小津安二郎監督の影響も?―『四つのいのち』 ミケランジェロ・フランマルティーノ監督 ティーチ・イン(第23回 東京国際映画祭より)

  • 2010年12月05日更新

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2010年のカンヌ国際映画祭で話題になった、ミケランジェロ・フランマルティーノ監督作『四つのいのち』。日本では、2011年の春、シアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開です。

イタリアの自然豊かなカラブリア州が舞台の本作は、年老いた牧夫のエピソードから始まります。台詞を極力排した映像の中、「四つのいのち」とは、果たしてなにを意味しているのか ― それを自ら発見していただくために、日本公開の折には、ぜひ映画館へ足を運んでください。

公開に先だって、第23回 東京国際映画祭で本作が上映されました。2010年10月27日(水)には、来日したフランマルティーノ監督を迎えてのティーチ・インが、TOHOシネマズ六本木ヒルズにて開催。来年の公開が待ち遠しくなること必至のその模様を、ほぼノーカットでお届けします。

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― カラブリア州の情景が、とても愛情を持って描かれているように感じました。監督ご自身とゆかりのある土地なのですか?

「カラブリア州には、輪廻転生の感覚があります」

ミケランジェロ・フランマルティーノ監督(以下、フランマルティーノ) 自分の出身地ではありませんが、私の家族が生まれた土地なので、子供の頃、夏は必ずカラブリア州で過ごしていました。長靴の形をしているイタリアの、最南端に位置する地方です。
本作は、私の「発見」から生まれたものです。牧夫、木を切りだすお祭り、多くの山羊、カラブリア州独特の炭焼きの方法などと出会い、それらを見ているうちに、人間とほかの事物とのつながりに気づきました。そのつながりの中に、なにかがあると感じたのです。そういう意味で、この映画は、魂や精神のたぐいを表現しています。
輪廻転生の概念は、東洋では当然のことかもしれませんが、イタリアでもカラブリア州には輪廻の感覚があります。本作のような物語を描くにあたって、そういう意味でも、あの土地は舞台としてぴったりだと考えました。

― 出演者のみなさまは、現地のかたがたですか?

「犬は、本作で唯一のプロの俳優です」

フランマルティーノ 出演者は俳優ではなく、全員があの土地の住人です。撮影クルーの私共を、みなさまが温かく受けいれてくださったので、とても感謝しています。
劇中に登場する犬は、ミラノから来た犬で、本作では唯一のプロの俳優です(会場笑)。プロの犬がやってくると聞いて、現地に住んでいる人々みんなが、あの犬を見にきました(笑)。
あの犬は非常に素晴らしい役者で、劇中では吠える演技をしてくれましたが、訓練された犬なので、もともとは吠えなかったのです。本作では吠えさせなくてはならないということで、飼い主が訓練をしました。こうして、吠えることを覚えてしまったので、撮影後の半年間は、また吠えさせないようにするために、飼い主は苦労したそうです。
2010年のカンヌ国際映画祭で、あの犬はパルムドッグ賞*を受賞しました。非常にアイロニカルなセレモニーもやっていただいて、イタリアのマスコミなどは、「イタリアで初めて受賞した犬」として、とても大きく取り扱ってくれました。

*パルムドッグ賞:2001年からカンヌ国際映画祭でおこなわれている、「映画に出演した犬」の演技を評価する非公式イベント。イギリス人のジャーナリストによって設立された。

― 完成した本作を観て、出演者のかたがたは、どんな反応をしましたか?

フランマルティーノ 出演してくれたかたそれぞれが、「映画の中心人物は自分だ」と思っていたようなので(笑)、「山羊の登場するシーンが多すぎる」というような声がありました(笑)。
ただ、本作はカンヌ国際映画祭で上映され、テレビや新聞にもとりあげられたので、出演者のみなさまはとても喜んでくださって、「自分が主人公ではない」という不満は解消されたようです(笑)。

― 木を切りだしてくるお祭りのシーンがありましたが、どういった意味合いのお祭りなのですか?

フランマルティーノ カラブリア州の北部の、バジリカタ州との境でおこなわれている、800年ほどの伝統があるお祭りです。基本的には、春におこなわれます。「再生」を意味するお祭りと言われていますが、異なる解釈がほかにもあるので、現在の人々は、なんのためにおこなっているのか、わかっていない部分もあります。それくらい、ときの彼方にうずもれているお祭りと言えます。

― 炭焼きのシーンがありましたが、日本の炭焼きとは、方法がまったく違うので驚きました。

フランマルティーノ カラブリア州独特の炭焼きの方法です。私も、あの炭焼きを見たときは、本当に驚きました。野生の森の中に、まるで現代美術の作品のような炭焼きの場所があって、そこでおこなわれます。

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― 教会の塵を、老人が薬のように飲んでいるシーンがありました。こういった信仰があるのですか?

「この映画の、本当の意味での主人公は『魂』です」

フランマルティーノ カラブリア州というよりは、シチリアに伝わる古いしきたりです。教会のような聖なる場所に落ちている塵には魔術的な力があるとして、飲むと病気が治ると言われていました。ただ、こういった信仰は、現代では失われつつあるのは間違いありません。
塵や埃は、目に見えるか見えないかが、判別しにくいものですが、「聖なること=聖性」も、それに近いと考えています。また、聖性は、魂にとても近いものでもあると思います。
輪廻転生などを説いた哲学者のピタゴラスは、カラブリア州にいたことがあります。もちろん、輪廻の概念は東洋からきたものであり、そういう意味で、カラブリア州は東洋と西洋の出会いの場とも言えます。ピタゴラスは、「埃には魂が宿っている。魂が埃として見える」と考えていました。
本作でも、その考えが表れています。この映画において、本当の意味での主人公は「魂」です。

― カラブリア州は乾燥しているイメージがありますが、本作では雪の降るシーンがあります。実際に、あの地方では雪が降るのですか?

フランマルティーノ カラブリア州は、非常に変化の多い土地です。南方は温かくて穏やかな気候で、海岸の町が最も有名です。
ただ、州の中には山や斜面もあります。本作にはポリーノという山脈が登場しますが、そこの山は7月初旬くらいまで雪に覆われています。

― 本作を撮るにあたって、最も苦労した点は?

フランマルティーノ 予算がなくなって、撮影を1年半も中断せざるをえなかったことが、最も苦しかったです。

― 俯瞰で固定したシーンが何度も出てきます。そういったシーンが少しずつ変化していって、とても落ち着いた雰囲気に感じました。監督は小津安二郎監督を尊敬しているということですが、小津監督の手法やテーマに影響は受けているのでしょうか?

「固定アングルを使うことによって、観客の目と意識は自由に動けます」

フランマルティーノ 小津監督は世界の巨匠ですから、こういったことは、跪(ひざまず)いてお話ししたいくらいの気持ちです。
固定アングルを使うことで、観客に自由を与えられると思います。そうすれば、観客はカメラの動きを追わずに、自分の目で映像の中を動くことができるからです。小津作品を観たとき、私はその自由を与えられている、と考えました。アングルが固定されることによって、観客の目と意識は自由に動けるのです。
また、小津監督は50mmのレンズを使って撮影していました。このレンズは、映像を歪めずに、現実をそのまま捉えることができます。つまり、そこに解釈されているものがなく、「観る者が自ら解釈できる」という自由を観客に与えていた、といえると思います。
私にとって映画のイメージは、そこに見せられているものだけではなくて、そこに隠されているものを考えることであり、それに魅了されます。たとえば、誰かの顔がクローズ・アップされたとします。その誰かが黙っていれば、「この人の頭の中には、なにがあるのだろう」と、非常に考えさせられます。小津監督に限らず、多くの映画監督からそういった手法を学びました。「隠されたものの魅力」について、私は常に考えています。

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▼『四つのいのち』
作品・公開情報

イタリア・ドイツ・スイス/2010年/88分
原題:”Le Quattro Volte”
英語題:”The Four Times”
監督:ミケランジェロ・フランマルティーノ
配給:ザジフィルムズ
コピーライト:(C)Vivo film,Essential Filmproduktion,Invisibile Film,ventura film.
※2011年・春、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

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取材・編集・文:香ん乃
改行

  • 2010年12月05日更新

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