【スペシャルインタビュー1】『西成ゴローの四億円』前篇/死闘篇 —上西雄大監督&奥田瑛二さんインタビュー
- 2022年02月11日更新
『ひとくず』の上西雄大監督が、奥山和由氏を製作総指揮に迎えて描くマネー・クライム・エンターテインメント、『西成ゴローの四億円』(前篇)と『西成ゴローの四億円 死闘篇』(後篇)が2022年2月より全国順次公開となる。娘の命を救うために捨て身で金を稼ぐゴローを主人公に、家族愛や格差社会の闇をアクションシーンたっぷりに描く痛快な娯楽作だ。本作で脚本・主演も務めた上西監督と、ゴローの最大の敵となるフィクサーこと莫炉脩吉(まくろ・しゅうきち)を演じた奥田瑛二さんに、本作にかける熱い思いを語っていただいた。
奥田さんなしでは、西成ゴローの世界は成立しない
— お二人の出会いについて教えてください。
上西雄大監督(以下、上西監督):奥田さんが『ひとくず』を観てくださったことで、ご縁が繋がったんです。
奥田瑛二さん(以下、奥田):ある方から、『ひとくず』のDVDが送られてきて、「ぜひ観てほしい!」と熱心に薦められて。観てみたら、一つのエンターテイント作品として面白かったし、“ひとくず” という語彙をいろいろな角度から伝えようとしていて、この監督は信頼できると思ったんです。
— 奥田さんが演じられたフィクサーこと莫炉脩吉は、世界を動かすほどの大物です。絶対的な威厳と存在感を持ちながら、物悲しさや痛々しいほどの人間味も秘めていて、強敵でありながらとても魅力的なキャラクターでした。
奥田:フィクサーらしき役はこれまでも演じましたが、今までの中で一番の大物ですね。人物像を作るために、第二次世界大戦の前くらいまで歴史を辿って、フィクサーと呼ばれた実在の人物をイメージしていきました。清濁を併せ持つ人間で、コアの大きさ、懐の深さ、発信力、視野の広さ、そして残酷さ、プラスとマイナスを両方持っていて、そのバランスが取れているからきれいな円を描いて光を放つ。森羅万象と同じで、どれか0.1%狂うだけでもバランスが傾く。そういうことも多感に察知しながら、目線を世界に向けて、人のことも社会のことも考えている人物。そんなイメージで構築していきました。
— そんなにも緻密に役を構築されていったのですね。
上西監督:前後篇を繋げて観た時に、あの世界観を作り出しているのは、やはり奥田さん演じる莫炉脩吉の存在感なんですよ。独特な世界の中心にいて、それをあれだけリアルな人間として演じていただいて。奥田さんがいないと西成ゴローの世界は成立しません。荒唐無稽な話になってしまうんです。
— はじめから奥田さんをイメージして脚本を描かれたのですね。
上西監督:もちろんです! 製作総指揮の奥山和由さんから「作品の世界を象徴するような、頑とした人物を一人入れたほうがいい」とアドバイスをいただいて描いたのが、莫炉脩吉です。さらに、前篇はゴローの身近な世界で展開されるので、死闘篇はスケールを大きくしたほうがいいともご指摘いただいて。フィクサーを中心に発想を膨らませたら、簡単に世界を広げることができたんです。なので、奥田さんへの出演オファーは必死でした。受けてくださった時は、劇団員たちと喜びを噛み締めました。
豪華キャストと壮大なスケールで魅せる死闘篇
— フィクサーとゴローが対峙するシーンは、さらに感慨深かったのではないでしょうか。
上西監督:僕にとって奥田さんは神様みたいな存在ですから。セリフを交わした瞬間は、感動で身震いしました。しかも、お渡しした役をすごく構築されて、実際に演じられると何千倍も予想を超えてこられる。僕と奥田さんのシーンを見ていたうちの劇団(映像劇団テンアンツ)の皆も、目頭を熱くしていました。
奥田:はじめは前篇だけの出演かと思ったら、上西監督が、「奥田さん、次もぜひフィクサー役で。いわば主役ですよ」なんて言うんです(笑)。「何が主役だよ。こいつも本当に人たらしだな(笑)」と思ったんですが、死闘篇も同じ役で呼んでくれて。ストーリーも上西監督もさらに進化しているし、嬉しかったです。
— 死闘篇は、世界観やキャストも一層豪華に、スケールも桁違いに大きくなっていきますね。
上西監督:素晴らしいキャストの方々にご出演いただいて、全部が夢なんじゃないかと思うほどです。僕の好き放題やっていると思われそうですよね。死闘篇では、さらにカメラのグレードも上げたんです。映像の質感がガンと上がる感じも、観ていて楽しいと思います。
— 確かに、上西監督の憧れや好きなものを詰め込んだ感が満載ですね(笑)。そこも見どころです。さらに、個性的な登場人物たちと、彼らのバックグラウンドが垣間見えるのも本作の魅力です。初登場の場面で所持金や貯蓄額を表示する演出も、「経済格差」が一目瞭然で面白かったですね。
上西監督:人間を描くためにも、作品の中に何かしらの社会問題をテーマに置きたいと思うんですね。今作ではおっしゃる通り「経済格差」。お金を使い方で、その人間の全貌が見える気がするんです。
「衣裳が七割」。センスの良さでも通じ合った二人
— 莫炉脩吉のスタイリングは、上西監督が手掛けられたそうですね。赤を基調にした洗練されたファッションで、フィクサーという役柄にも奥田さんのダンディーな魅力にもとてもお似合いでした。
上西監督:奥田さんに着ていただこうと決めていたブランドがあって、そのブランドを中心に、足りない部分は似た系統のものを探して揃えました。コートはイメージに合うものがなかったので、僕がデザインして作ったんですよ。
— すごいこだわりですね。さすが、ファッショニスタの上西監督! 奥田さんも今作のお衣裳を大変気に入られているとか。
奥田:上西監督が最初に現場にやって来た時から、「センス良いな」と思いました。でも、当然ながら衣裳に着られちゃいけない。僕が着るんだってこと。昔の監督たちからはよく、「衣裳が七割。俳優として叩き込んでおきなさい」と言われました。着物でも何でも自分の衣裳は目を瞑っていても着られるようにしてきましたから、袖を通しただけで役が入ってくるし、駄目な衣裳だと演じていても違和感がある。そこまでこだわらないと、監督との信頼も成り立たなかった。それほど、俳優にとって衣裳は大切なんです。上西監督とはセンスの良い者同士でよかったです(笑)。
上西監督:奥田さんに「センス良い」と言っていただけるなんて……! 何を着られてもかっこいいし、撮影前の衣裳合わせでお会いした時は、何をお話ししたのか思い出せないくらい緊張して。奥田さんがお帰りになられたあとは、幸せで涙が溢れてしまいました。
撮影現場を観察すると、監督の人柄が見えてくる
— 俳優そして監督の先輩として、奥田さんから見た上西組の現場はどのような印象でしたか。
奥田:現場を見ると、監督の人柄が見えてきますからね。僕としては、上西監督の現場に興味があるから、観察したくてルンルンで現場に行っていました(笑)。ルンルンって変な言葉だけど、モチベーションとも違って、何かこう、わき立つような気持ち。その気持ちをぐっと凝縮して役に臨んでいくんだけど、今作は芝居をしているという感覚もほとんどありませんでした。昔から知っている現場みたいにリラックスできて、テストや本番の声がかかるとすっと静寂になる。その集中力を作れる才能が、上西監督には十分にある。そういう意味で良い現場でした。監督が絶対的な中心として動いて、スタッフも一生懸命で素敵だった。
上西監督:もう僕は毎回無我夢中でやっているだけです。劇団員がほぼそのまま映画の組になっていますので、そういった意味では家族のようなコミュニケーションが取れていて、その空気が生まれたのかもしれません。
奥田:インデペンデント映画の制作や監督の大変さもよく知っているし、きっと蔭で苦しんでもいるんだろうけど、その苦労を見せないのが、やっぱり映画への情熱だよね。僕自身も、本来なら7本目の監督作を撮るはずだったんです。でも、緊急事態宣言で流れてしまって。ちょうどその頃に上西監督と知り合って、この作品に出ることで心が埋まっていく感じがありました。上西監督の情熱を見ているのは楽しかったです。
— 鋭くも大変温かなまなざしで、上西監督を見つめていらしたんですね。
奥田:映画を人生とする同胞ですから。そこには年の差も関係ないですし、お互いにインディーズ作品の監督としてのパワーも発揮しながら、俳優業も精進していきたいです。そのためには身体だけには気を付けましょうってことです(笑)。
上西監督:奥田さんの言葉に感動しています……。ありがとうございます。
一生涯「西成ゴロー」を作り続けたい
— 上西監督は、本作をシリーズ化していきたいと明言されていましたね。
上西監督:『西成ゴローの四億円』シリーズとして続けていく気満々です。なので、四億円を稼いだこの後は、どうストーリーを引っ張るかを考えています。“西成ゴローの四億円”という響きがいいので、そこに収めたいんです。実は、ゴローで「5」「6」、四億の「4」と並べると「コ・ロ・シ」となるんです。
— わぁ! ハードボイルド! “人殺しのゴロー” の異名にかけているんですね。
奥田:あっはっはっは(笑)。本当だ!
上西監督:奥田さんにも乗りかかった船ですから、ずっと乗っていただきますよ(笑)!
奥田:まあ、船に乗るのは冒険ですから。冒険の旅っていうのは命がけです、お互いに(笑)。
上西監督:僕自身は一生涯「西成ゴロー」を作り続けたいと思っています。奥田さんは、昨年の湯布院映画祭の舞台挨拶で、“上西組に奥田あり” で演じてくださるとおっしゃってくださいましたから(笑)。
奥田:あっはっは。言っちゃったんだなー(笑)。
上西監督:なので、奥田さんは僕の映画はもう断れないんです(笑)。そのためにも、今回の上映がコケるわけにはいかないんです。 ぜひ多くの方に劇場に来ていただきたいです!
— 現代を舞台にしながら、ここまで細部にこだわって70年代〜80年代の日本映画の雰囲気を再現した作品はないと思います。そういう意味では上西雄大ワールドという唯一無二の作品だと思います。
上西監督:ありがとうございます。今作は東映セントラルフィルムのような雰囲気を目指したつもりですが、自分でも今一番昭和感の出せる監督かなとは思っています。
— 当時の日本映画が好きな方にはたまらない小ネタもたっぷり散りばめられていますし、若い世代は、新たなジャンルの映画として新鮮に楽しんでいただけるのではないでしょうか。なんと言っても、ゴローやフィクサーがかっこいいですし!
上西監督:そうなったら嬉しいですね。僕が子どもの頃や若い頃に映画を観て、高倉健さんや、萩原健一さん、松田優作さんたちに憧れたように、ゴローたちに憧れてくれる若い世代がいたら、それはもう最高です! 前後篇ともぜひ劇場で観ていただきたいです。
— シリーズ化を期待しています! 本日はありがとうございました。
プロフィール
上西雄大(うえにし・ゆうだい)/監督・脚本・プロデューサー/ゴロー役
1964年生まれ、大阪府出身。俳優・脚本家・映像劇団テンアンツ代表。
2012年10ANTS(現・劇団テンアンツ)発足後、関西の舞台を中心に俳優として活動。脚本家としても並行して活動するなか、16年に映画製作を開始する。2作目の『姉妹』が第5回ミラノ国際映画祭・外国語短編部門グランプリを受賞。20年3月、児童虐待を題材に描いた『ひとくず』が公開。コロナの影響で公開延期となるが「追いくず」という言葉が生まれる等、反響が大きく、ますます評価が高まっている。
奥田瑛二(おくだ・えいじ)/莫炉脩吉(御大=フィクサー)役
1950年、愛知県生まれ。79年、映画『もっとしなやかにもっとしたたかに』で映画初主演。86年『海と毒薬』で毎日映画コンクール男優主演賞、89年『千利休・本覚坊遺文』で日本アカデミー主演男優賞を受賞。94年『棒の哀しみ』ではキネマ旬報、ブルーリボン賞など8つの主演男優賞を受賞する。近年の出演作に、映画『痛くない死に方』(21年/高橋伴明監督) 、主演映画『洗骨』(19年/照屋年之監督)、映画『Diner ダイナー』(19年/蜷川実花監督)、映画『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』(21年/木村ひさし監督)、テレビ朝日系二夜連続ドラマ「女系家族」(21年/鶴橋康夫監督)などがある。
予告編映像
作品・公開情報
▼『西成ゴローの四億円』(前篇)
(2021年/日本/104 分)
出演:上西雄大、津田寛治、山崎真実、波岡一喜、徳竹未夏、古川藍/奥田瑛二
監督・脚本:上西雄大
製作総指揮:奥山和由
挿入歌 「寂(レクイエム)唄」「西成TOWN」唄:西成の神様
企画・製作:10ANTS
配給:吉本興業、チームオクヤマ、シネメディア
©上西雄大
※2022年2月12日(土)より新宿K’sシネマほか全国順次公開
▼『西成ゴローの四億円 死闘篇』
(2021年/日本 /124 分/PG12)
出演:上西雄大、津田寛治、山崎真実、徳竹未夏、古川藍/笹野高史、木下ほうか、阿部祐二/加藤雅也(友情出演)、松原智恵子(友情出演)、石橋蓮司(特別出演)/奥田瑛二
監督・脚本:上西雄大
製作総指揮:奥山和由
主題歌 「西成TOWN」 唄:西成の神様(作詞・作曲:せきこ〜ぢ 添詞:西成の神様)
挿入歌 「飛びます」唄:山崎ハコ (作詞・作曲:山崎ハコ)
劇中歌 「川向うのラストデイ」 唄:原田喧太 (作詞:松田優作 作曲:荒木一郎)
企画・製作・制作:10ANTS
配給:吉本興業、チームオクヤマ、シネメディア
©上西雄大
※2022年2月19日(土)より新宿K’sシネマほか全国順次公開
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