7月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2021年07月01日更新

7月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?

LINE UP
7/9(金)公開『サムジンカンパニー1995
7/9(金)公開『走れロム
7/9(金)公開『83歳のやさしいスパイ
7/9(金)公開『ベルヴィル・ランデブー
7/9(金)公開『ライトハウス
7/10(土)公開『ロボット修理人のAi(愛)
7/16(金)公開『17歳の瞳に映る世界
7/24(土)公開『夕霧花園
7/30(金)公開『アウシュヴィッツ・レポート
7/31(土)公開『名もなき歌
7/31(土)公開『フィア・オブ・ミッシング・アウト


『サムジンカンパニー1995』

高卒女子社員への差別をポップに皮肉る

1995年の韓国・ソウル。サムジン電子に勤めるジャヨン、ユナ、ボラムの3人は、夢と希望を抱いて英語の勉強に励むものの、現実はろくな仕事をさせてもらえずにいた。ある日、男性同僚の付き添いで自社工場を訪れたジャヨンは、その帰り道、大量の排水が川に流出しているのを目撃する。軽快な音楽とポップな映像に乗って描かれるのは、高卒女子への差別に大企業の隠蔽体質、過疎の村への利益供与と、現在も変わらず存在する社会問題の数々だ。これをイ・ジョンピル監督は、適度なユーモアと痛烈な皮肉を絡めつつ、ポンポンとテンポよく展開する。女子たちが放つ啖呵の気っ風のよさや、善と悪とが目まぐるしく入れ替わる小気味よさに、韓国娯楽映画の勢いを見せつけられた気がした(藤井克郎)

2021年7月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/韓国/110分)原題:삼진그룹 영어토익반 英題:SAMJIN COMPANY ENGLISH CLASS 監督・脚色:イ・ジョンピル 出演:コ・アソン、イ・ソム、パク・ヘス ほか 配給:ツイン © 2021 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.


『走れロム』

縦横無尽に暴れるカメラワークに孤独の影

ベトナムの新星、チャン・タン・フイ監督の長編第1作で、闇営業の宝くじを題材に、疾走感あふれる斬新な映像世界が炸裂する。14歳の孤児、ロムは、サイゴンの貧民街に残る古いアパートの屋上に住み、デーと呼ばれる宝くじの予想屋として生活している。ライバルのフックに邪魔されながらも、借金まみれの住民たちの信頼を得ていくロムだが、さらなる試練が待ち受けていた。斜めから横から、ほとんど水平になることなく暴れまくるカメラワークに、超高速で切り替わるカット割り、荒々しいアクションと、映画表現の粋をとことん追求しつつ、家族のいないロムが抱える孤独や悲しみ、焦りを浮き彫りにする。監督の無茶な要求に応えた撮影のグエン・ヴィン・フックの手腕に目を見張った。(藤井克郎)

2021年7月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/ベトナム/79分)原題:ROM 監督・脚本:チャン・タン・フイ 出演:チャン・アン・コア、アン・トゥー・ウィルソン、WOWY ほか 配給:マジックアワー ©2019 HK FILM All Rights Reserved.


『83歳のやさしいスパイ』

女性ばかりの老人ホームに男性が送り込まれたら

老人ホームに入居する母親が虐待を受けているらしい。その実態を探ってほしいと依頼を受けた私立探偵が、高齢の男性をスパイとして募集。こうして妻を亡くしたばかりの83歳のセルヒオがホームに送り込まれた。チリの女性ドキュメンタリー作家、マイテ・アルベルディ監督は、老人ホームの映画を作ると偽ってセルヒオに密着し、彼のスパイぶりをカメラに収める。最初こそ高齢になって舞い込んできた使命に燃えるセルヒオだったが、探偵からの要求の厳しさに嫌気がさしてくる。しかも圧倒的に女性ばかりのホームでは、セルヒオは貴重な男性入居者だった。現実をとらえながら、予期せぬ奇跡がたびたび起こり、実に豊かなハーモニーを奏でる。高齢化社会の現実の意外性に胸が熱くなった。(藤井克郎)

2021年7月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン/89分)原題:THE MOLE AGENT 監督・脚本:マイテ・アルベルディ 出演:セルヒオ・チャミー、ロムロ・エイトケン ほか 配給:アンプラグド © 2021 Dogwoof Ltd – All Rights Reserved


『ベルヴィル・ランデブー』

斬新さに度肝を抜かれるユニークなフレンチアニメ

フランス映画として初めてアカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされ、高畑勲監督も絶賛した伝説の作品。製作20周年を目前にリバイバル上映される。孤独な孫シャンピオンを元気づけようと、三輪車を与えたおばあちゃん。やがて成長した彼は、おばあちゃんとの特訓のおかげでツール・ド・フランスに出場。だが大会中にマフィアに誘拐されてしまう。おばあちゃんは愛犬ブルーノ、伝説の三つ子の歌手の老婆たちとともに救出に乗り出す。シルヴァン・ショメ監督は、デフォルメされたキャラクターや強烈なシーンで尖りを見せる一方、ノスタルジックな色彩や軽快なジャズで毒を和らげる。その斬新さに度肝を抜かれ、ユニークなショメワールドに引きずり込まれた。フレッド・アステアやジャック・タチなど才能あふれる先人へのオマージュも見逃せない。(吉永くま)

2021年7月9日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2002 年/フランス・カナダ・ベルギー/80分)原題:LES TRIPLETTES DE BELLEVILLE 監督:シルヴァン・ショメ 音楽:ブノワ・シャレスト 配給:チャイルド・フィルム © Les Armateurs / Production Champion Vivi Film / France 3 Cinéma / RGP France / Sylvain Chomet


『ライトハウス』

老若2人の灯台守のまがまがしい確執

舞台は1890年代、米北東部ニューイングランドの孤島。この島にベテランのウェイクと若いウィンズローの2人の灯台守がやってくるが、ウェイクはウィンズローに雑用ばかりを言いつけて、肝心の灯室には足を踏み込ませない。ウィンズローの不満が爆発寸前となる中、激しい嵐が島を襲う。出演者はウィレム・デフォーとロバート・パティンソンのほぼ2人だけで、濃密で激しい芝居がモノクロのスタンダードサイズの画面で展開される。これが長編2作目となるロバート・エガース監督は、物語らしい物語のない2人の確執を、カモメや荒波といった象徴的な装置を用いて描写する。工夫を凝らしたまがまがしい映像表現と、2人の名優の狂気をはらんだ怪演に、目が釘付けになった。(藤井克郎)

2021年7月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/アメリカ/109分/R15+)原題:The Lighthouse 監督・脚本:ロバート・エガース 出演:ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン 配給:トランスフォーマー ©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.


『ロボット修理人のAi(愛)』

不思議な味わいの物語と若手俳優たちのきらめき

映画『ロボット修理人のAI(愛)』メイン画像榛名湖の美しい自然を背景に描かれる、天才ロボット修理人の少年と孤独な少女のファンタジックな “再生” の物語。メガホンを執ったのは『ムーランルージュの青春』の田中じゅうこう監督だ。高校を中退し、ひとりで暮らしながらアルバイトに励む16歳の倫太郎の元に、旧型AIBOの修理依頼が舞い込む。依頼主は東京に暮らす老婦人で、亡き息子が遺したというAIBOは音声装置とメモリーが壊れていた。復元に奔走する倫太郎は、次第に自分の過去と向き合っていく……。孤児だった過去を背負いながらも、地域の人々の愛情に支えられ明るく前向きに生きる倫太郎。近隣同士の関係性が希薄になりつつある今、その風景は古き良き日本の姿を彷彿とさせる。AIという現代的なモチーフ、昭和的なノリのコメディ、そして古より語り継がれる湖の「蘇りの伝説」が交差する物語は、新しくも懐かしく、普遍的でいて不思議という独特な味わいが印象的だ。倫太郎役の土師野隆之介は、子役として大河ドラマ出演や2011年公開の映画『ロックわんこの島』の主演も務めた若き実力派。安定感とみずみずしさを併せ持つ希有な存在感に心を掴まれる。少女・すずめを演じた緒川佳波の無垢な美しさも作品に透明感を与え、若手俳優二人のきらめきも大きな見どころだ。(min)

2021年7月10日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021 年/日本/108 分)監督:田中じゅうこう 出演:土師野隆之介、緒川佳波、金谷ヒデユキ、大村崑、大空眞弓 ほか 配給:トラヴィス  ©2021 GENYA PRODUCTION ROBOT REPAIRBOY

◆関連記事:主演・土師野隆之介さんインタビュー


『17歳の瞳に映る世界』

一度もない/めったにない/ときどき/いつも

米ペンシルベニア州に住む高校生のオータムは、妊娠していることに気づく。州では親の同意がないと中絶できないと知った彼女は、同じスーパーでアルバイトをしているいとこのスカイラーと連れ立ってニューヨークに向かう。お腹の子の父親は誰なのか、といった説明的な描写は一切なく、これが長編3作目となるエリザ・ヒットマン監督は、ひたすらオータムと、彼女の唯一の理解者であるスカイラーの2人に寄り添う。両親や妹たちもいて、一見、恵まれているように見えても、若い女性を襲う社会不安の種は尽きないことを、この映画は物語る。原題の「Never Rarely Sometimes Always(一度もない/めったにない/ときどき/いつも)」の理由を知ったとき、涙があふれ出て止まらなかった。(藤井克郎)

2021年7月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/アメリカ/101分/PG-12)原題:Never Rarely Sometimes Always 監督・脚本:エリザ・ヒットマン 出演:シドニー・フラニガン、タリア・ライダー、セオドア・ペレリン ほか 配給:ビターズ・エンド、パルコ ©2020 FOCUS FEATURES, LLC. All Rights Reserved.


『夕霧花園』

不滅の愛がテーマのマレーシア製極上ミステリー

台湾のトム・リン監督が、マレーシア出身のリー・シンジエ(李心潔)を主演に据え、第二次世界大戦後のマレーシアを舞台に、戦争の影と不滅の愛をテーマにした極上のミステリーを紡ぎ上げた。1980年代、裁判官のユンリンは、かつて暮らしたことのある高地のキャメロンハイランドを訪ねる。彼女は30年前、この地に住む日本人庭師の中村有朋の下で見習いとして働いていた。戦争中の緊迫感やゲリラの恐怖など、本格的な描写は大作感に彩られ、見ごたえ十分。借景など日本庭園に関する敬意も深い。何より、日本の阿部寛、中国で活躍するシルヴィア・チャンら出演者に加え、スコットランドの脚本家にインドの撮影監督と、国際的なチームによる映画づくりに、マレーシア映画の潜在力を感じた。(藤井克郎)

2021年7月24日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/マレーシア/120分)原題:THE GARDEN OF EVENING MISTS 監督:トム・リン 出演:リー・シンジエ、阿部寛、シルヴィア・チャン ほか 配給:太秦 ©2019 ASTRO SHAW, HBO ASIA, FINAS, CJ ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED


『アウシュヴィッツ・レポート』

収容所の実態を伝えるべく脱走を試みた2人

第二次世界大戦中にユダヤ人の大量虐殺が行われたアウシュヴィッツ収容所から脱走した2人のスロバキア系ユダヤ人の実話を基に、スロバキア人のペテル・ベブヤク監督が重く厳しい色調で映画化した。1944年4月、収容所で記録係をさせられているアルフレートとヴァルターは、ここの実態を母国に伝え、空爆に結びつくよう脱走を計画する。仲間の手助けでひとまず木材置き場に身を隠すが、聞こえてくるのは2人と同じ9号棟の収容者全員に対する凄惨な仕打ちの音だった。脱走までの苦悶に加え、脱走後も数々の試練に襲われる2人の極限状態を、彼らと同じ目線のカメラワークで見事に表現。エンドクレジットを含め、悲劇は決して過去の遺物ではないとのメッセージが強く心に響いた。(藤井克郎)

2021年7月30日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/スロバキア・チェコ・ドイツ/94分/PG-12)原題:Správa 英題:The Auschwitz Report 監督・脚本:ペテル・ベブヤク 出演:ノエル・ツツォル、ペテル・オンドレイチカ、ジョン・ハナー ほか 配給:STAR CHANNEL MOVIES © D.N.A., s.r.o., Evolution Films, s.r.o., Ostlicht Filmproduktion GmbH, Rozhlas a televízia Slovenska, Česká televise 2021


『名もなき歌』

わが子を一度も抱けない若い母親の思い

南米ペルーの新鋭、メリーナ・レオン監督の初長編作品。1988年に起きた実話を基に、モノクロのスタンダードサイズに縁だけをぼかすという独特の画面で、社会性と芸術性を備えた意欲作を織り上げた。貧しい生活を送る先住民の若いヘオルヒナは、無償で医療を提供する産院の存在を知り、女児を出産する。だがわが子を一度も抱くことなく追い出され、翌日に再度その病院を訪れると、もぬけの殻だった。乳児売買をメインテーマに、政治の貧困やテロによる文化破壊、先住民差別など、ペルーに横たわるさまざまな社会問題を、美しくも悲しみをたたえた映像であぶり出す。わが子を思うヘオルヒナの必死さと比べ、夫や新聞記者ら男どもの危機意識の薄さに、レオン監督の強い憤りを感じた。(藤井克郎)

2021年7月31日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/ペルー・スペイン・アメリカ/97分)原題:CANCIÓN SIN NOMBRE 英題:SONG WITHOUT A NAME 監督・脚本:メリーナ・レオン 出演:パメラ・メンドーサ、トミー・パラッガ、ルシオ・ロハス ほか 配給:シマフィルム、アーク・フィルムズ、インターフィルム ©Luxbox-Cancion Sin Nombre


『フィア・オブ・ミッシング・アウト』

現実と幻想のはざまで浮遊する感情を独特の映像美で描く

映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』メイン画像「Fomo」(Fear of missing out=見逃すことの恐怖)がネットのバズワードとして登場したのは10年ほど前だったか。どんな時もSNSに接続していないと取り残されるような感覚。実像があるようなないような……でも心から拭えない感情。そんなネットスラングを題した本作は、親友を亡くした女性の、 “とり残される怖さ” と悲しみ、その先に見えてくる光景を描いた切なくも温もりに満ちた物語だ。親友イ・ソン(小島彩乃)を亡くしたユジン(Yujin Lee)は、彼女の残したボイスレコードを発見する。男友達のこうちゃん(高石昂)に車を出してもらい、夜の街を抜け彼女の向かった先は……。人々の普遍的な感情や繊細な営みを独自の映像表現で描くのは、映画作家の河内彰監督。本作でPFFアワード2020入選を果たし、瀬々敬久監督や真利子哲也監督も才能を高く評価する新鋭だ。本業の役者ではないキャスティングにもこだわりを持つという河内監督は、本作でも初演技・初主演のYujin Leeと監督の親友であるというデザイナーの高石をメインキャストに配しており、二人の何気ない会話がユルくぬるい夜の空気に溶けて、心地が良い。着地する場所を失い、現実と幻想のはざまで浮遊する感情が、夜を照らすおぼろげな灯りの中では自由にたゆたい、温かく胸を締めつける。いなくなっても感じていたい——現実を連れてくる朝と、やさしい夜を何度も繰り返して「Fomo」は少しずつ薄れていくのだろう。(min)

2021年7月31日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2019年/日本/36 分)監督・脚本・編集・撮影:河内彰 出演:Yujin Lee、高石昂、小島彩乃、スニョン、サトウヒロキ、レベッカ、藤岡真衣、横尾宏美、安楽涼ほか 配給:Chinemago © Crashi Films

◆関連記事:河内彰監督&小島彩乃さんインタビュー

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