11月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2021年11月01日更新
11月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?
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11/5(金)公開『花椒(ホアジャオ)の味』
11/5(金)公開『DANCING MARY ダンシング・マリー』
11/6(土)公開『記憶の戦争』
11/12(金)公開『愛のまなざしを』
11/12(金)公開『SAYONARA AMERICA』
11/12(金)公開『ドーン・オブ・ザ・ビースト/魔獣の森』
11/12(金)公開『半狂乱』
11/12(金)公開『皮膚を売った男』
11/19(金)公開『COME & GO カム・アンド・ゴー』
11/20(土)公開『ユダヤ人の私』
11/26(金)公開『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』
『花椒(ホアジャオ)の味』
異母姉妹が繰り広げる豊かな人間模様
お互いの存在を知らず、台北、重慶、香港で育った3人の異母姉妹が、父の死をきっかけに絆を深め、自分の生き方を見つめ直す人間ドラマ。ユーシューは疎遠になっていた父の葬儀の日にはじめて、ルージーとルーグオという異母妹たちと出会う。3人はすぐに打ち解け、それぞれの思い出を話し出す。長女のユーシューはまだ賃貸契約も従業員も残っている父の火鍋店を継ごうと決心するが……。いなくなってからやっとわかる肉親の存在の大きさ。すれ違いばかりだった父の幻影が目の前に現れるたびに、ユーシューに込み上げる後悔や寂しさが切ない。一方、火鍋店を拠点に展開される姉妹の交流は、彼女たちの心を豊かにし、その影響は一人ひとりを取り巻く人間関係にも波及していく。どこか懐かしい街の空気と情緒的な音楽が心地良く、胸が締めつけられながらも優しく流れる時間に身を委ねたくなる。(吉永くま)
2021年11月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/香港/118分)原題:花椒之味 英題:Fagara 監督・脚本:ヘイワード・マック 出演:サミー・チェン、メーガン・ライ、リー・シャオフォン ほか 配給:武蔵野エンタテインメント株式会社 © 2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.
『DANCING MARY ダンシング・マリー』
恐怖と笑いを組み込んだ異色のアクションラブロマンス
『天の茶助』のSABU監督がEXILEのパフォーマー、NAOTOを主役に迎え、愛と記憶をテーマに編み上げたアクションホラーコメディー。市役所職員の研二は、再開発のために取り壊されるダンスホールの解体担当を命じられる。だがこの建物にはマリーというダンサーの霊が住みついていて、どんな霊能者も寄せつけなかった。霊が見えるという女子高校生の雪子の協力を仰ぐ研二だったが……。朽ちかけたダンスホールをはじめ、廃墟のセットと幽霊の描写は本格ホラー顔負けの怖さだが、一方で石橋凌演じる成仏できないヤクザの霊など笑いの要素もたっぷりで、何とも贅沢な異色の組み合わせになっている。一人一人に役目があって生かされているというテーマもすがすがしく、SABU監督ならではの創意工夫を堪能した。(藤井克郎)
2021年11月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/105分) 監督・脚本・編集:SABU 出演:EXILE NAOTO、山田愛奈、石橋凌 ほか 配給:キグー ©2021 映画「DANCING MARY」製作委員会◆オススメ記事:第13回東京フィルメックス審査委員長 SABU監督インタビュー
『記憶の戦争』
8歳で家族全員が虐殺された恐怖と悲しみ
ベトナム戦争中、韓国軍によって大勢の住民が犠牲になったとされる「フォンニィ・フォンニャットの虐殺」をテーマに、韓国人女性のイギル・ボラ監督が現地取材を重ねて力強いドキュメンタリー作品に仕上げた。8歳のときに母親や兄弟ら家族全員を殺されたタンおばさん、虐殺の現場を目撃した耳の聞こえないコムおじさん、地雷の爆発で失明したラップさんと、それぞれが味わった恐怖の記憶をカメラの前で必死に表現する。話をしながらどうしても涙がこぼれてくるタンおばさんの悲しみを、祖父がベトナム戦争に参戦しているイギル監督が精いっぱい受け止めようとする姿が胸を打つ。参戦兵をはじめ韓国国内での反応もかなり突っ込んで取材していて、制作陣の勇気と意欲に敬服した。(藤井克郎)
2021年11月6日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/韓国/79分)原題:기억의 전쟁 英題:UNTOLD 監督:イギル・ボラ 配給:スモモ、マンシーズエンターテインメント ©2018 Whale Film
『愛のまなざしを』
サスペンスの妙味たっぷりでつづる恋愛心理劇
亡くなった妻の幻影にとらわれ続ける精神科医の貴志の元に、恋人に連れられた綾子が患者としてやってくる。綾子の妖しい魅力のとりこになる貴志だったが……。『接吻』の万田邦敏監督が、大人の恋愛心理劇をサスペンスの妙味たっぷりに織り上げた。主演の仲村トオルはじめ、抑制の効いた演技合戦が見もので、中でもプロデューサーを兼ねる綾子役の杉野希妃が秀逸。派手な装いで男に媚びを売る嘘つき女という役柄ながら、それほど嫌みに見えないのは、本人の「弱い女」然としたたたずまいに加えて、万田監督が妻の万田珠実と共同で手掛けた脚本の巧みさによるところも大きい。思わせぶりなラストを含めて、独特のじとっとした質感が癖になりそうな味わいをたたえていた。(藤井克郎)
2021年11月12日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/102分)英題:Love Mooning 監督:万田邦敏 出演:仲村トオル、杉野希妃、斎藤工 ほか 配給:イオンエンターテイメント © Love Mooning Film Partners◆オススメ記事:『おだやかな日常』プロデューサー杉野希妃さんインタビュー
『SAYONARA AMERICA』
細野晴臣のライブに密集したアメリカの熱烈なファン
音楽活動50周年となる2019年にニューヨークとロサンゼルスで行ったアメリカでの初のソロライブを中心にしたミュージシャン、細野晴臣のドキュメンタリー。大勢のファンが詰めかけたアメリカでの密集のステージと対照的に、コロナ禍で活動停止を余儀なくされた現状への危機感を募らせるインタビューなども交えて、細野サウンドの魅力と音楽の神髄に迫る。アメリカ公演で細野が披露する曲は、古き良きアメリカに捧げたブギウギやカントリーなどの数々。アメリカ文化を下敷きに独自のテイストで奏でる細野の音楽を、アメリカの観客が幸せそうな表情で評価する姿が何ともうれしい。「In Memories of No-Masking World」のテロップなど、自由に音楽を楽しめない時代への細野流の皮肉も胸に響いた。(藤井克郎)
2021年11月12日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本/83分)監督:佐渡岳利 出演・音楽:細野晴臣 ほか 配給:ギャガ ©2021“HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS
『ドーン・オブ・ザ・ビースト/魔獣の森』
最恐UMA!魑魅魍魎!狂気! 異種格闘の凄惨バトル
ビッグフットの目撃情報が多発するというアメリカ北東部某所。なかでも目撃談や行方不明者が多発する「死の月」と呼ばれる期間に、大学の未確認生物学の実習チームが調査にやってくる。そこで彼らを待ち受けていたのは想像を絶する恐怖だった……。UMA捜索映画と思いきや、悪霊だの人肉を喰らう魑魅魍魎だのが入り乱れ、さらには人間の狂気も加わり、血みどろの闘いに。とはいえ、グロ描写はややリアル感を抑えた印象。それよりも真っ暗な森に潜む得体の知れない恐怖や、どの物の怪(もののけ)がどこから襲ってくるかわからない緊張感に心拍数が上昇! 『デッド・ドント・ダイ』や『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』のジャレッド・バログによる特殊メイク、米SFホラー界の新鋭ブルース・ウェンブル監督による緩急巧みな演出は、“頭を空っぽにして、非日常の恐怖感を楽しむ” というホラー映画の醍醐味を再認識させてくれる。安っぽすぎないB級感もGOOD。TOCANA配給作品。(min)
2021年11月12日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020 年/アメリカ/82 分/R15+)英題:Dawn of the Beast 監督:ブルース・ウェンブル クリーチャーデザイン&特殊メイク:ジャレッド・バログ 出演:エイドリアン・バーク、ルジョン・ウッズ、アリエラ・マストロヤンニ ほか 配給:TOCANA © 2020 377 Films LLC.
『半狂乱』
怒涛のように押し寄せるイメージにくらくら
とある舞台の初日の幕が開こうとしていたそのとき、舞台袖の事故で出演者の1人が瀕死の重傷を負う。公演の中止もやむを得ないと思われたが、ある劇団員が劇場の入り口に鍵をかけ、日本刀で満席の観客を脅迫する。果たして劇場占拠の目的は何なのか。前作のカルトホラー『超擬態人間』で人々の度肝を抜いた藤井秀剛監督が、構想に20年をかけて取り組んだ異色のクライムサスペンスで、密室状態のステージを舞台に狂気と錯乱が炸裂する。人物の相関関係や細かいストーリーなどは何が何だかよくわからないまま、画面サイズも色味もてんでんばらばらのイメージが怒涛のように押し寄せてる。200人の観客を背景にした長回しショットに二転三転のどんでん返しと、計算されつくした無謀さにくらくらするような陶酔感を覚えた。(藤井克郎)
2021年11月12日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本/111分/R15+) 監督・脚本・撮影・編集:藤井秀剛 出演:越智貴広、工藤トシキ、山上綾加 ほか 配給:POP ©POP Co.,Ltd.◆オススメ記事:『超擬態人間』2020年10月公開映画 短評
『皮膚を売った男』
難民問題をテーマに芸術の本質をえぐる
シリア難民をモチーフに芸術の本質を鋭くえぐった意欲作で、チュニジア出身の女性、カウテール・ベン・ハニア監督が手掛けた。列車の中で恋人のアビールに求愛したときの言葉が国家への反逆とみなされ、投獄されたシリア人青年のサムは、アビールを残したまま国外に逃亡。貧しい生活の中、世界的な芸術家のジェフリーと出会ったサムは、ある提案を持ちかけられる。それは背中にビザのタトゥーを施してアート作品にするというものだった。難民問題という今日的な社会性をテーマにしながら、サスペンスやロマンスの要素もたっぷりで、第一級の娯楽作品に昇華されている。アビールと会いたい一念で提案を受け入れるサムの悲しみと、バンクシーにも通じるアート作品の評価をめぐる皮肉のギャップがたまらない。(藤井克郎)
2021年11月12日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/チュニジア、フランス、ベルギー、スウェーデン、ドイツ、カタール、サウジアラビア/104分)英題:The Man Who Sold His Skin 監督・脚本:カウテール・ベン・ハニア 出演:ヤヤ・マヘイニ、ディア・リアン、ケーン・デ・ボーウ、モニカ・ベルッチ ほか 配給:クロックワークス © 2020 – TANIT FILMS – CINETELEFILMS – TWENTY TWENTY VISION – KWASSA FILMS – LAIKA FILM & TELEVISION – METAFORA PRODUCTIONS – FILM I VAST – ISTIQLAL FILMS – A.R.T – VOO & BE TV
『COME & GO カム・アンド・ゴー』
大阪・キタでワケあり人間たちが繰り広げる群像劇
マレーシア生まれで日本を拠点に活動するリム・カーワイ監督が、現代の大阪・キタを舞台に、さまざまな異邦人たちがそれぞれの道を生き抜く姿を描いた群像劇。古い木造アパートで白骨死体が発見される。警察は周辺の聞き込みを始めるが、この街では工場から脱走したベトナム人実習生、飲食店経営を夢見るネパール人青年、昼夜掛け持ちで働くミャンマー人女性といったいろんなワケあり人間がうごめいていた。リム監督は、在留外国人だけでなく、地方から出てきた日本人女性や中国からの観光客など実に幅広い人々を登場させて、大阪という一見にぎやかで猥雑な街の孤独の影をあぶり出す。ツァイ・ミンリャン監督作品を象徴するリー・カーションが、アダルトグッズを買い求める台湾人オタク役で出てくるのには驚いた。(藤井克郎)
2021年11月19日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/158分)英題:COME AND GO プロデューサー・監督・脚本・編集:リム・カーワイ 出演:リー・カーション(李康生)、リエン・ビン・ファット、兎丸愛美、ナン・トレイシー ほか 配給:リアリーライクフィルムズ、Cinema Drifters ©️ cinemadrifters
『ユダヤ人の私』
ホロコーストから生還した106歳の証言
第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるホロコーストから生還したユダヤ人、マルコ・ファインゴルトの証言を中心にしたドキュメンタリー。マルコは2019年に106歳で死去したが、100歳を超えているとは思えない雄弁さで、恐怖の記憶と未来への警鐘を滔々と語る。ウィーンで育ったマルコは兄とイタリアで商売をしていたが、一時帰国した1938年にドイツがオーストリアを併合。39年に逮捕され、アウシュヴィッツをはじめ4つの強制収容所を転々とする。その間に離れ離れになった兄は殺害され、幸運にも生き延びたマルコは戦後、オーストリアに住み続けながら国の責任を追及してきた。何万人というウィーン市民がヒトラーを熱烈に歓迎した光景は決して忘れないと語るマルコのモノクロの表情が深く心に染みる。(藤井克郎)
2021年11月20日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/オーストリア/114分)英題:A JEWISH LIFE 監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー、クリスティアン・ケルマー、ローランド・シュロットホーファー 配給:サニーフィルム ©️2021 Blackbox Film & Medienproduktion GMBH
『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』
濃密で滑稽で、壮大な狂騒曲
2017年、オークションにおいて1枚の絵が史上最⾼額の510億円で落札される。レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の傑作とされる「サルバトール・ムンディ」、通称「男性版モナ・リザ」だ。購入者は誰なのか、本当にダ・ヴィンチ作品なのかどうか、世界中人々の関心を集めるが謎は深まるばかり。アート界のからくりや闇の⾦銭取引の実態までもが暴かれてゆく。絵に群がる美術商や富裕層、中東の王族といった庶民とはかけ離れた世界にいる人々から、この芸術作品への尊敬の念は感じられない。彼らがまき散らす煌びやかさと胡散臭さも相俟って、ノンフィクションなのにまるでミステリードラマを観ているよう。濃密で滑稽で、壮大な狂騒曲だ。(吉永くま)
2021年11月26日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/フランス/100分)原題:The Savior For Sale 監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ 配給:ギャガ © 2021 Zadig Productions ©Zadig Productions – FTVページトップへ戻る
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