8月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2020年08月05日更新

8月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?

LINE UP
8/7(金)公開『ジョーンの秘密
8/7(金)公開『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち
8/8(土)公開『もったいないキッチン
8/14(金)公開『ファヒム パリが見た奇跡
8/21(金)公開『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版
8/22(土)公開『シリアにて
8/28(金)公開『ソワレ
8/28(金)公開『ようこそ映画音響の世界へ
8/29(土)公開『マロナの幻想的な物語り

更新情報:8月14日に『海の上のピアニスト』を追加掲載しました。


『ジョーンの秘密』

スパイ容疑をかけられた老女の秘められた過去

映画『ジョーンの秘密』メイン画像実話をもとにしたベストセラー小説を映画化。第二次大戦中に核開発の機密任務に就いた女性の老年期をジュディ・デンチ、若かりし頃をソフィー・クックソンが演じる。2000年5月、夫に先立たれ一人で穏やかに暮らしていたジョーンは、突然訪ねてきたMI5に逮捕されてしまう。半世紀以上も前に、核開発の機密情報をソ連に流したというスパイ容疑だった。彼女の息子で弁護士のニック立ち会いのもと、次々と驚くべき真実が明らかになっていく……。本作は、スパイ映画であり歴史映画、恋愛映画、そして家族映画でもある。まず、平凡な高齢女性がスパイだったのか?という意外性に引き込まれる。ケンブリッジ大学で物理を学んだ後、関わったプロジェクトがもたらした重大な出来事。それを機に、若いジョーンの心に疑問と変化が生じていく経緯は、スリリングでドラマティックだ。長い間秘密を背負ってきた彼女の表情は、貫いてきた信念と正義に揺るぎがないことを物語っている。(吉永くま)

2020年8月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018/イギリス/101分/PG-12) 原題:Red Joan 監督:トレヴァー・ナン 出演:ジュディ・デンチ、ソフィー・クックソン、トム・ヒューズ ほか 配給:キノフィルムズ/木下グループ © TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018


『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』

苦難の歴史をたどった民族の魂の叫び

アメリカの先住民族、いわゆるインディアンの血が、いかに世界の音楽の潮流に影響を与えてきたかを、数々の演奏場面をとらえた記録映像と多くの証言で構成したドキュメンタリー。リンク・レイをはじめ、ジミ・ヘンドリクス、チャーリー・パトンら、インディアンをルーツに持つミュージシャンたちの顔ぶれが豪華で、ロック、ポップス、ブルースにジャズ、フォーク、カントリーと、あらゆるジャンルに彼らの民族性が刻まれていることに驚く。かつては黒人よりも虐げられ、レイが29歳のときに発表したインストルメンタル曲の「ランブル」が歌詞もないのに放送禁止になったエピソードなど、苦難の歴史をたどってきた彼らの高度な音楽性、魂の叫びに胸が熱くなった。(藤井克郎)
Photo by Bruce Steinberg, Courtesy of linkwray.com

2020年8月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2017年/カナダ/102分)原題:RUMBLE The Indians Who Rocked The World 監督:キャサリン・ベインブリッジ 出演:リンク・レイ、チャーリー・パトン、スティーヴィー・サラス ほか 配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム © Rezolution Pictures (RUMBLE) Inc.


『もったいないキッチン』

日本を旅して食品ロス解決のヒントを探る

前作『0円キッチン』(2015)で、ヨーロッパをキッチンカーで旅しながら廃棄食材を用いて料理を作る実験を続けたオーストリア出身のダーヴィド・グロス監督。第2弾は舞台を日本に移し、無駄を抑えた「もったいない」精神が根付くこの国で、なぜこんなにも食品ロスが発生するのかを探る。スーパーやコンビニで、まだ賞味期限前の食品が大量に捨てられる現状に「もったいない」を連発するグロス監督だが、一方で街ぐるみで家庭の生ごみをコンポスト処理してリサイクル活用を図る福岡市での取り組みなど、日本人も知らないような先進的な試みが次々と登場。精進料理や昆虫食など、日本伝統の食文化にヒントがあるかもというグロス監督の目のつけどころにハッとさせられた。(藤井克郎)

2020年8月8日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/95分) 監督・脚本:ダーヴィド・グロス 出演:ダーヴィド・グロス、塚本ニキ、井出留美 ほか 配給:ユナイテッドピープル © UNITED PEOPLE


『ファヒム パリが見た奇跡』

チェスの天才少年が挑む難民問題の壁

難民問題に絡んだ実話を基に、俳優でもあるピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル監督が、ユーモアを交えて心温まる作品に仕上げた。父親が反政府活動をしているバングラデシュの8歳の少年、ファヒムは、父親と2人だけでフランスに脱出する。故郷に残った母親を思って寂しがるファヒムにとって、心の支えはチェスだった。父親に連れられてチェスの教室を訪れるが、子どもたちに指導していたのは、壁を叩いて怒鳴り散らす鬼コーチのシルヴァンだった。教室の仲間もシルヴァンも、ファヒムのことを外国人という視線では見ておらず、特別な才能を尊敬している描写が素晴らしい。と同時に、難民をめぐる厳しい現実もきっちりと描いており、絶妙なバランス感覚に唸った。(藤井克郎)

2020年8月14日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/フランス/107分)原題:Fahim 監督・脚本:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル 出演:アサド・アーメッド、ジェラール・ドパルデュー、ミザヌル・ラハマン ほか 配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES © POLO-EDDY BRIÉRE.


『海の上のピアニスト』4Kデジタル修復版&イタリア完全版

消えゆくものの美しさと儚さと

映画『海の上のピアニスト』メイン画像『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督と、今年7月に逝去した映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネがタッグを組んだ1998年の作品。船の上で生まれ、生涯船を下りなかった伝説のピアニストの人生が、1枚のレコードから解き明かされる。その生年から“1900”(ナインティーン・ハンドレッド)と名付けられた青年。船と音楽の世界しか知らなかった彼が“恋”に出会ったとき、どのような決断をするのか……。見事な映像と音楽で、消えゆくものの美しさと儚さを描いた作品。圧巻は“1900”が大波で揺れる船上で縦横無尽に滑るピアノを演奏する場面。コミカルでスリリング、かつダンスを観ているような優雅なシーンだ。数奇な運命を持つ主人公を見守り続けた友人のトランぺッター、マックスをはじめ、人々の優しさが心に染みわたり、温かい気持ちに包まれる。(吉永くま)

2020年8月21日(金)より4Kデジタル修復版、9月4日(金)よりイタリア完全版を全国順次公開 公式サイト
(1998年/アメリカ・イタリア/
4Kデジタル修復版:121分、イタリア完全版<HDリマスター>:170分)英題:THE LEGEND OF 1900 監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ 出演者:ティム・ロス、プルイット・テイラー・ヴィンス、メラニー・ティエリー ほか 配給:シンカ © 1998 MEDUSA


『シリアにて』

アパートに身を潜める人々の緊迫の24時間

映画『シリアにて』メイン画像市街戦が続くシリアの首都ダマスカスのアパートを舞台に、緊迫感に満ちた24時間を描く。3児の母オームは、戦地にいる夫が留守の間、自らの家族と、彼女の元に身を寄せる隣人ハリマの一家と共にアパートの一室で生活を続けていた。ある日、ハリマの夫がレバノンへの脱出手続きのためにアパートを出るが、その途端スナイパーに撃たれ、駐車場の端で倒れてしまう……。ここでは戦闘シーンが直接描かれるわけではない。カメラが映し出すのは、砲撃の爆音や階上の強盗の足音に怯えながら息を潜めて生きる女性や子ども、老人の姿だ。物理的な被害だけでなく、「大切な人を守る」「生き延びる」という思いが、後悔や罪悪感、絶望感を生み出すという心理的な残酷さにも心がえぐられる。この作品が、日本ではあまり報道されることのない市井の人々の不安や恐怖、苦悩を知るきっかけになってほしい。(吉永くま)

2020年8月22日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2017年/ベルギー・フランス・レバノン/86分)原題:Insyriated 英題:In Syria 監督・脚本:フィリップ・ヴァン・レウ 出演:ヒアム・アッバス、ディアマンド・アブ・アブード、ジョリエット・ナウィス ほか 配給:ブロードウェイ  ©Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films


『ソワレ

期せずして交わった2人のやるせない青春

翔太は役者を目指すものの身が入らず、オレオレ詐欺の片棒を担ぐなどして糊口をしのいでいた。所属する劇団が高齢者施設で演劇を教えることになり、生まれ故郷の海辺の町を訪れる翔太。施設では、どこか影のある女性、山下が黙々と働いていた。特に言葉を交わすことのない2人だったが、夏祭りの日に翔太が山下を呼びにいくと……。期せずして交わってしまった2人のやるせない青春模様を、外山文治監督は荒々しい描写と緩急を織り交ぜた絶妙のテンポ感で勢いよくつづっていく。複雑な心のうちを反映した村上虹郎と芋生悠の表情が圧巻で、アップを多用して迫ったカメラワークが光る。小泉今日子らが設立した新世界合同会社の第1回プロデュース作品というのも注目だ。(藤井克郎)

2020年8月28日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/111分) 監督・脚本:外山文治 出演:村上虹郎、芋生悠 ほか 配給:東京テアトル © 2020ソワレフィルムパートナーズ

◆オススメ記事:一瞬の奇跡をとらえたきらめき―『左様なら』石橋夕帆監督&芋生悠、祷キララインタビュー


『ようこそ映画音響の世界へ』

名作映画の「音」の秘密にワクワクが止まらない!

映画『ようこそ映画音響の世界へ』メイン画像劇場で映画を観る楽しみの一つは、「音」の迫力を楽しむことだ。ミニシアター好きと言えども、ハリウッド大作などは、大きなスクリーンと大迫力の音響で存分に臨場感を楽しみたい。無声映画の時代を経て、世界初のトーキー映画『ジャズシンガー』が誕生した1927年から100年あまり、映画音響は驚異の進化を遂げてきた。本作は、『キング・コング』(1933)、『スター・ウォーズ』(1977)、『ROMA ローマ』(2018)ほか、新旧名作映画のフッテージをふんだんに盛り込み、映画における音の重要性とその歩みを紐解く。ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグ、デビッド・リンチ、アン・リー、クリストファー・ノーラン……など超豪華な監督インタビューに加え、ウォルター・マーチ(『地獄の黙示録』『ゴッドファーザー<PART II、III>』)、ベン・バート(『スター・ウォーズ』『インディ・ジョーンズ』)、ゲイリー・ライドストローム(『ジュラシック・パーク』『プライベート・ライアン』)といった映画音響界のレジェンドたちの証言が大きな見どころ。「あの名作のあの音は、こんな風に作られていたの!?」とワクワクするエピソードの連続で、映画という総合芸術の奥深さにあらためて感嘆する。(min)

2020年8月28日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/アメリカ/94分)原題:Making Waves 監督:ミッジ・コスティン 出演:ウォルター・マーチ、ベン・バート、ゲイリー・ライドストローム、ジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・リンチ、アン・リー、ライアン・クーグラー、ソフィア・コッポラ、クリストファー・ノーラン、アルフォンソ・キュアロン、バーブラ・ストライサンド 配給:アンプラグド © 2019 Ain’t Heard Nothin’ Yet Corp.All Rights Reserved.


『マロナの幻想的な物語り』

幅広いアニメ手法によるめくるめく映像美にくらくら

ルーマニア出身のアンカ・ダミアン監督による手描きのアニメーションで、東京アニメアワードフェスティバル2020で長編部門のグランプリを獲得した。9匹生まれた子犬の末っ子、ハート型の鼻を持つ「私」は曲芸師のマノーレの手に渡り、「アナ」と呼ばれてかわいがられる。だがマノーレの仕事の邪魔になりたくないとその元を去った「私」は、今度はイシュトヴァンと出会って「サラ」になる。かわいい子犬と拾い主たちとの交流を、柔軟な構図に多彩な筆致、鮮やかな色づかいと、幅広いアニメ手法をたっぷりと使って表現。まさに幻想的なめくるめく展開は、くらくらするほど魅力に満ちている。9月には女優ののんが主人公の声を演じる日本語吹き替え版も公開されるというから、こちらも楽しみだ。(藤井克郎)

2020年8月29日(土)より全国順次公開 公式サイト 海外版予告編動画
(2019年/ルーマニア・フランス・ベルギー/92分)原題:Marona’s Fantastic Tale 監督:アンカ・ダミアン 声の出演:リジー・ブロシェレ、ブルノ・サロモン、ティエリー・ハンシス ほか 配給:リスキット © aparte film,sacrebleu productions,mind meet

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