『ルナの子供』名古屋シネマテーク初日に、鈴木章浩監督たちが舞台挨拶!

  • 2010年01月27日更新

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鈴木章浩監督の『ルナの子供』が、2010年1月23日に名古屋シネマテークで初日を迎え、鈴木監督、音楽・MA(音声編集)の北野雄二さん、サウンド・トラックの上條貴史さんが、舞台挨拶に登壇しました!

←の写真、左から、上條さん、北野さん、鈴木監督です。この日、お三方は東京から自動車で駆けつけました! レイトショー後のトーク・イベントだったので、ネタバレも飛びだしましたが、物語の核心に触れる部分は割愛して、リポートをお届けします。

「『自分の存在を、記憶に残してもらう』ということは救いであり、『誰かの存在を、記憶に残す』ということは愛情だと思います」(鈴木監督)

『ルナの子供』は、第1話『彼女の物語』、第2話『美月の物語』、第3話『ヒカリの物語』の、3編からなるオムニバス。『彼女の物語』には癌を患った男性が登場しますが、彼を演じた俳優で、エグゼクティヴ・プロデューサーも務めた田中冬星さんは、ご自身も癌を患っておられるとのことです。

「『彼女の物語』を撮ったきっかけは、冬星さんに末期癌が見つかったことでした」と、鈴木監督は当時を振り返りました。「入院していた冬星さんに、2日間だけ退院が許されたので、その2日で『彼女の物語』を撮影しました。数日後には手術が控えていたんです。『手術をして亡くなる可能性もあるから、(生きているうちに)どうしても映画に出演したいんだ』と、冬星さんはおっしゃいました。そういう意味もあって、とても緊張感のある撮影現場でした」 ― 鈴木監督は、そう語りました。

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更に、鈴木監督は、「『自分の存在を、記憶に残してもらう』ということは救いであり、『誰かの存在を、記憶に残す』ということは愛情だ、と僕は思います。『彼女の物語』には、そういうメッセージが含まれています。『彼女の物語』は冬星さんにとってのファンタジーであり、僕が彼にあげたかったファンタジーでもあるんです」と続けました。

「『映画を残したい』という冬星さんのパワーには感服しました」(北野さん)

「映画に賭ける情熱がある人はすごい」とは、北野さんの冬星さんへの言葉。「冬星さんは、昨年の時点で、『もう桜を見ることはできない』と医師に言われていたんです。今日明日を生きているのが不思議なくらい、癌が全身に転移しているのに、映画を作りたい一心で突っ走って、本作を完成させました。『映画を残したい』という彼のパワーには感服しました」と北野さんが語ると、鈴木監督も、「僕もそう思います。映画は『残るもの』なので、それが希望になりますね」と話しました。

「『このシーンには、この曲がいいかな』と考えて作って鈴木監督にお渡ししたんですが、完成した映画を観たら、(僕の予想とは)全然違うシーンで曲が使われていました(笑)。でも、逆にそれが、とてもおもしろかったんです」(上條さん)

サウンド・トラックを担当した上條さんは、ロックやJ-POPのベーシストかつ作曲家としてご活躍のミュージシャン。これまで、映画音楽を手がける機会はあまりなかったので、楽しい経験になったということでした。「普段は譜面を書きながら作曲をするのですが、今回は一度も譜面を書いていないんです」と上條さん。「ギターやベース、キーボード、ハーモニカ……、家中にある楽器を目の前に並べて、画を観ながら、『どの楽器がいいかな』と手にとって、録音しました。(自分にとっては)初めてのやりかたでした」と話しました。

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上條さんの音楽について、鈴木監督が、「僕が想像しているのと、まったく違う曲を書いてきてくれるので驚きましたが、シーンに音楽をのせてみると、『この曲でなくてはいけない』という感じになるので、とてもおもしろかったです」と話すと、上條さんは、「『このシーンには、この曲がいいかな』と考えて作って鈴木監督にお渡ししたんですが、完成した映画を観たら、(僕の予想とは)全然違うシーンで曲が使われていました」と笑顔になりました。鈴木監督は苦笑して、「シーンだけでなく、音楽の速度や音質も勝手に変えて、上條さんには事後報告、ということもあったんですよ」と、観客に明かしました。

「映画作りは、『現実を組み替えて、新しいリアリティを作る』という作業です」(鈴木監督)

「『ルナの子供』を作るにあたって、自分と感受性の違う人々とコラボレーションをする、というテーマもありました。音楽や音響に関しても、このコラボレーションが成功しました」と鈴木監督。「映画作りには、画と音を組み替えて構築していく、という作業があります。言うなれば、『現実を組み替えて、新しいリアリティを作る』という作業です。本作に関わってくれた多くの人々の知恵と力を借りて、この作業ができたことが、とてもおもしろかったです」と話しました。

主に手持ちカメラで撮影された『ルナの子供』。観客から、手持ちカメラを使用した理由について訊ねられた鈴木監督は、「画を決めて、そのフレームの中で人間を動かすよりは、人間が動くのをカメラで追いたかったんです。状況とフィクションの中に人間を投げこんで、その中でドキュメンタリー的な作品を作りたい、という意図がありました」と答えました。また、鈴木監督の言葉を受けて、北野さんが、「鈴木監督の、『ライヴ感を重視していてもドキュメンタリーではない』という手法は、とても斬新だ、と彼と働いていると実感します」と話しました。

続けて、観客から、「『ルナの子供』を観て、登場人物の人間関係に一定の距離がある印象を受けました。そういう点は意識して作ったのでしょうか?」という質問があがりました。

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その質問に、鈴木監督は、「最近の映画には、カットが短くて、多くの情報を短時間につめこんでいる作品が多いですが、僕はそうではない映画を作りたいんです。主張を押しつけるのではなく、あらゆることを喚起させる要素を散りばめて広げて見せることで、観る人それぞれに、いろいろなことを見つけてもらって、考えていただきたいんです。僕たちが生きている現実の世界は、そういうものですよね。それを映画でも表現したい、と思っています」と答えました。

第3話『ヒカリの物語』には、個性的なアニメーションが使われている部分があります。そのアニメーションに関して詳しく教えてほしい、という要望があがりました。

「実験的アニメーションを作っている友人に、作品を使わせてくれるように頼んだら、快く了承していただけたんです」と、鈴木監督は答えました。そのお友達とは、映像作家の中村智道さん。『ルナの子供』で使用された『ぼくのまち』というアニメーションは、イメージフォーラム・フェスティバル2007で奨励賞を受賞した作品です。「『ぼくのまち』を劇中で使ったら、まるでオリジナルで作ったようにマッチしたので、奇跡的な恩恵に与った気持ちになって、とても嬉しかったんです」と、鈴木監督は笑顔になりました。

トーク・イベントの終了後も、鈴木監督は会場に残って、ファンのかたがたの質問に真摯に答え、サインにも快く応じていました。名古屋の夜は更けていきましたが、鈴木監督とファンのみなさまの映画論は、尽きることがありませんでした。

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▼『ルナの子供』公開情報
2010年1月28日・29日の20:25より、名古屋シネマテークにて上映。
『ルナの子供』公式サイト

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『ルナの子供』 鈴木章浩監督 インタビュー
『ルナの子供』 作品紹介

取材・文・撮影:香ん乃
改行

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