【スペシャルインタビュー2】『西成ゴローの四億円』前篇/死闘篇 上西雄大監督インタビュー
- 2022年02月18日更新
『ひとくず』『ねばぎば 新世界』の上西雄大監督が主演を務めるマネー・クライム・エンターテインメント、『西成ゴローの四億円』(前篇)が絶賛公開中だ。そして、2月19日(土)から全国順次公開となる『西成ゴローの四億円 死闘篇』(後篇)では、さらに個性的かつ豪華なキャストが集結し、物語の舞台も西成から世界へと大きくスケールアップする。
前回のインタビューでは、ゴローの最大の敵である莫炉脩吉(まくろ・しゅうきち)を演じた奥田瑛二さんと上西監督に本作への思いを語っていただいたが、今回は上西監督に再び登場いただき、製作総指揮を務めた奥山和由氏との映画製作や、名優たちとの共演秘話などを語っていただいた。
奥山プロデューサーの的確なアドバイスで完璧を目指した
— 前篇『西成ゴローの四億円』の公開から、一週間後には『西成ゴローの四億円 死闘篇』が公開になるんですね。
上西雄大監督(以下、上西監督):2本立て感覚で観ていただきたかったので、公開日の間隔を短くしたんです。本当は、2部作をプログラムピクチャーのように1つの看板に並べたかったんですよね。
— 前後篇の2部作にしたのは、奥山和由プロデューサーのご意見だったとか。
上西監督:僕としては、「西成ゴロー」をシリーズ化して、何作かかけて四億円を稼ぐ予定だったんです。でも奥山さんから「子どもの命に関わることだから、最初のうちに四億円を稼いで早く治療させてあげたほうがいい」とアドバイスをいただき前後篇にしたんです。ストーリーとしてもまとまりましたし、すごく良かったと思います。奥山さんからは的確なご意見をいくつもいただきました。
— 奥山さんが製作総指揮として参加されたのは、前篇をほぼ撮り終わってからだったそうですね。
上西監督:前篇がほぼ撮り終わって、ラッシュを奥山さんに観ていただいたんです。「面白い!」と言ってくださったんですが、「もっとこうしたほうがよかったね」というようなアドバイスもたくさんいただいて。僕らの中でも「なるほど、もっとこうしたい」という気持ちがわーっと広がっていったんです。奥山さんに製作総指揮としてご参加いただけることになり、どうせ作るなら完璧にしたいと思って臨みました。
— 奥山さんといえば、『いつかギラギラする日』(1992/深作欣二監督)や北野武監督の作品などを手掛けられ、日本映画界のレジェンダリー・プロデューサーと呼ばれる方です。ご一緒されて、どんなお気持ちですか。
上西監督:こんなに幸せなことはないですよ。奥山さんの手掛けられた映画からたくさんの人生を学んできましたし、『いつかギラギラする日』なんて、これまで何度観たか分かりません。2部作の予告編は奥山さんの編集なのですが、『いつかギラギラする日』の匂いが少し入っていて、自分で観てもゾクゾクしました。
名優たちとの共演、恩師や劇団の仲間への思い
— 前篇は西成を中心に物語が展開していきますが、死闘篇は舞台が世界へと広がります。また、前篇に引き続き登場する奥田瑛二さん、津田寛治さん、山崎真実さん、波岡一喜さんに加えて、石橋蓮司さん、松原智恵子さん、笹野高史さん、木下ほうかさん、加藤雅也さん……など、豪華キャストがさらに集結しますね!
上西監督:そうなんです! 「すべてが夢だった」と言われても、不思議じゃないほどです。
— 『ひとくず』のインタビューで、木下ほうかさんへの熱い思いを伺っていたので、死闘篇にもご出演されていて嬉しくなってしまいました。津田寛治さんにおいては、未公開作も含めて上西監督の映画は4作目になるのだとか。
上西監督:はい。僕が言うのも本当におこがましいですが、津田さんのお芝居が生み出す世界観と僕のお芝居と、すごく相性が良い気がするんです。津田さんとお芝居をするときは、ほかの誰とも違う特別な世界が始まるような感覚があります。死闘篇に出てくる、桜の下でゴローと日向が話すシーンは、僕と津田さんにしかできないシーンになったと思うので、ぜひ劇場で観ていただきたいです。
— お二人のバディ感と、敵とも味方ともつかぬ関係性も本作の魅力ですね。松原智恵子さんと加藤雅也さんは、これまでにない役で驚きました。
上西監督:この作品でしか観られない役柄を演じていただきました。それだけでも劇場に足を運んでいただく価値があると思っています。お二人ともとても楽しんで演じてくださって、嬉しかったですし、ありがたかったです。
— 笹野高史さんの演じる西成の友人、カネやんにも泣かされました。
上西監督:僕の持論ですが、演技は「アクション」ではなく、「リアクション」だと思うんです。演じる人間になって、置かれた環境や時間や場所などいろいろなものにリアクションをする、それをお客様が受け取るのだと。お芝居で人と対峙する時は、相手から受け取るものに対してリアクションするんですけど、笹野さんほど濃色な「人間」を投げてくださる方はそういないと思います。唯一無二の名俳優です。
— そして、石橋蓮司さん演じる韓国マフィアの会長ウーソンクーは、その存在感の大きさもさることながら、闇金姉妹たちとの意外な関係性などドラマティックに作品を盛り上げますね。
上西監督:石橋蓮司さんのご出演も、僕が熱望したんです。実は一度スケジュールの都合でお断りされたのですが、「スケジュールはいくらでもお待ちしますので、絶対に出てほしいんです!」と食い下がりました。石橋さんが根負けしたカタチでご出演いただいたんですが、演技でご一緒できて本当に感動しました。
— 焼肉屋の女将を演じられた小西由貴さんも、西成に生きる人の情を感じさせ、すべてを包み込むような笑顔がとても素敵でした。小西さんは上西監督のお芝居の恩師でもあるそうですね。
上西監督:小西先生も、僕のたっての希望で出演をお願いしました。僕は40歳を過ぎてから、小西先生と亡くなられたご主人の芝本正先生に演劇をイチから学ばせていただいたんです。芝本先生から最初に渡された言葉が、「一つのセリフの中にも何色もの気持ちが入るから、それをちゃんと入れなきゃいけない」というものなのですが、小西先生のお芝居にはそれが全部あるんです。小西先生のシーンを撮っている時は、絶対に芝本先生もその場におられて、僕の横で一緒にモニターを見ていたと思います。本当に感慨深い時間でした。
— 闇金姉妹をチャーミングに演じられた徳竹未夏さん、古川藍さんについてもお聞きせずにはいられません。お二人の着ている特攻服に刺繍された言葉も、映画の内容にかかっていて面白かったです。
上西監督:闇金姉妹の衣裳や、刺繍の文言も僕が考えたんですよ。劇団(映像劇団テンアンツ)のメンバーは、僕にとって家族と同様の存在です。特に一緒に劇団を立ち上げた徳竹と古川は、辛い旅をずっと一緒にしてきてくれました。二人には人気女優になってほしいですね。
憧れの俳優や映画へのオマージュがぎっしり
— あらためて、今作には上西監督の憧れや好きなものがぎっしり詰め込まれていますね。昭和の日本映画のエッセンスはもちろん、ジュリアーノ・ジェンマ、ブルース・リー、『8時だョ!全員集合』(TBS系)まで、小ネタがたくさん盛り込まれていて楽しかったです(笑)。
上西監督:東映セントラルフィルムのような雰囲気を目指しながら、好きなものを詰め込みました。ちなみに、前篇でヤクザたちが車からスローモーションで降りてくるシーンは『仁義なき戦い』のイメージで……って、本当に好き放題やっているように見えますよね(笑)? 反感を買わないか心配にもなります。
— 好き放題感は否定しません(笑)。でも、そこが本作の魅力です。ゴローがバイクで走るシーンは、松田優作さんの主演&監督作『ア・ホーマンス』(1986)のオマージュですか?
上西監督:その通りです! 原田芳雄さんや松田優作さんは若い頃から崇拝していて、特別な思いがあります。死闘篇の劇中歌には、かつて原田芳雄さんが歌われていた「川向こうのラストデイ」をご子息の原田喧太さんに歌っていただきました。この曲の作詞を手掛けているのが松田優作さんで、自分の作品のエンドロールに優作さんの名前がクレジットされているのが死ぬほど嬉しいんです。
— 前篇の公開と同時に、渋谷ユーロスペースで『ひとくず ディレクターズカット版』の上映も始まりましたね。『ひとくず』のご成功が、さまざまな扉を開くカギになられたのでは?
上西監督:本当にそうです。『ひとくず』は観客動員数が3万人を超えたのですが、『ひとくず』からファンになってくださった方は、舞台やその後の映画作品、過去作まで観てくださる方が多いんです。僕の作る世界を受け取ってくださる方がいて、幸せだと思います。ただ、ありがたいことにリピーターのご支持もたくさんいただいているので、もしかすると映画を観ている方は実質5千人くらいなのかもしれません。「西成ゴローの四億円」をシリーズ化するためにも、さらに多くの方に届くようにがんばりたいと思います!
(取材:min インタビュー撮影:ハルプードル)
プロフィール
上西雄大(うえにし・ゆうだい)監督・脚本・プロデューサー/ゴロー役
1964年生まれ、大阪府出身。俳優・脚本家・映像劇団テンアンツ代表。
2012年10ANTS(現・劇団テンアンツ)発足後、関西の舞台を中心に俳優として活動。脚本家としても並行して活動するなか、16年に映画製作を開始する。2作目の『姉妹』が第5回ミラノ国際映画祭・外国語短編部門グランプリを受賞。20年3月、児童虐待を題材に描いた『ひとくず』が公開。コロナの影響で公開延期となるが「追いくず」という言葉が生まれる等、反響が大きく、ますます評価が高まっている。
予告編映像
作品・公開情報
▼『西成ゴローの四億円』(前篇)
(2021年/日本/104 分)
出演:上西雄大、津田寛治、山崎真実、波岡一喜、徳竹未夏、古川藍/奥田瑛二
監督・脚本:上西雄大
製作総指揮:奥山和由
挿入歌 「寂(レクイエム)唄」「西成TOWN」唄:西成の神様
企画・製作:10ANTS
配給:吉本興業、チームオクヤマ、シネメディア
©上西雄大
※2022年2月12日(土)より新宿K’sシネマほか全国順次公開
▼『西成ゴローの四億円 死闘篇』
(2021年/日本 /124 分/PG12)
出演:上西雄大、津田寛治、山崎真実、徳竹未夏、古川藍/笹野高史、木下ほうか、阿部祐二/加藤雅也(友情出演)、松原智恵子(友情出演)、石橋蓮司(特別出演)/奥田瑛二
監督・脚本:上西雄大
製作総指揮:奥山和由
主題歌 「西成TOWN」 唄:西成の神様(作詞・作曲:せきこ〜ぢ 添詞:西成の神様)
挿入歌 「飛びます」唄:山崎ハコ (作詞・作曲:山崎ハコ)
劇中歌 「川向うのラストデイ」 唄:原田喧太 (作詞:松田優作 作曲:荒木一郎)
企画・製作・制作:10ANTS
配給:吉本興業、チームオクヤマ、シネメディア
©上西雄大
※2022年2月19日(土)より新宿K’sシネマほか全国順次公開
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