若手×ベテランが語る “役者のリアル”!『とどのつまり』『わかりません』キャスト座談会インタビュー

  • 2022年09月24日更新

写真左から、『わかりません』W主演のボブ鈴木さん、木原勝利さん(ともに本人役)、『とどのつまり』メインキャストの下京慶子さん(リカ役)、宮寺貴也さん(ヒロキ役)、森戸マル子さん(志歩役)

片山享監督の最新作『とどのつまり』『わかりません』が、2022年9月24日(土)より2作連続で池袋シネマ・ロサにて公開される。前者は20、30代の、後者は40、50代の「売れていない」役者たちの日常や葛藤を紡いだ物語だ。

自身も役者として20年以上生きてきた片山監督だからこそ描ける、役者たちへの辛辣でいて深く温かなまなざし。華々しさとは一線を画する彼らのリアルな姿は、役者ではない多くの人々にも共感を呼ぶに違いない。そんな2作のメインキャストに集まっていただき、座談会インタビューを行った。若手とベテラン、彼らが赤裸々に語る“役者のリアル”とは?


【CONTENTS】(全2ページ)
Chapter1:役をたぐり寄せる
Chapter2:自分に近い役は演じやすいのか?
Chapter3:「演技がうまい」ってどういうこと?
Chapter4:共演者たちの演技はどう見える?
Chapter5:“いい役者” と “ダメな人” の関係性
Chapter6:役者と仲間と縁
Chapter7:お互いの出演作を観て
作品説明&キャストプロフィール:『とどのつまり』『わかりません

Chapter1:役をたぐり寄せる

― まずは、9月24日(土)~10月7日(金)に上映の『とどのつまり』について伺って参ります。配役を決める前に監督との面談があったそうですが、どのようなものだったのですか?

宮寺貴也さん(ヒロキ役/以下、宮寺):片山監督と撮影を務めた安楽(涼)さんと、僕らの所属するワークデザインスタジオの代表の浅沼(直也)が並んで座っていて、3対1という形式でした。

下京慶子さん(リカ役/以下、下京):ワークショップで芝居はたくさん見ていただいていたので、面談ではどこを見られるのか、何を話せばいいのかわからなくて。みんながどんな話をしたのか、実はすごく気になっていました!

― どんな気持ちで監督たちと向かい合い、どんなお話をされたのか、差し支えなければ教えてください。

森戸マル子さん(志歩役/以下、森戸):私は安楽さんに初めてお会いできるっていう嬉しさが大きかったです(笑)。もちろん、怖さはありましたけど……。

ボブ鈴木(以下、ボブ):最初から台本ありきのオーディションだったの?

下京:「こういう内容でいこうと思います」という初稿台本はいただいていました。配役が決まってから、何度か改稿されていきました。

森戸:最初の台本を読んで、私はどの役にも当てはまらないだろうなと思っていて、実は少し引いた気持ちで臨んだんです。でも、やっぱりあきらめたくないし、最後はアタックしてみようと思って気持ちを伝えたんですけど、思いが強くなって泣いてしまって……。

― どんな感情が涙をあふれさせたのでしょうか。

森戸:私は普段、やりたいっていう意欲を監督に伝えたりするのがすごく下手で。でも、この作品に関してはそういうのを取っ払って「出たい」っていう気持ちをぶつけなきゃと思いました。その思いが大きくなって涙があふれてしまって……私の気持ちが強すぎたのか、片山さんからは「一瞬マジで逃げたくなった」って、あとで言われてしまいました(笑)。

― 映画を拝見して、森戸さんが志歩を演じているというよりも志歩自身に見えました。

森戸:嬉しいです。たしかに志歩は自分自身でもあると思うんですけど、だからこそ観ていただいた方の感想がこわいし、自分で観るのもこわいんですよ。

ボブ:わかる! 一緒(笑)!

宮寺:僕はマルちゃんとは逆だった。「メインの役を絶対にとる!」って意気込んでいました。片山さんとは付き合いも長いし、しかも安楽さんの作品にも過去に2本出演させてもらっていて、その関係性もあったので。けど、それが裏目に出ちゃって。

木原勝利さん(以下、木原):裏目っていうのは?

宮寺:「絶対に使ってほしいということではないですけど」と前置きをしたうえで、「片山さんの作品で、しかも安楽さんが撮影で入るこの現場で、僕が役をとれなかったらヤバいと思っています」ということを言ったと思います。

ボブ:なるほど。「そこにあぐらをかくんじゃねぇ!」ってことだ(笑)。

宮寺:そうです(笑)。その場では言われなかったけど、あとで浅沼から言われました。面談でよかった人がほかにもいて、ヒロキ役はすごく揉めたって。

下京:私はやりたい役を聞かれて、リカって言ったんです。そしたら片山さんが、「志歩かと思っていた」ってすごく意外そうな反応をされて。たしかに、志歩には共感できるところも多いけど、自分が演じてどうなるのか想像できなくて。「リカのほうにシンパシーを感じています」ってお話ししました。

木原:リカって今回演じた役だよね?

下京:そうです。でも、片山さんはもっと幼くてかわいらしい感じというか、今よりもっとあっけらかんとしたリカを想定していたみたいです。私にそのリカのイメージは全然なかったようで、台本はかなり変わっていきました。

― 出来上がった作品では、リカはクールで容姿にも恵まれて、なんでも器用にこなしてしまうがゆえに、弱みをうまく見せられなくて。下京さんも、俳優だけでなく映画プロデューサーやドローンパイロットという肩書きもお持ちで、多才で隙のないイメージです。かなり役と重なる部分があるように見えます。

下京:片山さんから「リカ(の改稿)が進みません」って電話がかかってきて、いろいろ雑談をしました。その中から、片山さんが私の心情の部分をうまく取り出して、リカを描いていってくれたんです。なので、共感する部分がより多くなったし、演じながらリカに助けられたというか、自分自身が悩んでいたことも「これでいいんだ」みたいに思えて。リカを演じられてよかったと思います。

Chapter2:自分に近い役は演じやすいのか?

― 役がご自分に近づくと、より演じやすくなりますか?

下京:それはどうだろう……。(ボブさん、木原さんに向かって)ご自分に近い役は演じやすいですか?

ボブ:うーん。逆に演じるっていう感覚はないかな。

木原:ああ、そうですね。

ボブ:これは僕の感覚かもしれないけど、演じるという言葉はあまり好きじゃなくて、その人物として「居る」ということですよね。その「居方(いかた)」を感覚的にとらえるというのかな。単純にやりやすいか、やりにくいかで言うのなら、僕はやりやすい。その代わり、しんどさもすごく大きい。きーちゃん(木原さん)は?

木原:自分に近い要素や共感する要素があれば、それをヒントに(役を)生きられるし、演じやすい。でも、役なのか自分なのかわからなくなってしまう。例えば今、僕はインタビューを受けていて、もちろん演じている感覚はないし、次の展開を意識したりもしない。演じている時もそういう状態だけど、虚構というか映画を作っているわけだから、役者は脚本を分析して、どうとらえて演じるかを考えなきゃいけない職業で、近すぎるとそこがちょっとわからなくなる瞬間がありますね。

下京:私も、屋上でヒロキと電話するシーンがそういう状態でした。ほぼ台本のセリフどおりですけど、1回目は、リカがどういう気持ちでこのセリフを言ったのかわからなくなってしまって。混乱してきた時に、片山さんが「もうリカを考えなくていいから、今感じたことをただやってください」って言ってくださって。なので、2回目は、リカか自分か正直わからない状態で演じましたけど、結果的にはそれでOKが出たのでよかったのかなと思います。役と自分が近いからこそ、よくわからなくなってくるというのはあったけど、ボブさんがおっしゃったように、そもそもそんなこと考えずにただ「居ればいい」っていうことだったのかもしれない。

木原:ヒロキが福井から東京のリカに電話するシーンだよね? 二人とも話しながら感情があふれてくるシーンだけど、台本的にそういう展開になっていたの?

宮寺:そうはなっていなかったですね。涙を流すとも書いていない。

木原:ただセリフだけが書かれていたんだ?

宮寺:そうです。リカが電話している東京パートと、僕が実家から電話する福井パートの撮影があって、画は東京を先に撮って。その時は、僕が別室から実際にリカに電話をしています。もちろん僕のほうはカメラが回っていないですけど、1回目は本番と全然違うことをしているんですよ。

ボブ:どんな感じだったの?

宮寺:普通に生きている中で、自分の心情をあんなにさらけ出すことってないじゃないですか。むしろ隠しますよね。だから、なるべく抑えるほうを意識して演じたんです。そしたら片山さんが僕のところにきて「そういうレベルじゃない。抱えているものの大きさは」って。「ヒロキに起きた一個一個の事象のレベルを全部上げてくれ」って言われて、そこから内面をさらけ出していきました。

下京:逆に、福井で貴也さんが撮影する時は私が東京から電話をしているんですけど、東京の撮影の時とテンションが全然違っていて、「私の撮影の時と違うじゃん!」みたいな。だから内心「シーンが繋がるのかな?」とちょっと心配でした。

宮寺:でも、東京パートの撮影でも2回目からは泣いていたよ?

下京:テンションが5倍くらい違っていたの! 貴也さんとは、ワークショップで何度か一緒にお芝居をしているので、東京ではいつもの貴也さんだと思ったけど、福井に行って電話のシーンで話した瞬間に「うーわ!」って思いました。違う人みたいだった。「これは貴也さんに持っていかれる」と思って、ちょっと悔しかった。けど、本人には絶対に言わないし。そう思っていたら、福井から帰ってきた片山さんがそんなことをおっしゃったので、「そうですよね」って。

ボブ:ミヤ(宮寺さん)が福井に行っている時の話は、実は片山からちょっと聞いていて。今だから言えるけど、福井に行く前は「宮寺がねぇ、よくないんですよ」って言っていたんだよね(笑)。

宮寺:わかっています。片山さんと安楽さんに何度も言われましたから(苦笑)。

ボブ:それが、福井から帰ってきたら片山が「宮寺がよくなりました!」って。

木原:僕も聞きました。福井に行ったら宮寺くんに何も言うことがなくなったって。演出も一切しなくなったって。

― 福井ロケで何があったんですか?

宮寺:何があったって言われると、わからないんですよ。そもそも東京編が悪いというのも、自分ではよくわかっていないですし(笑)。

下京:そういうとこだよ(笑)。

ボブ:多分、福井で一緒に芝居した人たちの「居方」に影響を受けたんじゃない?

宮寺:その影響は絶対にあります! 福井で一緒にお芝居させていただいた皆さん、役者じゃなく素人なんですよ。あとは土地の影響もあると思います。

ボブ:片山も「福井にはレジェンドが二人いるんですよ」って言っていて。ヒロキのお父さん役の方(藤井啓文)と、映画館の主人役の方(山田昭二)と。あれこそ、「居方」だなと思う。お父さんは座っているシルエットだけですごい。あと、映画館のご主人がヒロキを久しぶりに見て喜ぶところ。あれを観た時はもう、ノックダウンだった。

全員:あれはすごかった!

宮寺:もう一つはすごく個人的なことだけど、撮影の手伝いで福井に来るかもって言っていた下京が、結局来られなかったんです。僕としては片山さんも安楽さんも知ってはいるけど、キャスト一人は心細くて。でも、その状況が芝居に活きたと思います。きっと来てくれていたら精神的に甘えてしまうし、カットがかかったあとにしゃべったり、ご飯を食べる時にしゃべったりして、そういう一つひとつがきっと芝居の邪魔になる……って、撮り終えたあとに気づきました。

木原:でも、それは本当によかったと思うよ。

Chapter3:「演技がうまい」ってどういうこと?

― あらためて、「演技がうまい」とはどういうことなのでしょうか。

ボブ:それは僕もずっと考えていることですね。

宮寺:福井のお父さんたちは技術的なテクニックは何もないわけです。だからこそ、最初から何かをしないというのはありますよね。

木原:それは言える。むしろ俳優は何かをしようとしてはダメですよね。

下京:それがリアルですものね。

森戸:うんうん。

ボブ:その「居方」にプラスして、レジェンドたちには「年輪」がある。自分の人生経験がある状態でそこに居られちゃうんで、かなわない。だから、後ろ姿で表情が見えなくても、すごく魅せられるんですよ。

― 演じるのではなく、「居る」こと。さらに、さまざまな経験や感情が「年輪」として刻まれ、おのずと滲み出ること……演じることでいろんな人生を体験できるのが役者という職業でもあり、また生き方そのものが演技になるのも役者、とも聞こえました。

Chapter4:共演者たちの演技はどう見える?

― 主演のお三方は、お互いの演技を見てどう感じましたか。先ほど、下京さんが宮寺さんの演技を目の当たりにして悔しかったというお話もありましたが。

森戸:私は、それぞれに嫉妬する部分がありました。下京さんは姉妹でいるシーンがすごく良くて。そこでリカの自然な姿を見せて、仕事をしているリカの姿も両面を見せられて。気持ちが引っ張られて、観ていて悔しかった。宮寺は、福井ではあの演技までいけて。実は、福井で撮影している片山さんから「宮寺は変わった」って連絡がきたんです。正直すごく悔しかった。でも撮影もほぼ終わっていて、私はラストシーンを残すだけだったので、そこから何かできたわけではないですけど。

木原:どのシーンが撮影のラストだったの?

森戸:夜のシーンです。海沿いの道まで走って逃げるところ。

木原:その感情は少なからず反映していたんじゃないかな。実際にとてもいいシーンだった。

森戸:ほんとですか。よかった!

― 下京さんは森戸さんの演技をどうご覧になっていましたか。

下京:私は自分がプロデューサーとしてキャスティングすることもあるので、実は台本を読んだ時から、「マルちゃんの志歩が見たい!」と思っていたんです。実際に作品を観て、いち森戸ファンとして、「やっぱりマルちゃんの演じた志歩、いいな!」って思いました。

― 特に好きな志歩のシーンはありますか。

下京:雑誌を取るときの仕草とか。繊細で私にない要素をすごく持っていて。マルちゃんって、ガラスみたいに繊細なのに実はロックなんです。いざとなると「でも、私は私だし」みたいなのが垣間見えるというか(笑)。

木原:ぶっ壊したいんだね。

ボブ:ミヤがヒロキ役だって聞いた時は、二人はどう思ったの?

森戸:私は、すごく安心できました。この三人って、そこまで深くいかない距離感で、ちょっと適当でも居られて、それが心地よかったです。

下京:私はちょっと意外でした。普段の貴也さんは、苦しんでいるところや崩れているところをあまり見せない人だから、ヒロキみたいに悩む姿がすぐに想像できなかった。貴也さんってイケメン枠みたいにとらえられるけど、こういう情けない男がすごく似合うんだなと思いました。

― 宮寺さんは、そんなヒロキ役を演じてみて、難しさは感じましたか。

宮寺:パンフレットのコメントに「役を理解するために時間を要さなかった、つまり理解とはほど遠い役だった」って書いたんですけど、ヒロキはほぼ自分だから、芝居がどうとかではなかったんです。これもパンフレットに書いたけど、「ウソをつくための芝居が必要な時もあるし、ウソをつく作業を削る芝居が必要な時もあって、でもこの役に関してはどっちも使わなかった」って。そのくらい、ヒロキという人に対して距離を感じませんでした。
福井に行った時も、初めてなのに「帰ってきたなぁ」という感じだったし。ヒロキに起こった事象はほぼ自分も経験しているし、それを片山さんがあえて台本に反映したのかどうかはわからないけど。

ボブ:絶対に反映させていると思うよ。片山の頭の中にある情報が物語とリンクしていたなら、絶対に使うと思う。

木原:役を演じる時に自分のパーソナリティを利用するのは当たり前で、殺人鬼とか、殺し屋とか、宇宙飛行士とか、自分の中にはないパーソナリティになると、リサーチとかで共通点を探していくんだろうけど。片山さんはおそらく、ウソをつかせないというか、演技をさせない状態に持っていくために、利用できるのであれば、役者自身の人生を使うんだと思う。

宮寺:だからやりやすかったけど、ボブさんがおっしゃったとおり、めちゃくちゃ辛かったです。

― 女性二人へのライバル心みたいなものは?

宮寺:僕は全然ないです。そもそも異性なので、役を争うことがないですから。シンプルに「このシーンいいな、あのシーンすごいな」って観られます。この二人はもちろん、この作品は出演している全員が本当に素晴らしいと思います!

― たしかに! 両作とも、メインキャストの皆さんはもちろん、出演者全員がすごく輝いていますよね!

2ページ目は『わかりません』の話題を中心にインタビュー!

  • 2022年09月24日更新

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