2月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2023年01月31日更新

2月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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2/3(金)公開『生きててごめんなさい
2/10(金)公開『エゴイスト
2/10(金)公開『銀平町シネマブルース
2/10(金)公開『呪呪呪/死者をあやつるもの
2/10(金)公開『小さき麦の花
2/10(金)公開『バビロン
2/17(金)公開『いつかの君にもわかること
2/17(金)公開『ベネデッタ
2/17(金)公開『別れる決心
2/23(木・祝)公開『アラビアンナイト 三千年の願い
2/23(木・祝)公開『逆転のトライアングル


『生きててごめんなさい』

生きづらい世の中で苦闘する若者の欲と競争心

ブラックな出版社に勤める編集者の修一は、居酒屋で客ともめていた店員の莉奈と一緒に暮らすことになる。小説家を夢見ながら日々の仕事に追われる修一に対し、居酒屋をクビになった莉奈は部屋でごろごろしている毎日だった。そんなある日、高校の先輩の女性編集者と再会した修一は、小説の新人賞への応募を勧められる。『新聞記者』などの藤井道人監督のプロデュースで、同じ映像集団に所属する1990年生まれの山口健人監督が、若者が生きづらい今の世の中の空気感を巧みに表現。周りに合わせてうまく立ち回っているように見える現代の若者も、本音の部分では競争心もあれば欲もあり、でもそれを表に出すのはかっこ悪いと内に抱えてストレスを感じる。そんなリアルな現実を演じきった若手2人、とりわけ穂志もえかの変幻自在の表情にしびれた。(藤井克郎)

2023年2月3日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/107分)監督・脚本:山口健人 出演:黒羽麻璃央、穂志もえか、松井玲奈 ほか 配給:渋谷プロダクション © 2023 ikigome Film Partners


『エゴイスト』

究極の愛の形を慈しみに満ちた視線で見つめる

『トイレのピエタ』の松永大司監督が、エッセイストの故・高山真の自伝的小説を映画化。ゲイの青年が示す究極の愛の形を、詩情あふれる映像でつづっている。出版社で働く浩輔はパーソナルトレーナーの龍太とひかれ合い、たびたび龍太の自宅を訪れるようになる。14歳のときに母を失っている浩輔は、シングルマザーの母親と仲睦まじく暮らす龍太を温かい目で見つめていたが……。手持ちカメラのワンカット撮影で3人を捉える視線は慈しみに満ちていて、浩輔の純粋な思いが痛いくらいに伝わってくる。浩輔を演じる鈴木亮平がまた見事に役になり切っていて、緊張で手が震える場面などはまさに神がかっている。龍太の母親役の阿川佐和子が見せる豊かな表現力にも驚かされた。(藤井克郎)

2023年2月10日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/120分/R15+)監督・脚本:松永大司 出演:鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子 ほか 配給:東京テアトル © 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会


『銀平町シネマブルース』

映画館愛いっぱいに描く悲喜交々の人間模様

映画「銀平町シネマブルース」ポスター古びた映画館を舞台に描く群像悲喜劇。一文無しで銀平町にたどり着いた近藤は、ひょんなことから映画館「銀平スカラ座」のアルバイトとして働き出す。劇場支配人やバイト仲間、映画好きの路上生活者、老練な映写技師、個性豊かな常連客との出会いを通じて、近藤はかつての自分と向き合い始めるが……。城定秀夫がメガホンを執り、脚本を手がけるのはいまおかしんじ。主人公をこれが本格的な映画主演復帰となる小出恵介が演じる。高校時代に映画監督を目指し、ミニシアターにも足繁く通っていたという小出は、映画愛という原点に立ち返り自身を見つめ直すという近藤役にぴったりだ。吹越満、宇野祥平、昨年急逝した名優・渡辺裕之ほか、個性あふれるキャストが集結するのも見どころ。コロナ禍以降ますます厳しくなったミニシアターの現状を切実に描きながらも、映画館を拠り所にする常連客たちの思いや、映画という夢を追い続ける人々の姿に心が熱くなる。映画と映画館を愛するすべての人にオススメしたい作品だ。(富田旻)

2023年2月10日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/99分)監督:城定秀夫 脚本:いまおかしんじ 出演:⼩出恵介、吹越満、宇野祥平 ほか 配給:SPOTTED PRODUCTIONS © 2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

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監督:城定秀夫× 脚本:いまおかしんじ× 主演:⼩出恵介! 『銀平町シネマブルース』予告編解禁&全国12館のミニシアターから熱い応援コメント!

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『呪呪呪/死者をあやつるもの』

ゾンビ出現の裏にある企業の陰謀とは

映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』メイン画像

『新感染 ファイナル・エクスプレス』を監督したヨン・サンホ原作・脚本の“呪術”と“Kゾンビ”を掛け合わせたハイブリッドホラー。閑静な住宅街で殺人事件が発生。被害者のそばにあった容疑者らしき死体は、死後3カ月が経過していた。ジャーナリストのイム・ジニは背後にとある企業の陰謀が存在することを突き止めるが、そこには強大な“呪い”が渦巻いていた……。呪いにあやつられた多数のゾンビ“ジェチャウィ”には恐ろしくも悲しい背景があり、若い呪術師と彼らをあやつる黒幕の対決も含め、何が正義で何が悪なのか白黒では割り切れない構図が作品に奥深さを与えている。目を引くのはゾンビの洗練された身のこなし。不気味な風貌ながら、まるでダンサーのように軽やかでキレがあり新鮮に映る。(吉永くま)

2023年2月10日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/韓国/110分)原題:謗法:在此矣(ハングル表記 방법: 재차의)英題:The Cursed: Dead Man’s Prey 監督:キム・ヨンワン 原作・脚本:ヨン・サンホ 出演:オム・ジウォン、チョン・ジソ、チョン・ムンソン ほか 配給:ハピネットファントム・スタジオ © 2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED


『小さき麦の花』

貧しい農民夫婦のお互いを思いやる実直な日々

中国北西部の甘粛省を舞台に、同省出身で『僕たちの家に帰ろう』を手がけたリー・ルイジュン(李睿珺)監督が夫婦の純愛物語を編み上げた。兄夫婦に疎んじられている実直な農民のヨウティエは、心身に問題を抱えるクイインと結婚させられる。ロバとともに借家に住まい、畑で作物を育てながら細々と暮らす2人だが、ヨウティエが重病で入院する豪農の血液型と一致することがわかり、何度も血を取られることになる。2人で畑を耕し、日干しレンガで粗末な家を少しずつ作っていく、といった何げない日常の描写が実にいとおしく、言葉数は少なくとも夫婦のお互いを思う心情が痛いくらいに伝わってくる。ロバにもツバメにも誰にでも優しいヨウティエを演じたウー・レンリン(武仁林)は実際にこの地に生きる農民で、あまりにも自然なたたずまいは驚愕の一言だ。(藤井克郎)

2023年2月10日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/中国/133分)原題:隠入塵煙 英題:RETURN TO DUST 監督・脚本:リー・ルイジュン(李睿珺)出演:ウー・レンリン(武仁林)、ハイ・チン(海清)、ヤン・クアンルイ(楊光鋭) ほか 配給:マジックアワー、ムヴィオラ © 2022 Qizi Films Limited, Beijing J.Q. Spring Pictures Company Limited. All Rights Reserved.


『バビロン』

猥雑なごった煮感覚で捧げる映画なるものへのオマージュ

『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督が、1920年代のハリウッドを舞台に、映画なるものを目いっぱいに込めて描き上げたまさに映画そのものの映画だ。映画製作を志す青年、マニーは、映画業界のパーティーで新人女優のネリーと出会う。互いに夢を語り合う2人だが、時代はサイレントからトーキーへの大転換期を迎えていた。同じ題材を扱った『雨に唄えば』をはじめ、過去の名作へのオマージュがちりばめられる一方、乱痴気騒ぎのパーティーにギャングが牛耳る怪しげな地下牢など、本筋から外れた凝った撮影がてんこ盛りで登場する。この猥雑で何でもありのごった煮感覚こそが映画だと示したかったか。スター俳優役のブラッド・ピットが語る「映画は大衆を相手にしている」とのせりふに、チャゼル監督の熱い思いがにじむ。(藤井克郎)

2023年2月10日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/アメリカ/189分/R15+)原題:BABYLON 脚本・監督:デイミアン・チャゼル 出演:ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ ほか 配給:東和ピクチャーズ © 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.


『いつかの君にもわかること』

幼い息子の養子縁組を通して見える現代社会の家族観

窓拭き清掃員のジョンは、男手一つで育てた4歳の息子、マイケルを養子にもらってくれる家族を探していた。養護施設育ちのジョンには全く身寄りがなく、ソーシャルワーカーの情報を頼りに養子を望んでいる家庭を訪ね歩くものの、いずれもマイケルを預けるには不安が大きかった。『おみおくりの作法』を手がけたイタリア出身のウベルト・パゾリーニ監督が、余命わずかの若い父親が幼い子どもの将来に寄せる思いを、養子縁組という制度を通して情感豊かに紡いだ。ジョンが訪ねる家庭のそれぞれの事情から、現代社会の家族観、死生観が垣間見えて、静かな余韻を残す秀作に仕上がっている。マイケルを演じた子役のダニエル・ラモントがめちゃめちゃかわいく、ただぼーっとしている表情の中にまるで神が宿っているかような視線にどきっとさせられた。(藤井克郎)

2023年2月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/イタリア、ルーマニア、イギリス/95分)原題:Nowhere Special 監督・脚本:ウベルト・パゾリーニ 出演:ジェームズ・ノートン、ダニエル・ラモント、アイリーン・オヒギンズ 配給:キノフィルムズ © 2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.


『ベネデッタ』

鬼才が官能美たっぷりに描く修道女の奇跡

『ロボコップ』『氷の微笑』の鬼才、ポール・ヴァーホーベン監督が、17世紀のイタリアで実際に起きた奇跡の物語を基に、官能美たっぷりに映画化した。幼いころから聖母マリアと対話ができる修道女のベネデッタは、家族から逃れてきた若い女性、バルトロメアを助け、修道院でともに暮らすことになる。民衆から聖女とあがめられ、修道院長に任命されたベネデッタだが、前院長のフェリシタにバルトロメアとの秘密の関係を暴露され……。キリストとベネデッタの一体化やマリア像の細工といった大胆な描写の数々に、80歳を超えてなお創造性に貪欲なヴァーホーベン監督の気概が垣間見える。ペストが大流行する時代を背景にした人心の不安、為政者の抑圧に対する民衆の反発など、今日の世界情勢に通ずるテーマ性にも感銘を受けた。(藤井克郎)

2023年2月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/フランス、オランダ/131分/R18+)原題:BENEDETTA 監督・脚本:ポール・ヴァーホーベン 出演:ヴィルジニー・エフィラ、シャーロット・ランプリング、ダフネ・パタキア ほか 配給:クロックワークス © 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA


『別れる決心』

内包された熱情ともどかしさが奏でる官能とロマンス

映画『別れる決心』メイン画像6年ぶりとなるパク・チャヌク監督待望の新作。初老の男が山から転落死し、捜査にあたった刑事のヘジュン(パク・ヘイル)は被害者の中国人妻ソレ(タン・ウェイ)と出会う。取り調べが進む中、互いを見る視線は次第に熱を帯び、いつしか惹かれあっていく二人。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えたが、それは新たな疑惑の始まりだった……。『オールド・ボーイ』や『お嬢さん』で描いたようなエキセントリックな暴力や性描写ではなく、意味深に投げかけられた眼差しや、言語を超えた感情の共有など、プラトニックな関係の中に漏れ出す熱情が官能を掻き立てる。言葉の壁というもどかしささえも相手への渇望に変わり、倫理観がゆらぐほど抗い難い感情に支配される……そんな愛の迷路に迷いこんだ男女を描いたパク監督。鬼才の新たな高みを見た気がした。(富田旻)

2023年2月17日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/韓国/138分)原題:헤어질 결심 監督:パク・チャヌク 出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン ほか 配給:ハピネットファントム・スタジオ © 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

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『アラビアンナイト 三千年の願い』

魔人が回想する人間の愛と欲望の歴史

3000年に及ぶ中東の歴史をモチーフに、『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラー監督が、奇想天外で絢爛豪華な絵巻物を織り上げた。物語論を専門とするアリシア・ビニー博士は、学会の講演で訪れたイスタンブールの土産物店で風変わりな小瓶を手に入れる。ホテルに帰って洗面所で小瓶を洗うと、中から巨大なジン=魔人が現れ……。旧約聖書時代のシバの女王とソロモン王の物語に始まり、16世紀のスレイマン皇帝、17世紀のムラト4世など、さまざまな権力争い、愛欲のもつれの都度、瓶の中に閉じ込められてきたジンの身の上話が、けれん味あふれる映像美でつづられる。コロナ禍でぎすぎすした現代を含め、人間は3000年前の大昔から何も進歩していないということを、老練なミラー監督は強調したかったか。(藤井克郎)

2023年2月23日(木・祝)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/オーストラリア、アメリカ/108分/PG12)原題:Three Thousand Years of Longing 監督・脚本・製作:ジョージ・ミラー 出演:イドリス・エルバ、ティルダ・スウィントン ほか 配給:キノフィルムズ © 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.


『逆転のトライアングル』

極限下で突き付けられる人間の本質

映画『逆転のトライアングル』メイン画像

鬼才リューベン・オストルンド監督によるブラックコメディ。本作で2作品連続のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した。クセモノぞろいのセレブと、高額チップ目当てにどんな客の要望にも応える客室乗務員が乗る豪華客船が、ある日嵐と海賊の襲撃により難破。彼らは無人島に流れ着く。何もない極限状態の下で権力を握ったのは、サバイバル能力に長けた船のトイレ清掃婦だった……。冒頭、食事の支払いについて延々と揉めるモデルのカップルが映し出されるが、その光景からは想像もできないストーリーがテンポ良くテンション高く展開され、唖然とするラストまで突っ走る。固定されがちな社会的地位や男女の役割が、揺らぎ逆転する面白さ。モデル業界や豪華客船、無人島といった普通の人間には非現実的な状況ではあるが、持てる者の無意識の傲慢さ、持たざる者のへつらい、エゴなど、人間のリアルな本質を突き付けられ身をよじりたくなる。何ともいえない居心地の悪さを覚えるものの、それが逆にフックとなり惹きつけられた。(吉永くま)

2023年2月23日(木・祝)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/スウェーデン、ドイツ、フランス、イギリス/147分)原題:Triangle of Sadness 監督:監督・脚本:リューベン・オストルンド 出演:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソン ほか 配給:ギャガ Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

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