11月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2020年11月01日更新

11月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?

LINE UP
11/6(金)公開 『トルーマン・カポーティ 真実のテープ
11/6(金)公開 『ストックホルム・ケース
11/14(土)公開 『国葬
11/20(金)公開 『ホモ・サピエンスの涙
11/21(土)公開 『空に聞く
11/27(金)公開 『佐々木、イン、マイマイン
11/27(金)公開『ヒトラーに盗られたうさぎ
11/29(日)公開 『彼女はひとり

更新情報:11月13日に『ヒトラーに盗られたうさぎ』を追加掲載しました。


『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』

希代の天才作家に翻弄される米社会

『ティファニーで朝食を』や『冷血』などの小説で高い評価を受けながら、数多くのスキャンダルにまみれた米作家、トルーマン・カポーティ。その評伝の執筆者、ジョージ・プリンプトンの集めた膨大な証言テープを基に、新たに撮影した関係者のインタビューを交えて、世紀の奇才の素顔に迫った。カポーティ自身はゲイで恋人もいながら、セレブな女性ファンを巻き込んでやりたい放題の仮面舞踏会を開く。かと思えば、彼女たちが特定できる小説を一部だけ発表して、徹底的にたたかれる。すべてが嘘に固められた人生のようで、そんな希代の天才に翻弄される米社会の混乱ぶりがおかしい。いったい彼は何がしたかったのか。イーブス・バーノー監督は、謎のままわれわれに問いかける。(藤井克郎)

2020年11月6日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/アメリカ=イギリス/98分)原題:The Capote Tapes 監督・製作:イーブス・バーノー 出演:ディック・キャベット、ケイト・ハリントン、ルイス・ラファム ほか 配給:ミモザフィルムズ ©️2019, Hatch House Media Ltd.


『ストックホルム・ケース』

異常な状況下での不可解で危険な心理

映画『ストックホルム・ケース』メイン画像

「誘拐や監禁事件などの被害者が、犯人に対して連帯感や好意的な感情を抱く心理現象」ストックホルム症候群。その語源である、スウェーデンの銀行強盗事件をモチーフにしたクライム・スリラーだ。悪党のラースは自由の国アメリカに逃れるために、ストックホルムの銀行で強盗事件を起こす。彼は幼い娘を持つ銀行員ビアンカらを人質にとり、釈放させた仲間と逃走を企てるが警察に封じ込められる。やがて、犯人と人質の間に奇妙な共感が生まれてくるようになる……。作品にはボブ・ディランの名曲が流れるなど、1970年代前半の空気感がたっぷり。銀行強盗、人質、銃といった物騒なワードが並びながら、どこかのんびりとしたゆるさを感じるのは、随所に挟まれるコミカルなシーンに笑いを誘われるからだろう。ラースが悪の中にある善、狂気の中にある優しさや純粋さを見せるとき、人質の気持ちに変化が訪れる。その流れがとても自然で、犯人と人質の間のみならず人質と観客の間にも共感が生まれそうだ。異常な状況下での不可解で危険な心理、これは脳の錯覚なのか本物の感情なのか。ラース役のイーサン・ホークの救いを求めるような瞳と、ビアンカを演じるノオミ・ラパスの凛とした眼差しが印象深く、2人が目と目で心を通わせるシーンはとても愛おしい。(吉永くま)

2020年11月6日(金)より全国順次公開 公式サイト  予告編動画
(2018年/カナダ・スウェーデン/92分)原題:STOCKHOLM  監督・脚本:ロバート・バドロー  出演:イーサン・ホーク、ノオミ・ラパス、マーク・ストロング ほか 配給:トランスフォーマー ©2018 Bankdrama Film Ltd. & Chimney Group. All rights reserved.


『国葬』

次々と押し寄せる大量の顔に圧倒

1953年3月5日、旧ソ連の指導者、スターリンがこの世を去る。このときに200人弱のカメラマンが撮影した大量の映像を基に、ウクライナ出身のセルゲイ・ロズニツァ監督がアーカイバル(記録)映画として構築した。スターリンの死去の報に接し、モスクワだけでなくシベリアや中央アジアなどソビエト全土で街の中心部に人々が集まる様子から始まり、海外からの弔問客、遺体を運ぶ荘厳なパレードなど、世界最大級の国葬の模様を余すところなく映し出す。中でも印象的なのは、スターリンの死を悼んで集まった人々の群れで、次から次へと押し寄せる大量の顔には圧倒される。実音以外、余計な音楽は一切つけず、何を感じるかは見る者次第ということか。やはり「群衆」をとらえたロズニツァ監督の『粛清裁判』『アウステルリッツ』と同時公開。(藤井克郎)

2020年11月14日(土)より全国順次公開。東京は12月11日(金)まで 公式サイト 予告編動画
(2019年/オランダ、リトアニア/135分)原題:STATE FUNERAL 監督:セルゲイ・ロズニツァ 配給:サニーフィルム ©︎ATOMS & VOID


『ホモ・サピエンスの涙』

静かでとぼけた味わいに心ざわめく

『さよなら、人類』など、独特の皮肉なユーモアで人気の高いスウェーデンのロイ・アンダーソン監督5年ぶりの新作。昨年のベネチア国際映画祭では監督賞に当たる銀獅子賞を受賞した。登場人物や断片的なシーンの数々には、今回もまるで脈絡がない。ベンチに座る男女。十字架を背負って歩く男。カフェの前で踊る女の子たち。シャガールの絵を模した街の上空をさまよう男女もいる。すべて据え付けのカメラによるワンシーンワンカットの撮影は、静かでとぼけた味わいながら、どこか心がざわめくような不安感をかき立てる。開け放たれたドアや窓の向こうにいる人々は、こちらとどう関係しているのか。緻密な構図や演出に込められたアンダーソン監督の個性あふれる視点に酔いしれた。(藤井克郎)

2020年11月20日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/スウェーデン=ドイツ=ノルウェー/76分)原題:OM DET OÄNDLIGA 英題:ABOUT ENDLESSNESS 監督・脚本:ロイ・アンダーソン 出演:マッティン・サーネル、タティアーナ・デローナイ、アンデシュ・ヘルストルム ほか 配給:ビターズ・エンド ©Studio 24


『空に聞く』

何となく伝わってくるいとおしさ

東日本大震災後、岩手県陸前高田市の災害FMラジオでパーソナリティーを務めた阿部裕美さんを、5年にわたって追い続けたドキュメンタリー。東北を拠点に活動する『息の跡』などの映像作家、小森はるか監督が手がけた。パーソナリティーの阿部さんは、スタジオからのトークだけでなく、仮設住宅などを訪ねてさまざまな人にインタビューを行ったり、地域の祭りを取材したりして、幅広く活躍していた。だが3年半で惜しまれつつ退職し、やがて和食の店を開く。映画は、一連の流れをテロップやナレーションで説明することなく、ただ映像を流すだけ。阿部さんがどういう人かもよくわからず、全体を貫くテーマもない。それでも何となく伝わってくる。この「何となく」がとてもいとおしい作品だ。(藤井克郎)

2020年11月21日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/日本/73分)監督・撮影・編集:小森はるか 配給:東風 ©KOMORI HARUKA


『佐々木、イン、マイマイン

色あせていく青春模様をみずみずしく描く

役者を夢見て上京した悠二だったが、演劇の稽古もおろそかで、別れた彼女とはずるずると同棲を続けるなど、ただ惰性で毎日を過ごしていた。そんなある日、高校の同級生の多田と再会し、高校時代のことを思い出す。あの頃、自分は確かに輝いていた。それは佐々木がいたからだ。佐々木役を演じる細川岳の思い出を基に、細川と内山拓也監督とで脚本化。過去と現在を交錯させながら、徐々に色あせていく青春模様を、みずみずしい筆致で紡ぎ上げた。クラス中から「佐々木コール」が沸き起こると何でもやってしまう佐々木のキャラクターが強烈で、細川が振り切った演技で表現。悠二を演じる藤原季節も、好対照の優しい本性を見事に応じきった。奇想天外なラストも一見の価値あり。(藤井克郎)

2020年11月27日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/119分)監督:内山拓也 出演:藤原季節、細川岳、萩原みのり ほか 配給:パルコ ©「佐々木、イン、マイマイン」


『ヒトラーに盗られたうさぎ』

逃避行を続ける10歳の少女の逞しさ

映画『ヒトラーに盗られたうさぎ』メイン画像

世界的な絵本作家、ジュディス・カーの自伝的小説を映画化。1933年、ドイツ・ベルリンで平和に暮らしていた9歳のアンナとその家族は、「次の選挙でヒトラーを批判するユダヤ人の父への弾圧が始まる」と知人から警告され、スイスへ逃げることに。アンナは大好きだったピンクのうさぎのぬいぐるみ、お手伝いのパインピー、ピアノや食卓ひとつひとつに別れを告げ、新たな地へ向かう。やがて10歳になり新しい生活にも馴染んできたアンナだが、その後もパリ、ロンドンへと逃避行を続けることになる……。リンク監督は原作者から「スイスとパリで過ごした冒険に満ちた年月を素敵な経験として覚えている」と聞いたというが、その言葉通り、ナチスの台頭という背景がありながらも、本作には希望や光、明るさが漂う。牧歌的なスイス、言葉が通じず貧しい生活を強いられるパリ、どこにいても逞しさを発揮し、自分の居場所を作っていくアンナから教えられることは多い。絵を描くのが好きで好奇心に満ちた聡明な彼女。リンク監督はこのたった10歳の少女と家族の姿を通して、心地良い余韻と明日を生きる力を届けてくれた。(吉永くま)

2020年11月27日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/ドイツ/119分)原題:When Hitler Stole Pink Rabbit  監督:カロリーヌ・リンク 出演:リーヴァ・クリマロフスキ、オリヴァー・マスッチ、カーラ・ジュリ ほか 配給:彩プロ ©2019SOMMERHAUS FLIMPRODAKTION GMBH/LA SIALA ENTERTAINMENT
GMBH / NEXTFILM FILMPRODAKTION GMBH&CO.KG/WARNER BROS.ENTERTAINMENT GMBH


『彼女はひとり』

緊張感続く脚本と2人の若手俳優の求心力にしびれる!

映画『彼女はひとり』メイン画像「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018」国際コンペティションのSKIPシティアワードを受賞し、「第13回田辺・弁慶映画祭」で主演の福永朱梨が俳優賞に輝いた、中川奈月監督の初長編作。ある出来事により自殺を図った高校生の澄子だが、命を落とすことはなかった。学校生活に戻った澄子は幼なじみの秀明が女性教師と交際していることを知り、彼を執拗に脅迫するようになる……。淡々とした態度ながら鋭利に秀明の精神を削っていく澄子。一見して生きることに無気力そうな彼女の瞳の奥には、底知れぬ孤独と渇望が見え隠れし、サスペンスフルな物語をけん引していく。澄子の目的は何なのか——? 最初から最後まで緊張感を途切れさせず、登場人物たちの関係性を徐々に明かしていく脚本に引き込まれる。澄子の複雑な内面をリアルに感じさせる福永の存在感と、秀明の戸惑いや情けなさを良い意味で普通っぽく自然に演じ切った金井浩人の演技も刮目に値する。黒沢清監督作品などで活躍する芦澤明子が手がける映像の陰影と相まって、60分という上映時間の中にしっかりとした見ごたえを感じる作品。その求心力の高さに思わずしびれた。(min)

2020年11月29日(日)〜12月2日(水)テアトル新宿『田辺・弁慶映画祭セレクション2020/中川奈月監督特集上映 4DAYS』にて上映(併映:短編『昼の迷子』、『夜のそと』※上映スケジュール等は田辺・弁慶映画祭セレクション2020特集ページ にてご確認ください)公式Twitter   予告編動画
(2018年/日本/60分)監督・脚本:中川奈月 撮影:芦澤明子 出演:福永朱梨、金井浩人、美知枝 ほか ©彼女はひとり

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  • 2020年11月01日更新
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