« 4月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
“今、一番前向きになれる映画”!『在りのままで咲け』『在りのままで進め』6.8より1週間、池袋シネマ・ロサでアンコール上映! »
5月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2024年04月29日更新
5月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
LINE UP 5/3(金祝)公開『巨人の惑星』『じゃ、また。』 5/3(金祝)公開『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』 5/10(金)公開『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』 5/18(土)公開『渇愛の果て、』 5/18(土)公開『ちゃわんやのはなし-四百年の旅人-』 5/24(金)公開『関心領域』 5/24(金)公開『劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ』 5/25(土)公開『#つぶやき市長と議会のオキテ 劇場版』 5/25(土)公開『若武者』 5/31(金)公開『わたくしどもは。』 |
『巨人の惑星』『じゃ、また。』
癖になりそうなホラーとコメディーの奇妙な絡み合い
ぴあフィルムフェスティバルで連続入選した石川泰地監督の短中編2本を同時公開。両作品ともほぼ一部屋で起きる2人だけの話ながら、多様なジャンルを横断した底知れぬ広がりを内包していて驚かされる。『巨人の惑星』は、友人に貸していた漫画が捨てられているのを見つけた男がその友人宅を久しぶりに訪ねると、丸々1羽の鶏が吊るされていて、友人は「巨人除け」だと説明する。一方の『じゃ、また。』も、ある男が部屋で寝ていると久しぶりに友人が訪ねてくる。2人でまだ決着がついていなかった『人生ゲーム』を始めるが……。どちらも極めてシュールな展開で、ホラーとコメディーの要素が奇妙に絡み合う。『東京音頭』の音楽に誘われて部屋を出ていくと、いきなり映画館にたどり着く、といった空間と時間の突拍子もない飛躍が鮮やかで、癖になりそうだ。(藤井克郎)
2024年5月3日(金祝)より東京・テアトル新宿で公開 公式note 『巨人の惑星』予告編動画 『じゃ、また。』予告編動画
『巨人の惑星』(2021年/日本/25分)英題:Planet of the Giants 脚本・監督・撮影・編集:石川泰地 出演:石川泰地、国本太周、高取生
『じゃ、また』(2023年/日本/52分)英題:See You Then. 脚本・監督・編集:石川泰地 出演:石川泰地、国本太周 ©Ishikawa Taichi
『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』
無実の息子を取り戻すため大統領を訴える!
米軍グアンタナモ収容所に収監された息子の帰りを待ち続ける、ドイツのトルコ系移民の母親の姿をコメディタッチで描く。2001年の米同時多発テロから1カ月後、ブレーメンで暮らすトルコ系移民家族の長男ムラートが旅先のパキスタンで“タリバン”との関係を疑われ、悪名高いグアンタナモ収容所に収監されてしまう。母ラビエは無実の息子を取り戻すため、電話帳で見つけた人権派弁護士ベルンハルトの助言を受け、ブッシュ大統領を相手に訴訟を起こす……。イスラム教徒、移民であるがゆえに起こった理不尽な出来事。そのシリアスな事件と、一見相容れない軽快でユーモラスな雰囲気が、割り切れないもやもや感と清々しい心地良さが混在する複雑な余韻を残す。絶望と希望のはざまで揺れながらも解放を信じて待つ、天真爛漫なラビエの魅力に引き込まれ、いつの間にか彼女とともに一喜一憂しているという感覚を味わった。(吉永くま)
2024年5月3日(金祝)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/ドイツ、フランス/119分)原題:Rabiye Kurnaz gegen George W. Bush 監督:アンドレアス・ドレーゼン 出演:出演:メルテム・カプタン、アレクサンダー・シェアー、チャーリー・ヒュプナー ほか 配給:ザジフィルムズ ©2022 Pandora Film Produktion GmbH, Iskremas Filmproduktion GmbH, Cinéma Defacto, Norddeutscher Rundfunk, Arte France Cinéma
『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』
映画がいかに男性目線で作られてきたかを解き明かす
商業主義とは一線を画した作品で映画表現の可能性を問い続けてきたアメリカのニナ・メンケス監督によるドキュメンタリーで、映画という芸術がいかに男性目線で作られてきたかを膨大な断片映像と卓抜した理論で解き明かす。俎上に載せられるのは、フリッツ・ラング監督をはじめ、ヒッチコック、スコセッシ、ゴダールといった巨匠の名作から2020年代の最新作まで多岐にわたる。女性の裸体をズームやパンなどでなめ回すように見つめるカメラワークに対し、男性の裸は鍛えられたたくましさの象徴として描かれることが多く、セックスシーンの撮り方も、このショットは男性主体だと解説されると、なるほどなとうなずくばかりだ。LGBTQの視線など、さらに多様な視覚言語が求められるのは確かで、あらゆる映画関係者にとって必見の作品だろう。メンケス監督の代表作『マグダレーナ・ヴィラガ』(1986年)、『クイーン・オブ・ダイヤモンド』(1991年)も同時公開される。(藤井克郎)
2024年5月10日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/アメリカ/107分)原題:Brainwashed : Sex-Camera-Power 製作・監督:ニナ・メンケス 出演:リアノン・アーロンズ、ロザンナ・アークエット、キャサリン・ハードウィック ほか 配給:コピアポア・フィルム ©BRAINWASHEDMOVIE LLC
『渇愛の果て、』
難病を患う赤ちゃんを出産した女性の苦悩と前進
劇団野生児童を主宰する有田あんが、自らのオリジナル脚本、主演で長編初監督に挑んだ。妊娠が判明した眞希は、優しい夫とともに幸せな子育て生活を夢見ていた。だが予定日近くに体調不良で緊急入院した彼女は、いざ出産を迎えると赤ちゃんが難病を患っていることを知らされる。複雑な思いでわが子に接する眞希だが、高校以来の親友グループが開いてくれた出産パーティーで思わず本音がぶつかり合う。友人が出生前診断を経験したことをきっかけに、有田監督が助産師や産婦人科医、障害児を抱える母親らに徹底取材し、友情と家族の支えで困難に立ち向かう人間賛歌のドラマを編み上げた。監督自身の持ち前の明るさを前面に、深刻なテーマながら笑いの場面をふんだんに盛り込んだ演出からは、この問題を身近に感じてほしいという有田監督の強い願いがにじむ。(藤井克郎)
2024年5月18日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/97分)監督・脚本・プロデュース:有田あん 出演:有田あん、山岡竜弘、輝有子 ほか 配給:野生児童 ©野生児童
『ちゃわんやのはなし-四百年の旅人-』
朝鮮半島にルーツを持つ薩摩焼の歴史と今を見つめる
鹿児島県の薩摩焼をはじめ、豊臣秀吉による朝鮮出兵の際に諸大名が朝鮮半島から連れ帰った陶工をルーツに持つ「ちゃわんや」の歴史と今を見つめたドキュメンタリー。テレビのディレクターなどを務めてきた松倉大夏監督の長編映画第1作になる。420年もの間、薩摩焼の伝統を引き継ぐ沈壽官家は現在、十五代が窯を守る。曾祖父に当たる十二代がロシア皇帝ニコライ2世の戴冠式用に手がけた蓋付壺を複製するなど、確かな技術は父祖に比肩するが、ここまでの道のりは並大抵ではなかった。十五代沈壽官を中心に、同じ朝鮮伝来の福岡・上野焼、山口・萩焼などの陶工や研究者へのインタビュー、さらに韓国へも取材を敢行し、伝統文化を継承する意義に加え、日韓交流の理念にも迫る。スクリーンに映える薩摩焼の美しさには圧倒されるばかりだ。(藤井克郎)
2024年5月18日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/117分)監督:松倉大夏 出演:十五代沈壽官、十五代坂倉新兵衛、十二代渡仁 ほか 語り:小林薫 配給:マンシーズエンターテインメント ©2023 sumomo inc. All Rights Reserved.
『関心領域』
壁の向こうの音から想像させるホロコーストの残虐性
『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』のジョナサン・グレイザー監督が、ホロコーストを題材に画期的な手法で人間の残虐性を追究。カンヌ国際映画祭で最高賞に次ぐグランプリを獲得したほか、アカデミー賞では国際長編映画賞に加えて音響賞に輝いた。アウシュヴィッツ強制収容所の所長、ルドルフ・ヘスは、収容所に隣接した大邸宅で妻や子どもらと優雅な暮らしを楽しんでいた。壁を隔てた向こう側からは、小鳥のさえずりなどに交じって大声で怒鳴る声や銃声も聞こえてくるが、グレイザー監督はその映像をあえて見せない。ヘスの妻が「またイタリア旅行に行きたい」などと能天気な会話を交わす中、常にゴーッとうなるような雑音が聞こえていて、壁の向こうの悲劇が否応なく想像される。ナチスの非道ぶり、戦争のむごさに改めて感じ入るとともに、見る者にすべてを委ねるという映画芸術の神髄に触れて心が震えた。(藤井克郎)
2024年5月24日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/アメリカ、イギリス、ポーランド/105分)原題:THE ZONE OF INTEREST 監督・脚本:ジョナサン・グレイザー 出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー ほか 配給:ハピネットファントム・スタジオ
©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
『劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ』
給食愛を貫く教師の至福の時間
1980年代を舞台にした学園グルメコメディ「おいしい給食」シリーズの劇場版最新作。忍川中学の教師・甘利田幸男は、相変わらず給食のために学校へ行く毎日を送っている。だが、北の地に赴任した真の目的である“アレ”はまだ出てこない。ある日、忍川中学は給食完食のモデル校に選定されるが……。実は筆者にとってこれがシリーズ初の鑑賞作品。給食愛を貫く甘利田役市原隼人の突き抜けた演技に唖然とし、同僚教師の聖子ちゃんカットやポール・モーリア風音楽などにノスタルジーに浸りながら、その面白さにシリーズ作品をもっと早く見ておけばよかったと後悔した。終始ハイテンションの甘利田だが、「給食完食の強要」という今も残る理不尽な問題に物申す気概も兼ね備えた、魅力あふれるキャラクターだ。それにしても給食はこんなにも美味しく楽しいものだったのか。セピア色だった自分の給食の記憶が、至福の時間として上書きされた。(吉永くま)
2024年5月24日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/111分)監督:綾部真弥 出演:市原隼人、大原優乃、田澤泰粋 ほか 配給:AMGエンタテインメント ©2024「おいしい給食」製作委員会
『#つぶやき市長と議会のオキテ 劇場版』
理想を押し通そうとする市長に立ちふさがる根回しの壁
舞台は高齢化が進む広島県北部の地方都市、安芸高田市。参院選での河井克行、案里夫妻買収事件で市長と市議3人が辞職し、新たに元銀行員の37歳、石丸伸二氏が市長に当選した。ツイッター(現X)で積極的に情報を発信し、次々と独自の政策を打ち出していく新市長に対し、古株の市議たちは反感を覚える。2020年の市長選から3年間にわたる市長と議会のバトルを見つめ続けた広島ホームテレビの報道記者、岡森吉宏監督によるドキュメンタリー番組の劇場版で、旧来の根回しを重んじる長老議員たちのいじめとも言える対応と同時に、理想を押し通そうとする新市長の独善的な態度も対立に拍車をかける。恐らく日本各地でこのようなオキテが存続しており、何とも絶望的な気分になる中、最後のマラソン大会の場面にわずかな救いを見た。(藤井克郎)
2024年5月25日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/106分) 監督:岡森吉宏 配給:きろくびと ©広島ホームテレビ
『若武者』
自分のことがよくわからない現代の若者の矛盾と不安定
俳優としても活躍する二ノ宮隆太郎監督の長編5作目で、制作会社のコギトワークスなどが新設したレーベルNew Counter Filmsの第1弾。日本をはじめロンドンやニューヨークなど世界のミニシアターで同時期に公開されるほか、U-NEXTでの国内配信も開始する。工場に勤める渉、飲食店店員の英治、介護士の光則の幼なじみ3人は特に人生の目標もなく、ときどき集まっては無為に時間を過ごしていた。ただ何となく世の中に憤りを感じていた3人は……。特に筋の通ったストーリーがあるでもなく、3人を取り巻くささやかな暴力が断片的に描かれる。優しいのか冷酷なのか、人恋しいのか孤高なのか、自分自身のことがよくわからない今を生きる若者の矛盾と不安定さを、共鳴とも批判とも違う表現で鋭く問いかける。寡黙な渉が語る「死ぬまで生きる」の至言は、しばし咀嚼する時間が必要か。(藤井克郎)
2024年5月25日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/103分) 監督・脚本:二ノ宮隆太郎 出演:坂東龍汰、髙橋里恩、清水尚弥 ほか 配給:コギトワークス Copyright 2023 “若武者” New Counter Films LLC. ALL RIGHTS RESERVED
◆オススメ記事
・『逃げきれた夢』:人間関係を見つめ直そうとする男の薄れゆく記憶(短評)
・『お嬢ちゃん』:会話の積み重ねからの圧巻の瞬間(短評)
・『フタリノセカイ』飯塚花笑監督 × 片山友希さん × 坂東龍汰さんインタビュー
『わたくしどもは。』
佐渡金山を舞台に記憶のない男女が織りなす神秘性
新潟を拠点に活動する富名哲也監督が、前作の初長編『ブルー・ウインド・ブローズ』に続いて、再び佐渡島を舞台にオリジナル脚本で作品化した。名前も過去も覚えていない女が目覚めたところは、佐渡金山の寂れた施設だった。ミドリと名付けられ、施設の清掃員として働き始めた女は、構内に暮らすある男と出会う。やはり過去の記憶のない男に、ミドリはアオと名付ける。緑濃い山々や真っ暗闇の坑道など、金山周辺の特徴的な風景が横幅の狭いスタンダードサイズの画面を彩り、この世ともあの世ともつかぬ神秘性を創出する。主役の小松菜奈、松田龍平ら芸達者な出演陣が表情を変えることなく淡々と語るせりふに、かすかに響く虫の声や木々の葉ずれ音、それにほんのちょっとだけ流れる野田洋次郎の静かな調べがかぶさり、幻想的な味わいを増幅させる。しばらくこの独特の世界観に浸っていたくなった。(藤井克郎)
2024年5月31日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/101分) 監督・脚本・編集:富名哲也 出演:小松菜奈、松田龍平、大竹しのぶ ほか 配給:テツヤトミナフィルム ©2023 テツヤトミナフィルム
ページトップへ戻る
- 2024年04月29日更新
トラックバックURL:https://mini-theater.com/2024/04/29/5-new-movies-in-theaters-6/trackback/