「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ」 アミール・ナデリ監督 トークイベント―ナデリ監督が明かす、カサヴェテス監督との驚きの秘話

  • 2012年07月06日更新

アミール・ナデリ監督が「最も尊敬する映画監督」、その人こそ、ジョン・カサヴェテス監督。

「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ」 ― 1993年以来、実に19年ぶりとなる、ジョン・カサヴェテス監督の特集上映が、2012年の今年、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムでおこなわれました。8月11日(土)からは、東京の吉祥寺バウスシアターでも上映されます。

シアター・イメージフォーラムでの大ヒットを記念して、「最も尊敬する映画監督はジョン・カサヴェテス氏」と語るアミール・ナデリ監督のトークショーが、6月26日(火)、『アメリカの影』の上映後に開催されました。カサヴェテス作品の制作にも携わったナデリ監督が明かす、カサヴェテス監督との秘話とは? 聞き手は、映画プロデューサーの木藤幸江さん。会場が驚きと笑いに包まれたトークイベントの模様を、ほぼノーカットでお届け致します。

― ナデリ監督にとって、カサヴェテス監督はどれほど特別な存在なのでしょうか?

アミール・ナデリ監督(以下、ナデリ) カサヴェテス監督は、20世紀で最も重要な映画監督のひとりです。彼と面識のある私が、その経験をこうしてお話しすることができるのは、とても嬉しいです。

― ナデリ監督が制作にも関わられた『ラヴ・ストリームス』の現場でのエピソード等、カサヴェテス監督との思い出を聴かせてください。

「映画監督の電話番号を入手して記者に売るのが、私の仕事だった」

ナデリ 1970年代に、私は初めてニューヨークへ行きました。いろいろな映画の撮影現場を訪ねてみたいと思って、アメリカへ渡ったんです。しかし、当時はインターネットがなかったので、どの監督がどこで撮影をしているのか、(誰にも)まったくわかりませんでした。私の目的のひとつは、映画監督たちの電話番号をあらゆる手段で入手して、記者に売ることでした。それが私の仕事だったんです。電話番号を手に入れた記者たちは、それをきっかけに、監督たちと直接連絡をとったり、(撮影現場の)情報を入手したりしました。私はあちらこちらへ出向いて人に話を聞きましたが、カサヴェテス監督の電話番号は一向に手に入らなかったんです。
1980年代になってから、ジョナサン・デミ監督に出会ったことをきっかけに、映画会社のオライオン・ピクチャーズが私をカサヴェテス監督に紹介してくれました。やっと彼に会うことができたんです。当時、カサヴェテス監督はロサンゼルスで、ジーナ・ローランズさんやピーター・フォークさんと一緒に演劇を上演していたので、私はその舞台を観に行きました。その後、カサヴェテス監督がニューヨークで撮る映画のロケハンを手伝いました。

「(カサヴェテス監督に自分を知ってもらうために)彼が煙草を吸うたびにライターを差しだすことにした」

ナデリ 会った当初、カサヴェテス監督は私のことが目に入っていませんでした。そもそも、私に限らず、彼は誰のことも見ていなかったんですけれど。彼は1日に煙草を3箱も吸うので、いつも煙草をくわえながらライターを探していました。そこで、私は彼にライターを差しだすことにしたんです。彼が煙草をくわえるたびにライターを差しだしていたら、さすがに顔を憶えてもらえて、ある日、「きみはここでなにをしているんだ?」と彼に訊かれました。私は、「あなたの作品も、あなた自身のことも、とても好きなので、一緒に仕事をさせていただきたい」と答えました。

「カサヴェテス監督と1週間も仕事をすれば、多くの人が彼のことを大嫌いになる」

ナデリ 舞台を演出するときにしろ、映画を撮るときにしろ、(仕事をしている)カサヴェテス監督を見ていると、とてもおもしろかったんです。なぜなら、周囲の人々が彼を嫌っていたからです。多くの人々が、キャリアに箔をつけるためにカサヴェテス監督と仕事をしたいと考えて現場に参加しましたが、1週間も一緒に仕事をすれば、彼のことを大嫌いになるんですね。カサヴェテス監督は、ヘビー・スモーカーで、大酒飲みで、いつもなにかに怒っていて怒鳴り散らしてばかりいました。また、映画の撮影では、あらかじめ決めたシーンではなく常に新しいものを創造して撮りたいと考える人だったので、現場の段取りが毎日変わるのです。彼が次になにをどう撮りたいと考えているか、周囲の誰にも想像がつきませんでした。

「『ラヴ・ストリームス』は、カサヴェテス監督とジーナ・ローランズさんの関係から生まれた」

ナデリ カサヴェテス監督が『ラヴ・ストリームス』を作った理由のひとつに、彼と女優のジーナ・ローランズさんの関係があります。ふたりは夫婦ですが、兄妹のような関係でもあったので、(そこから、ひと組の姉弟を描いた)『ラヴ・ストリームス』が生まれたとも言えると思います。

― カサヴェテス監督は俳優でもありましたが、その点についてはいかがですか?

「カサヴェテス監督と一緒に酒を飲むと、彼がよい人だとわかる」

ナデリ カサヴェテス監督はとてもハンサムで、すごくエネルギーのある人でした。ですから、多くの映画監督が彼を役者として使いましたが、彼本人は「自分が演じたい役をもらっていない」と考えていましたね。そのため、映画に出演すると、たびたび監督と喧嘩をしていました。『ローズマリーの赤ちゃん』に出演したときは、ロマン・ポランスキー監督と激しく言い争っていましたよ。このように、カサヴェテス監督は不良っぽくて礼儀に欠けた人だったので、誰も彼に近づかないから、友達がまったくいませんでした。でも、一緒に酒を飲むと、よい人だとわかるんですよ。

― 自身が出演した作品で共演した俳優を、カサヴェテス監督は自作でもキャスティングすることが多かったですね。カサヴェテス作品に出演すると、俳優たちは特別な輝きや不思議な存在感をかもしだしますが、なぜだと思われますか?

「カサヴェテス監督は、『役者は気が変になっているときこそ、本当の演技を出すことができる』と考えていた」

ナデリ 彼は「役者に演じてもらいたくない」と考える監督でした。役者自身の「心」から演技を出してほしい、と考えていたんです。そのため、脚本はあらかじめすべて書きあげているにもかかわらず、同じシーンを何回もリピートして撮影していました。たとえば、ひとつのシーンを3日間繰り返す、ということをするんです。俳優たちには「カメラをまわしている。脚本に沿って撮っている」と言っておきながら、実際には1日目と2日目はカメラをまわしていなくて、3日目に初めて撮影するんです。
この手法についてカサヴェテス監督は、「俳優たちの限界を押すためだ」と言っていました。ひとつのシーンを3日間も繰り返すと、ほとんどの役者は気が変になってしまうんですね。気が変になっているときこそ、役者は心からの本当の演技を出すことができる、とカサヴェテス監督は考えていました。

「カサヴェテス監督が使った映像のほとんどは、彼が自ら撮影したもの」

ナデリ ちなみに、撮影に関して、カサヴェテス監督はもともとなにも知りませんでしたが、「スタンリー・キューブリック監督の(作品の映像の)ように撮りたい」と考えて、撮影技術を習いました。もちろん、彼が監督をする際には撮影担当のカメラマンがいましたが、カサヴェテス監督自身もカメラをまわしていたんです。編集する段階で彼が使った映像のほとんどは、カメラマンではなくカサヴェテス監督が自ら撮影したものでした。
また、カサヴェテス監督の夢は、ミュージカル映画を撮ることでしたが、そのチャンスはなかったのです。

― 多くの映画監督や映画制作者が、カサヴェテス監督の影響を受けています。彼のあとを継ぐことのできるクリエイターはいると思いますか?

「先人の真似をするのはやめなさい。映画監督は、オリジナリティを持たなくてはならない」

ナデリ カサヴェテス監督や小津安二郎監督の真似をしている映画監督は大勢いますが、音や映像を模倣したところで、カサヴェテス監督になれる人も、小津監督になれる人も、実際にはひとりもいません。「真似をするのはやめなさい」と私は言いたいのです。あなたたちはあなたたちであって、いくら人の真似をしても、そこで動くキャラクターや表現されるものはすべて異なるのです。ですから、先人の真似をして、それを繰り返す監督たちがいると考えると、とても悲しくなります。
カサヴェテス監督の作品がなぜおもしろいかというと、オリジナリティがあるからです。映画監督は、自分の心と考えに基づいて映画を作らなくてはなりません。ですから、カサヴェテス監督のような存在になりたければ、彼の真似をするのではなく、自分自身の中へ戻って、オリジナリティを持ってください。日本でも多くの素晴らしい映画監督が生まれてほしいと願っています。カット!

《ミニシア恒例! 靴チェック》

この日のアミール・ナデリ監督は、カジュアルなサンダルでご登場でした。

▼「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ」
上映情報

「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ」公式サイト
※2012年5月26日(土)より、全国順次ロードショー。8月11日(土)より、吉祥寺バウスシアターにて公開決定。
◆画像は『こわれゆく女』(復元ニュープリント上映)。
(c)1974 Faces International Films,Inc.

取材・編集・文:香ん乃 編集協力:南天 スチール撮影:仲宗根美幸

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