『恋に至る病』 初日舞台挨拶 ― 個性派俳優やアーティストに劣らぬ存在感を見せた、ユニークな新人監督の今後に期待!

  • 2012年10月25日更新

 第21回ぴあフィルムフェスティバルのスカラシップ作品である『恋に至る病』が、2012年10月13日(土)に公開初日を迎え、木村承子監督、我妻三輪子さん、斉藤陽一郎さん、染谷将太さん、主題歌を担当したバンド「アーバンギャルド」から、浜崎容子さん(Vo.)、松永天馬さん(Vo.)、谷地村啓さん(Key.)が初日舞台挨拶に駆け付けた。

『恋に至る病』は、「好きなひとと性器交換をしたい」という主人公の妄想が現実となってしまったことで起こる騒動を、ポップに描いたラブストーリーである。本作が長編デビュー作となる木村監督は、第62回ベルリン国際映画祭でレッドカーペットを歩いた際に着用したという黒いミニ丈のドレス姿で登場し、気合い十分。MCを務めた映画パーソナリティーの襟川クロさんがテンポよく場を仕切り、登壇する予定のなかったスタッフを舞台上に呼びこむなど、予想外の展開も見られた舞台挨拶の模様をレポート!

(↑の写真、左から、染谷将太さん、斉藤陽一郎さん、我妻三輪子さん、木村承子監督、浜崎容子さん、松永天馬さん、谷地村啓さん)

「初日ということで、お洒落してきました」(木村監督)

襟川クロさん(以下、襟川) 初日舞台挨拶にお越しいただきましたみなさまに、ご挨拶をお願いします。

木村承子監督(以下、木村) 本日、満員ということで、ご来場いただき本当にありがとうございました。

襟川 ファッションが、ナイトタイムのような雰囲気で、気合いが入っていますね。最初にお会いしたとき、女優さんかと思いました。

木村 はい。お洒落してきました。

我妻三輪子さん(以下、我妻) 本日はありがとうございます。頑張ってお話ししますので、よろしくお願いします。

斉藤陽一郎さん(以下、斉藤) 本日はたくさんの皆さんにお越しいただきまして、本当にどうもありがとうございます。

染谷将太さん(以下、染谷) 無事に公開できて、すごく幸せです。

浜崎容子さん(以下、浜崎) 今回は、主題歌と劇中歌、そして劇伴(テレビドラマや映画のBGMのこと)を担当させていただきました。この映画の音楽に携わることができて、とても幸せです。

松永天馬さん(以下、松永) 『恋に至る病』は、第33回ぴあフィルムフェスティバルで完成お披露目をしました。その後1年間、海外の映画祭などを回り、すくすくと育って、ようやく(国内での)上映に戻ってきました。本日、無事にこの日を迎えられて本当によかったなと思います。

谷地村啓さん(以下、谷地村) 今回は主に、この映画に関わる音楽の作曲を担当させていただきました。いままであまり受けたことのない、感銘みたいなものを受けた作品ですので、自分のなかで本当に心に残るものになっています。

「海外の映画祭で、ツブラを見た観客の方が、『あの女の子は何者だ。あんなパワフルな娘は見たことがない』と仰っていました」(木村監督)

襟川 第21回ぴあフィルムフェスティバルでスカラシップを獲得したことに始まり、そこから成長した1本の作品が公開初日を迎えました。いまのお気持ちをお聞かせください。

木村 ユーロスペースという憧れの場所で上映できることが、光栄です。この作品には、4人の強烈なキャラクター ― ツブラ(我妻三輪子)・マドカ(斉藤陽一郎)・エン(佐津川愛美)・マル(染谷将太) ― が出てきます。自分は誰にいちばん似ているか、どういうところに共感できるのか、観終わったあと、そういうことを考えながら帰っていただけたら嬉しいなと思います。

我妻 (主人公のツブラを)演じる上で、すぐにツブラちゃんのことを理解できたわけではありませんが、監督が、役柄についてたくさん話をしてくださいましたし、恋する相手のマドカ先生が素敵だったので、役作りがすごく難しかったというわけではありませんでした。

襟川 監督は、(我妻さんに、ツブラ役について)どんな説明をされたんですか。

木村 動きのある演技を一緒にやったり、(ツブラや他のキャラクターの)心の変化をたくさん話し合いました。我妻さんが、現場ですごく印象的だったのは、マドカに冷たくされるシーンを撮ると本当にへこんでいたり、ちょっと優しくされると、「今日は優しくされて嬉しかった」などと仰っていたことです。

我妻 好きなひとに近づくだけで、吐かれるんですよ。本当に大好きなのに、触れもしないし、ちゃんとコミュニケーションもとってくれないし。

斉藤 いや、そういう台本だからね。

木村 そこまで感情移入して、ツブラになってくれたので、なんて素敵な役者さんなんだろうと思いました。第62回ベルリン国際映画祭などで上映した際に、観客の方々が、「あの女の子は何者だ。あんなパワフルな娘は見たことがない」と言っているのを聞いて、「世界の我妻だ!」と思いましたね。

「建築現場にいるような感覚で、なにかを立体化していこうという気持ちで現場にいました」(斉藤さん)

襟川 斉藤さんは、そんな我妻さんと共演なさって、ご気分的にはいかがでしたか。

斉藤 ご気分のことは、全然思い出せないですけど(笑)。監督の頭のなかにある想いや感情が台本になって、それを設計図として立体に立ちあげるという作業が、非常に難しかったです。なので、気分というよりは、建築現場にいるような感覚で、なにかを立体化していこうという気持ちで現場にいました。役どころとしては、素に近い感じだったと思います。マドカになんとなくシンパシーを感じていました。たぶん監督も、そういう部分を感じてキャスティングされたんだと思いますが。

木村 いえ、違います! 普段の斉藤さんはお洒落な方なので、どうしようと思っていました。だから、無理やりシャツをインさせて、ださく見せたりしたんです。現場でも、すごく素敵な方でして、マドカの一挙手一投足について、たくさん提案をしてくださいました。

斉藤 若いパワーに負けないように、40歳のおっさんが、いかにキラキラできるかということを考えながら、頑張りました。

「マルを演じていて、変なもどかしさを感じました」(染谷さん)

襟川 染谷さんの役どころに関しては、監督のなかでなにか想いがあったんですか。

木村 マルについては、脚本の初期段階から、絶対に染谷さんがいいなと思って書いていました。そういう願望があったので、萌えポイントが多いなと思います。

染谷 そうですね。基本的に、監督のおもちゃにされたというか(笑)。パンツ1丁にはしておこう、という感じですね。それを、僕も、楽しんでやっていたんですけれども。

襟川 染谷さん自身の性格と、映画の役どころとで、重なる部分はありましたか?

染谷 変なもどかしさはありましたね。そのもどかしさというのは、自分の経験上のこういうこととリンクしました、という具体的なものではないんですけれども。誰しも普通に生活していたら感じることで、その感覚を、少し誇張して演じました。

襟川 監督の演出はどのように感じましたか?

染谷 監督は、見ての通り、こういう……面白い方なので(笑)、監督が悩んで、みんなも悩んで、話し合って、監督の撮りたいものに近付けていきました。(斉藤)陽一郎さんが仰った、「建築現場」みたいな感じです。でも、スタッフもキャストも監督についていっていたので、引きがある方だな、と思いましたね。

「『恋に至る病』の脚本と、『こどもの恋愛』という曲が、全く別の場所で生まれたにも関わらず、すごくシンクロしたんです」(浜崎さん)

襟川 映画のなかで存在感を放っていたアーバンギャルドの音楽ですが、『恋に至る病』をご覧になって、どう思いましたか?

浜崎 アーバンギャルドにぜひ音楽を担当してほしい、ということで、監督から熱烈にオファーをいただいたところから始まったんですけれども、『恋に至る病』の脚本と、わたしたちが映画とは関係ないところで作っていた『子どもの恋愛』という曲が、全く別の場所で生まれたにも関わらず、すごくシンクロしたんですね。これは、一種の奇跡が生んだ作品同士なんだな、と思いました。

染谷 (監督と浜崎さんの方を見ながら)似ているんですよ、この2人。

襟川 不思議ですね。雰囲気的にも非常に近いものがありますね。

浜崎 『恋に至る病』の公式ホームページ上に、わたしと松永で、監督について語らせていただいたインタビュー記事が掲載されているんですけれども、「監督、これを読んだらメールください」と言ったら、本当にメールがきて、愛を感じました。

木村 大好きだよ。

浜崎 わたしもだよ。

染谷 楽屋でやってもらってもいいですか(笑)。

「映画から、監督の一途さとか、真面目さというものがものすごく伝わってきました」(松永さん)

襟川 松永さんは、映画を観て、どのような感想をお持ちになりましたか?

松永 監督は、恋にのめり込むひとだと思うんですよ。映画から、監督の一途さとか、真面目さというものがものすごく伝わってきました。言葉のやりとりや、「このひとに対してこのひとが相性がいい」「悪い」など、キャラクター同士の関係性がカードゲームのようになっていて、そういう描きかたができるのは、監督の個性なのかなと感じましたね。

「映像を観ていれば、どういうリズムで音を合わせていけばいいかということが、自然に見えてくる映画でした」(谷地村さん)

襟川 映画のなかで、ピコピコという電子音が入っていますよね。あれは、込み入った注文があったんですか。

谷地村 いえ、そんなに煩雑な注文はなかったですけれども。映画のBGMは、作品の雰囲気を表すものが多いと思うんです。でも、この映画には、全体的にリズム感があったので、映像を観ていれば、どういうリズムで音を合わせていけばいいかということが、自然に見えてきました。リズムについては、想定して作っているという話を監督に聞いたので、さすがだなと思いましたね。

襟川 シンプルだけどオフビートというか、聴き心地がいい、映像を邪魔していない音楽でした。

谷地村 BGMというよりは、効果音に近い位置づけなのかな、と思うんですよね。映像のなかの効果音って、存在感はあるけど邪魔にはなっていないじゃないですか。そのくらい、映像と音楽が寄り添っていたから、違和感を感じなかったのかなと思います。

「裸をさらけ出して作ったような感じが、非常に面白かったなと思います」(菊池さん)

襟川 監督は、現場でもこういう格好をしていらしたんですか?

染谷 現場ではいつも、「ニューシャネル」とプリントされているTシャツを着ていました。

木村 助監督の方が、「同じTシャツ持ってるよ」と仰っていて、お揃いにならないかと思ってよく着ていたんですけども、結局1回もお揃いになりませんでした。(座席の奥の方を指し示しながら)後ろにいる、ワインレッドの服の方が助監督です。

襟川 あの方ですね。ちょっとこちらにいらっしゃいませんか。

(ここで、急遽、菊池助監督が登壇)

襟川 木村監督は、どんな監督でしたか?

菊地健雄助監督 いままで色々な監督にお目にかかってきましたが、その中で郡を抜いて個性的な監督でした。みんな、やっぱりどこか恥ずかしがって、自分を良く見せたりするなかで、裸をさらけ出して作ったような感じが、非常に面白かったなと思います。

木村 お世話になりました。

襟川 会場のみなさまに向けて、木村監督からひとことメッセージをお願いします。

木村 ありがとうございました! そのひとことに尽きます。もう1回、観に来てください。

▼『恋に至る病』作品・公開情報
出演:我妻美輪子 斉藤陽一郎 佐津川愛美 染谷将太
監督・脚本:木村承子
プロデューサー:天野真弓
撮影:月永雄太
音楽:アーバンギャルド
主題歌:アーバンギャルド『子どもの恋愛』(ユニバーサルJ)
録音・整音:村越宏之
美術:井上心平
編集:増永純一
助監督:菊地健雄
制作担当:和氣俊之
配給:マジックアワー
宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
2011/HD/16:9/116分/カラー/PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、IMAGICA)提携作品
コピーライト:(C)PFFパートナーズ
『恋に至る病』公式サイト
※10/13より、渋谷ユーロスペース他、全国順次ロードショー!

取材・編集・文:南天 スチール撮影(舞台挨拶):仲宗根美幸

▼過去の関連記事
『恋に至る病』 木村承子監督 インタビュー ― 好きなひととの性器交換を妄想する、エキセントリックな主人公「ツブラ」は、いかにして誕生したのか?
『恋に至る病』 ― ある日、性器が入れ替わった生徒と教師の、恋のゆくえ。


  • 2012年10月25日更新

トラックバックURL:https://mini-theater.com/2012/10/25/koisyonichi/trackback/