【実践映画塾 シネマ☆インパクト】第一期レポート2―映画作りは疾走する!?

  • 2012年04月23日更新

なにやらスゴいことが行われているらしい!? と噂の、
実践映画塾シネマ☆インパクト第一期が終了。
1月末から3月末までの2ヶ月間に5人の映画監督の授業が、矢継ぎ早に行われ、取材に行くのも大変でありました。
なにしろ、あっという間にはじまって終ってしまうのですよ。
1コース2週間って速い!
しかも後半、深作健太コースは9日間、山本政志コースに至っては5日間という怒濤も怒濤。
すべてに対応していたスタッフの方々の顔色が日に日に悪くなっていくことが、この塾のハードさを物語っているようでありました。
その一方で、受講生の方々の顔は日に日に輝いていくのです。
なかなか味わえないスペシャルな体験がみんなを活気づけていく、
その奇跡の授業の一部をお伝えします!

瀬々敬久監督コース 2月13日~26日

コワイほどの緊張感

「面白いなあ!」

 山本政志監督が唸った。

 瀬々監督が初日に行った受講者同士による「詩のボクシング」の白熱の展開に、だ。

 受講者は2人ずつ、赤と青に分かれて、自分の書いた詩を朗読(その際、リングネームもつける)。朗読後、他の受講者が赤と青の紙のどちらかをあげ、判定を行う。

 監督が提示したテーマは「私」「3.11」。

 このふたつのどちからを選んで、みんな詩を作って読み上げた。

 本当はトーナメント戦をやる予定だったが、時間がなくて、最初の闘いのみになってしまったが、十分、いや、かなりの盛り上がりを見せた。

 詩の朗読を試合形式にすることで、朗読する人も見る人も自然に繋がっていく。そして、少しずつ、心が裸になっていくような感じがあった。

 その中でも、監督も「名勝負」と評したのは「震災があって良かった」という心情を吐露した声優をやっている男性VS逆に、原子力に対しての葛藤を読んだレントゲン技師の男性。偶然にも、真逆な意見の対立になったのだ。震災肯定のような偽悪的な内容には不快感を示す人もいるけれど、こういう意外な視点を提示することで、いろいろな思いを喚起させる。

 そして、この震災を望むように思える詩は、後の映画撮影のための台本に生かされることになる。
 監督は「詩のボクシング」を通して、「自分探しというと恥ずかしいけれど、自分の言葉をもって前に出てほしい」と受講者たちに語った。

 制作コースの受講者には各々カメラを持ってこさせて、俳優コース受講者たちの個性をどう撮るか、を考えるところから授業がはじまっていた。

 面白い。けれど、厳しい……。わずか数日しか見学していないが、瀬々監督コースにはそんなふうに感じた。演じることは厳しいことなのだと、感じる瞬間がわずか数日数時間の中で見え隠れしていたのだ。

 例えば、衣裳探しの時、自分の役に合いそうな衣裳を、自分で選んでもってきて、その中から選ぶのだが、ひとりの受講生が一着しか用意していなかった。そうしたら、山本監督(瀬々監督が言ったわけではなかったのだけど……)が、家に戻って、取って来るように指示。往復で一時間半くらいかかるが授業の終わりには間に合うだろうという判断で「行ってこい!」と言われた受講生は、夜の寒さの中、弾丸のように飛び出して行った。

 衣裳ひとつとっても、たくさん考え抜かないといけないということと、今日ないと明日の作業に間に合わないという、時間との闘いを受講生に実感させたのだった。

 また、リハーサルの時、教室がシン! となったことも。

 授業を通して瀬々監督が書き上げた台本は、原発にトラブルが起り、
明日そこから風が吹いてくると言われた地域に生活している人々の話。みんながそれぞれ何を思っているかが描かれていた。

 その中で、この映画の世界観を支えないといけない役として、追いつめられて心が壊れた状態を演じることを課された受講生がいた。いったいどういうふうに演じるか、考えて集中している時に、傍から意見を出そうとした受講生に対して監督は大きな声で「黙って! 今、真剣に考えているんだから! 誰にもそういう時があるでしょう!」とシャットアウト。それによって和やかだった教室に異様な空気が流れ出した。数日間、作業を共にしたことで仲良くなってきたクラスだけれど、緊張感も忘れてはならない。こんなふうに日常から逸脱した狂気を出していく時には、場の空気を変えることも必要なのだと、監督の演出力を痛感した瞬間だった。

 演じる受講生の眼前に立った監督は、自らも壊れる心を探そうと、耳の中に指を入れるなどしてグイグイと内面に潜っていく。

 この作業は、この役を演じる受講生だけではなく、この教室に参加した誰もが学ぶべき貴重なものだ。貪欲な目をした受講生が何人かいて、それがたくましい。

 けれど監督は厳しいだけではない。開いた心で受講者たちの中に入っていく。自分が書いた台本を、受講者たちに聞きながら、今の二十代のリアルな言葉に変えていった。素直に「“リア充”ってどういう意味なの?」と訊いている監督はなんだかチャーミングだ。

 こんな幸せな準備期間を経て瀬々監督は、撮影日を予定の2日間から3日間に伸ばした。ジャナ専を中心にロケ地を転々としながら撮影していく。カメラは今回は、デジタルムービーカメラ(HVX)。

 詩という形から生まれた自分の言葉は、2週間でどんなふうに育ったのか、監督の作り出した緊張と集中の磁場の中でどんな演技が発露したか、映画の完成が楽しみだ。

鈴木卓爾監督コース 2月27日~3月12日

3.11デモでゲリラ撮影!

 事前に行ったインタビューで、3.11に映画を撮ることを主眼にしていた鈴木監督。取材したのは3月11日の一日のみだったが、その日だけでも内容充実で、頭もカラダも心地よい疲労感を覚えた。

 映画のテーマを3.11にデフォルトにしたわけではないが、大森監督、瀬々監督、鈴木監督と皆そろって、3.11以降について考えるような作品になっている。特に鈴木監督の台本は、日比谷で行われるデモに参加して撮影することがひとつの肝になっていた。登場人物が楽器を持ってデモに参加するのだ。

 前日の撮影はあいにくの雨に見舞われたが、明けて11日は晴天、デモ日和(?)に。この日は朝8時から鬼子母神駅前で撮影、昼はジャナ専(シネマ☆インパクトの教室のある日本ジャーナリスト専門学校)の屋上で撮影、その後、日比谷に移動というかなり強行なスケジュール。14時から開始予定のデモに間に合わせるために13時にジャナ専出発の予定だったが、監督は各場面各場面、粘って撮るので、どんどん時間が押していく。結局出発したのは14時30分だった。

 なんてスリリング! そもそも、屋上の撮影がシュール。インタビューで「僕の現場はファンキーでファニーになると思う」と語っていた鈴木監督だったが、ほんとにその通り。なぜか屋上で居間のシーンを撮っているのだから。青空が背景に見える中でコタツに入って語る登場人物たち……。相当おかしな状況でありながら、ちょっとした動きや小道具の配置にはリアルを求める監督。用意してあったエプロンの色は黒じゃない、とダメ出しして、スタッフたちが慌ててかけずり回る。また、前日の雨でレインコートを着て撮影していた状態を、この日も再現しようと、スタッフがレインコートを着る。そして、その様子を撮って、セットのお茶の間のテレビに映すという遊びも行っていた。

 なんだかとても自由な雰囲気がする。

 記録を担当する高尾憲子さんは、大森クラスで「記録をやりたい」と言ったらいきなり採用になった女性。あれから、瀬々監督、鈴木監督クラスと記録の仕事を続けている。毎回、授業の初日に監督に「やってもいいですか?」と許可をとっているのだそう。日中は仕事をしているので、夜と土日しか時間はないが1月末から連続参加しているガッツのある女性である。

 制作クラスだったのに俳優として参加している人がいたり、WEB の取材で来ていた人がスタッフに混ざって作業を手伝っていたり、いろいろな枠を超えてみんなが映画作りに参加している。最高齢70代の女性が移動に使っている車いすを男性生徒が押している姿も微笑ましい。

 さて、問題の(?)デモでのゲリラ撮影。日比谷公園前の交差点から出発して、外堀通りを通って有楽町マリオンの前まで30分くらいかけて歩いた。一般人のデモ撮影は許されているので、デモの列に加わってしまえば、問題なくカメラが回せる。鈴木監督が先頭に立って、後向き(俳優たちのほうを向いている)で指揮者のように手を動かして合図を送りながら歩き出す。その周辺をカメラマンがカメラをもって、キビキビと動き回り、いろいろな角度から撮っていく。こんな時こそ、キャノン一眼カメラ(7D、5D)はかなり機動力を発揮する。

 鈴木クラスの俳優たちはデモ中演奏するための楽器を持っていて、中には頭や肩にインコの作りもの(これが映画の中では重要)を乗せている。取材の人が興味をもって近づいてきて、「どういう団体なのかわからない」とつぶやきながら去っていくなんてこともあった。「はじめてのデモ参加」と心逸らせている受講生も中にはいた。

 妊婦の格好をした有元由妃乃さん(24)は実際は妊婦ではない。授業のエチュードでやったことが、台本に生かされたとか。有元さんが海外留学をして日本に一旦戻り再び留学先に戻った翌日に東日本大震災が起こった。それでもまた日本に戻ってきた。一度映画に出たことがあって面白かったので、瀬々、鈴木コースの2つを続けて受講。それぞれ違うやり方を経験して刺激を受けた。「鈴木監督は台詞をしっかり決めないやり方が面白かった」とのこと。

 鈴木クラスの台本は、完成台本ではなくて、だいたいの流れや台詞が書いてあるだけで、その場で変えたり足したりしていくやり方を採っている。
変化していく映画がどんな形で完成を見るのか。聞けば、相当長い作品になりそうだとか。いずれにしても、デモを一周し終った時の、監督をはじめ皆の汗ばんで晴れやかな顔は忘れられない。

日比谷で撮影中。背後にそそり立つのはメジャーT宝のビルであります。

深作健太監督コース 3月12日~20日

 すみません! 取材できませんでした!

 授業期間が短期間の上、ジャナ専周辺で撮影、というお約束がいつの間にかなくなって北千住にまでロケ地が拡大され、さらにその場所は狭くて関係者以外入れない状況。そんなわけで取材断念しました(情けない……)。

 映画完成の際は深作監督にインタビューさせて頂く予定です。

 ちなみに、使用カメラはキャノン一眼カメラ(7D、5D)だったそうです。

山本政志監督コース 3月21日~25日

血糊炸裂、死の瞬間

 ジャナ専の中に入ると、廊下にたくさんのキャベツが放置されていた。異様な気配にドキドキしながら、スタジオの中に入ると、異様さは更に増し、
入り口傍には天井までゴミが大量に積まれ、奥は段ボールや布などを使ったホームレスの家のようなものがいくつかできて、ボロ布をまとった人たちが虚無的に座り込んでいる。

 山本監督コースは、第一期4人の監督コースで役がつかなかった受講生の受け皿として行われる予定だったが、4人の監督は受講生全員をしっかり出演させたため、出演していない人がいないという状態に。そのため、山本監督が授業を見た印象、映像を見た印象から選んだ受講生たちが参加することになった。制作スタッフは過去4クラスの中から希望者が集まった。記録の高尾さんは、このクラスにもいた。平日に撮影が行われた深作組だけ欠席だったそうだ。

 山本組の空気は重くひんやりしていた。殺人が行われるシーンということもあったが、死体に向き合う男に「(目の前の死体は)おもちゃだから。愛情や未練に見えないように」と要求していた。「あんなにハッピーだった2人なのに壊れたらこんなになっちゃう」と言って。それでも、男の表情がどうしても感情が出てしまう、と何度もやり直しをしていた。

 その後、男2人が紐で殺し合うシーンに。
うわーーーーーーーーうわーーーーーーーーーうわーーーーーーーー
 紐をきつく引っぱる男。
うーーーーーーーーーうーーーーーーーーーーうーーーーーーーーー
 もがき苦しむ男。

 本当に締まらないように、指を軽く首と紐の間に入れるなど工夫しながらも迫真の演技である。「すばらしい」と喜ぶ山本だが、声のトーンはあくまで一定で淡々としている。

 監督の、この状態が、現場、引いては作品の空気を決めている。参加メンバーは同じにも関わらず、監督によって現場の雰囲気はずいぶんと変わることがよくわかった。カメラは、デジタルムービーカメラ(HVX)。「ボールド!」の声がスタジオに響き渡る。

 次は弓で頭を射抜かれるシーンで、血糊を使う。監督は、血糊の色にもこだわってやり直しに。それから、ビニールに血糊を入れて俳優の背中に入れて押すことで血を溢れさせる仕掛けを作ることになり、「コンドームもってない?」と監督は皆に聞いたがシーンッとしてる。みんな草食系? それとも恥ずかしいだけ? ひとりだけ持っていた男性がいたが、それを使ったのかどうかはちょっと不明。ビニール袋に穴が空いていないか慎重に確認して、いくつもの血糊玉を作った。

 それから、矢が刺さって倒れる場面。俳優の倒れ方が早いと監督は指摘。

矢が刺さった瞬間、衝撃をカラダの前方に感じるはずだから、それを表現してから後に倒れるように要求するが、なかなかうまくできない。監督は、
録音技師と相談して、「手(手を胸に)」「た(倒れる)」など短い言葉のきっかけを出すことに。「動作は全部が繋がっているんだから」と監督。動きには意味があるので、どうしたらどうなるという理屈をちゃんと理解することが大切だと示していた。それを受けた助監督が、「呼吸をちゃんとすることで
リアルな動きになるんじゃないか」と提案。皆で、死に方を試行錯誤していた。

 布をまとったホームレスのような人たちが、のたうちまわるたびに、青いパンツがのぞくのだが、おそらくブルーシートを使ったものだと思われる。
きっと、誰かのアイデアなのだろう。こういうちょっとしたリアルな表現に隙がなくて、安心できる現場だなと感じた。

 山本監督の台本は、ある国の長い歴史が書かれている。短いスケジュール、短編(になるはず)の映画の中でも、巨大なものを描こうとする姿勢に圧倒されるばかり。

「山本コースが一番大変なことになった」とスタッフの吉川正文氏が土色になった顔で言っていた。深作クラスの撮影が一日延び、その日の夜に山本クラスがはじまったことも相当大変だった様子。

 でも、受講者の満足度は5クラス通してかなり高く、第二期に引き続き参加する受講者も多いと言う。

 大森立嗣監督は次回作に自分の受講生を起用し、さらに助監督まで連れていってしまったとか。

 シネマ☆インパクト、授業だけでは終りそうにないようだ。

 第二期、第三期はどんなことが起こるのか? この激しい勢いに突き放されないよう、必死で追いかけていきたいと思います!

おまけ情報:この講座の撮影には、既に監督として自立している方々が、敢えて、助監督として参加している。これもかなり贅沢な状況である。
◯大森、鈴木クラス:加治屋彰人(『スクラップファミリー』監督)
◯瀬々クラス:伊月肇(『-×-』(マイナス・カケル・マイナス)監督)
◯深作クラス:森英人(『Give and Go』監督)
◯山本クラス:松永大司(『ピュ~ぴる』監督)

※このワークショップの詳細・受講申し込み方法等は、「シネマ☆インパクト」公式サイトをご参照ください。

取材・編集・文・スチール撮影:木俣冬

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