6月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2023年05月28日更新

6月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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6/2(金)公開『ウーマン・トーキング 私たちの選択
6/2(金)公開『Rodeo ロデオ
6/9(金)公開『逃げきれた夢
6/9(金)公開『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ
6/16(金)公開『アシスタント
6/16(金)公開『カード・カウンター
6/17(土)公開『世界が引き裂かれる時
6/23(金)公開『遺灰は語る
6/30(金)公開『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日
6/30(金)公開『山女


『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

暴力的な描写をあえて排除して性加害の問題を提起

俳優でもあるカナダ出身のサラ・ポーリー監督が、同郷の作家、ミリアム・トウズが2018年に発表した小説を映画化。性差別と信仰をテーマに、男性に支配された抑圧的な社会で生きる女性たちの決断と覚悟を、古風な装いながら革新的な描き方で紡いだ。2010年、あるキリスト教の一派で構成されるその村では、少女たちは寝ている間に男たちに襲われ、子どもを身ごもっていた。その事実に気づいた一人の少女の訴えで男たちは逮捕されるが、保釈までの2日間、女たちは、赦すか、男たちと闘うか、この地を去るか、の三者択一を迫られる。代表して2つの家族が納屋で話し合う場面だけで、この村の異常な実態を想像させる手法が見事。あえて暴力的な描写を見せない演出に、現代社会にはびこる性加害の問題を冷静に考えてほしいという作り手の思いが見て取れる。(藤井克郎)

2023年6月2日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/アメリカ/104分)原題:Women Talking 監督・脚本:サラ・ポーリー 出演:ルーニー・マーラ、フランシス・マクドーマンド、クレア・フォイ ほか 配給:パルコ ユニバーサル映画 © 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.


『Rodeo ロデオ』

居場所のない少女の心の痛みを表現する疾走感

フランスの新星、ローラ・キヴォロン監督の長編第1作で、昨年のカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で、「審査員の心を射抜いた」という意味の特別賞、クー・ド・クール・デュ・ジュリーを受賞した。カリブ系移民のジュリアはオートバイに夢中で、公道を違法なスピードで駆け抜ける集団に魅せられ、盗んだバイクで無理やり仲間に入る。男だらけの犯罪集団で冴えを見せる彼女は、収監中のボスの妻や娘にも信頼されるようになるが……。移民問題や貧富の格差、女性差別といったさまざまな社会性を盛り込みながら、フランス映画ならではの洗練されたスタイリッシュさに貫かれている。中でも夕焼けをバックに無秩序に疾走するバイク集団を、手持ちのカメラで並走して捉える映像にはしびれる。バイクにしか居場所のないジュリアの心の痛みが痛切に伝わってきた。(藤井克郎)

2023年6月2日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/フランス/105分)原題:Rodéo 監督・脚本:ローラ・キヴォロン 出演:ジュリー・ルドリュー、ヤニス・ラフキ、アントニア・ブレジ ほか 配給:リアリーライクフィルムズ、ムービー・アクト・プロジェクト © 2022 CG Cinéma / ReallyLikeFilms


『逃げきれた夢』

人間関係を見つめ直そうとする男の薄れゆく記憶

俳優としても活躍する二ノ宮隆太郎監督の初の商業映画で、単なるあて書きでなく、監督が本人の人生を取材して脚本に織り込んだという主演の光石研が、病気の発覚で人間関係について見つめ直そうとする中年男の戸惑いを巧みに表現している。定時制高校の教頭を務める周平は、定年を前に記憶が薄れていくのを自覚していた。これまでの生き方を反省し、娘や妻、生徒たちとのコミュニケーションに努めるものの、突然の変化に気味悪がられる。ある日、元教え子が働く食堂で昼食をとった周平は、会計をせずに店を出てしまうが……。認知症の父親を周平が施設に訪ねる冒頭に始まり、どこか宙ぶらりんのエピソードで進行していく中から、次第に豊かな物語世界が構築されていく。中途半端な結末からも、周平の覚悟のほどが余韻として残るから不思議だ。(藤井克郎)

2023年6月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/96分)監督・脚本:二ノ宮隆太郎 出演:光石研、吉本実憂、松重豊 ほか 配給:キノフィルムズ ©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ


『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』

優しいタッチで描かれる人気児童書の誕生秘話

映画『プチ・ニコラ 巴里がくれた幸せ』メイン画像フランスで50年以上愛される児童書「プチ・ニコラ」の誕生秘話を描く。2022年アヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞のクリスタル賞を受賞した。パリの小さなアトリエで、イラストレーターのサンペと作家のゴシニは、いたずら好きの男の子ニコラに命を吹き込んでいた。楽しい世界を作り出しながら、彼らは自身の激動の人生に思いを馳せる……。流れるような音楽で彩られ、優しいタッチと淡い色彩で描かれたアニメーション。「プチ・ニコラ」はサンペとゴシニのつらい過去の経験や揺るぎない友情から生み出された結晶だが、本作では2人が生きる世界とニコラの世界が交差する様子が驚くほど自然に描かれ、彼らとともに私たちも幸せで無邪気な子供時代を追体験するような気持ちになれる。一見相反する、現実世界の無常とニコラという存在の永遠性が融合したファンタジーは、切なくも温かい余韻を残してくれた。(吉永くま)

2023年6月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/フランス/86分)原題:Le Petit Nicolas – Qu’est-ce qu’on attend pour être heureux? 監督:アマンディーヌ・フルドン、バンジャマン・マスブル 原作:ルネ・ゴシニ、ジャン=ジャック・サンペ 出演:アラン・シャバ、ローラン・ラフィット、シモン・ファリ ほか 配給:オープンセサミ、フルモテルモ © 2022 Onyx Films – Bidibul Productions – Rectangle Productions – Chapter 2


『アシスタント』

性搾取の実態をドキュメンタリーの手法で浮き彫りに

映画界を揺るがせた性加害事件などの実話を基に、オーストラリア出身のドキュメンタリー作家で脚本家のキティ・グリーン監督が初の長編フィクションに挑んだ。映画プロデューサーを目指すジェーンは、大物のワンマン会長のアシスタントとして働き始めるが、単調な仕事の毎日だった。ある日、新人アシスタントとしてやってきた若い女性の研修を命じられるが、彼女は高級ホテルに泊まらされ、会長もそのホテルに出向いていた。ジェーンは意を決して別棟の人事部に向かう。カメラは徹頭徹尾、ジェーンの姿を追い続け、その一日の行動からこの会社で何が起こっているかを想像させる手法が鮮やか。会長は一切姿を見せないが、会長あてにかかってくる妻の電話や同僚らの会話から性搾取の実態は明らかで、周囲の反応も含めてこの問題の根深さを浮き彫りにする。(藤井克郎)

2023年6月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/アメリカ/87分)原題:The Assistant 監督・脚本・製作・共同編集:キティ・グリーン 出演:ジュリア・ガーナー、マシュー・マクファディン、マッケンジー・リー ほか 配給:サンリスフィルム © 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.


『カード・カウンター』

孤独なギャンブラーが抱える、痛みと贖罪

映画『カード・カウンター』ポスター画像ポール・シュレイダー監督・脚本、マーティン・スコセッシ製作総指揮。『タクシードライバー』のコンビが再び組んだ社会派スリラー。主人公のウィリアム・テル(オスカー・アイザック)は、風変わりなギャンブラー。ゲームにスリルも求めず、勝つことにも固執しない。ただ、「小さく賭けて小さく勝つ」をモットーに、米国軍刑務所の服役中に身につけたカード・カウンティングのスキルだけで、カジノを渡り歩き暮らしている。寡黙なテルだが、彼の人生を一変させた男ジョン・ゴード(ウィレム・デフォー)と、ゴードの命を狙う若者カーク(タイ・シェリダン)との邂逅から、その過去と苦悩が明るみになっていく……。イラク戦争下、アブグレイブ捕虜収容所での捕虜虐待事件をモチーフに描く本作。一人称視点で映し出す拷問シーンは、悪夢に迷い込んだような光景だ。静かでくすんだトーンの中に痛烈に描く贖罪、孤独、復讐、そして腐敗した軍事文化への批判。切ない物語の中に、一筋の光をもたらす愛の描写が温かい。(富田旻)

2023年6月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン/112分/R15+)原題:The Card Counter 監督・脚本:ポール・シュレイダー 製作総指揮:マーティン・スコセッシほか 出演:オスカー・アイザック、ティファニー・ハディッシュ、タイ・シェリダン、ウィレム・デフォー ほか 配給:トランスフォーマー © 2021 Lucky Number, Inc. All Rights Reserved.


『世界が引き裂かれる時』

誤射で開いた家の穴を塞ぐことに必死な身重の女性

2014年にウクライナ東部のドネツク州で起きた実話を基に、ウクライナ出身のマリナ・エル・ゴルバチ監督が映画化。2022年2月のベルリン国際映画祭パノラマ部門で絶賛されたが、直後にロシアのウクライナ侵攻が始まった。妊娠中のイルカは夫のトリクとともに乳牛の世話をして暮らしているが、親ロシア派勢力の誤射で家に大きな穴が開いてしまう。親ロシア派と反ロシア派の間で緊張が高まる中、弟のヤリクは武装勢力に占領された村からの避難を促すが、イルカは家の穴を塞ぐことに必死だった。平穏な暮らしが突如として崩壊するという悲劇は、現在のウクライナ情勢も変わらない。緊迫感みなぎる展開ながら、侵攻前のウクライナ南部で撮影された広大な風景はあくまでものどかで、かえって悲劇性を感じさせる。死と生の壮絶な対照に心を奪われた。(藤井克郎)

2023年6月17日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/ウクライナ・トルコ/100分)原題:KLONDIKE 監督・脚本:マリナ・エル・ゴルバチ 出演:オクサナ・チャルカシナ、セルゲイ・シャドリン、オレグ・シチェルビナ ほか 配給:アンプラグド


『遺灰は語る』

敬愛するノーベル賞作家に贈るモノクロの映像美

『グッドモーニング・バビロン!』などのイタリアの巨匠、タヴィアーニ兄弟の兄、ヴィットリオの死去後、弟のパオロ・タヴィアーニ監督が90歳を超えて初めて一人で手がけた意欲作。シチリア島出身のノーベル賞作家、ルイジ・ピランデッロが1936年に他界すると、時の独裁者ムッソリーニはその遺灰をローマから手放さなかった。だが本人は「故郷に葬ってほしい」との遺言を残しており、戦後、生誕地の特使らが艱難辛苦の末に遺灰をシチリアに送り届ける。ピランデッロはタヴィアーニ兄弟の代表作『カオス・シチリア物語』の原作者で、モノクロ主体の美しい映像からは、この偉大な作家へのあふれんばかりの敬意とともに、亡き兄への敬慕の念が伝わってくる。終盤にピランデッロが死の直前に著した短編『釘』を映画化したカラー掌編を添えるという心遣いも憎い。(藤井克郎)

2023年6月23日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/イタリア/90分/PG12)原題:Leonora Addio 監督・脚本:パオロ・タヴィアーニ 出演:ファブリツィオ・フェッラカーネ、マッテオ・ピッティルーティ、ロベルト・エルリツカ ほか 配給:ムヴィオラ © Umberto Montiroli


『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』

2人の監督が軽妙に織りなす夜の歌舞伎町の人間模様

『ミッドナイトスワン』の内田英治監督と『さがす』の片山慎三監督が、6つのエピソードを交互に分担しながら1本の長編映画に仕立てるというユニークな試みで、登場人物の一貫性といい、物語のスケール感といい、全く違和感を抱かせない痛快娯楽作に仕上がっていた。新宿ゴールデン街のバーのカウンターに立つマリコは、探偵という裏の顔も持っていた。ある日、FBIを名乗る3人組から地球外生命体を探してほしいと依頼を受けるが……。全体を貫くこの宇宙人探しのストーリーに、キャバ嬢を襲う殺人鬼、落ちぶれたやくざ、殺し屋として育てられた姉妹といった小ネタが挟まる。マリコの相棒ともつかぬ自称忍者も絡み、夜の新宿歌舞伎町を舞台に軽妙に繰り広げられる人間模様が小気味よい。伊藤沙莉と竹野内豊の息の合った迷コンビぶりも映画の魅力を豊かに彩っていた。(藤井克郎)

2023年6月30日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/117分/PG12)監督・脚本:内田英治、片山慎三 出演:伊藤沙莉、竹野内豊、北村有起哉 ほか 配給:東映ビデオ © 2023「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」製作委員会


『山女』

民話に着想を得た日本的な因習と自然観の対峙

18世紀後半の東北地方。大飢饉に見舞われた村では子どもを育てることもできず、罪人の家系の娘、凛が生まれたばかりの赤子を始末していた。ある日、父親の罪をかばった凛は、神隠しを装って、禁じられた山奥へと足を踏み入れる。そこには、オオカミをも餌にする得体の知れない山男が住みついていた。『アイヌモシㇼ』の福永壮志監督が、『遠野物語』に収められた民話に着想を得て映画化。身分差別や男尊女卑といった現代にも残る因習を、自然との共生といった日本ならではの世界観を盛り込んで詩情豊かに織り上げた。真っ暗な闇の森の中、凛を演じた山田杏奈の混じり気なしの純粋な目線と、山男役の森山未來の姿かたちのわからない圧倒的な存在感にしびれる。もやがかかった早池峰山など厳かな風景も印象的で、福永監督の研ぎ澄まされた感性に震えた。(藤井克郎)

2023年6月30日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本・アメリカ/98分) 監督・脚本:福永壮志 出演:山田杏奈、森山未來、永瀬正敏 ほか 配給:アニモプロデュース ©YAMAONNA FILM COMMITTEE

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