生々しい感情と疾走感がスクリーンにほとばしる異色の青春映画!—『1人のダンス』安楽涼監督インタビュー

  • 2019年05月21日更新

若干27歳の安楽涼監督が主演を務め、エレクトロユニットのOOPARTZ(オーパーツ)とタッグを組んだ映画『1人のダンス』が、2019年5月25日(土)より池袋シネマ・ロサで2週間限定上映される。
目の前のことに甘え、惰性の毎日を過ごす駆け出しのMV監督・安楽が、親友でアーティストのリュウイチからMV撮影を断られ、激しい怒りと衝動に駆られる姿を愚直なまでにストレートに描いた本作は、安楽監督と実の親友であるOOPARTZのRYUICHIとのリアルなケンカを、本人出演で映画化したという異色の青春映画だ。生々しい感情と疾走感がスクリーンにほとばしり、「MOOSIC LAB 2018」の男優賞にも輝いた本作は、どのように生まれ撮影されたのか。その制作秘話と映画に込めた思いについて、安楽監督に話を聞いた。


怒りが込み上げ、苦しくてどうしようもない気持ちを映画にした

— 作品から溢れる焦燥感や疾走感に感化されて、映画を観終わった瞬間、衝動的に「インタビューさせてほしい!」って監督にご連絡したんです(笑)。

安楽涼監督(以下、安楽):映画を観てほしいってメッセージを送って、その数時間後にはインタビューのオファーがきたので、めちゃくちゃ驚きました(笑)。

— 主人公・安楽の激しい感情がスクリーンからほとばしっている感じが新鮮だったし、リアルですごく力のある作品で。自身の葛藤や心の叫びを描く作品は特にインディーズ映画には多いけれど、もうダントツで主人公が青くさかった(笑)。

安楽:はははは(笑)。

— 「MOOSIC LAB 2018」のために制作された作品ということですが、どういうきっかけで参加されたのですか?

安楽:映画監督作2作目の『弱者よ踊れ』という短編が2017年の下北沢映画祭に入選して、その時の審査員がMOOSIC LABを主宰している直井卓俊さんだったんです。そこで声を掛けていただいて。それまでは、役者としてMOOSIC LAB作品のオーディションを何度も受けていて、ことごとく落とされていたんですけど(笑)。

— 思いもかけず、監督作で出演を果たしたと(笑)。もともとは短編部門で企画・出品された作品ですが、今回の特集上映では長編作品として公開されるんですね。

安楽:企画書の時点では30分以内の短編部門で考えていたんですけど、撮影する過程で衝動的に長編になっていって。MOOSIC LABでは納得するまで編集して30分版で出品しましたけど、正直この事がずっと頭にこびりついていたんです。それで、シネマ・ロサさんに長編版を見せに行ったら「上映しよう」と言ってくれたんです。

— そもそも、なぜ役者だけではなく監督も手掛けようと思われたのですか?

安楽:自分が映画に出たくて仕方なかったんですよね。それまで、自主制作映画に年30本くらい出ていたのに、出演作品が上映される機会に全然恵まれなくて。それがかなり精神的にしんどくて、それなら自分が主演の映画を撮ろうって思って。最初に撮ったのが『幸せ屋』という作品なんですが、納得いくものにならなくて精神的に病んで作ったのが、『弱者よ踊れ』だったんです。約8分の短編作品ですけど、すごく落ち込んでいるときに、元気になろうと思ってひたすら僕がひとりで踊っているだけの映画なんです。

— 今作を観ていても感じましたが、自分の内面の鬱屈や衝動を消化するために映画を撮ってもいるのかなって。

安楽:それは、本当にそうですね。ただ、『弱者よ踊れ』は、もともと映画にするつもりはなくて。動画として撮影したものを僕の家で観たRYUICHIが、「これは映画だよ」って言ってくれて、それで映画になったっていう過程があって。映画祭に出すつもりも全くなかったんです。

— RYUICHIさんの鶴の一声、すごいですね。安楽監督のことをすごく理解しているんだなって思いました。

安楽:RYUICHIと本作にも出演している出倉(俊輔)とは江戸川区西葛西の同じ産院で生まれて、小学校から仲良くなって今も家が近所の幼なじみなんです。今でも週5くらいで会っていて、映画に出てくるコンビニ前で集合して、酒も飲まずにエチュードとかコントみたいなことをずっとやって遊んでいるんです(笑)。

— よくこれだけの才能が偶然に集結しましたね。3人が生まれた年の西葛西で何が起きていたんだろう(笑)。

安楽:何が起きてたんですかね(笑)。夢を追いかけているやつはほかにもいたけど、いまだにやっているのが僕ら3人なんです。

— 安楽監督が主宰している映像制作ユニット「すねかじりSTUDIO」もその3人でやっているんですか?

安楽:映像制作は僕と出倉でやっています。何本かOOPARTZのMVを「すねかじりSTUDIO」で作ってはいるんですけど。僕自身は、仲間内で作品を作りたいっていう気持ちが強いんですよね。もちろん、身内以外のキャストにも出演はしてもらうけど。

皆が僕を支えてくれて、わがままに付き合ってくれたのがこの映画

— RYUICHIさんとの実際のケンカも、ほぼ映画のような感じだったのですか?

安楽:そうですね。MVの撮影を断られたメール画面を劇中で映しているんですけど、あれは本物のやりとりなんです。さすがに文中に出てくる監督の名前は変えましたけど。

— 日々、惰性の仕事でプライドをすり減らして、本当にやりたかったMV撮影を断られたことに落胆と怒りを感じたことには共感もしたし、心を揺さぶられました。でも、冷静に見ればRYUICHIさんに悪意はないですし、監督の態度に業を煮やした感じもわかる。きちんと話し合えばすんだことかもしれない。実際のところ、映画を1本作ってしまうほど安楽監督が怒りを覚えた核心というか、真意はどこにあったのでしょうか?

安楽:怒りの真意は……それこそ青くさいですけど、RYUICHIのことがむちゃくちゃ好きなんですよね。あの時期は、実際にアイドルの撮影もやっていたし、彼女たちはすごく頑張っていて、そのお金で生活もできていたんですよ。けど、やっぱり葛藤はあって。そんななかでMVの話が進んでいたから、すごく楽しみにはしていたんです。だから断られて、暴れるくらい怒りが込み上げてきたし、身体的にも腹の底がむっちゃ痛くなったんです。苦しくて苦しくてどうしようもなかった。丁度、そのときにMOODIC LABの企画書を別のテーマで書いていたんですけど、もうこれを撮るしかないと思ってテーマを変えたんです。

— そこまで純粋に怒るエネルギーが凄いし、それを作品にするためには怒りと向き合わないといけないし、大変な作業ですよね。

安楽:最初は自分で脚本を書いてみたけど、書いているとますます怒りが込み上げてくるし、納得できるものにならなくて。それで、桐木役も演じた脚本の片山享さんに全部話して、脚本にしてほしいってお願いしたら、1時間後には初稿が送られてきて。それを読んだときに、「これがやりたい!」って思えたんです。

— 1時間!? 片山さんもすごいですね! RYUICHIさんとは仲直りしたうえで、出演オファーをされたんですか?

安楽:ケンカから 1 ヶ月くらい会っていなかったんですけど、脚本を見せるために会いにいったんですよ
。その間も RYUICHI はめちゃくちゃ気にしてくれて、断られたメールも自分がシカトしていて。脚本ができたときに、久々に連絡をくれたので、いつものコンビニ 前で待ち合わせすることにして、会うなり脚本を渡して「このこと映画にするんで出てよ」っ て。

— いきなり? でも、そこで仲直りはしたんですよね?

安楽:いや、本当に自分でもタチが悪いと思うんですけど、怒りが全然おさまっていなくて。MVを別の人に撮らせた事実がどうしても許せなかったんですよね。とりあえず脚本を渡すだけ渡したら、RYUICHIが読みながらすっげー泣いてくれてて。で、まあ久々に話をして、許せてはいないけど映画がスタートしたという感じで。

— RYUICHIさん、優しいなぁ。映画を観ていても思いましたけど、安楽監督は周りの方がかなり大人だなって(笑)。

安楽:ホントそうです(笑)。僕が一番ガキだし、どう考えてもわがままだし、独りよがりだし。

— その様子が私にはまさに“1人のダンス”に見えたんですよ。実はこの作品はタイトルに惹かれたて観たというのもあるんです。ぱっと聞いたときに、独りよがりな葛藤とか、空回りしているような印象を受けて、すごく映画的だと思いました。

安楽:RYUICHIもそう感じたんだと思うんです。はじめは別のタイトルを考えていたんですけど、RYUICHIが「1人のダンス」っていう曲を書いてきてくれたときに「これだ!」と思いました。周りの皆が僕を支えてくれて、わがままに付き合ってくれたのがこの映画なんですよね。

>>>安楽監督が映画を撮る理由とは? 次のページに続く!>>>

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