11月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2023年11月01日更新

11月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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11/3(金祝)公開『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした
11/3(金祝)公開『人生は、美しい
11/3(金祝)公開『理想郷
11/10(金)公開『花腐し
11/11(土)公開『1%の風景
11/17(金)公開『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン
11/18(土)公開『NO 選挙,NO LIFE
11/18(土)公開『リアリティ
11/23(木祝)公開『ゴーストワールド
11/25(土)公開『ほかげ
11/25(土)公開『めためた


『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』

30歳目前でテンパる女子に注がれるぬくもりある目線

アイドルからライター稼業に転身した安希子は、30歳を目前に人生のスランプに陥っていた。仕事の依頼はなく、貯金も底をつき、窮地に追い込まれた彼女は、友人の勧めで都内の一軒家に一人で暮らす56歳のサラリーマン、ササポンと同居することにするが……。元SDN48の大木亜希子の実録私小説を『月極オトコトモダチ』の穐山茉由監督が映画化。コミカルな要素をふんだんに盛り込みながら、テンパリ女子の主人公が癒やし系おっさんとの何気ない会話を通じて再生されていく過程が、ぬくもりのある目線で描かれる。乃木坂46出身と実際に元アイドルの深川麻衣がのぞかせる主人公の微妙な心の変化も見ものだが、ササポンを演じた井浦新の人畜無害ぶりが見事。安希子に語りかける最小限のせりふの数々に、おっさんであるはずの当方も癒やされた。(藤井克郎)

2023年11月3日(金祝)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/114分) 監督:穐山茉由 出演:深川麻衣、井浦新、松浦りょう ほか 配給:KDDI、日活 ©2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会


『人生は、美しい』

夫とともに初恋の人を探す人生最後の旅

映画『人生は美しい』メイン画像

永遠の別れ<死>という題材を、ポップな音楽とコミカルなシーンで紡ぐ、心温まるユニークなミュージカル・ロードムービー。亭主関白の夫ジンボンや反抗的な思春期の子供たちにうんざりしながらも、家族に健気に尽くしてきた平凡な専業主婦のセヨン。ある日、自分が余命わずかだということを知り、何かが吹っ切れた彼女は、気が乗らない夫とともに初恋相手を探す旅に出る……。モラハラ夫に一泡吹かせ、初恋の人との再会を夢見るセヨン。その一方で、2人は旅するうちに夫婦の軌跡を思い出す。つらいはずの彼女の姿は、どこまでも明るく前向きだ。夫婦の過去を再現するミュージカルのダンスが、時代を反映してか少々古くさいところも微笑ましい。人生の終わりを目前にしたからこそ生きることが輝き、色づき、本当に大切なものに気づいていく。人生を振り返る時期に来た大人の心に響く、涙よりも笑顔が印象的な物語だ。(吉永くま)

2023年11月3日(金祝)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/韓国/123分)原題:인생은 아름다워 監督:チェ・グッキ 出演:リュ・スンリョン、ヨム・ジョンア、パク・セワ ほか 配給:ツイン  © 2022 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.


『理想郷』

風光明媚な静かな村で起こるのっぴきならない隣人トラブル

舞台はスペイン北西部ガリシア地方の山岳地帯。風光明媚で豊かな自然にあふれたこの地にひかれて移り住んできたフランス人のアントワーヌとオルガの夫婦は、村が招致を計画している風力発電の建設に反対したことから、隣家から嫌がらせを受けるようになる。ビデオカメラで証拠を残そうとする夫に妻は反対するが……。実際にスペインで起きた事件をモチーフに、同国出身のロドリゴ・ソロゴイェン監督がアート性とサスペンス性を巧みに絡み合わせて映画化。2022年の東京国際映画祭では作品賞、監督賞など3冠に輝いた。こんなに美しくのどかな風景の中でも隣人トラブルが起こり得るという人間のさがに胸が締めつけられると同時に、アントワーヌと隣人兄弟、妻と娘など、ワンカット撮影による激しい口論の描写に映画ならではの高揚感を覚えた。(藤井克郎)

2023年11月3日(金祝)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/スペイン、フランス/138分)原題:AS BESTAS 英題:THE BEASTS 監督・脚本:ロドリゴ・ソロゴイェン 出演:ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ ほか 配給:アンプラグド © Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.


『花腐し』

際限なきエロスと退廃の世界に酔いしれる

映画誌『映画芸術』発行人としても知られる脚本家、荒井晴彦の監督4作目で、松浦寿輝の芥川賞受賞作を原作に、映画なるものへの敬意と愛惜にあふれた衝撃作を編み上げた。ピンク映画監督の栩谷は、恋人の祥子が監督仲間の桑山と心中したことで虚無感に陥っていた。家賃の支払いにも困窮していた栩谷は、大家から取り壊す予定のアパートに居座り続ける伊関という男を説得するよう命じられる。木造の古いアパートを訪ねた栩谷に、脚本家を目指していたという伊関は、かつて付き合っていた女優志望の恋人のことを話し始めた。現在と過去、モノクロとカラーを交錯させて、際限なきエロスと陶酔の世界が繰り広げられる。老境とは思えぬやんちゃぶりを発揮する荒井監督の欲求に全身で応えた綾野剛、柄本佑、さとうほなみら俳優陣のすごみに震えた。(藤井克郎)

2023年11月10日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/137分/R18+) 脚本・監督:荒井晴彦 出演:綾野剛、柄本佑、さとうほなみ ほか 配給:東映ビデオ ©2023「花腐し」製作委員会

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『1%の風景』

「絶滅危惧種」の助産師が紡ぎ出す多幸感あふれる瞬間

日本で助産所を通して分娩する割合は1%に満たないという。この映画は、助産所や自宅など助産師のサポートで出産を迎える家族の姿とともに、自ら「絶滅危惧種」と称する助産師たちの思いを、初のドキュメンタリー映画となる映像ディレクターの吉田夕日監督がすくい取った。東京都練馬区の「つむぎ助産所」では、保育士を目指す学生たちがベテラン助産師の渡辺愛さんに研修を受けていた。「待って、待って、待って、その結果が命でしょ。いい仕事よ」と渡辺さんはほほ笑む。カメラは、渡辺さんと東京都北区の「みづき助産院」の神谷整子さんの2人が取り上げる4人の赤ちゃんが誕生するまでの日々に密着。不安を抱える母親に寄り添って、優しく包み込むように接する助産師のぬくもりを伝える。生まれ落ちた瞬間の赤ちゃんの表情も含めて、多幸感にあふれた作品だ。(藤井克郎)

2023年11月11日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/106分) 監督・撮影・編集:吉田夕日 出演:渡辺愛、神谷整子 ほか 配給:リガード ©2023 SUNSET FILMS


『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』

一瞬も飽きさせないテンポ感で良心的な犯罪を繰り返す少女

アメリカから思いっきりぶっ飛んだ新感覚のバイオレンス映画がやってくる。主人公は12年もの間、病院に隔離されていた少女、モナ・リザ。韓国系の彼女は血のように赤い満月の夜、不思議な力に目覚め、拘束衣のまま看護師を操って脱出に成功する。深夜のニューオーリンズの街でも能力を見せつけた彼女は、シングルマザーのダンサー、ボニーの世話になるが……。純白で統一された冒頭の病室から一転、サイケデリック調の衣装にけばけばしい夜のネオンサインと派手な色使いに加え、遠近のずれや凝った構図などさまざまな映像の仕掛けでモナ・リザの逃避行を描く。一瞬も飽きさせないテンポのよさにくらくらしながらも、犯罪や暴力の質が極めて良心的なことにも感心した。アナ・リリ・アミリプール監督にとって長編3作目になるが、今後の活躍には楽しみしかない。(藤井克郎)

2023年11月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/アメリカ/106分)原題:Mona Lisa and the Blood Moon 監督・脚本:アナ・リリ・アミリプール 出演:ケイト・ハドソン、チョン・ジョンソ、クレイグ・ロビンソン ほか 配給:キノフィルムズ ©Institution of Production, LLC


『NO 選挙,NO LIFE』

突撃取材のフリーランスライターを通して見えてくる日本の縮図

選挙に特化して突撃取材を続けるフリーランスライター、畠山理仁に密着したドキュメンタリー。『なぜ君は総理大臣になれないのか』など大島新監督作品のプロデューサーを務める前田亜紀監督が手がけた。選挙取材歴25年を超える畠山の矜持は、候補者全員に取材しなければ記事を書かないということだ。2022年の参院選東京選挙区には34人が立候補したが、畠山はろくに選挙活動をしない候補者にも接触して、その主張に耳を傾ける。だが苦労を重ねてもなかなか収入には結びつかず、50歳を迎えることで引退を考えていた。彼を通して日本の選挙の実態が浮き彫りになり、笑いも醜さも含めてまさに日本の縮図だなと実感する。一方で畠山個人はいたって常識的な家庭人で、いつまでこんな生活を続けるのかと自問する姿からは人間の業について考えさせられた。(藤井克郎)

2023年11月18日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/109分) 監督:前田亜紀 出演:畠山理仁 ほか 配給:ナカチカピクチャーズ ©ネツゲン


『リアリティ』

録音記録のままのせりふで再現したFBI捜査官の執拗な尋問

2017年6月3日、米国家安全保障局の契約社員だった25歳のリアリティ・ウィナーが買い物から帰宅すると、見知らぬ男性2人に声をかけられた。FBI捜査官を名乗る彼らはある事件の捜査だと告げ、自宅内で彼女を質問攻めにする。前年に行われた大統領選挙でロシアが介入したという疑惑がトランプ政権を揺るがした事件。機密文書だった報告書をメディアにリークしたとして逮捕されたリアリティの自宅でのやり取りの一部始終を、録音されていたままのせりふで再現したのがこの作品だ。当初は舞台劇として上演されたものを、脚本、演出を手がけたティナ・サッター自らが監督を務めて映画化。俳優陣の迫真の表情に、伏せられたピー音の映像処理など、映画ならではの見せ方で緊迫の尋問をリアルに現出する。じりじりと追い詰めていくFBIの巧みさに慄然とした。(藤井克郎)

2023年11月18日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/アメリカ/82分)原題:REALITY 監督・脚本:ティナ・サッター 出演:シドニー・スウィーニー、ジョシュ・ハミルトン、マーチャント・デイヴィス ほか 配給:トランスフォーマー © 2022 Mickey and Mina LLC. All Rights Reserved.


『ゴーストワールド』

倦怠感に満ちた青春の終わりにあるもの

映画『ゴーストワールド』メイン画像

2001年公開当時、新しい“低体温系”青春映画として大ヒットした作品。10代半ばだったソーラ・バーチとスカーレット・ヨハンソンが主演を務めた。1990 年代のアメリカの名もなき町。高校卒業後も進路を決めず、世間をさめた目で見下し倦怠感に満ちた日々を送る幼馴染で親友のイーニドとレベッカ。やがてイーニドはモテないレコードマニアの中年男シーモアと交流するようになり、レベッカはコーヒーショップに就職し自立しようとする……。相変わらず社会に対して斜に構えながら気弱な男の“デートの相手探し”に執着するイーニドと、自立し地に足をつけたいレベッカ。それまでの絆がどんなに強かろうと、道が分かれていくのは大人になる過程で必然的な洗礼の一つで、心の奥がチクっと痛む。作品のタイトルや、ファンタジー色を帯びるラストの解釈は観客に委ねられるが、それらはもがき続けるイーニドへの理解を深める余白となる。その巧みな手法により、さらに作品の奥行きが増したように感じられた。(吉永くま)

2023年11月23日(木祝)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2001年/アメリカ/111分)原題: GHOST WORLD 監督::テリー・ツワイゴフ 出演:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンソン、スティーヴ・ブシェミ、ブラッド・レンフロ ほか 配給:サンリスフィルム © 2001 Orion Pictures Distribution Corporation. All Rights Reserved.


『ほかげ』

戦後の闇市を舞台に乗り越えることのできない悲しみに迫る

『野火』『斬、』と、このところ人間の暴力性に焦点を当ててきた塚本晋也監督が、今度は戦後の闇市を舞台に人の心に巣食う戦争の影に迫った。男に体を売って食いつないでいた女の居酒屋に盗みに入ったことがきっかけで、一人の少年が入り浸るようになる。復員したばかりの若い兵士も居つき、3人は疑似家族のような関係になるが……。ほぼこのみすぼらしい居酒屋の中で展開される前半から一転、後半は右手が不自由なテキ屋の男と少年との謎めいた旅が描かれる。居酒屋の女を演じた趣里、テキ屋の男の森山未來といった芸達者の全身での表現力に加え、少年役の塚尾桜雅の目力の強さが印象的。人物の表情に肉薄するカメラワークで、戦争で心に傷を負った者たちの決して乗り越えることのできない悲しみを見つめた塚本監督の信念が心に突き刺さった。(藤井克郎)

2023年11月25日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/95分) 監督・脚本・撮影・編集・製作:塚本晋也 出演:趣里、森山未來、塚尾桜雅、河野宏紀 ほか 配給:新日本映画社 ©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER


『めためた』

メタで、めためたで、自由な、創作&人間賛歌

映画『めためた』メイン画像

俳優や照明部など、多面的に映画に携わってきた鈴木宏侑の初長編監督作。初脚本も担う主演の新井秀幸と共に企画・完成させた群像ドラマだ。主人公は、スランプに陥り、日がな街を彷徨う小説家の荒木。彼の恋愛沙汰を中心に3つの異なるストーリーが進んでいく。一見無関係の物語たちだが、やがて荒木の現状を反映させたように小説の雲行きも怪しくなっていく……。『めためた』という惚けた響きのタイトルに惹かれて鑑賞したが、なるほど、「メタフィクション」の構造と「めためた」な展開をかけたというわけだ。役者たちの“生の感情”を引き出すため、即興の演技と演出で紡いだという本作。男女間・家族間における人々の営みをユーモラスに描きながら、複雑で生々しい登場人物たちの内面が伝播してきて、胸の奥が小さく締めつけられた。演じる者、創る者、自由な創作と人間への賛歌を、気取らず洒落っ気たっぷりに描いた意欲作だ。(富田旻)

2023年11月25日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/72分)監督:鈴木宏侑 脚本:新井秀幸 出演:新井秀幸、和座彩、錫木うり、橋本つむぎ、柳谷一成、金谷真由美 ほか 配給・宣伝協力:細谷隆広 企画・製作・配給:マーブルダンス、新井秀幸、鈴木宏侑 ©映画「めためた」製作委員会

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