すべての映画館ファンに捧げる— “映画館愛に溢れた映画” オススメDVD&Blu-ray特集

  • 2020年05月14日更新

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新型コロナウイルス感染防止のための緊急事態宣言で、全国各地の映画館が閉鎖を余儀なくされている中、DVDやBlu-ray、オンライン配信で映画を楽しんでいる人も多いことでしょう。ただ懸念するのは、自宅での映画鑑賞に慣れてしまって、いざ自粛期間が開けたときに、果たしてどれだけの人が劇場に戻ってきてくれるのかということです。どうか映画館で映画を観るすばらしさを忘れないでもらいたい。そんな思いを込めて、映画館への愛がぎゅっと詰まった作品を集めてみました。映画を観ることで映画館の魅力を再認識して、再開したあかつきには、そう、ミニシアターに行こう。

(文:藤井克郎)


『シネマの天使』-閉館に至る日々をファンタジーに

『シネマの天使』
(2015年/日本/94分)
監督:時川英之
出演:藤原令子、本郷奏多、ミッキー・カーチスほか

2014年に122年にわたる劇場の幕を閉じた広島県福山市の映画館、シネフク大黒座を舞台に、閉館に至る最後の日々を、ファンタジー色あふれるストーリーと大黒座ファンの実際の思いを交えて織り上げている。閉館が間近な大黒座で働き始めた新人スタッフの明日香は、終映後の館内で謎の老人を見かける。驚くことに、その老人の姿は、映画館を撮影した古い写真のすべてに映り込んでいた。

最初は幽霊かと気味悪がっていた明日香だが、実はこの老人は大黒座に住み着いている天使であり、すべての映画館に彼のような天使がいるのだと説明する。そうして彼は、多くの人々が大黒座ですてきな体験をしてきたのを見つめてきたと語る。ミュージカル映画を観た後に陽気に歌う彼女を見て結婚しようと決めた青年のエピソードなど、恐らくそのすべては実際の大黒座ファンの声を集めたものに違いない。

地元の広島で映画づくりを手がけている時川英之監督は、そんな実話に基づく逸話をちりばめながら、大黒座の隅々までを映像に残していく。壁一面に記された感謝の言葉は、閉館を惜しむ地元ファンが実際に書き込んだものだろうし、劇場入り口からロビー、スクリーン、シートの一つ一つに、長年にわたって人々が映画を楽しんできた痕跡が染みついている。

作品には、天使のほかに映画の仙人なる存在が登場する。その仙人が言う。「映画館は観客に何かを与える場所じゃ。観客はそれを自分の中に持ち帰る。物語はスクリーンを超えて人々の中へ続いてゆく」

最後は大黒座が実際に解体される映像が流れて、映画は終わる。ここまでじっくりと映像として残してもらって、大黒座は幸福な映画館だろう。さぞかし天使も満足しているに違いない。エンディングのクレジットがまた心憎い演出で、涙が止まらなかった。

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『虹をつかむ男 』名場面を語りで聞かせる名人芸

『虹をつかむ男 』
(1996年/日本/120分)
監督:山田洋次
出演:西田敏行、吉岡秀隆、田中裕子ほか

舞台は徳島県の田舎町にある古い映画館、オデオン座。就職に失敗し、東京から家出をしてきた青年、亮は、映画館主のかっちゃんこと活男に声をかけられ、住み込みで働くことになる。待遇の悪さに不満を漏らす亮だったが、映画をこよなく愛するかっちゃんの情熱と映画好きの町の人たちの人情に触れ、徐々に映画館の仕事に魅力を感じていく。

この作品は、渥美清さんの急死によって終了を余儀なくされた『男はつらいよ』シリーズの後釜として、1997年の正月映画として企画された。その『男はつらいよ』(69年、山田洋次監督)をはじめ、『東京物語』(53年、小津安二郎監督)、『雨に唄えば』(52年、ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン監督)といった古今の名作へのオマージュにあふれている。

中でも山田洋次監督が力を注いだのが、かっちゃんを演じる西田敏行が映画の名場面を語りで聞かせるという趣向で、町の人たちに『かくも長き不在』(61年、アンリ・コルピ監督)について身振り手振りを交えて滔々としゃべり尽くすシーンは最高の見せ場だ。後で実際に映画を観た町の人が「かっちゃんの話の方がおもろかったな」などとつぶやいたりもしている。

山田監督がこの仕掛けを思いついたのは、映画評論家の淀川長治さんがテレビ番組で実に楽しく映画のストーリーを語っているのを目にしたのがきっかけだった。当時、徳島県脇町で行われた撮影の現場を取材したが、山田監督は「西田さんの芸に負うところが大きいが、映画の目玉になると思う。日本映画を応援してくれる映画館主に、頑張ってくれという思いも込めました」と語っていた。

映画の中で、かっちゃんが恋心を寄せる八重子を演じる田中裕子のせりふに、かっちゃんのことについて語るこんなすてきなせりふがある。「ああ、観てよかったな。そんなすばらしい映画を見せて、お客さんの満足する顔が見たい。心からそう思っている人なのよ」。

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『旅する映写機』-フィルム大好き職人の姿を記録

映画『旅する映写機』DVDパッケージ『旅する映写機
(2013年/日本/105分)

監督:森田惠子

デジタル上映の波に飲まれて消えゆく運命のフィルム映写機をたどって、全国各地の映画館主、映写技師、修理技術者らを訪ね歩いた。その旅の記録がドキュメンタリー映画『旅する映写機』だ。

森田惠子監督が映画館めぐりを始めたのは、前作の『小さな町の小さな映画館』(2011年)を撮ったことがきっかけだった。北海道浦河町にある映画館、大黒座の館主家族と町民との交流、地域の人々の文化的な暮らしぶりを描いたこのドキュメンタリー映画を作ったとき、ここの映写機が別の劇場から旅をしてきたことを知った。急速にデジタル化が進んでいるこの時代、かろうじて全国に残っている映写機の姿を記録しておかなければ、もうなくなってしまうかもしれない。

こうして訪れた映画館は、岩手県宮古市のみやこシネマリーン、埼玉県川越市の川越スカラ座、広島県尾道市のシネマ尾道など十数カ所に及ぶ。中には、カーボンアークを光源とする古いタイプの映写機を備えた福島県本宮市の本宮映画劇場や、1台の映写機で「流し込み」という技を使って上映している高知県安田町の大心劇場など、今ではほぼここでしかお目にかかれないような貴重な存在の映画館もあった。

映画に登場する人々に共通するのは、みんな損得なしに映画が大好き、フィルムが大好きということだ。フィルム映写による上映という文化を守り抜くという悲壮感ではなく、実にさらっと現状を受け止め、淡々と映写機を回し、黙々と映写機を修理する。自分の役目について訥々と語る証言の数々はそっけないが、だからこそ余計に映画への愛と郷愁が強烈に伝わってくる。あらゆる映画関係者、特に製作、配給に携わる人にはぜひとも見てもらいたい作品だ。

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『シアター・プノンペン』弾圧と虐殺の歴史を乗り越えて

『シアター・プノンペン』
(2014年/カンボジア/105分)
原題:THE LAST REEL
監督:ソト・クォーリーカー
出演:マー・リネット、ソク・ソトゥン、ディ・サヴェットほか

ハリウッドでの映画製作にも携わるカンボジア人女性、ソト・クォーリーカー監督のデビュー作で、プノンペンの古い映画館を舞台に映画愛にあふれた幻想譚がつづられる。

厳格な軍人を父に持つ女子大学生のソポンは、不良のボーイフレンド、ベスナと夜な夜な遊び歩いては、父親をてこずらせていた。そんなある夜、ベスナとはぐれたソポンは、バイクの駐輪場となっている廃墟のような映画館跡に迷い込む。大きなスクリーンに映し出された少女を観て、ソポンは驚く。自分にそっくりな少女は、病気がちな母親の若いころの姿だった。

ここから映画は、スクリーンに流れていた架空の作品『長い家路』のエピソードを絡めながら、カンボジアの暗黒の歴史と映画文化が受けた傷痕に踏み込んでいく。カンボジアでは、1975年にポル・ポト率いるクメール・ルージュが首都プノンペンを占領して実権を握ると、文化や宗教などを弾圧。やがて世界を震撼させる大量虐殺へと向かっていく。

この映画では、クメール・ルージュ以前のカンボジアにはこんなにも豊かな映画文化があったのに、それが政治の力でいとも簡単に踏みにじられてしまう悲惨さが強調される。クォーリーカー監督は、こういう映画を作ることができる今のカンボジアの平和に感謝するとともに、油断すればその自由はすぐに奪われてしまうもろさにも警鐘を鳴らす。その危険性は、決してカンボジアだけに限らない。

映画の最後に、虐殺で命を落とした数多くの映画人の肖像写真が流れる。彼らの無念の思いを忘れないというクォーリーカー監督の強い信念が胸に迫った。

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『シェイプ・オブ・ウォーター 』アパート階下の夢のある空間

『シェイプ・オブ・ウォーター 』
(2017年/アメリカ/124分)
原題:THE SHAPE OF WATER
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンスほか

東西冷戦時代の1960年代を背景に、口のきけない中年女性と水の生き物との恋を描き、アカデミー賞作品賞やベネチア国際映画祭金獅子賞などに輝いたギレルモ・デル・トロ監督作。人知を超えた映像表現と手に汗握るサスペンスの要素が相まって高い評価を受けたが、デル・トロ監督の映画館への熱い思いも垣間見える。

主人公は、アメリカ政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザ。自宅ではゆったりとお風呂に入り、優雅に紅茶をたしなむ毎日だが、彼女が住んでいるアパートの部屋が、映画館の2階という設定になっている。一人で優雅に総天然色のシネマスコープの映画を楽しんでいるシーンもあれば、彼女の部屋で水があふれたときは階下の映画館も大変なことになっていた。

思うに、デル・トロ監督は、イライザをはじめ「水の生き物」を守ろうとする人々の周りには夢のあふれるものを配し、「彼」を単なる実験材料としか見ていない敵陣営は夢見ることなどないつまらない人間として描いているような気がする。イライザの部屋のテレビに映し出されているのは、世知辛いニュースではなく、歌やダンスの楽しい番組だし、彼女の理解者である隣人のジャイルズは売れない絵描きだ。映画館も、まさにそんな夢のあるものの代表であり、夢見るイライザが心を落ち着かせる場所だった。

日本公開前に来日したデル・トロ監督にインタビューをしたとき、監督は「映画は言葉では説明できない深い感情を伝えるものだ」と言って、『雨に唄えば』(1952年、ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン監督)や『2001年宇宙の旅』(1968年、スタンリー・キューブリック監督)、『モダン・タイムス』(1936年、チャールズ・チャップリン監督)の名場面を挙げて、映画へのあふれる愛を語ってくれた。

「ジーン・ケリーが街灯に抱き着く。宇宙空間に赤ん坊が浮かぶ。チャップリンが機械に巻き込まれる。そんなイメージは映画でしか描けない。映画がもう少し生きながらえるよう、まだまだ野心を持ち続けたいですね」

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』歴史的な劇場が登場する幸せ

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
(2019年/アメリカ/161分)
原題:ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、アル・パチーノほか

2020年のアカデミー賞でブラッド・ピットが助演男優賞に輝いたクエンティン・タランティーノ監督による痛快娯楽傑作で、1969年のハリウッドを舞台に、映画がきらきらと輝いていた時代への憧れ、敬意にあふれた作品だ。

主人公はレオナルド・ディカプリオ演じる落ち目のスター、リック・ダルトン。大ヒットしたテレビシリーズの主役で人気があったが、最近の出演作はさっぱりで、イタリア製のウエスタンくらいしかお呼びがない。ブラッド・ピット演じるスタントマンの親友、クリフ・ブースに慰められるばかりだが、ある日、隣の邸宅に今をときめく映画監督のロマン・ポランスキーが引っ越してきたことを知る。

作品全体がハリウッドへの憧れや愛に満ちているが、中でもお気に入りは、マーゴット・ロビー演じるポランスキー監督の妻で女優のシャロン・テートが、自分が出演する映画『サイレンサー 破壊部隊』(1968年、フィル・カールソン監督)を観に映画館を訪れる場面だ。チケット売り場で「私が出ているのよ」と控えめに申し出るしぐさや、映画を観ながら楽しそうに笑う表情がとてもチャーミングで、史実では後に悲劇が訪れるということを知っているだけに余計に胸に迫る。

この劇場が、ロサンゼルスに実在するフォックス・ブルーイン・シアターというのもすてきだ。1937年に建てられた映画館で、88年にはロサンゼルス市から歴史文化記念物に指定されているが、今も現役で映画が上映されている。この作品には、ほかにもロサンゼルスのランドマーク的な建造物であるシネラマ・ドームといった歴史ある映画館が登場するが、さすがは映画大国だけあって、大切な文化施設として活用している。古い映画館がどんどん姿を消している日本からすれば、うらやましい限りだ。

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◎ゲストライター
藤井克郎(ふじい・かつろう) 1985年、フジ新聞社に入社。夕刊フジの後、産経新聞で映画を担当する。社会部次長、札幌支局長などを経て、2013年から文化部編集委員を務め、19年に退職。facebookに映画情報ページ「Withscreen.press」を開設し、同年12月にはwebサイト版「Withscreen.press」をオープン。ほか、最近の主な執筆に週刊朝日「ドキュメンタリー映画特集:堀潤、豊島圭介、原田美枝子らが参入ドキュメンタリー映画 熱き波!」(週刊朝日 2020年3月27日増大号)などがある。

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