醜悪に満ちた《大人の寓話》が描き出す日本社会の闇—『猿ノ王国』 藤井秀剛監督 インタビュー
- 2022年03月25日更新
カルト映画『狂覗—kyoshi』から4年——。
世界三大ファンタスティック映画祭の一つ、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭にてアジアグランプリを受賞した『超擬態人間』の藤井秀剛監督が、自身によるコロナ禍の経験を醜悪に満ちた大人のおとぎ話として転化。先の読めない物語展開とサスペンスで現代の日本における《縦社会》の責任問題を問う異色の《復讐》サスペンススリラーが誕生した。
他に類を見ない映像表現と脚本で社会問題をあぶり出す藤井監督が、本作を通して伝えたかった想いとは——? ミニシア編集部に届いた公式インタビューを緊急掲載する。
日本における《責任》の捉え方に対する怒り
— 本作を制作したきっかけを教えてください。
藤井秀剛監督(以下、藤井監督):20年間の積もりに積もった怒りが、このコロナ禍で爆発したのがきっかけです。アメリカの大学を卒業後、日本に帰国してから一番カルチャーショックだったのが《責任》です。責任に対する捉え方が違う事に驚きと共に怒りを感じました。本来、責任って、栄誉なんですよ。責任をもってやればやる程、実績になって、創りたいものが創れる。と同時に、トラブルの際にはどう指揮をとるのか、手腕も試されます。これが海外の捉え方です。つまり、日本の様に責任をとらされる印籠の様な価値観はないんです。特にこのコロナ禍において、そういう状況を目の当たりにする事が増えて、溜まった怒りを脚本にしたわけです。
— 今作であえてコロナ禍を題材にした理由をお聞かせください。
藤井監督:一見コロナやワクチンという言葉だけが目立ち、いかにも批判したように捉えられがちですが、本作はそういう作品ではありません。なので、正直コロナ禍でなくてもよかったんです。ただ、映画は、《今を後世に語り継ぐ》文化なので、100年後、200年後の為にも今を映し出す必要はあると思っています。特に《タテ社会》・《力関係》というくだらない価値観を表現する上で、マスクは最高のツールなので、あえてこの設定にしました。
— 最上階の会議室と、地下の編集室というのも面白いですね。
藤井監督:そうですね。天と地というテーマは、クリエーターなら1度は撮りたいと思うと思うんです。
『天国と地獄』(1963/黒澤明監督)や、近年でいうと『パラサイト 半地下の家族』(2019/ポン・ジュノ監督)もそうですね。とても魅力的題材なので、今後もアイディアがあれば挑戦したいと思います。
《三猿》は情けない事の象徴として描いた
— 今回の作品の象徴になっている《三猿》。三猿にした理由を教えてください。
藤井監督:見ざる聞かざる言わざるは、我が国のみならず世界共通の言葉です。つまり人種を超えて「見る事、聞く事、言わない事」は《賢さ》として捉えられています。自己主張の強い国では『少し相手の話を聞く事の重要性』が問われます。しかし我が国では、決して賢さの象徴として崇められるものではないと思っています。そもそもSNS以外では自己主張が弱く責任を取りたがらない我ら日本人には元から『三猿要素』があり、それを僕は情けないことだと考えています。だからこそ、僕はこれを《情けない事の象徴》として描きました。
— 一番難しかったところはどこですか?
藤井監督:《大人の寓話》をいかにリアルに見せるのか、そこが一番難しかったですね。あと、他にはない新しい試みに挑戦しました。ネタバレになるので、詳しくは語れないのが残念ですが。実際ご覧になって、驚いてもらえたら嬉しいです。
あと、サスペンスを作る上でとても気を付けるのが「伏線」です。伏線なしにサスペンスは描けない。そういった意味で伏線にはいつも難しさを感じます。ただそれ以上に、台詞をスジだてたり説明にせず、感情に沿って書く事の方が難しいですね。
リベンジサスペンスを堪能しつつ、社会問題と向き合うきっかけになれば
— ご覧になる方に、どう見て頂きたいですか?
藤井監督:そうですね。映画に《共感》が求められる昨今。映画本来の楽しみ方が失われつつあると危険を感じています。作者の感情に触れられてドキドキしたり、視野や間口を広げ、リテラシーを養う事が今の社会には必要だと思います。私の作品には、《裏》テーマとして《社会問題》を盛り込むことが多いのですが。『狂覗』のいじめ問題、『超擬態人間』の幼児虐待、『半狂乱』の生きづらさ、です。なので、私の想いとしては、純粋にリベンジサスペンスを堪能してもらいつつ、私の感情に触れ感じて頂く事で、少しでも社会問題と向き合って頂けたら嬉しいです。
— 次回作について教えて下さい。
藤井監督:次回作は《死後世界二部作》と称して、2本の作品が公開待機しています。
1本は車の中だけで起きる<フィルムノワール・サスペンス・ホラー>『闇國~二重人格の男』。もう1本は、『ドリーム・ホーム』でおなじみの香港スター ジョシー・ホー主演の香港ホラー映画『怨泊』です。両作品は姉妹的作品で、かなりスリリングな作品に仕上がっていると思います。
プロフィール
藤井秀剛( 監督・脚本・撮影・編集)
中学卒業後、単身渡米。10年の米国生活を経て、2500本の脚本の中から、音楽プロデューサー、つんく*氏に見出され『生地獄』で監督デビュー。ロイド・カウフマン氏に「最高のホラー監督」と評される。デビュー以来、人の恐怖に社会風刺を交えたサスペンス/ホラー作品のみを手掛け、2019年『超擬態人間』で、世界3大ファンタスティック映画祭の1つであるブリュッセル国際ファンタスティック映画祭にて、アジア部門グランプリ受賞。『狂覗』は、劇場公開ロングランし、キネマ旬報から年間ベストに選ばれるなど、現在でもカルト作品として名高い評価を得ている。次回作は、香港スター、ジョシー・ホー主演『怨泊~OnPaku~』とサムスン社全面協力の『闇國~二重人格の男』。この2本は監督自身“死世界二部作”と称して公開待機中。最近では、YOUTUBEチャンネル「LIVライフ」を立ち上げ、YouTuberとしても奮闘中。
*つんくの後にオスマークが正式名称(環境依存文字のため省略)
作品・公開情報
【ストーリー】コロナワクチンのニュース特集のオンエアー日。特集を制作したテレビ局員が監禁された。場所は、地下の編集室。監禁されたのは、ディレクターの男女と編集マンの3人。果たして、誰の仕業なのか?
時を同じくして、5人のテレビ局員が会議の為、招集されていた。場所は25階の取締り役員室。ニュース特集に、問題が発覚した為だ。天と地で繰り広げられる人間模様。それはやがて憎しみに満ちた復讐劇へと発展していく——。
▼『猿ノ王国』
(2021年/日本/77分)
監督:藤井秀剛
脚本・撮影・編集:藤井 秀剛
エグゼクティブプロデューサー:山口 剛
プロデューサー:梅澤由香里、藤井秀剛
ラインプロデューサー:坂井貴子、納本歩
出演:越智貴広、坂井貴子、種村江津子、分部和真、足立雲平
製作:s-kill、CFA 企画共同製作:POP
制作プロダクション:CFA
配給:POP © POP
※2022年4月2日(土)より新宿K’sシネマにて公開
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