【スクリーンの女神たち】『センターライン』主演・吉見茉莉奈さんインタビュー

  • 2019年04月19日更新

“好奇心という翼を生やした女優” 吉見茉莉奈さんにロングインタビュー!

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スクリーンで女神のごとく輝く女優にスポットを当て、出演作品とその素顔の魅力に迫る本コラム。今回は、2019年4月20日(土)より池袋シネマ・ロサで公開の『センターライン』で主演を務めた吉見茉莉奈さんにご登場いただきました!

国内映画祭で9冠に輝き、第21回サンフランシスコ・インディペンデント映画祭や、第13回ロンドン国際フィルムメイカー映画祭でも受賞を果たした本作は、ソフトウェアエンジニアとして企業に勤めながら映画制作に取り組む異色の新鋭・下向拓生監督による、“AIをテーマにしたSF法廷サスペンス”。この作品で新任エリート検察官・米子天々音を演じ、映画初主演を飾った吉見さんに、撮影の舞台裏や好奇心に溢れた素顔についてたっぷりと伺いました!

(取材・編集・文:min スチール:ハルプードル)


下向監督からの突然の連絡で、舞台から映画の世界へ

— 本作出演のきっかけはオーディションだったそうですが、どのような経緯で参加されたのですか?

吉見茉莉奈さん(以下、吉見):監督が、インターネットに掲載されていた私のプロフィールをたまたま見つけて、「オーディションを受けてみませんか?」と連絡をくださったんです。でも、あまりに突然で、最初はちょっと不審に思ってしまって(笑)。これまで舞台を中心に活動していて、映画関係の方とはほとんど接点がなかったですし、下向監督のことも存じ上げなくて。でも、送られてきた資料と作品を拝見したら、映画祭で受賞もされているし、しっかりと活動されていている方なんだと思って。

— あやしい人ではなさそうだと(笑)。

吉見:はい(笑)。それで、オーディションを受けることにしたのですが、監督が長野にお住まいで、すぐにはお会いできなくて。脚本の一場面を演じた動画を送って見ていただきました。

— 吉見さんを選ばれた理由は、監督に伺いましたか?

吉見:監督がイメージしていた米子のキャラクターに一番近かったとは言っていただきました。あと、撮影場所が愛知県だったんですよ。私も愛知出身なので、実家から撮影に通える役者なら宿泊費が削れるという思惑もあったんじゃないかと(笑)。

— ははは(笑)。故郷での撮影ということで、安心感もあったんじゃないですか?

吉見:そうですね。撮影地がほぼ一宮市だったんですけど、地域の皆さんがとても温かく応援してくださって。「いちのみやフィルムコミッション」さんのご協力で、区役所や博物館を撮影に使わせていただいたり、そのご縁から「一宮七夕まつり」で作品が上映されたり、ケーブルテレビにも出演させていただきました。白鷺弁護士を演じた倉橋健さんが愛知在住なんですが、一宮では今ちょっとしたスターになっているみたいなんです(笑)。

サンフランシスコの映画祭では、温かな声援と“おひねり”も!?

— その作品が国内映画祭で9冠、さらにサンフランシスコやロンドンの映画祭でも賞に輝き、応援してくれた方への恩返しにもなったと思いますし、吉見さんのご家族も喜ばれたのでは?

吉見:すごく喜んでくれました。実はサンフランシスコ・インディペンデント映画祭には、私の母も同行させていただいたんです。ロンドンは監督のみ行かれたんですけど、サンフランシスコは私と母と大鳥事務官役の星能豊さん、MACO2も行きました。監督がMACO2を連れていたので、空港の荷物検査で没収されないか心配で(笑)。無事に入国できてほっとしました。

— 現地の観客の反応は、どんなものでしたか?

吉見:海外で受け入れられるのか、内心は不安でした。でも、上映が始まると皆さんずっと笑ってくれて。しんみりするラストのシーンまで、なぜか「わっはっは」って(笑)。終始リアクションしてくださるのが新鮮でしたし、Q&Aでもたくさん質問していただきました。「アメリカでは自動運転への関心が非常に高いけれど、日本ではどうなの?」とか、「制作予算はいくらだったの?」とか。監督が続編の構想に触れたこともあって、退場する際に初老のご婦人から「続編も期待しているわ。がんばって!」って、“おひねり”までいただいたんですよ(笑)!

— おひねり(笑)! 映画初主演にして、相当貴重な体験をされていますよね。

吉見:本当にそう思います。劇場公開していただけることもありがたいですし、全国の映画祭に呼んでいただいて、「普通はこうはいかないよ!」ってたくさんの方に言われます。

検察官の役作りのために、裁判を傍聴

— 舞台と映画の現場の違いに、戸惑うことはなかったですか?

吉見:まだ比較できるほど映画の現場を経験しているわけではないですが、本作に限って言えば、最初の撮影がいきなりラストシーンからだったんですよ。感情を一番高めなきゃいけないシーンですし、若干の戸惑いはありました。ストーリーの流れに沿って演じていく舞台とは全く違う筋肉を使うというか、映画ではすぐに役の感情に入る瞬発力が必要でした。しかも監督や主要キャストとも、撮影初日がほぼ初対面だったんです……。

— えっ!? ほぼ初対面!?

吉見:はい。住んでいる場所が東京、長野、金沢……とバラバラで、撮影まではSkypeを使って読み合わせをしていたんです。

— そうだったんですか!

吉見:しかも、映画の現場ってカメラの向こう側に大勢のスタッフがいるんですよね。その人数を目の当たりにして、はじめはちょっと緊張しました。ただ、撮影スケジュールが短いこともあって、無我夢中でしたし、共演者やスタッフと濃密な時間を過ごさせてもらって、最終日はもう終わるのが寂しくて……。

— 良い現場だったんですね! 撮影が始まる前は、役作りのために実際の裁判にも通われたとか。

吉見:はい。何度か傍聴しました。監督が「検察官が書類を読み上げるときは、すごく事務的に早口で読む」とおっしゃっていたので、その口調やスピードもリアルに聞いてみたくて。

— 専門用語も多くて大変だったと思いますが、セリフとの格闘という部分はいかがでしたか。

吉見:言い慣れている感じがないとリアルじゃないし、イントネーションも間違えられないので、かなり練習はしました。今回、弁護士さんに脚本の監修に入っていただいたんですが、監督がセリフの言い回しや専門用語の発音などもきちんと確認されていたので、私は監督に一つひとつ聞きながら脚本を読み込みました。

ロボットと友だちになりたいという憧れがある

— 法廷シーンとともに、米子検事とMACO2との掛け合いのおもしろいさも、本作の大きな見どころですよね。実際はどのように撮影したのですか?

吉見:現場では、MACO2の動きを操作する方と、声をあてる方が別にいらしたんですけど、声は後から録音したので、手の空いたスタッフがMACO2セリフを言うことも多かったです。撮影が進むにつれてMACO2の動きがだんだん繊細になってきて、本当に生きているみたいに感じていました。

— AIが感情を持つことや可能性について、吉見さんご自身はどのように思いますか? 機械が学習を繰り返すことで得た思考パターンを、果たして“感情”と呼んでいいのか? という部分でもありますが。

吉見:たしかに、人間が「感情」と認めるかどうかという部分でもありますよね。そういう意味では、すでに今のAIも感情を持っていると言えるのかもしれないし、現実的にはいろいろな危険性も含むことだと思います。でも、単純にロボットと友だちになれたら楽しいと思うし、夢がありますよね。日本人的な発想なのかもしれないけど、ロボットと人間の友情を描くアニメなどを子どもの頃から観ていて、ずっと憧れはあります。

— わかります! 幅広い年齢の方がこの作品を楽しめる要素でもありますよね。続編を期待する声も多いですが、可能性はありそうですか?

吉見:誰よりも、私自身が続編を期待しているので(笑)、監督には、ことあるごとに「続編を作りましょう」とプッシュしているんです。ぜひ皆さんも監督にリクエストしてください。

— そこ、太字で書いておきますね(笑)! ぜひ“検察官米子シリーズ”として続編を作ってほしいです!

皆で一つのものを作り上げた青春時代が、役者への道しるべに

— 高校で演劇部に入られたことが、役者を目指したきっかけだそうですね。その前から演劇には興味があったんですか?

吉見:小学生くらいから演じることに漠然とした憧れはあって、学芸会の役を褒めてもらったり、母親のすすめで地元の豊田市で行われている野外演劇のオーディションを受けて出演したりしていました。でも、中学には演劇部がなくて美術部に入ったんです。もともと何かを作ることが好きなので、演劇や絵を描くことも同じ延長線上にはありました。

— なるほど。高校生で念願の演劇部に入ってからは、自ら部員集めもされたとか。

吉見:はい。当時、演劇部の入部希望者が私ともう一人くらいしかいなくて。それで、同じ中学から高校に上がった子たちを口説いて回ったんです(笑)。というのも、もの作りの才能のある子ばかりだったんですよ。だから「あなたは絵が上手だからセットを作ってみない?」とか、「演技をしたくないなら、裏方をやってみない?」とか、それぞれの特技に合わせて……。

— すごい行動力! そして、すでに演出家目線(笑)!

吉見:あはは(笑)。ただ、この仲間となら絶対に良いものができるっていう謎の自信があったんです。実際にすごく楽しかったし、それまで演劇の大会に出ても地区大会止まりだったのが、私たちの代で初めて県大会にも出たんですよ。皆で一つのものを作り上げたこの体験が私の青春でしたし、演技の道に進んだというよりは、抜け出せなくなってしまったんですよね(笑)。今でも当時のメンバーとはすごく仲が良いんですよ!

— 仲間たちとワイワイ舞台を作り上げている吉見さんの姿が目に浮かぶようです。その後、大阪の劇団「PEOPLE PURPLE」に入られたんですよね? そこからフリーとして上京するまでのプロセスは?

吉見:高校を卒業後、浜松の大学に入って演劇サークルでお芝居をしていたんですけど、本格的に舞台をやりたいと思って、東京や大阪の劇団オーディションを受けたんです。そこで縁があった「PEOPLE PURPLE」に入ることになり、1年間大阪に住んでいました。その頃、「ままごと」という劇団のワークショップに参加したことがきっかけで、同劇団がやっている「シアターゾウノハナ / THEATER ZOU-NO-HANA」というパフォーミング・イベントに参加するために、横浜まで夜行バスで通ったりしていたんです。そのうちに東京で演劇をしている人たちとも繋がりができて、どうしても東京で活動をしてみたくなって上京しました。

演劇はいろいろな世界と自分を繋げてくれるもの

— 本当に好奇心旺盛で行動的ですよね。実は、最初に『センターライン』のポスタービジュアルで吉見さんを見たときは、色白で少女っぽさの残るお顔立ちで、はかなげな女性かと思ったんです。

吉見:あっはっは(爆笑)。本当ですか? 全然違いますよね。

— ほんと、実際は全然違っていて(笑)。映画の米子検事は猪突猛進型というか、はかなげとは真逆のキャラクターで、そのギャップにまず軽くショックを受けて(笑)。それで吉見さんに興味が沸いて調べたら、小豆島名産の「ふしめん」を使ったスイーツを自分でイチから商品化していたり、食をテーマにした演劇の企画や演出も手掛けられているし、めちゃくちゃアグレッシブで。「どういう人なんだろう!? 会いたい!」って、気付いたらインタビューを申し込んでいました(笑)。

吉見:ええー、嬉しいですね。

— 食がらみの活動が多いので、食いしん坊でもあるのかなと(笑)。

吉見:その通りです(笑)。演出や企画はまだそれほど経験していないですが、ここ2年くらい“食”をテーマにした演劇プロジェクト「はらぺこ満月」の主宰者である星茉里さんと一緒に活動をさせていただいています。食に興味を持ったのは、2016年に小豆島で行われた瀬戸内国際芸術祭で「ままごと」がプロデュースする喫茶店に参加したことがきっかけですね。

— 「喫茶ままごと」ですよね。

吉見:そうです。小豆島の特産品を使ったメニューを考案したり、店内でパフォーマンスなどをしていたんですが、食べ物を作るという作業がすごくクリエイティブで、自分にとって刺激的な体験だったんです。その中で提供していたメニューの一つが、そうめんを干すときの曲がり角の部分の麵を使った「ふしめんグラノーラ」というもので。それをパッケージ化して商品にできないかと思い付いて、頭から離れなくなってしまって(笑)。

— 商品化までの行程を綴った「ふしめんグラノーラができるまで」というブログも読ませていただきました。試作から商品化に必要な資格を取るところまで、ガチでやっていて驚きました!

吉見:ブログは中途半端なところで終わっているんですけど、私の思いつきに、いろいろな方が手を貸してくださって商品化できたので、その過程は残しておきたいと思って……。

— 今回の取材で印象的だったのは、吉見茉莉奈という人は、もの作りが好きで、人が好きで、常に好奇心に溢れているってことです。吉見さんにとって演じるということは、職業であり生き甲斐であると同時に、さまざまな世界の扉を開ける“鍵”みたいなものなんじゃないかなって。お芝居を通して新しいことを知ったり、人や物事と繋がっていくことが、ものすごく好きなんだろうなって。……いかがですか?

吉見:嬉しいです。その通りなんだと思います。私にとって演劇は、いろいろな世界と自分を繋げてくれるものなんです。この仕事をしていたから出会えた人がたくさんいて、さまざまな土地や文化を知ることができて。役者をやっていることで私に興味をもってもらえることも多いですし、すごく贅沢な職業だと思っているんです!

— ステキですね。今作を通して、また一つ「映画」という新しい扉を開かれましたが、今後も映画にご出演していきたいという気持ちはありますか?

吉見:はい、もちろんです! 今後もチャンスをいただけるなら、いろいろな役に挑戦していきたいです。

— 今後の吉見さんのご活躍がとても楽しみです! 残念ながら次で最後の質問になりますが……理想の恋愛相手のタイプを教えてください(笑)!

吉見:えっ、最後に、めちゃくちゃ唐突な質問じゃないですか(笑)!

— ははは(笑)。本作で吉見さんのファンになる方もたくさんいると思うので、ぜひ!

吉見:えーと、そうですね。やはり好奇心旺盛で、一緒にいるとお互いに新しい知識を深めて合っていけるような……そんな人がいいですね。

— ふふふ。なるほど!本日は貴重なお話をありがとうございました!

【ミニシア名物!女神の靴チェック】
好奇心という翼を生やした女優——そんな形容詞がぴったりの吉見さん。フットワークも軽やかで、「普段はスニーカーばかり履いています」とのこと。そんな吉見さんですが、撮影当日はちょっぴり気合いを入れてパンプスで登場してくれました!
アースカラーのフラットシューズが、ナチュラルでガーリーな吉見さんの雰囲気にぴったりです。いつかピンヒールの似合うセクシーな役を演じる姿も見てみたいですね!


【吉見茉莉奈(よしみ・まりな)】
1990年8月10日生まれ。愛知県豊田市出身。大阪の劇団PEOPLE PURPLEで活動後、上京し現在はフリー。舞台を中心に活動中。小豆島など、地方での作品作りにも積極的に携わる。日本劇作家協会東海支部主催俳優A賞ノミネート。主な出演作に、はらぺこ満月『SHOKUPAN1』『ある皿の上』『ただいまウォーター』、LIVE RALLY『弱法師-Experience of the End-』など。2019年インディーズ映画の大本命と呼び声も高い本作の主演を務め、今後の活躍に注目が高まる新進女優。

作品・公開情報


【ストーリー】自動運転が普及した安全な時代、平成39年。車同士の正面衝突による死亡事故が発生する。交通部配属の新任検察官の米子天々音(よなご あまね)は、自動運転を制御していた人工知能のMACO2を過失致死罪で起訴しようと画策するが、“彼”は、「誤作動ではなく、わざと殺した」と供述する。AIの“心”は嘘か真か……?

▼『センターライン』
(2018年/日本/67分)
監督・脚本・編集:下向拓生
出演:吉見茉莉奈、星能豊、倉橋健、望月めいり、上山輝 ほか
撮影監督:JUNPEI SUZUKI セカンドカメラ:山川智輝、村瀬裕志 録音:上山輝 モーションアクター:木村翔
音楽:ISAo. 主題歌:「シンギュラリティ・ブルース」小野優樹
ロケーション協力:いちのみやフィルムコミッション協議会/愛知県あま市企画政策課/名古屋大学
配給:プロダクションMOZU © プロダクションMOZU

『センターライン』公式サイト

※2019年4月20日(土)より池袋シネマ・ロサにて公開、4月6日(土)より、愛知県シネマスコーレにて先行公開

  • 2019年04月19日更新

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