で、主人公を冷静に俯瞰した目線も描かれていますよね。目の前のことに甘える自分や、彼女未満の女性の切ない思いに自覚がないと、このストーリーは成立しませんし。衝動と冷静さを同時に持ち合わせるのは難しいと思うのですが、片山さんとはどんなやり取りで脚本を落とし込んだのでしょうか?

安楽:俯瞰している部分は完全に片山さんの目線ですね。片山さんは、すごく冷静な人なんですよ。僕が勢いのままにこうしたいああしたいって言うのに対して、要所要所で「そうじゃない」って言ってくれる。そこで良いバランスを取っていった感じです。でも、結局は26稿くらいまで脚本は直しました。それでも、脚本より現場で沸いてくる感情を優先したシーンもたくさんあります。やはり、リアルな衝動を撮りたいっていうのが一番にあったので、何テイクも重ねちゃダメだと思って。撮影前の準備はしっかりしますけど、だいたいワンテイクで撮っていました。

— リアルな衝動を撮りたいっていうのは、この作品に限らず?

安楽:基本的に僕は良い瞬間とか、良い顔を撮りたくて映画を作っていて、それを撮るにはどうすればいいのかを第一に考えます。1回でやるのがいいのか、何回もやることで引き出せるものなのか。フィクションとリアルの垣根をどうにか越えたいと思う。役者も人間だから何度もやると慣れて来ちゃうんですよ。一発でやらないとっていう緊張感があったほうが、絶対に良いものが作れると思う。それでも、やり過ぎちゃうこともあって、今作ではそれを現場でうまく整えてくれたのが片山さんなんです。

— なるほど。やっぱり監督は、周りの人に恵まれていますね!

怒りや衝動を映画にすることで、その先にある救いをどうにか探そうとしている

— 本作はキャスティングも魅力的でした。片山さん演じた桐木は笑顔にエキセントリックさが滲み出ている感じがすごく怖くて。あと、個人的に大宮将司さん演じるAPの林がすごく好きです。全然しゃべらないのに、めちゃくちゃ存在感があって。セリフ言ったときは「あ! しゃべった!」って嬉しくて(笑)。

安楽:ははは(笑)。大宮さんは見た目が好きすぎて、出てくれって懇願したんですよ。

— 出倉さんもすごくナチェラルに演じられていましたし、女優陣も好演されていましたけど、女性目線で本作を観たときに、大須みづほさん演じるチヒロと安楽のシーンは、すごく切なかったですね。彼女未満という立場にいて、言いたいこともいっぱいあるのにどこかあきらめてもいて。“プレモル”のくだりとか、「わかる、わかる!」ってスクリーンに向かってうなずく女性が何人かいそう(笑)。

安楽:“プレモル”のくだりは完全に片山さんの趣味ですね(笑)。正直、僕はどういう意味なのかわからなかったんです。演じていくうちに理解しましたけど。

— そうなんですね(笑)。外のシーンで最後にチヒロが言い放つセリフも、複雑だけど深い思いが伝わってきてちょっと衝撃でした。女性同士で観たらあのシーンの話で2時間は飲めます(笑)。

安楽:ははは(笑)。大須さんこそ、ワンテイク目がすごく良い女優なんですよ。だからリハーサルであまり全力を出さないでくれってお願をいして。2人のシーンでは大須さんにすごく助けられました。

— 瞬発力のぶつかり合いだったからこそ、生々しい感情が伝わる作品になったんですね。そこに片山さんの冷静な目線が加わって、映画としての魅力が増幅されたと。

安楽:そうですね。僕だと客観視するのもあまり好きじゃないので、ただ踊っちゃうだけの映画とかになってしまうんで(笑)。でも、冷静に言われれば納得はするんですよ。

— では、演じながら自分自身の気持ちを理解するようシーンもあったのですか?

安楽:やっていくうちに、自分の感情に納得はしていきました。怒鳴り散らすのも、怒っている理由も、RYUICHIのことが好きだっていうのはわかってるし、変なプライドがあるのも自覚しているけど、皆に何を訴えたいのかが自分でもわからなくて。でも、やっていくうちに「僕は人に助けてもらいたいんだ」って気付いたんです。出倉に当たり散らすシーンも「自分はこの人に聞いてほしい、助けてほしいだけなんだ」って。僕は、自分の怒りとか衝動を映画にすることで、その先にある救いをどうにか探そうとしているんです。それが、今作ですごく理解できました。

映画の中では、正直に生きることが許される

— 答えがわからないまま走り出して、制作過程で感情を消化していったんですね。そういう意味では最初に想定していた作品と、出来上がった作品が変わってしまうこともあると思いますが。

安楽:変わっていくこともあります。特に、今作で僕が本当に撮りたかったのはRYUICHIとのリアルなケンカだったから、そこだけはどんなシーンになるのか全く予想できなかったんです。RYUICHIと対峙することは脚本にも書いていたけど、あいつには簡単な筋書きだけ書かれた第1稿を渡していて、細かい説明を一切しないで撮影に呼びました。カメラすら意識してほしくないので、カメラマンも録音マンにも最初は隠れてもらっていたんです。

— じゃあ、あのシーンは撮影ということを意識せず、2人が生の感情をぶつけあっているんですね。

安楽:撮影最終日のカットだったんですけど、リアルに撮れたものがすべてで、この映画の結末にもなる。それこそ、1回しか撮れないものだから、準備はしっかりしたけど、RYUICHIが実際にどう反応するのかは予測できなかったんです。実際、RYUICHIも本当にキレていました。

— これが「実生活では叶えられなかったラスト」になったと。

安楽:そうですね。言ったら、ラストシーンを撮るための脚本でしたし。そのシーンだけは監督を放棄して「僕は自由にやるので皆さんそれに応えてください」って言っていました(笑)。

— RYUICHIさんとの対峙に向かうシーンの手持ちカメラの映像も印象的でしたよね。

安楽:手持ちカメラにしたのは、カメラマンの存在をRYUICHIに知らせたくなくて、僕が撮るしかなかったという理由もあるんです。普段もカメラで遊んでいるので僕が回している分には、RYUICHIも撮影だってことを意識しないので。2人のやり取りが始まってからはカメラマンさんたちが出てきて、しっかり映画として撮ってもらうっていう段取りでした。

— その手持ちの映像が心象風景にも見えたんですよね。水中のシーンも印象的でしたけど、実際どういう感情を表したのですか?

安楽:怒っているあいだ腹の底が痛くなって、身体的にも苦しかったんですよ。単純に苦しいっていう感覚をどこかで過度に表現したくて。水中っているだけで苦しいところだから、海に潜って撮ったんです。

— 印象的なシーンでしたよね。今後は、俳優業と監督業どちらに注力したいとかはありますか?

安楽:監督はやっていきたいですね。役者をやるために監督を始めたけど、今は映画を作ることで感情的に救われているんです。僕は、日々苛立ちや疑問を抱えていて、よく怒る人間だけど、年齢が上がるにつれて世間的にそういう部分を否定されるのが納得がいかなくて。怒ることは悪いことじゃないし、正直に生きたい。映画の中ならそれをやっても許されるから、かなり救われています。今後は自分以外の俳優でもそれを表現できるようになりたいと思っています。

— 今日、お話を伺って、安楽監督の作品がみずみずしい衝動に溢れている理由がわかった気がします。最後に、本作をご覧になる方にメッセージをお願いします!

安楽:この作品は、自分が全然うまくいっていないときに撮った映画ですけど、僕にとって大事な人がいたからこそ起こった話です。大事なことって10人いたら10人違うと思うから、すべての人には届かないかもしれないけど、何かしら譲れないことがある人には響くものがあると信じて作りました。そして、今悩んでいる人や、くすぶっている人にもぜひ観てほしい。僕が映画を作ることで救われているように、少しでも僕の映画が誰かの救いになってくれたら、こんなに幸せなことはないと思います。ぜひ、劇場に観に来てください。

— 安楽監督、本日はたくさんのステキなお話をありがとうございました!

(2019.5.14取材)

<ミニシア名物、靴チェック!>
「普段は撮影で歩きまわるので、靴はすぐにソールがすり減ってしまうんです」という安楽監督。脱ぎ履きの楽なGUのスリッポンを履き潰しては買って、かれこれ4年くらい愛用しているそう。実用性重視と言いながら、監督のラフな雰囲気にマッチしていて、ユル系のオシャレ靴に見えます!

 

【安楽 涼(あんらく・りょう)プロフィール】
東京都江戸川区西葛西出身。1991年生まれ。18歳のときに役者としてキャリアをスタートし、その後、自分が出演したいが為に映画制作を始める。自ら立ち上げた映像制作ユニット「すねかじりSTUDIO」では、映画やMVの監督として活躍。主な監督、出演作に『幸せ屋』(監督・出演)、『弱者よ踊れ』(監督・出演)、『モーメント』(金井純一監督)、『ブンデスリーガ』(太田達成監督)、『恋愛依存症の女』(木村聡志監督)などがある。監督作4作目となる『1人のダンス』で下北沢映画祭入選、MOOSIC LAB 2018 【短編部門】男優賞受賞を果たし、期待の若手俳優・監督として今後の活躍に注目が集まる。

 

>>映画『1人のダンス』予告編映像<<

▼『1人のダンス』作品・公開情報
(2019年/日本/DCP/ステレオ/58分)
監督・編集:安楽涼
脚本:片山享
撮影:深谷祐次 録音:坂元就、木村聡志
音楽:OOPARTZ ヘアメイク:福田純子 水中撮影:橋本芳紀
出演:安楽涼、RYUICHI(OOPARTZ)、出倉俊輔、佐藤睦、大須みづほ、片山享、大宮将司、笠井里美、藤本沙紀、伊藤まさね、朱哩、ボブ鈴木、宮寺貴也、アフロ後藤、キャッチャー中澤、葉夏、新野美紀子、森本のぶ
企画協力:直井卓俊
制作:すねかじりSTUDIO
©すねかじりSTUDIO

『1人のダンス』公式サイト

【ストーリー】目の前の事に甘える駆け出しのMV監督である安楽は、小さなお金を稼ぐべくアイドルの撮影をして生活をしていた。惰性で仕事を続けていく日々に、安楽は大事なものを見失っていく。金、女、プライド……。そんななか、親友でアーティストのRYUICHIから突然MV撮影を断られてしまう。安楽の衝動のダンスが蠢(うごめ)き出す。

※2019年5月25日(土)池袋シネマ・ロサにて2週間レイトショー

取材・編集・文:min スチール撮影(インタビュー):ハルプードル

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