12月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2021年11月30日更新
12月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが2021年の締めくくりに観たいのは、どの映画!?
LINE UP 12/3(金)公開『彼女が好きなものは』 12/3(金)公開『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』 12/4(土)公開『アリスの住人』 12/4(土)公開『クナシリ』 12/17(金)公開『偶然と想像』 12/17(金)公開『世界で一番美しい少年』 12/17(金)公開『POP!』 12/25(土)公開『エッシャー通りの赤いポスト』 12/25(土)公開『灯せ』 |
『彼女が好きなものは』
ゲイの高校生と腐女子の恋の行方
2019年にドラマ化もされた、浅原ナオトの小説を映画化。ゲイであることを隠しながら高校生活を送る純と、BL好きを秘密にしているクラスメイトの紗枝は、ふとしたことがきっかけで付き合うことになる。だが紗枝は純のセクシュアリティを知らなかった……。神尾楓珠や山田杏奈など若手俳優たちが、10代の揺れる感情を細やかに表現している。また、大人の余裕とずるさを持ち合わせる純の恋人役の今井翼の存在感も絶大。ここでは「ほかの人とは違う」と苦悩する純に焦点を当てるだけでなく、理解したい、できないという周囲の人々の姿も描かれる。タイトルに続く言葉の行方はこの作品の醍醐味であり、また本作を愛おしいと思える最大の理由だ。多様性が特別なことではなく、当たり前になる未来への期待が膨らむ。(吉永くま)
2021年12月3日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画(日本語字幕・音声ガイド付き)
(2021年/日本/121分)監督・脚本:草野翔吾 出演:神尾楓珠、山田杏奈、前田旺志郎 ほか 配給:バンダイナムコアーツ、アニモプロデュース © 2021「彼女が好きなものは」製作委員会
『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』
音楽とミステリーが奏でる絶妙なハーモニー
名器をめぐる不思議な因縁を描いた『レッド・バイオリン』のフランソワ・ジラール監督が、またもバイオリンを題材に、音楽と謎解きが絶妙なハーモニーを奏でる極上のミステリーを織り上げた。幼少期から天才とたたえられたユダヤ系ポーランド人のドヴィドルは、1951年に国際舞台のデビューを飾ることになっていた直前、忽然と姿を消す。それから35年、ドヴィドルの指導者の息子で兄弟のように育ったマーティンは、あるバイオリン奏者の仕草を見て昔の記憶がよみがえる。ドヴィドルの行方を捜すサスペンス性に、ユダヤ人の受難の歴史や宗教が複雑に絡み、物語により深みをもたらす。バイオリンの演奏場面も見応えがあり、中でもドヴィドルの幼少期を演じたルーク・ドイルの見事な弓さばきには感服した。(藤井克郎)
2021年12月3日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/イギリス、カナダ、ハンガリー、ドイツ/113分)原題:The Song of Names 監督:フランソワ・ジラール 出演:ティム・ロス、クライヴ・オーウェン、ミシャ・ハンドリー、ルーク・ドイル ほか 配給:キノフィルムズ © 2019 SPF (Songs) Productions Inc., LF (Songs) Productions Inc., and Proton Cinema Kft
『アリスの住人』
幼児虐待の悲しみとその先に見出す光
家庭養護施設「ファミリーホーム」を舞台に、児童虐待の悲しみやトラウマを抱えながらも強く生きようとする人々を描く人間ドラマ。ファミリーホームで他者と共同生活を送る18歳のつぐみは、幼い頃に実父から受けた性的虐待のトラウマで、自身の体の大きさが変わったように感じたり、時間の経過が早く感じたりするなど、奇妙な感覚に苛まれる「不思議の国のアリス症候群」に悩まされている。ある日、一人の青年と出会い惹かれ合うが、外の世界へ踏み出そうとしたとき、つぐみの罪深き秘密が明かされてしまう……。家族の残酷なエゴイズムに翻弄され、深い悲しみを心に宿しながら生きる少女たち。澤佳一郎監督は、他者や現実との折り合いを模索する彼女たちの苦悩や、「ゆるし」という難題をも実直に描きながら、その先に見える光をあたたかく活写する。心の傷みが癒えることはなくとも、血の繋がりだけではない他者との絆や、ふとした出会い、ささやかな夢、そんな小さなパーツを紡いで一歩踏み出せたなら、そこに新たな希望が生まれるに違いない。やわらかな手にそっと背中を押されたような、優しく力強い余韻の残る作品だ。(min)
2021年12月4日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021 年/日本/64 分)英題:Resident of Alice 原案・脚本・監督・編集:澤佳一郎 出演:樫本琳花、淡梨、しゅはまはるみ、伴優香、天白奏音 ほか 製作・配給:reclusivefactory © 2021 reclusivefactory
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『クナシリ』
見捨てられた島に暮らす人々の思い
ロシアが実効支配する北方領土の一つ、国後島の現状を、旧ソ連(現ベラルーシ)の生まれで、フランスを拠点に活動するドキュメンタリー作家のウラジーミル・コズロフ監督が見つめた。登場するのは主に4人の高齢ロシア人だ。戦後まもなく移り住んできた人たちで、日本統治時代の遺構を発掘している人やアイヌに憧れて自然の中で暮らす人など、さまざまな思いを抱いて生きている。だが土地は荒れ放題で、森や海岸は廃棄物まみれ、あるおばあさんは40年間トイレのない家に住み続けている。ところどころ挿入される日本人が残していった写真からは、戦前の文化的で落ち着いた生活がうかがわれ、日本の開発を望む住民の声もある。けあらしの夜明けや雪山の遠景などは相変わらず美しく、見捨てられた暮らしとの対比が胸に刺さった。(藤井克郎)
2021年12月4日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/フランス/74分)原題:KOUNACHIR 監督・脚本:ウラジーミル・コズロフ 配給:アンプラグド © Les Films du Temps Scellé – Les Docs du Nord 2019
『偶然と想像』
あっと驚く展開が心地よい3編からなる短編集
『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督による3編からなる短編集で、2021年のベルリン国際映画祭では銀熊賞の審査員グランプリに輝いた。いずれも1対1の会話を中心に紡がれていて、意外な出会いと予期せぬ進展が異様な高揚感をもたらす画期的な作品になっている。第一話「魔法(よりもっと不確か)」で仕事仲間ののろけ話を聞かされた女性が次に取った行動、第二話「扉は開けたままで」で教授に単位を落とされた大学生が画策する仕返し、第三話「もう一度」で帰省した女性が最も会いたかった親友との遭遇と、あっと驚く展開での裏切られ方が妙に心地よい。ノーカットの長回しで淡々と対話する役者陣の自然さと、撮影の飯岡幸子のどこかとぼけたような絵づくりのセンスにも魅了された。(藤井克郎)
2021年12月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本/121分)監督・脚本:濱口竜介 出演:古川琴音、渋川清彦、占部房子 ほか 配給:Incline © 2021 NEOPA / fictive
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『世界で一番美しい少年』
ヴィスコンティが狂わせた伝説的美少年の半生
1971年のルキノ・ヴィスコンティの傑作『ベニスに死す』で、主人公の老作家が恋い焦がれる美少年タジオを演じ、世界中を虜にしたビョルン・アンドレセン。その後スクリーンで目にすることはほとんどなく半ば伝説となっていた彼が、約50年後、『ミッドサマー』の老人役で人々の前に現れる。その間彼の人生にいったい何があったのか、過去の貴重な映像や写真とともに明らかになる。長髪に髭を蓄えた60歳過ぎの痩せた彼が、静かなトーンながら、時に搾り出すように時に諦念とともに、当時のトラウマ的体験やその後の人生について赤裸々に語る。幸せとはいえない子供時代、ヴィスコンティの仕打ち、日本を含めた海外での日々とその後の悲劇。15歳だった彼の人生を狂わせたのは、巨匠や周囲の大人、そしてタジオとビョルンを同一視してしまった世間なのか。彫刻のように美しい少年の幻影に魅了された私たちの記憶の空白部分が、痛みとともに埋められていく衝撃のドキュメンタリーだ。(吉永くま)
2021年12月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/スウェーデン/98分)原題:The Most Beautiful Boy in the World 監督:クリスティーナ・リンドストロム & クリスティアン・ペトリ 出演:ビョルン・アンドレセン 配給:ギャガ © Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021
『POP!』
キュートな真面目さが彩る的を外した笑い
主人公は女優を夢見る柏倉リン。20歳を目前にした今、唯一の仕事はチャリティー番組のサポーター役で、普段は誰も来ない野外駐車場で監視員のアルバイトをしていた。そんなある日、奇妙な覆面をかぶった爆弾魔を目撃してしまう。1992年生まれの小村昌士監督の長編初作品で、映画と音楽のコラボ祭典、MOOSIC LAB[JOINT]でグランプリを獲得。シチュエーションといいストーリーといい、オフビート感覚の笑いで貫かれていて、クスリとさせられる小ネタが次から次へと繰り出される。意味を求めることを諦めて、監督の脳裏に渦巻くイメージにどっぷりと浸ることで、妙な快感につながってくるから不思議だ。リンを演じる小野莉奈のキュートな真面目さが、この的を外した世界観をさらに豊かに彩っている。(藤井克郎)
2021年12月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本/86分)監督・脚本・編集:小村昌士 出演:小野莉奈、三河悠冴、小林且弥 ほか 配給:ムービー・アクト・プロジェクト © 2G FILM
『エッシャー通りの赤いポスト』
51人の一人一人が際立つ原点回帰の群像劇
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』でハリウッド進出を果たした園子温監督が、今度は俳優ワークショップに参加した51人全員の出演で、映画づくりの原点に帰るようなみずみずしい群像劇を紡ぎ上げた。若手有望監督の新作のため、広く出演者の公募が実施される。浴衣姿の劇団員や監督の親衛隊など大勢の志願者の中には、俳優志望の夫を亡くした切子や妙に殺気立った安子の姿もあった。オーディション風景を中心に応募者のエピソードが差しはさまれるが、驚かされるのは、51人もいるにもかかわらず一人一人の個性が際立っていることだ。商店街で映画を撮影するクライマックスは、出演者役にスタッフ役も入り乱れて混沌とする中、銘々のお芝居を長回しのカメラが捉え続けていて、圧巻の一言に尽きる。(藤井克郎)
2021年12月25日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本/146分)監督・脚本・編集・音楽:園子温 出演:藤丸千、黒河内りく、モーガン茉愛羅 ほか 配給:ガイエ © 2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会
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『灯せ』
24分のなかに力強く息づく灯
ネオンが消え冷たい雨に沈む東京。人影もまばらな色を失った世界の片隅で、それでもなお自らの光を灯し続けようとする、映画監督と舞台女優とラッパー。先行きの見えない緊急事態宣言下の東京で、生きる場所を閉ざされようとしている者たちが、体の底から湧き上がるような表現への渇望を抱え、苛立ち、あがき、歩み続ける……。緊急事態宣言により自身の新作映画の撮影がクランクイン直前で止まってしまった安楽涼監督が、「しょうがない」を受け入れ続けることに限界を感じ、サトウヒロキ、円井わん、DEGを主演に迎えて撮り上げた本作は、閉塞感漂う世界に真っ向から挑もうとする安楽監督と表現者たちの意思表明といえる作品だ。「映画館の暗闇で観てこそ完成する映画を作った」という強固な意志を貫き、今年8月に本作を1日限定で映画館のスクリーンで上映し、24分という短い作品でありながら観る者の心を激しく揺さぶった。そんな本作が再びスクリーンに放たれる。安楽涼という表現者が、絶え間なく灯し続けようとするものを、劇場の座席から余すところなく受け取り、見届けてほしい。(min)
2021年12月25日(土)〜30日(木)池袋シネマ・ロサにて上映 入場料:500円
公式サイト 予告編動画(2021年/日本/24分)監督・脚本:安楽涼 監督補:片山享 出演:サトウヒロキ、円井わん、DEG ほか
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