映画の達人-映画監督 舩橋淳さん
- 2010年02月10日更新
「映画の達人」は映画界で活躍する皆さんに愛してやまない映画について熱く語っていただくコーナーです。
映画の達人2回目は舩橋淳監督。舩橋監督はNYで映画製作を学んだ後、NYを拠点に「echoes」(2001年)、 オダギリジョー主演の「ビックリバー」(2005年)を監督。発表作品は海外の映画祭で高い評価をうけています。最新監督作品は「谷中暮色」(2009年)。今月より名古屋、大阪で一般上映が予定されています。日米両国で制作を続ける監督への今回の映画の達人テーマは「異国で見たい映画」。驚いたことに、監督から出てくる作品は異国で郷愁を誘う作品ではなく、あくまでも世界で戦うためのラインナップ。ぶれない男、舩橋監督の世界水準の映画話お楽しみください。
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舩橋淳「地球のどこにいてもシビれる映画」
1.騙されてもいい、騙して欲しいコメディ―「集金物語」、「飛行士の妻」
2.ヤクザ映画“脱臼”の妙-「関東無宿」
3.不純物一切なしの研ぎ澄まされた一本―「残菊物語」
コメディとはゲーム性。美人で機転の利く女がコロっと男をだます遊びはいかにも映画的で、世界中どこでも通用すると思うんです。「集金旅行」は松竹メロドラマで有名な中村登監督の軽やかなコメディ。日本全国に男がいるという女が慰謝料を脅し取ってまわる、それに別の借金の取り立てを渋々やってる男が同行する。一緒に集金旅行をしましょうって話なんですが、その設定の好い加減さ!男と女の共犯関係のわくわくした楽しさが堪能できる作品です。主役の岡田 茉莉子はMOGAで男を引っぱたいちゃう強い女。ハワード・ホークスのコメディに出てきてもおかしくない、きびきびしていて、かわいらしい。これだったら、コロっと男が騙されてしまうのも納得できてしまいます。先日、亡くなったエリック・ロメールの傑作「飛行士の妻」もアメリカだろうが日本だろうがどこにいても見たい作品。ポンっと飛躍してみせるご都合主義の対極で、「偶然の成り行き(展開)」の鮮やかさに納得させられてしまう。偶然の連鎖でこの世界ができている、ということを映画の中で見せられてしまう。そこには俳優の魅力であったり、いろんな要素がないとダメなんですけどね。ロメール印の偶然には説得力があり、時折騙されてみたくなってしまうんです。
舩橋淳のこれを見ろ
集金旅行(1957年)監督:中村登
家賃の取り立てを思いついた男と、慰謝料の請求を思いついた女が、ともに集金目あての旅に出かけ、行く先々でいろいろな事件に遭遇するロードムービー。アチャコ、トニー谷など個性的な喜劇俳優達が出ているのも見どころ。
飛行士の妻(1980年)監督:エリック・ロメール
学生のフランソワは年上の恋人アンヌを訪ねると男と一緒にいるところを目撃してしまう。その男はアンヌの元不倫相手、飛行士のクリスチャン。しかしフランソワは偶然にもクリスチャンが他の女と一緒にいるところ見かけ、その追跡を始めた。だがバスに同乗していた女の子リシューに、自分を尾行していると勘違いされて…。思い違い、偶然の出会いから生まれる恋愛コメディ。
エリック・ロメール コレクション 飛行士の妻 [DVD]
NYで「関東無宿」を見せると大ウケでした。
「昭和残侠伝」(マキノ雅弘、佐伯清)シリーズなどやくざ映画には、決まった型―しがないやくざ稼業に染まった男達が借金や他の組の攻撃など抑圧に耐えに、耐え抜いて、最後に渡世の義理のため殴り込む。そこには男を慕う美女が必ずいて「おまえさん、きっと生きて帰ってきてね」―っていうまっすぐな人々の世界があるんですけれど、この作品はヤクザ映画の本流を、全く脱臼させてるんです。鈴木清順特有の人を食っている感じ。どう考えても(本流のやくざ映画と比較して)ゆがんでるよねという人間ばかり。アメリカにはやくざ映画の本流、亜流がない。外国で見ると、本流、亜流関係なく、純粋に演出の面白さに目が行ってしまって、ゆがみさえも、そのままに受け入れられてしまう。殴り込みで小林旭が暴れた後、書き割りが全て倒れて、バックが真っ赤になってしまうクライマックスなんて、タランティーノはモロに影響をうけてんじゃないでしょうか。
関東無宿 DVD発売中¥3,990(税込)発売元:日活 販売元:ハピネット
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関東無宿(1963年) 監督:鈴木清順
伊豆組の組長を父にもつ女子高生トキ子は組の幹部である鶴田に恋い焦がれている。トキ子の友達、花子が、伊豆組によって売り飛ばされてしまう。義理のために花子を追う鶴田の前に、昔馴染みの女博徒・辰子(伊藤弘子)が現れる。
眉毛の太いやくざと三つ編み女子高生が同居する、本流やくざ映画にはありえない鈴木清順ワールドは強烈なインパクト。
この作品は溝口の決定版ですね。一糸乱れぬとはこのことだなと思う。ワンシーンワンショットですべて撮っていくんですけど、妥協のなさぶりがすごい。不純物のない感じっていうのを外国で見たくなるんですよ。あの研ぎ澄まされた感じというのが、例えばアメリカ的な感性にはあんまり見られない。大きくばっさりやっちゃってその中で一番強いもので押してゆこうぜ!ってのがアメリカの美学ですね。それはそれで大好きなんだけど、それとは真逆の不純物を抜いた完璧さ。山を登るんだったら、ぐるぐる回りながら適当に行くんじゃなくて、一直線に上っていくという感じの切れ味。「残菊物語」は日本人であろうがなかろうが泣いてしまうと思う。現にボロ泣きしたというアメリカ人を僕は知ってます。ひとつのショットで全く異なる時空と人物たちをヒューっとつなげてしまうってのが、溝口作品にはよくあるんですけれど、それを美しく見せられたら、あ、そうかって思っちゃう。溝口の作品はこれしかないという形があって、説得力があります。
「残菊物語」 DVD発売中 ¥4,935(税込)発売・販売元:松竹株式会社映像商品部 潤・939 松竹株式会社
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残菊物語(1939年)監督:溝口健二
歌舞伎役者尾上菊之助は、多くの取り巻きがうわべで芸を褒めそやす中、たった一人、自分の芸の至らなさを指摘してくれる子守のお徳と身分の違いの恋に落ちる。お徳と一緒になるために全てを捨て、芸に励む菊之助とそれを支えるお徳の姿を描く作品。
次回の「映画の達人」は映画監督・万田邦敏さんです。お楽しみに。
大阪府出身。ニューヨークのスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツで映画演出を学ぶ。長編映画デビューとなった16ミリ作品『echoes』(01)は仏アノネー映画祭で審査員賞および観客賞受賞。05年、長編映画第2作にして初の35ミリ作品となる『ビッグ・リバー』を監督。2005年にはアルツハイマー病に関するドキュメンタリーで米テリー賞を受賞。昨年、東京・谷中で新作「谷中暮色」を撮り、ベルリン国際映画祭でワールドプレミア、現在国内の劇場で一般公開されている。 映画作家としての活動に加え、積極的に映画及び芸術批評の執筆活動を行っている。2007年9月に10年住んだNew Yorkから谷中へ移住。日米両国で作品を制作している。
取材・文:白玉、おすず
改行
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